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23話


ダンジョンはこの辺りだよな。

大分近づいているはずだが見当たらない。

近くの木を駆け登り飛び上がる。


「あぁ、あれか」


古い遺跡のような物が視界の隅に入る。

木の幹を滑るようにして落下速度を落として静かに着地する。

そして確認した方角へ最短距離で素早く移動する。


予定していた時間より少し遅くれて到着した。


「ここだな。ほら付いたぞ。起きろフレア。ユフノさんもしっかりして」


ユフノさんは、背中からズルズルと滑り落ち腰が抜けたのか立てないようだ。

フレアはスヤスヤと眠っている。可愛い寝顔だがいつもの方法で起こす事にする。

『収納袋』をフレアの鼻に近づける。

するとパチッと目を開けて顔を隠す。


「そう何度もされないわよ」


と地面に転がるようにその場から離れ立ち上がり、周りを見渡す。

おぉ、成長してるな。


「ここが噂のダンジョンかしら」

「多分そうだと思うんだが詳しい事はユフノさんに聞いてみないとな。ここで間違いなさそうですか?」

「ち、ちょっと、待って、..........少し.......休ませて、ください」


顔面蒼白でいまにも吐きそうな顔をしている。

軽く水を飲ませて落ち着かせることにする。

揺らさないように気を付けたが揺れてしまっていたのか。


「どうして.......ここまで走って来たのに.......息一つ、切らしてないんですか?」

「そりゃ、切れるほど本気で走ってないから」

「シヒロなら驚く事じゃないわ。それよりここが目的の場所か確認してほしいわね」


ユフノさんが驚き、勘繰るような顔をしながらこちらを向く。

頷いておく。

これぐらい出来ないと生き残れない。

信じられないと思いながらも、遺跡らしきものをしっかりと確認する。


「そうですね。ここが目的地です」

「予想より早く着いてよかったわね」

「そうでもない。予定より少し遅れた方だ。何度か確かめるため止まったりしたからな。まぁ許容範囲内だろ」

「当初の予定のことよ。1日分得したわね」


そういう事か。


「......少しだけいいですか」

「はい」

「あなたは本当に一体何者なんですか? 魔力が無いとは思えないような......いえ、本当に人間ですか?」

「そう言われると何と答えればいいのか。人間である証明......うーむ」

「難しいテーマね」

「哲学的な意味じゃないです。言い方を変えましょう。人並外れた体力と早さを併せ持った持久力、失礼ですが鬼人クラスはあります。ですが当然あなたは鬼人ではありません。特徴である角もありませんし、魔力を持っていない鬼人なんていません。ではスキルで底上げをしてるのかと考えました。失礼ですがあなたのギルドカードを確認させてもらいましたが、正直あれだけのスキルやレベルでは納得できません。仮に特殊なスキルで隠しているとしても、げほげほ」


一気に喋ったせいか咽たようだ。

ハァ、ハァ、と息も絶え絶えだ。

そんなに興奮するような事なのか。


「とにかく納得がいかないんです。ならばあなたは新種の種族か何かしらの突然変異の種族ではないかと思ったんです」


それが言いたかったのか。


「......確かにそう言われると色々と納得できるわね。どうなの?」

「......そういわれると不安になるな。まぁ力が人よりあるのは特殊な体質だから......突然変異といえなくもないか」

「体質ですか?」

「あぁ、そんなこと前に言ってたわね。女の敵みたいな体質だっけ?」

「詳しい名前は忘れたがそんな感じだな。食欲が増して、体重がとても重くなる。並の人より筋肉が付く」

「だから、力も増すと?」

「恐らくそうだと思います。詳しい人もそう言ってました」


父親である。

ユフノさんは、それでも納得できないといった表情だ。


「魔法は使えないが力持ちってことでいいじゃないですか。それより早く行きましょ」

「シヒロ、この中は暗いから私の近くにいなさい。出来るだけ離れないように手繫いだ方がいいかしら?」

「子供じゃないんだからいいだろう。それよりユフノさんはそろそろ行けそうですか?」

「えぇ、何とか。気になる事はたくさんありますが、仕事を先に終わらせましょう」


ゆっくりと立ち上がり、多少ふら付きながらも歩き出す。


「それでは出発しますか」

「シヒロ、結構楽しそうね」

「こういうのは嫌いじゃないんでね」


そう言って3人仲良く遺跡の中へと入っていく。



・・・

・・



どうやらこの遺跡は地下へと続いているようで下へ下へと降りていく。

警戒はしているがダンジョンに居るというゴブリンの姿が一向に見えない。


「ここ本当にダンジョンなのよね。聞いてたゴブリンすら見当たらないわよ」

「引っ越しでもしたんじゃないのか」


遠くの方で何かいるような気配は感じるんだがな


「変ですね。報告だと確かにいると報告されてましたし、住んでいる痕跡もあるので、いるのは間違いないんですが。遭遇しないのは運がいいんですかね」


それからしばらく歩いていくと、道の途中で色の変わった壁を見つけた。


「怪しいな」

「明らかに最近塞がれたって感じよね」

「塞ぎ方が石や泥で塞がれてますね。魔法の類でない所を見るとここに住んでいるゴブリンの仕業でしょうか。少し確認してみます」


そういうと手の周りに小さな風の渦を纏わせ、壁を吹き飛ばす。

奥へと続く道が現れた。


「やっぱり魔法って便利だな」

「魔法以上のことをやってのけるシヒロに言われたくないわね」


そうとは思わないんだけどな。


奥へと進むと道が変わる。

ゴツゴツとした石壁から、驚くほど滑らかな道へと変貌する。

そして何より気になるのが、道中に小指ほどの小さな穴が等間隔で大量にある事だ。

背筋がゾワッとする。


「雰囲気が変わりましたね」

「この壁一面の材質は何で出来てるのかしら? 見たことない鉱物で出来てるわね」


興味津々といった感じで壁や床を調べ始める。


「こんな場所があるなんて報告はなかったぞ」

「もしかしたら塞がれてた道を発見できなかったのかもしれませんね」

「だとしたら、この先に消えた人達がいる可能性が高そうね」


んー、嫌な予感がする。


「少し覗いてみてヤバそうなら引くぞ」

「その意見には賛成ですね」

「ユフノさんが一人で帰ってもいいんじゃない? 私たち二人で奥に行くから、こういった道があったって情報を持ち帰るべきじゃない」

「一理ありますが、もう少しだけ行ってみて確認してみます」


そういったユフノさんに対して軽く舌打ちしたのを聞き逃さなかった。

仲悪いのかな。

そんな事から目を逸らしつつ、壁を軽くなぞって確かめる。


......強化プラスチックか?


岩壁を綺麗にくり抜いた場所だと思っていたが、周りをプラスチック状の物がコーティングされている。

何でこんな所にあるんだ。

少なくともこの一本道に貼り付けられた強化プラスチックは自然にできるようなものではない。


となると、ここは人工ダンジョンか?


そんなことを考えながら奥へと進んでいくと、大きな半円状のドームに辿り着く。

その中は道中とは違い表面は固いゴムのような物で出来ており、やはりここも、大量の小さな穴が等間隔に並んでいる。


まさかここから毒が噴射されるって事は無いよな。


そんな事を考えながら周りを調べる。

目的であった行方不明になった人物の痕跡は何も無い。

争った形跡もなく、奥へと続くような道らしいものも無い。

何もない事はいい事だが、どうも気持ち悪さがぬぐえない。


「何にもなかったな」

「本当にね。結果だけなら、ただの遺跡観光ね」

「私としては見たことない鉱物と不思議な部屋という情報が手に入ったので上々ですよ。取り敢えず、あの鉱物を採取して帰りましょう。錬金ギルドか鍛冶ギルドに持っていけば何かわかるかもしれませんしね。思っていたより早く終わってよかったです。報酬に色を付けるように進言しときますよ」

「帰りも早くしたらもっとつけてくれるか?」

「帰りはゆっくり帰りましょう。私が出しますので」


そんな呑気な事を言っていると、小さな耳鳴りのような音が聞こえた。


「変な音がしませんか? それともただの耳鳴りでしょうか」


するとどこともなく音声が響く。


『外部からの、ある一定量の魔力値を観測しました。只今より【進化の道筋】プログラムを起動します』


すると天井に開いた小さな穴が集まり、大きな穴になる。

そこから大量の痩せた人間なようなものが降って来た。

手や足は異様に長く、体全体はマッチ棒のように細く、顔らしき場所には口しか存在しなかった。


ヂイイイイイィィィ!!!!!


「あれはなんて魔物なんだ?」

「私は見たことないわね。明らかに敵意を持って襲おうとしてることは分かるけど、動きが鈍いわね」

「あの皆さん。先程の入ってきた入口が塞がれてしまってるんですが」

「閉じ込められたわね」


あの小さな機械音が聞こえた時、すぐに脱出のため入り口を確認したが、すでに入り口は塞がれていた。

いや、元から無かったかのように入り口の痕跡がない。

こういった時のために注意を払っていたが忽然と無くなったのだ。


音も気配もなかった。

ならば魔法か何かだな。


敵らしき魔物がふら付きながらこちらに歩み寄って来る。


「消えた奴らはここで死んだのかな」

「その線が濃厚よね。私達もそうならないように気を付けましょう」

「お二人は冷静ですね。私、心臓が爆発しそうなんですけど」

「シヒロがいれば死なないわよ。多分ね」

「信頼してくれるのは嬉しいがドンドン数を増やしてるぞ」


ドサドサとと止むことなく魔物らしきものが降り続けている。


「手始めに、一掃するわよ。【フレイム・ウェイブ】」


巨大な炎の波が一瞬で敵を丸焦げにする。


「アホか!! こんな密室の状態でデカい火なんか使うな。窒息したらどうするんだ」

「しないわよ! 魔法の火と自然の火は、火としての根本が違うでしょう! って知らなかったかしら?」

「知らん。ここ出たら詳しく聞かせてもらうとして、窒息はしないんだな」

「しない!」

「ならよし。あいつら任せていいか? ここから出れないかちょっと確かめてみる」

「頼んだわよ」

「私はフレアさんのサポートに回った方がいいですかね」

「お願いします」


先程まであった入り口付近を調べる。

表面はゴムのような弾力がある。

強く押し込んでみると、その下には硬い金属らしい手応えがある。

軽く叩いてみるが、かなり分厚い様だ。

代用品として貰ったナイフを取り出し、軽く切ってみる。

殆ど刃は通らないが小さな傷をつける事が出来た。

しかし、何事も無かったかのように傷が消えていく。


元通りになるのが厄介だな。


次は軽く掌底で殴ってみる。

奥の金属にヒビが入る音がするがそれもすぐに戻ってしまう。


壊せないことはないと


次は抜き手で壁を突くと、肘の半分まで突き刺す事が出来た。

そのままじっと待ってみる。何かに押し出されるような感じはするが先程までの様に元には戻らない。

そのまま壁の中身を握りこみ、力づくで引き抜く。

傷痕を残すことなく元通りになる。

握りこんだ金属は暗紅色をしている。

見たことがない金属だった。


少し力を込めて握るが潰れる事は無かった。

多少は変形しているが、中々の強度がある金属だろう。


しかしこうも早く直ってしまうと、素手で掘り進むことは出来そうにないな。

その後もあれこれと試すが解決策が見当たらない。

こういう場合はほかの人の意見も聞いてみるのも手だろう。

三人そろえば文殊の知恵ともいうし


「悪いけど二人ともこっち来てくれるか。ちょっと行き詰ったんだが」


「悪いけど無理よ」

「すみませんが行けそうにありません」


声が切羽詰まっている。

壁からフレアたちに目線を向けると、どうやら大分戦線が押されているようだ。


「最初に見た奴等よりだいぶ強そうに見えるな」


ヒョロヒョロで真っ白い体から、肉付きが良くなり体が赤黒くなっている。


「どういうわけか倒せば倒すほど強くなっているのよ。肌の色が赤くなってから火の魔法が効きづらくなったわ。今はユフノさんが補助してるから助かってるけど、そろそろ対策を考えないと大変よ」

「私も微弱ながら風魔法を使っているのですが、もうほとんど効果はありませんね。初めは切り裂いたりもできたのですが、今は少し動きを鈍らせる事が出来るぐらいです」


戦況の報告を聞いて少し違和感を持つ。


「なんか少なくないか」

「何言ってるの滅茶苦茶多いじゃないの。出来ればシヒロにも手伝ってほしいぐらいよ」

「イヤそういう意味じゃなくてさ。倒した死体の数が少ないっていうか、無いんじゃないか?」

「そういえばそうね」

「......まさか」


そういうと、ユフノさんは薄黄緑色の光球を飛ばすと一匹に被弾する。

すると一気にグズグズに崩れ即死した。


崩れた死体は一瞬で液体化し、小さな穴に吸い込まれていく。


「そういう事ですか」

「あんまり聞きたくないけど、どういう事です」

「あくまで推測ですけど、恐らく倒された者はあのような状態で回収されて、得た経験を新たに生み出される者に学習されているのではないかと思います。ですからフレアさんや私の魔法が効きづらくなっているのではないかと思います」

「ちなみに今の魔法は?」

「回復魔法ですよ。過回復させました。連発や多用は出来ないので期待しないでください」

「一瞬で液体化したけどそんな効果はないよな?」

「はい。恐らく致命傷か死ぬと液体化して情報を持ち帰る様にしてるのではないかと、推測の範囲から出ませんけど間違ってはないかと思います」

「時間が経てば経つほど不味いな」

「まだこちらの攻撃手段が通じている間に脱出したいですね」


ッドオオォォと巨大な火柱が立ち上がる。


「随分と仲良く話して羨ましいわね。私も混ぜてもらっていいかしら?」


一目見ればわかる。なぜかすごくイラついている。

後ろの火柱も相まって恐ろしい風景になっている。


「「はい」」



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