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21話


フレアを探す前に、奴隷館によることにする。

別れてからそこまで時間が経っていなかった。

もう少し時間を空けるためと、受付嬢? ことウォーザリーが紹介してい奴隷館ここから近いからだ。

目的は奴隷の見学。

何かの役に立つかもしれないので、経験しておくのも悪くないだろう。

フレアに断られた時の補充要因として買うの手だと思う。

宿屋の件で魔力で開閉させるものがある可能性があるからな。


いざ、訪ねるが門前払いされた。

劣人種という事と、お金を持っているようには見えない軽装なので冷やかしだと思われたようだ。

そこで、ウォーザリーからここに紹介されたと告げると、顔色が変わり慌てて上司らしき人物に報告する。

そして中に案内され、小さな個室で待つように言われた。


何者なんだ。あいつは.......


その時に、門前払いをした人物がお茶請けを持ってくる。

その時に小さな声で、「この事はウォーザリー様にどうかご内密にお願いします」と声を震わせ、顔面は蒼白になり、脂汗を掻いていた。

何か知らないが、とても困っているようだ。

軽く頷いておく。

すると一人の小太りした人物が部屋に入って来る。


「これはこれは、お待たせ致しました。私ここの支配人のイームと申します。以後よろしくお願いします」


深々と頭を下げる。


「あ、これは丁寧にどうも」


ここに来て初めて丁寧な対応をされた気がする。


「今回は奴隷の買い取りでしょうか?」

「悪いが、こういったところは初めてで、どういった仕様なのかも分からないんだ」

「分かりました今回は見学という形で構いませんよ。ウォーザリー様の紹介もございますし、勿論気に入った奴隷がいた場合のお買い上げは大歓迎です。きっとお客様の気に入る奴隷が見つかると思いますよ。それでは、ごゆるりと見て行ってくださいませ」


すると横のカーテンが開き、ドアが現れる。

そこにドアマンらしき人物が立っており扉を開くと、その奥には正装をした女性が立っていた。


「この者がここを案内しますので、分からない事があれば何でも聞いてください」


そしてまた深くお辞儀する。


「初めまして、案内をさせていただきます。ティニーと申します。今回はウォーザリー様のご紹介という事で、VIP様専用の奴隷までお買い上げする事が出来ます。ぜひ気になった奴隷がいればお声を掛けてください。詳しく説明をさせてもらいます」


こちらも深々と頭を下げ案内を始める。


「こちらが一般に取り扱っている奴隷ですね」


そう案内されると、確かに様々な人が奴隷を品定めしており、奴隷たちもそれぞれが自分をアピールしている。

本来ならここまで奴隷たちがアピールする事は無いそうだ。

この街に来た時だけらしい。


楽園だって言ってたもんな。


それにしても、ここは見世物小屋のようだ。

屋内の動物園と言っても良いな。

案内をされながら、ゆっくりと歩いていく。


「意外と人がいるんだな」

「今回は大暴走の直後という事もあり、怪我や亡くなった奴隷の補充が目的と思われますが、今回は被害が少ないという事もあり例年より少ないぐらいですよ」


遠回りに営業妨害してしまったようだ。

こちらも仕事だったんだから仕方ないけど。


それにしても顧客の何人かは仮面をしてる。

身元がばれると不味い事でもあるのだろうか?

後ろ暗い連中も来てるんだな。


「顧客らしい連中が奴隷の近くを通ると激しいアピール合戦を繰り広げるが、自分が通ると一切何もしないのは何でだ? やっぱり劣人種だと買われたくないのかな?」

「それに関しては何とも申し上げられません」


少し困ったような顔をする。

質問自体が意地悪だったな。


「如何でしょうか? ここまで一通り周りましたが気になった奴隷はいましたか?」

「生憎、いなかったな」


「そうですか、それでは少しお値段は張りますが、一つ上のランクの方を見ていきましょうか」


そういうと周りから影となって見えなかったカーテンが開き、上へと続く階段が現れる。


「ここからはVIP様専用となります。本来ならお得意様か信頼できるお客様しか入る事が出来ません。ですので、この中の奴隷については他言無用にお願いします」

「.......はい」


なんかすごい緊張してくる。

階段を昇り、到着する。


一般用と違い雰囲気が全く違った。

顧客らしき人物は全くおらず、奴隷の数も下と比べてとても少ない。


案内についていきながら奴隷を見ると下とは打って変わって様々な何かがいた。


人型で手のひらサイズの大きさで背中に虫のような透明な羽が生え、全身は花弁を纏っている者。

黒々とした目が8つあり、背中に蜘蛛のような足が生えている者。

全身が半透明な者

体が浅黒く耳が尖っている者

自分の身長の2倍はありそうな大きな者まで多種多様である。


「如何でしょうか?」

「凄いな、見たことない人たちで、ちょっと圧倒された」

「気に入った商品はありましたか?」


そう聞かれると何とも言い難い。

ここに居るほぼ全員が自分に【鑑定】を使ってから、一切こちらと目を合わせようとしないのだ。

どうやら嫌われているようだ。

仮に買うとしても、嫌われているのに買うのはちょっと.........


視線を感じふり向くと、視線を一斉に逸らされる。


傷つくなぁ。


そして最後の奴隷の所を通ると、他とは違いこちらを睨め付けるように見る奴がいた。

耳と尻尾が付いてるところを見ると、獣人族。

白と黒の縞模様、体がデカい。ホワイトタイガーみたいなやつだった。

他の奴隷と違い手錠と足枷を付けられていた。


ふむ。


「お眼鏡にかないましたか? 経歴上暴れられると危険ですので処置をさせてます。ここに来てから暴れていませんが安全のため手足を施錠しております。ご購入いただき隷属紋を付ければ危害を加えられませんので安全ですよ。そして何より大型の獣人族です、戦闘能力は折り紙付きでございます」


面構えも良いし、中々気骨がありそうだし、力もありそうだ。

フレアが断るならこいつにしたいんだが.......


チラリと上に書かれている値段を見る。


最低金額金貨300枚。


その下に誰か予約でもしているのか、350だの400だの500だの数字と名前が書かれていた。

期限はあと10日までとも書かれている。


今すぐ購入できないうえ、所持金の軽く100倍以上だ。手が出ないな。諦めよう。

首を横に振る。

ここは、素直にフレアに頼むことにしよう。


いざとなったら気絶させていくか。



◇◆◇ 奴隷の獣人



私は奴隷の身に落ちてしまった。


己が仲間を家族を友を守るため戦場の第一線で戦っていた。

仲間からの信頼も厚く、愛すべきものを守れることに誇りがあった。

しかし、守るべきものを全て失った。

そして敵に捕まりこうして奴隷の身に落とされ売られている。


ジャラリと手に繋がれる手錠を眺める。


私の力なら、こんな些末な手錠と足枷等あってない様なものだ。

いつでも引きちぎる事が出来る。

出来るが、する気が起きないのだ。

ここを出て行ったところで何をすればいい。戻るところはもうないのだ。


いずれは、戦奴隷か、労働奴隷として売られ、朽ちて惨めに死んでいくだろう。


今の自分にはお似合いだ。

どうせなら、あの時戦友と共に死んでいればとも思う。


『頼む。我が友よ、私の分まで生きてくれ』


この願いを聞いたために、今日まで生きながらえてしまったのだ。

呪いの言葉だ。

この言葉が自分に潔い死すら奪ってしまったのだから、戦友を恨んでしまう。


今の私は、何をすればいいのかすら分からない。

友の願い通り、生きねばならないのだろうか。死んで愛すべき者達に会いに行くべきなのだろうか。


手に繋がれた鎖を漠然と眺め、幾度もそんなことを考える。


そんなことを考えていると、何度目になるのか仮面をつけた人物がこちらを嘗め回すように眺め、檻に書かれている金額を書き込んでいく。


私を買おうとしている人物だろう。

誰に買われようと問題ない。

正直どうでもよくなってしまったのだから。


すると、今日何度目かになるのかまたここに入って来た。

入るなり聞きなれた人種の女の声がする。

初顔の客なのだろう。ここでのルールを説明している。

そして2つの足音が近づいてくる。

軽いハイヒールの音。

小さく静かで靴が床とすれる音。

1人は先程の従業員の女性、もう一人は小柄で痩せた男だろうと想像する。

ここに入れるのは、かなりの常連客か権力者だ。

説明を受けている所を聞いてるとおそらく後者なのだろう。


そこでふと疑問に感じる。

なぜ、こんな事を気にしているのだろうか。

例え誰が来ても気に留めなかったのに...........

その答えはすぐにわかる事になる。


ッ!!


息を呑んだ。

何故そうしたのか理解できない。

見たところただの人だ。

だが戦場で戦っていた経験がそうではないと訴えかける。

その男をよく観察する。

足音から想像していた人物ではなかった。

身長は並より大きく、服で分からないが相当鍛えこんでいる。

体重も見た目に反してかなり重いように感じる。

黒髪なので勇者の血縁の可能性もあるがそれも違う。

匂いで分かるのだ。

人族は、見ればその強さを理解できるスキルがあるが、獣人族は匂いで判別する事が出来る。

魔力が一切ない。という事は『魔無し』なのだろう。

だがその結果すら嘘ではないのかと、自分の使ったスキルすら疑ってしまうほどの圧倒的な何かを感じてしまう。

例えるなら、迫り来る巨大な津波を前に佇んでいるような、底が見えない巨大な穴をのぞき込んでいるような忌避感がある。


その男と目が合う。いや、合ってしまった。

この男から目を離すとその瞬間に殺されてしまうのではないかと錯覚してしまう何かがあった。

檻が、まるで細い枯れ木のように頼りないものに見えてしまう。

僅かな動きも見逃さないよう目を細め、その男を警戒する。

すると、不意に男の視線が切れ檻の金額の方に目が行く。


どうやらこの私を買いたいようだ。


すると男は金額を書かずに女性と一緒に出て行ってしまう。

買う気はなかったようだ。


全身が弛緩する。気が付けば汗が滴り落ちていた。

そしてあの男が去ったことに心底安堵していた。


そのことに皮肉気に笑えてしまった。


「何だ、ここまで墜ちてもまだ生きたかったのか」


手に繋がれる鎖がカチャカチャと震えている。

戦場で感じるような恐怖ではなかった。

もっと深く、根源をえぐるような死の恐怖。

どういった人物なのか知らないが、一瞬で力の差を思い知らされた。

まるで、お前の絶望などその程度なんだろと、言われたようだ。


すると戦友のあの言葉が聞こえたような気がした。


『頼む。我が友よ、私の分まで生きてくれ』


本当の意味で心で聞いた気がする。


「どうなるかは分からないが、少しだけ生きみようと思うぞ。ホノロゥ」


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