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25話

◇◆◇ フレア


「なによ、ここ」


天井の穴から侵入した。

そこはとても異質な空間だった。

大量に置かれた円柱状の水槽に半透明な液体が詰められ、それが等間隔にズラリと並ばれていた。


「これは、一体何なのかしら」


近くにある水槽のケースに近づいて見てみる。

中の液体が蠢き出し、一気に圧縮すると伸び縮みを繰り返し、形を形成する。

先程シヒロが倒したモノより小柄なモノが生み出され、武器を持たされた状態で下へと送り出される。

それが一体だけでなく十数本のケースから次々と化け物を作り出しては、下に送られている。

空になったケースにはまた半透明な液体が満たされる。


何かの工場のようだ。


「......この水槽全部壊せば止めれるかしら」


有言実行。

炎を纏い、限界まで【身体強化】を使って蹴飛ばしてみる。

大きな音はすれどヒビどころか中の液体すら微動だにしていない。


「流石に簡単にはいかないわよね」


この水槽を壊すのを諦め当初の予定通りに制御装置を探すことにした。

どこもかしこも等間隔に同じ水槽がある。

さらにこの広大な広さ、どこにあるのかすら分からない。


「とにかく進むしかなさそうね」


急いで進んでいると、水槽のケースが激しく稼働し始めた。

今度は十数個といったレベルではなく、数十個クラスが一度に稼働し始める。


「本当に死なないでよ......」


下では強がってしまったが、今でも心臓が潰れそうになるぐらい心配だ。

取り敢えず、真っすぐに行けば何かしらわかるかもしれない。

全力で走ることにした。


「死んだら許さないからね」



◆◇◆



「あっははははは! 楽しくなってきたなユフノさん」


槍に変化したユフノさんを振り回し、的確に相手の心臓、首、眉間等、急所と思わしきものを片っ端から突いて、薙ぎ払う。


「シヒロさん。少し力を籠めすぎです。結構痛いんですけど」

「何を言ってるんです。向こうはどんどん固くデカくなってるんだからその分力を籠めないといけないでしょう」


先程のファランクスの集団を撃破すると今度は、一個小隊はあるんじゃないかと思われる連中が降って来た。


「それにしてもユフノさんは凄いな、壊れる気配が全くない。もう少し本気で扱っても大丈夫そうですね」

「勘弁してください。もう少し優しく扱ってください」


少し泣きが入るが、手を抜いて死んでしまったら元も子もないが、ユフノさんが壊れてしまってもよろしくない。

加減をしながら壊れない程度で薙ぎ払っていく。

すると半分ぐらいは倒したぐらいにユフノさんが声を掛ける。


「余計な事かなと思うんですが、出来るだけフレアさんのために時間をかけて倒した方がいいんじゃないかと思うんですが」

「それもそうですけど、向こうがどう出るか分からないでしょう。ダラダラと時間を延ばしても数が減るわけでも無いですし、今でも増えてますよ。こうしてる間もどんどん敵は強くなる、出来るだけ数は減らした方がいいと思うんですよ。攻撃は最大の防御ですよ」


ははっ。

何だ? 随分と好戦的で興奮してるな。


「そういう物ですか?」

「多分! きっと! おそらく!」


閉所でのストレスでハイになってるのかな。

この事は言わない方がいいな。


「こいつで最後っと」


喉を一突きすると液状化して穴に吸い込まれる。


「さぁて、次は何が来るだろうな」

「楽しそうですね」

「悲観的になっても仕方ないので空元気です」

「油断だけはしないで下さいね」


少し嘘をついた。


すると、今度はベチャっと何かが潰れるような音と共に落ちてくる。

今度は半透明な足の生えたクラゲのような物が出てきた。


「また今度も面倒なのが来ましたね」

「そうですね」


未知の生き物。

父さんが見たら喜びそうだ



◆◇◆ フレア



「はぁ......はぁ......やっと見つけた」


壁伝いに全力で走って、一番奥の壁に埋め込まれるようにそれはあった。

擂りガラスのような物に守られており、よく見えないが奥で様々な光が明滅している。


「これは一体何で出来ているのかしら」


軽く叩いてみるがガラスではない。どちらかと言えばここに来る途中の道に貼り付けるようにあった、あの鉱物に似ている。


「【フレイム・ショット】」


高音に圧縮された火の弾丸を射出する。

ッバァン! と破裂音がするが溶けるどころか焦げ跡すらついていなかった。


「......想定内だけど、こうまで無傷だと軽くショックだわ」


本気で打ち込んだのに無傷。

自分の弱さに歯噛みする。

だが、嘆いている時間はない。

でも焦ってもいけない、平常心以上に勝るものはない。

悔しいなら後で反省すればいい。


すぅ.....はぁ.....。


視野を広く持つ。

原点回帰。

私はこの部屋に入りたいだけで、この壁を壊したいわけじゃない。

それはあくまで手段としての一つ。

ならば他に入る方法は、


ジッと上を眺める。


長く放置されているのか所々腐食して、錆が目立っている。

壁と天井の境目に向けて先程の魔法をもう一度打ち込む。

天井は赤く高温に熱されドロドロに溶けた。


「ッハ、余裕ね」


それを何度か繰り返し、向こう側へと入る大きさの穴をあける事が出来た。


【ウォーター・ボール】


開けた穴を水の魔法で冷やし、体をねじ込ませて中に入ると、そこには見たことも無い光景が広がっていた。


「......何よこれ」


十数個はある半透明の板に高速で文字が書かれている、伸び縮むする棒グラフと円グラフ、見たことが無い様な計算式。

何かを高速で導き出しては訂正していく。

理解できないが、そんな印象を与えた。


そして、その下にはどう操作したらいいのか分からない操作盤があった。

文字が刻まれた大量のボタン、大小円を描くように置かれたスイッチ、宙に浮く見たことが無い球体が5つ、鍵盤楽器の様な操作盤まである。


どう操作すればいいのか分からない。

どこから手を付ければいいのか分からない。

下手に触れない。


「どうすればいいのよ」


ここは未知で溢れていた。

想像したものより想像以上だった。


これは......こんなの......私には、む


パァン!!と自分の頬を全力で叩く。


「私の背中には2人の命を背負ってる。泣き言いってる場合じゃないのよ」


折れそうな心を、下にいる二人が支えてくれた。

全部を知る必要はない。

やるべきことは、止めること。

幸い分かるところもありそうだ。

分かる範囲から少しづつやればいい。

止まらないことが最短の道だから。


「ちょっと時間かかると思うけど、すぐに止めるから。死なないでよ」



◆◇◆



「おぉ、今度は虫の大群だ。とうとう人型だと無理と判断したのかな」

「何度目か忘れましたけど言わせてもらいます。流石にあれはもう無理だと思いますよ」


地を這うムカデのような奴に、空を舞うトンボのような奴まで種類は様々、多種多様だ。


「やってみて無理だと諦めるのは構わないが、挑戦する事は諦めちゃダメ。と弟が言ってました」

「良い事を言う弟さんですね。わかってます。ちょっと弱音を吐きたかっただけです」

「ならよかった」

「フレアさんが言っていた通り、あなたが希望だといった理由が骨身にしみて理解できましたよ」

「よしてくれ、照れる」


そう言って虫の大群に突っ込む。

まぁ、正直これほどの虫が悪意を持って人を襲うとなれば人間なんてあっという間に死んでしまう。

どんな達人だってそうだ。こんな大量の虫に襲われれば死ぬのが普通。


そう父さんに聞かされた時は驚いたものだ。

あの母さんやジイちゃんも死ぬのかと


『んー、あれは例外かな』


ここは地球ではなく異世界だ。

地球の虫に比べれば可愛いものだ。

こいつらが地球に来たら速攻で根絶するだろうな。


噛みつかれる前に、襲われる前に、素早く踏みつぶしていく。

足跡の形に液体化したものが残る。

ただ走るだけの単純作業だ。


「前の奴の方が面倒くさかったな」


空を飛んでる奴はユフノさんで撃退する。


「体中がべたべたするんですが」

「終わったら洗えばいいでしょう。いやぁ、ユフノさんのお陰で楽が出来てます」

「あれからどれくらい経ちましたかね?」

「1時間は超えてないかな。何とかなりそうですね」

「そうとも限りませんよ。残念ながら」


少し苦しそうに話す。


「どうしたんですか?」

「魔力が切れそうです」


あぁ。


「切れるとどうなるんですか」

「元の人型に戻ります。本来なら魔力を貰って、長く持続させることもできるんですが」

「ないからできないと」

「......はい」

「あとどれくらい持ちそうですか」

「5分持てばいい方かと」


もう時間も少ないな。


「ならば、ここでユフノさんは、ここで脱落ですね」

「残念ですが、遺言忘れないで伝えてくださいね」

「すみません無理です。忘れてしまいましたから」


体を反転させる。


「もう一度言うので今度は忘れないでくださいね。あと今までありがとうございました」

「どういたしまして。あと遺言は言う必要はないですよ」

「それはどういう事ですか?」

「自分で伝えて下さいって事です」


ユフノさんを軽く放り投げ、壁を足場にして体を屈める。

そして最初入ってきた入口の方に向かい全力で走る。

最高スピードに達した瞬間に全体重を乗せて壁に跳び蹴りを喰らわせる。

纏わせていたゴムのような物は引き千切れ、奥の金属は無残なほどにひび割れ、ほんの少しだが向こう側が見える小さな穴が開いた。

体制を整えすぐに、放り投げたユフノさんを掴む。

その穴に槍のユフノさんを突き刺し、肩まで一気に差し込む。

どうやら向こうまで貫通したようで押し出すように手放すと落ちる音がした。

手を引き戻すと、開いた穴からユフノさんの顔が見えた。


「シヒロさん!!」

「じゃあ、ユフノさんはここで脱落ですね。この事ちゃんとギルドに伝えて下さいね」

「待ってくだ........」


声を遮るように、壁は一瞬で何事もなかったように元に戻る。

すぐさま臨戦態勢に入り振り向くとそこには津波の様に向かってくる大量の虫達。


「ここからは一人か。寂しくて泣きそう」


その言葉とは裏腹に顔は笑っていた。



◆◇◆ フレア



ポタリポタリと血が地面に滴り落ちる。

どうやら鼻から血が出ているようだ。


今気づいたように、無造作に袖で拭う。

袖は何度もそれを繰り返したのか黒くなっていた。

目を血ばらせて必死に画面を見つめる。


「こ......これで、いいはず」


スイッチを押し、宙に浮いた球体を押し込む。

すると、棒状の物が飛び出す。

これで向こうの、シヒロ達に声を掛ける事が出来る。


これまでも何度も失敗してしまった。

そのせいで下にはかなりの負担をかけてしまったと思う。

そしてかなりの時間をかけてしまっただろう。

ここまで手間取った自分の力の無さに死にたくなるが希望もある。

下にまだ化物が送られているという事は、まだ生きているという事だ。


「シヒロ、シヒロ、聞こえる?」


上手くいっているなら、これで返事が来るはずだ。


願う様に

祈る様に

泣きそうになるのを我慢しながら必死に呼びかける。


「お願い。返事をして......」


絞り出すように声を出す。


『......ん? その声フレアか?』


応答があった。

生きていた。


溢れだした感情が涙となって溢れ出す。


「じ、ジヒロォ。生ぎで、よかっだ」

『なんだ? 泣いてるのか? 案外泣き虫なんだな。一人で寂しくて泣いてるのはフレアだったな』


随分と明るく笑っている。

生きているだけでなく無事のようでもあるようだ。

ホッとすると同時に腹が立ってきた。


「バカ!! この馬鹿!! 大バカ野郎!!」

『はっはは。そっちは大変だったみたいだな。こっちはまだまだ余裕があるぞ』

「こっちだって余裕よ。敵の罠にかかって涙が止まらないだけ」

『そうかい。それなら、あとどれ位で終わりそうだ?』

「もう少しって所よ」

『そうなのか? もっとゆっくりしてていいぞ。何なら一休みしても良いし、一眠りでもしてても大丈夫だぞ』


と何とも楽しそうな声で答える。


「こんな所一秒もいたくないわ。さっさと帰るわよ」

『あいよ』

「ユフノさんの声が聞こえないわよ? まさか........」

『あの人が隠してた奥の手で脱出させた』

「......まぁいいわ。無事に逃げたなら最低限の仕事はしたことになるものね」

『帰ったらその分のお金も貰うか』

「豪遊するわよ」

『楽しみだ』

「それじゃ、待っててね」

『あいよ』


そう言って通信を切る。

そうしないと次の作業に邪魔になる。


「......帰るわよ」


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