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19話

無能班の主な仕事は補佐をすること。


放撃班の魔力を回復するためのポーションを運んだり、肉壁班の人のために簡易の休息場で水や武器と言ったものを配達したり、衛生班の回復が間に合わない人たちに応急手当てをしたり、前線から怪我人を連れてきたりと、意外と仕事の凡庸性は高い。


そして大暴走が終わった今も、無能班の仕事は終わっていなかった。


「シヒロさん!! 2番鍋と6番鍋のスープが無くなりました!!」

「わかった! 予定通り追加は作らなくていい。そのまま片付けて他の所の手伝いに行ってくれ。おい!! 3番石窯のパンが出来上がってるから持って行ってくれ!!」


正直、大暴走より大変だ。


「シヒロさん! 材料が底をつきそうです。後は冒険者ギルドと傭兵ギルドの人が持ってきた肉と農産ギルドの人が持ってきた小麦粉がありますが、これもパンにしますか?」

「いや、それだけあるなら唐揚げにする。油を温めてくれ」


肉をブロックごとに分け、一口大になるように捌いていく。


何の肉かは分からないが、あいつらが持ってきたのなら大暴走で狩られた魔物の肉だろう。


すると配膳に出ていた一人がこちらに近づいてくる。


「シヒロさん追加はまだかと言ってますが.............」

「本当か!? さっき、スタミナ炒めとデカいトカゲの丸焼き出したばっかりだぞ」

「すごい勢いでなくなりました!」

「待たせておけ! どんだけ食うんだあいつら。いつもこんな風なのか? 手が足りないぞ」

「いつもは傭兵ギルドと冒険者ギルドの半数ぐらいの人が来るんですが」

「全員来てるのか?」

「この街のほぼすべてのギルドの人が集まってます」

「なんでだ!?」

「今回の軽食があまりにも美味しいとの噂が立って来たみたいです」

「クソ。まったく」


軽く悪態をつくが内心では美味いと言われて喜んでいた。


「「「シヒロさん!! 味の確認をお願いします」」」


3番4番5番鍋を担当している人達だ。

順番に味見をして指示を出す。


「3番はそのまま出していい。4番は味が少し薄い、塩をあと、半袋分入れて煮詰めてくれ。5番は火を弱めて後10分煮詰めてくれ」


「「「はい!!!ありがとうございます!!!」」」


素早く自分の持ち場に戻っていく。


「シヒロさん!! 油の準備が出来ました」

「こっちも残りの肉全部捌けたところだ。後はこっちでやる。この唐揚げで終わりだ! あともう一踏ん張り頑張るぞ。あと賄いを用意してるから皆で食べてくれ」


はい!!と厨房全体に声が響く。


なんか気づけばここのトップみたいな扱いになってるな。


ジュワーと揚がる音を聞きながら考えていると背中を軽く押される。


「...........フレアか。もう大丈夫なのか?」

「ええ。少し頭が重いけど大丈夫よ」

「無理するなよ」

「心配してくれてるの? ありがとう」


放撃班のフレアは魔法の使い過ぎで倒れていた。

最近調子が良いとのことで限界以上に魔力を使ってしまったようで、一時的な魔力欠乏症とのことだ。

少し休めば大丈夫と説明された。

しかし、その無茶のお陰でおおよそ2割はフレアが倒したらしい。


凄いの一言だ。


「もうすぐ終わりそう?」

「この後、後片付けが残ってるからまだかかりそうだな」

「............そう」


しょんぼりとする声に視線を向けると、フレアは料理が盛り付けられた2つの皿を持っていた。


そういえば、こっちに来て知り合いと言えるのは自分だけか。

友達はいないと言ってたし、心細いので知っている人と一緒にご飯を食べたかったのかな。


1人で食べる飯は寂しいもんな。


「もう少し待ってろ。フレア」


揚げていた唐揚げを油から引き上げる。


「味見するか?」

「いただくわ」


あー、と口を開く。

小さな唐揚げを選び、口に運び込む。


「あっふ!!.......ハフハフ」


出来立ての唐揚げを必死で口の中で冷まし、熱さに苦戦するもののようやく飲み込む。


「少し冷ましてから食べさせくれても良かったんじゃないの?」

「熱いから美味しいんだよ。どうだった?」

「........絶品」


多少ジト目で見るも、美味しかったようだ。


よしよし。


「これで最後だ!! 追加はないぞ!! 終わり次第、後片付けして解散だ。悪いが後任せて大丈夫か?」


「「「「「任せてください!!!」」」」」」


厨房にいる全員が答える。


頼もしい連中になっちまったな。

初めはあんなに愚痴をこぼしていたのに.........


「時間が空いたから一緒に飯でも食べるか。その皿一つ貰っていいか?」

「え? あぁ。勿論よ。そのために持ってきたんだもん」

「ありがとう」

「ど、どういたしまして。........その、えっと、気を使わせちゃったわね」

「そんな事は無い。こっちも知らない連中が多くて落ち着かなかったんだ。誘われなかったらこっちがフレアを誘ってるところだったからな」

「そ、そう、ならもう少し、待ってたらよかったわね」


近くのテーブルに移動して、皿を置き、椅子に腰を下ろす。

そしてフレアが持ってきた料理を食べ始める。


少し冷めてるが美味いな。

流石、自分。

と自画自賛をする。


ふと、フレアの視線に気づきふり向くと、さっと視線をそらされる。

何かいつもと違うような気がする。たどたどしい話し方もそうだが、視線が行ったり来たりキョロキョロしている。

皿に盛られた料理もあまり食べていないようだ。

もしかしたら思っているよりも体調が悪いのかもしれないな。


「食欲がないなら食べやすい物を作ろうか?」

「だ!! 大丈夫。ちょっと............」


後半ごにょごにょと小さな声で話すと、それを隠すようにパクパクと料理を食べ始める。


食欲はあるようだ.........しかし、見惚れてた?何にだ?


何を言っているのか聞き取られたことはフレアにとって誤算であった。

自分の方をチラチラと盗み見る様に見てたが何を見てたんだ。とフレアが見ていた方向に視線を向けるとガヤガヤと騒ぐ連中が目に入る。

あぁ、成る程な。もしかしたら、こいつ等全員死んでたかもしれないもんな。そういった.........なんだ。奇跡みたいな、そういった感じのに見惚れてたってことか。


.............イヤイヤと考えを改める。

そんな感傷的な奴ではない。もっとサバサバとしている奴だ。


そこで一つの考えが浮かぶ。

まさかとは思うが自分を見ていたのでは? と仮定すると思い当たる事が一つある。


そういえば、食い入るように自分の裸を見ていた事があったな。

いつだったか、宿で体を拭こうとした時、突如として部屋に突撃して、嘗め回すように見ていたことを思い出す。


筋肉に見惚れていた? つまり、筋肉フェチ..........って奴なのか?

確かに妹達にも「兄ちゃんの魅力は料理と筋肉」「僕もその筋肉欲しい」と言われたことがある。

体質上、確かに筋肉は人並み以上にあると思うが.......試してみるか。


袖を掴み、肩まで一気に捲り上げる。

すると先程まで料理を食べていたフレアの手が止まり、捲り上げた腕を凝視する。


........当たりか。まぁ、趣味嗜好は人それぞれだ。誰かに迷惑をかけないなら否定するつもりもないしな。っていうか興味があるなら素直に見たいと言えばいいのに。

取り敢えず料理を食べ終えるまではこのままにしておくことにした。



・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・



フレアはお腹が一杯になった事と、疲れが溜まっていた事が合わさりすぐに眠ってしまった。

このままにしておく訳にもいかず宿屋を探す。

今回の大暴走のお陰で多少なりとも懐が温かいので少しいい宿屋を探すことにした。


どこがいいかと探していると、二人の女性を侍らせた男が声を掛ける。


「おっ!! 黒髪の兄ちゃんじゃねぇか。今回の飯は一段と美味かったぜ!! こんな所でどうしたんだよ。困ってるなら協力するぜ」


大暴走で死にかけていた人物の一人だ。


「丁度良かった。宿を探してるんだ。良い所を知らないか?」

「宿ぉ?」


するとフレアと自分を交互に見た後、視線をこちらに戻す。


「あんたも好きだなぁ。確かに熟れる前の瑞々しい果実ってのは美味しそうに見えるけどさぁ。実際は熟れた果実の方が美味しいものだぜ」


.........何を言ってるんだこいつは。


「まぁ、一時期は俺にもそういったことがあったから否定はしないぜ!! 宿を探してるんだろう。極上の場所を知ってる。ついて来てくれ」


付いて行っていいものかと考えるが、悪意は感じないし、気に入らなければ別の所に行けばいい、と後を付いて行くことにした。

それにしてもこの二人の女性は一体どういう人なのだろうか。

ほぼ下着の姿で半透明な外套を羽織っているだけだ。

正直、目のやり場に困る。


「さぁここだ。入ってくれ」


連れてこられた場所は確かに大きな宿屋のようだが


「なんか違和感が.........」


促されるまま中に入るが違和感は一層大きくなる。

一体何がとは分からないのだが、とにかく違和感がある。

全体的に薄暗いが、落ち着いて眠れるような雰囲気ではない。

リラックス出来るように焚いてあるのであろうお香も不思議と目がさえてくるような........とにかく変な気分になってくる。


「なぁ、ここ本当に......」

「はい、これ黒髪の兄ちゃんの!!」


カードの様なものを渡される。


「ここの最上階で最高の部屋を取ったぜ。勿論俺の驕りだ。遠慮なんかしないでくれよ。あんたがいなけりゃ美味い飯も、女も味わえなくなってたところだからな」

「いや、違う。ここは本当に........」

「分かってるって、皆まで言わなくていい。こういうところは初めてなんだろう? 外から来たやつらは驚くもんな。直通のエレベーターはそこだ。それじゃあ楽しめよ」


グッと親指を立てて2人の女性と一緒に奥の部屋へと入っていく。

とてつもなく怪しい宿屋だが、最高の部屋を用意してくれた人の厚意を無下にするわけにもいかず、この状態のフレアを連れまわすのも良くないだろう。


「しょうがないか」


厚意を受け取ることにする。

エレベーターに乗ろうと近づくがスイッチの様なものがない。

代わりに四角いパネルのような物がある。


これにカードを当てればいいのかな。


..........カードを近づけるが、まったく反応がない。

そういえば、渡された時はカードは少し発光していたような気がする。


魔力がいるのかな。


試しにフレアの手にカードを当てるとボヤっと発光する。

そのままパネルに近づけるとエレベーターのドアが開いた。


「便利な仕掛けなんだろうが、魔力が無いと不便で仕方ないな」


エレベーターに乗り込むと上に向かう。

最上階に到着すると部屋の中に直結していた。


「凄い広さだな」


前に泊まった部屋が5つ入りそうな広さだ。

部屋の中心にはベッドが置かれており、奥には大きな風呂まであった。

そして床にはふかふかの絨毯まで敷かれている。


「土足で入っていいのか?」


靴を置く場所がないので、土足でいいのだろうが.......。

一応靴を脱いで、ベッドにフレアを寝かせる。

寝苦しそうにしていたので、靴を脱がせ、軽く服を緩める。


「さて、こっちは風呂にでも入るか」


奥にある風呂を覗いてみると、いつ沸されたのか湯が張っていた。

その湯船には沢山の花びらが浮ており、お湯は緑色の色がついていた。


「薬湯って感じか。いいな」


すぐに服を脱いで風呂場に入る。


「贅沢だ」




風呂から上がるとフレアが目を覚まし、天井の方をボーっと眺めていた。


「もう遅いから寝とけ。病み上がりだろう」

「.........ここどこ?」


何処となくポヤーっとしており、潤んだ瞳でこちらを見上げるように聞いてくる。


「宿屋だ」

「そう。......お風呂?」

「あぁ、奥にあるぞ。サッパリしたいなら入ってきたらどうだ」

「うん」


そういうと服を脱ぎながら風呂場へと向かう。

だらしない奴だな。


脱ぎ散らかした服を畳み、ベッドに腰を掛ける。

そこで驚くべきことに気付く。


「なんだこりゃ」


どういう事を想定しているのか、ベッドが尋常ではないほど頑丈に作られている。

普通に寝ることを想定したつくりではない。この上で激しい運動をすることでも想定しているかのようだ。


「これならもしかして」


ベッドに大の字に寝転び、フッと力を抜いて全身を弛緩させる。

軽くベッドが悲鳴のように軋むが壊れる事は無かった。


「ここに来て初めてベッドで寝れそうだな」


随分と怪しい宿屋だと不安だったが、これだけでも来てよかったと思える。

そうすると視界が狭まり、微睡んで来る。

そういえば徹夜だったし、慣れない世界で気疲れしていたのかもな、とそのまま睡魔に身を任せることにした。



・・・

・・



眠っていたのはどれぐらいだろうか。

恐らくだが1時間も眠っていないだろう。

目を覚ますと天井ではなくフレアと目が合った。


髪は濡れており、白い素肌に絡みつくように張り付いていた。

あまりに近い距離だから確信は持てないが、素っ裸で上に覆いかぶさっている。


「...........シヒロ」

濡れたような声で小さく呟いた。


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