24話
これまで調べた情報をユフノさんとフレアに共有する。
そして入り口付近の壁の調査を魔法的観点から調べて欲しいのでバトンタッチする。
この魔物のようなものに邪魔されないように遠ざける。
勿論、1人で。
「魔法が弾かれてる。対魔法効果がある材質が使われている可能性があるわ」
「それもありますが、こちら側から見えないよう裏側に何かしらの紋章も刻まれてる気配がありますね。魔石を基点に描いてるとするなら相当厄介ですよ。さらにこの壁には【自動修復】【耐衝撃】スキルも使われてますね」
「【鑑定】が使えるの? なら他に何か分からない?」
「この奥にさらに硬い金属らしきものがあります。2層構造なうえに複雑に組み込まれた魔方陣がこの部屋全体に絡み合ってます」
「状況は絶望的ね」
「優秀な人材と豊富な道具と時間があればなんとかなるのでしょうが」
「全て揃ってるとしてどれぐらいかかりそう」
「恐らく3年は掛かるかと.....」
うーん。と二人して悩んでいる。
「シヒロあと5年ぐらい持ちそう?」
「無理に決まってんだろ!!」
「そうよね」
餓死するわ。
「それぐらい絶望的って事か」
「残念ながらね」
「圧倒的に時間が足りません」
どうしようかとまた相談し始めるが何とも緊張感がない。
この広い範囲でそちらへ行かないよう、生かさず殺さず緊張感をもって調節しているのに、力が抜けてくる。
そうだ、とちょっとイタズラ心が芽生える。
「こっちはこっちで面白い発見があったぞ」
「何かしら?」
下で蠢いてる一匹を掴みフレアたちに投げ込む。
「きゃあ!」
「っわああ」
予想より驚いた反応に満足する。
「見ての通り、手と足をへし折れば液状化しないようだ」
手と足が明後日の方を向いて、何か芋虫のようにもぞもぞと動く。
それを2人がまじまじと観察する。
「こうなると酷いですね」
「なんか肉付きが私達の時と違って良くなってる? あと皮膚が硬質化してるわね」
「少し弄ってみますか」
そう言って手頃なナイフを取り出す。
「待て待て! 間違っても千切ったりするなよ。その部分が液状化するから」
力加減を間違って腕を吹っ飛ばしたらそうなった。
「あ、そうなんですか。解剖しようかと思ったんですが止めておいた方がよさそうですね」
「残念ね」
こいつら意外と相性は良さそうなんだよな。
共に学者肌っていうか、弟に似てる。
「手が空いたなら協力してほしいんだがな」
「無理よあなたみたいに器用に出来ないもの」
「【身体強化】を使っても、私では手や足を折るのは難しいですね」
と否定的な答えが返って来る。
「それにしても随分と積み上げたわね。狂信者の祭壇みたいになってるわ」
手足の骨を折られ、砕かれ、脱臼された奴等が蟻塚のように積み上げられていた。
「でもよく思いつきましたよね。この方法ならしばらくは時間が............稼げそうにありませんね」
唯一動かせる口を動かし、共喰いのようにお互いを噛み殺しはじめた。
そして高く積み上げられたものが一気に液状化し床の穴へと吸い込まれていく。
天井からは何も落ちてこなくなり、自分たち以外誰もいなくなった。
「これで終わりだといいんですが」
「本当に」
すると天井から音声が響く。
『ある一定以上の対象戦力だと判断し、第2段階へと移ります』
すると天井から5体ほど落ちてくる。
ただし、先程と違いそれぞれに武器を装備している。
盾1匹、剣1匹、槍が2匹に杖が1匹。
合わせて5匹。
まるで長年の連れの様な陣形を組みこちらを牽制している。
襲ってこない?
今までの流れなら取り敢えず攻撃をして、情報を集め、学習して襲い掛かるの繰り返しだった。
なのに襲ってこないのは時間を稼ぎたいからか?
それとも手や足を折られたことを学習して、ただ警戒してるのか。
戦術と言うものを学んだのだろうか。
「まぁ、先手必勝かな」
一直線に盾持ちに走りこむ。
当然その攻撃を防ぐために盾持ちは防御の姿勢を取る。
本来なら動きを止め、止まった隙を槍持ちで攻撃するのが狙いなのだろうが、その程度では止まらない。
正面突破をする。
ドン!っと鈍い音と主に盾持ちが地面と平行に吹っ飛んだ。
槍持ち2匹の間を通り抜け剣持ちへ突っ込む。
こちらに剣先を向け胴体を狙いで突き刺そうとする。
滑り込むようにその剣先を躱し、股の間から抜けると足を掬い上げ転ばせる。
そして剣を握っている方の腕を掴み握り潰して剣を無理矢理奪う。
剣持ちを槍持ちへ放り投げ、奪った剣をもう一匹の槍持ちに投げつける。
両方とも動きが鈍る。
「ファイア.........ボール」
後ろからそんな声が聞こえると、火で出来た球体がすぐ横を通り抜けた。
こわっ。
距離を取り、剣が刺さった槍持ちの首を掴む。
突き刺さった剣を抜き、杖持ちの方へ振り向き盾として使いながら走る。
必死に振りほどこうと自分の首を殴っているが、その程度では離さない。
「ファイア.........バレッ」
思い切りがいいな。
タイミング的に被弾に巻き込まれそうだったので、槍持ちの背を蹴り込んで杖持ちにぶつける。
魔法は不発に終わった。
槍持ちの背から剣を突き刺し杖持ちごと貫いた。
.......。
襲い掛かってくる気配がない。
視線を動かし確認する。
盾はどうやら先の攻撃で液状化している。
槍持ちと杖持ちは先程ので絶命したのか液状化している。
全滅を悟ったのか生き残った槍持ちが剣持ちを突き殺し、自害した。
随分とまぁ徹底してるな。
見ていて気分がいい光景ではない。
「あのなぁ、ちょっとは手伝ってくれてもいいんだぞ」
ポカンとした表情で眺める二人に声を掛ける。
「あ、いや、すみません。突然の事だったので、対処できませんでした」
「あなたごと燃やしていいのかちょっと悩んでたわ」
物騒な事を考えるんじゃない。
液状化されずに残った武器を回収する。
「それにしても今までの連中と全く違ったわね」
「武器を使うようになりましたし、連携してくる。そして極め付きは魔法まで使ってきましたか。これが先程の数で襲ってくるとなると想像したくありませんね」
「まぁ、厄介の度合いは上がったな」
回収した武器をユフノさんに見せる。
「これに見覚えは?」
どの武器にも特殊な装飾がされている。
それだけで大体の予想はついてしまうが確認する。
「はい。非常に残念ですがここを調査依頼をした人達の装備です」
「そうか」
「何とも言えないわね」
するとまた何かが落ちてくる。
今度は1匹のようだがかなりデカい。
身長は2m半といったところか。
身体つきも先程のようなマッチ棒のような細さではなく筋骨隆々。
表皮もまるで甲虫を思わせる光沢があり堅そうだ。
「ヂイイイイイィィィアァァァァァァ!!!!」
暴れると面倒くさそうなのでさっさと処理する。
持っていた盾を円盤投げの要領で顔面目掛けて投げつける。
それを悠々と拳で払いのける。
「油断しすぎ。武器持ってるんだから警戒しないと」
2本の槍が両膝を貫いた。
何が起きたのか分からないまま、膝から崩れ落ちる。
丁度いい位置まで頭が下がった。
一足で近づき、杖を喉に突き刺して捩じる。
魔法を使うか分からないが、使われると厄介なので喉を潰しておく。
杖を素早く引き抜く。
頭を掴み地面に叩き付け、剣と杖で両手を地面に突き刺し縫い留める。
これで身動きは出来ないだろう。
「これで一安心だな。この状態で様子を見るか」
パンパンと手を払う。
「今のでよくわかったわ」
「そうですね」
「シヒロのレベルもスキルも出鱈目だっていう事」
「流石にあれを一蹴するのはあり得ませんからね。【鑑定】で見て正直死を覚悟しましたよ」
「前々から怪しいと思ってたのよね。今ので確信が持てたわ」
「化物ですね」
随分とまぁ辛辣だこと。
まぁ、恐れられず受け入れてくれたのでマシな方か。
「生きて戻れたら聞きたい事には応えるよ」
「それは当然よ。でも一つだけ答えてくれるかしら」
「......なんだ」
「そ、その、好きな女性の、そういった、その、あれよ、どういうのが好みなのかしら」
「今どうしてもそれを答えないといけないか?」
「当然よ!!」
ッグと前のめりで聞いてくる。
「......強くて、エロくて、美人な女性」
「あぁ、なんか共感できます」
「そう......」
何故か力なく返事する。
失望してしまうようなことでも言ったのかもしれないが、なら聞くなと言いたい。
すると、ゴギリ! と骨が折れる鈍い音がする。
辛うじて動かせる顎の力だけで首の骨を折ったようだ。
限界まで口を開いて首が真後ろを向いている。
自害にも執念を感じるな。
ドロドロと液状化していく。
「お喋りはここまでだな。あいつを見て納得しただろうがこれ以上は確実にジリ貧だ。早急に案を出してくれ、無いなら全員ここが墓場になる。まぁ死ぬまで抵抗はするが期待はするな」
「そうね、私の見解ではここは人工ダンジョン。何かの実験場だと思うけど、ここに関係者がおらず、自動で動いてると予想するわ」
「根拠は?」
「実験にしろ殺すにしろお粗末過ぎね。もし今誰かが操作してるならこんな悠長に話せてないのがいい証拠よ。なにより、私の乙女の勘よ」
乙女の勘か。不思議と当たりそうな気がするのが怖いな。
「その可能性が一番高そうですね。それなら止めることも可能ですが、確証もないただの推測で命を懸けるのはどうしても不安になってしまいますね」
「他にないなら、そうするしかないだろう。間違ってたらまた違う方法を考えればいい」
生きてればの話だけどな。
「......不思議な感じですね。この状況なら私、パニックになって死んでる自信がありますよ。不思議と落ち着いてるのが驚きです」
「私もよ。一人だと死んでる自信があるわ。この絶望の中の唯一の希望はシヒロがいる事ね」
「持ち上げても何にもいい事ないぞ」
なんか褒められているようで、ちょっと照れる。
「とにかく、制御装置らしき物が何処にあるか分からないが、入り口らしい所はあそこしかないだろうな」
上に指を差す。
「その装置を止められる自信がある奴はいるか? 自分は無理だ。そんなに頭はよくない」
「私もですよ。経理計算なら得意なんですが」
「なら私しかいないわけね。まぁ伊達にアズガルド学園元6席じゃないって所を見せてあげるわよ」
コクリと3人が頷く。
「それでは私とシヒロさんがそれまでの時間稼ぎって所ですか」
「よろしく」
「シヒロ、少しばかり離れるけど寂しくても泣かないでね」
「あぁ、はいはい。努力するよ。上に行っても特に何もなかったら戻って来いよ」
「わかったわ」
天井に開いた大きな穴の下まで歩き小さく呟く。
【フレイム・ロード】
天井まで一気に巨大な火柱が上がるとその中にいるフレアがゆっくりと昇っていく。
そして天井の穴へと消えてく。
「さてユフノさん、これから来るであろう奴等に対抗するだけの力は持ってますか?」
「事務仕事が一般的ですから、先程の5匹のうちの1匹すら倒せないでしょうね。あ、でも回復なら任せてください。千切れかけても治せますから」
安心してください、と微笑む。
「残念だけど、回復魔法効かないんだよね」
「え? どうしてですか」
「劣人種だから」
「......失礼します」
と手を握り回復魔法らしきものを使う。
こちらからしたら握っている手が何か発光しているぐらいしか感じない。
「本当に効果がないんですね。少し腐り落ちるぐらいの過回復させてみたんですが」
試すにしてもやり過ぎだろう。
「勿論調整しながらですからしたので大丈夫です」
安心できない。
「でも魔力を持ってない人が回復できないとは、聞いた事ないんですがね」
「まあ、【回路】がないらしいしな」
「それはどういう.......」
話している途中に天井から十数匹ぐらい落ちてくる。
全員が武器を持っており、先程のデカい奴を縮ませたような奴だった。
「私、本当に足手まといになりそうですね」
「まぁ、守るつもりではあるけど限界はあるからな。遺言があるなら聞いときますよ」
「そうですね。ではお言葉に甘えて、仕事に穴を開けてすまないと職員の人に伝えておいてください。あとギルドマスターに娼館での接待は経費では絶対に落とさない。自費で払えと伝えてください」
「生きてたら伝えますよ」
むこうの装備は長槍と大盾。
装飾が無い所を見ると、武器すら学習したのだろう。
密集し盾を突き出し、僅かな隙間から槍が飛び出している。
ファランクスって奴だっけ?
工夫を怠らない勤勉な奴等だな。
ジリジリとこちらに近づいてくる。
「フレアさんが頼みの綱ですね。ちなみにですがどれくらい持ちそうですか?」
「ユフノさんを守りながらだと、20分は命の保証をします」
「あなた一人なら?」
「状況にもよりますが、最低でも1日は頑張れるかと」
「1日ですか!? 敵は学習して強くなっているこの状況でですか?」
「そうですね」
それなら.........と小さく呟き、握手を求めるように手を差し出す。
「別れの握手ですか?」
「足手まといにならないための奥の手ですね。ここで起きることは他言無用、内緒にしてくださいよ」
どういう意味か分からないが、何かするようだ。
促せるように、手を握る。
「私はあなた達でいう人間ではありません。兵仗種という己を武器として姿を変える事が出来る希少な種族なのです。あなたの力があれば問題なく戦えるかと思います」
すると体全体が淡く光ると、1本の槍となった。
刃渡り40cm全体の大きさは3mの直槍。
軽く握るがビクともしない。
使い慣れてないから少し不安。
「結構重いですが振り回されないでくださいね」
と何とも楽しそうに語りかけてくる
「重いって言いうならあと100倍重くなってから言うべきですね」
まったくこの世界は自分の想像すら追いつかない様な世界のようだ。