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18話

ギルドに到着するまで、この3人組のパーティはずっとフレアに話し続けている。


丁寧な言葉で話しかけているのがこのパーティーのリーダー。

ムードメーカーで明るく話しかける少年。

そして、その後ろに隠れるようにいる少女。


この3人組が、どうやらフレアをパーティーに勧誘したいようだ。


フレアの方はずっと話を聞き流し、『そうね』とか『考えておくわ』とか面倒くさそうに応対している。

こちらはいないものだと扱われているようだ。


「ですので、そちらとしても組んでみる価値はあると思うのですよ。同じBクラスですし一度【紺碧の空】に加入してみませんか?」

「悪くない話だけど、今はこの人と一緒に組んでいるから現段階では無理よ。そうよね」


いい加減に嫌になったのかこちらに話を振って来た。


「そうね」


話に巻き込むな、と素っ気なく相槌を打つ。

すると今気が付いたかのように話し掛けてくる。


「えっと、シヒロさんでしたっけ? フレアさんとはどういったご関係でしょうか?」


リーダーっぽい少年がそんな事を聞いてくる。

聞いてどうするんだとも思うが、適当に答えておく。


「フレアの旦那だ」

「「「え?」」」


3人組が驚く。

背中でびくりとフレアが小さく跳ね上がり、肩に爪を突き立てて小さく唸る。


そんなに力を入れると爪を痛めるぞ。


「そうだったんですか? え、でもあなた......」


後ろに隠れていた女の子が話し掛ける。


「劣人種ですよね」


最初に会った時から当然の如く【鑑定】を使ってきていた。

レアなスキルだと聞いていたが割と持っているんだな。


「まぁな。魔力を持ってないからそうなるな。あと冗談だから真面目に取らないでくれ」


それを聞いて安堵のような空気に包まれる。

ただ、後ろのフレアには聞こえてないのか『旦那........夫婦.........結婚?』みたいなことを呟いている。


これはお前が言い出したギャグだろうが


軽く揺さぶって正気に戻す。

そしてもう一度冗談だという事を伝える。


「え? あぁ......そうね。知ってたわよ」


ならいいんだが。

あとフレア、それ以上力を込めて爪を突き立てるな。

くすぐったい。


その後フレアに対する勧誘を再開し始める。

いい加減鬱陶しくなってきたが、良いタイミングでギルドに到着した。

そろそろフレアを下ろそうとするが服にしがみついて離れようとしない。


お前は子泣き爺か。


仕方ないのでそのまま背負って入ることにする。

入ると、ギルド一杯に人が集結していた。

ガヤガヤと騒がしく全体的に汗の酸っぱいにおいがする。

アズガルド学園のギルドに比べると広い作りになっているが人の密集度が半端ではない。

空中に浮いている人までいる。

見ただけで萎えてしまう。


すると人ごみの中から一人の人物が出てくる。


「あー、では、ある程度人数がそろったので説明をさせてもらうぞ。私がここのギルドマスターであるインシードだ。途中から来た奴等には受付に詳しく聞けと伝えてやってくれ」


何やら拡声器のような物を持って話している。

どうやら魔道具のようだ。


「つい最近に起きた大暴走に比べれば比較的小規模のようだが、決して油断はするな」


つい最近にもこんなことが起きたのか、大変だな。


「みんなわかってると思うが、一応規則で説明するぞ。この依頼を受けるなら報酬は一人当たり最低金貨一枚は保証する。魔石や素材は一度ギルドで換金して、その後全員に分配。だからと言ってサボるような奴は、それ相応の処罰があるし、ここいらの奴に嫌われるからしないように。もしこの依頼を断りたいなら一人金貨30枚払えば免除になる。質問や詳しく聞きたい場合は受付かそこら辺にいる奴に聞け。以上だ」


そう言っておくの部屋へと消えていく。


「さぁさ皆、いつも通りBクラス以上とCクラス以下に分かれて頂戴。時間は待ってはくれないわよ!!」


そう言って手を叩きながら指示する人物がいる。

恐らく受付嬢......なのだろうか?

筋骨隆々で髭の逞しいおっさんが受付嬢の服を着て女装している。

それも極めてきわどい格好だ。

......心の安寧を蹂躙するかのような暴力的な見た目である。

しかし、誰もそのことについて語らないのできっと触れてはいけない事なのだろう。


「うげっ、なんだあのおっさん。気持ち悪ぃ」


声のする方を見ると、フレアを勧誘していたパーティのうちの一人が声をあげる。

あの少年である。

すると水を打ったように周りが静かになる。


「あらあら、誰かしら? そんなヒドイこと言う子は」


ニッコリと微笑みながらギィ、ギィ、と床を軋ませ、こちらに近づいてくる。

近くで見るとさらにキツイ。


「は、はぁ? なんだよ本当の事だろう」


ジリジリと後ずさるがすぐに壁際まで追い詰められる。


「そんなヒドイことを言う子はこうよ」


ドンっと地面を蹴り、一足飛びで一気に距離を詰める。


「へ?」


そして、満面の笑顔で


「いただきます」


濃厚なキスをする。

声にならない悲鳴が響く。

近くにいたこの少年のパーティは呆気に取られていた。

少年は手足をばたつかせ抵抗するが、体をガッチリとホールドされ脱出できず、されるがままになっていた。



そして約5分後.....


名前も知らない少年は白目をむき、涙と鼻水でグシャグシャになり、口は涎でべたべたになっていた。

フレアは何度も背中で嘔吐(えず)いていた。


頼むから背中で吐かないでくれよ。


「ふぅ。堪能したわ。さぁ! 時間はないわよみんな早くして」


周りの人達はまるで何もなかったかのように指示に従い移動する。

介抱するパーティに向けて「可愛そうに」ただその言葉しか出てこなかった。


その後、大雑把に班分けの様な事をして、4つに班に分けられた。


砦から魔法を打ち続ける放撃班

迫り来る魔物を足止め、攻撃をする肉壁班

怪我をした人を治療する衛生班

そして肉壁にもならない役立たずの.......もとい、オールマイティに補佐する無能班



初めは体格がそこそこ良さそうだとのことで、肉壁班に行く予定だったが劣人種という事と、Bクラスの『炎姫』フレア=レイ=ブライトネスの連れで、アズガルド学園での協力者。

死なせると不味いということが考慮され無能班に行くことが決まった。

主な仕事は衛生班の救護所まで怪我人を連れてくる事と全員分の軽食を作る事だ。

得意な事は何だと聞かれたので、料理と答えたら仕事が追加された。


余計な事を言わなければよかった。


ちなみにフレアは当然の如く放撃班だ。

班分けが終わったあたりで、大暴走(スタンピート )が目視で確認できるほどまで近づいていた。

説明をそこそこに、配置について防衛を開始。

それから丸一日、夜となく朝となく勢いが弱まる事無く魔物どもが攻めてくる。

今は日もだいぶ傾いて来た。


「チックショウ!! さっきから俺たちに向けて風の魔法使ってるのは何処のどいつだ!!」

「知らねぇよ!! 敵味方の区別がついてねぇんだろ」

「後でぶん殴ってやる!!」

「あぁ~、でも仕方ねぇよ。お前の顔はゴブリンよりひどいからな」

「お前よりかはマシだ!!」

「ん? そういえば、もう一つの可能性もあるぞ!」

「なんだ!!?」

「ホモの近親相姦野郎だ」

「はっはっはははは。ちげぇねぇ」


満身創痍なのに元気だなこのおっさん共は.....


全身に傷を負い。喋るたびに血を吐いている。

見るからに重傷だったので、近くにある救護所この2人を届けている最中だ。


「にしても兄ちゃんすげぇ馬力だな。2人担いで息すら切らしてねぇんだから」

「まったくだ。何で肉壁班にいねぇんだ?」

「劣人種だからだよ。黙ってないと魔物の群れに放り投げるぞ」


最初からこの調子だ。

無視すればよかったかな。


「それにしても助かったぜ。あんた命の恩人だ。この大暴走(スタンピート )が終わったらいい店紹介するぞ」

「俺もだ。いい女が揃っている高級娼館だ。命の恩人なんだから奢らせてくれ」

「まだ重症で助かってないだろうが。それに命を助けるのは衛生班だ。奢るならそいつらにしてやれ」


助け出すたびに、ここの連中はこんなことを言ってくる。

中には自分の娘を進めてくる奴までいた。

正直ウンザリしてくる。

捨ておこうかと何度も思案する。


「あ!! 思い出しだぞこの兄ちゃん!! 夜に美味い飯作ってた兄ちゃんじゃねぇか!!」

「本当だ。あれどうやって作ったんだ? 材料少ないとは思えないぐらい美味かったぞ」

「......そうかい。ありがとうよ。企業秘密だ」


料理を褒められると素直にうれしい。

捨ておくのはやめておこう。

そして、救護所に到着して二人を受け渡す。


「ほら連れてきたぞ、もう二人追加だ」


じゃあな兄ちゃん。また前線で会おうぜ。と奥へと運ばれる。


「驚くほど優秀ですね。あなたのお陰で助かった人が100人は超えてますよ。今回は被害が少なくなりそうですね」


この人はユフノという人物だ。

主に回復魔法を使って治療している。何度も往復して顔見知りになった。


「そいつはよかった。そろそろこの馬鹿騒ぎも終わりそうだしな」

「それはどういう意味ですか?」


すると砦の方から放送が始める。


大暴走(スタンピート )の切れ目だ!!あと少しで終わりだから気合い入れろ!!」


この放送で肉壁班の声が一層デカくなり。

放撃班からの攻撃が一層激しくなる。


「こういう事だ」

「よくわかりましたね」

「何度も前線の真っただ中からこいつら運んでないからな」

「成る程」


クスクスと笑う。


「中々に規模が大きかったので心配してましたが今回は大丈夫そうですね」

「そうなのか? 前回に比べれば小規模だって言ってただろ?」

「前回に比べればです。あれは異常でした。規模は今回の3倍で、3日徹夜で戦い続けましたからね。被害も過去最大です。恐らく勇者がダンジョンボスを倒した事が原因なのでしょうが」


はぁ、とため息を吐く。


「どうもキナ臭いんですよね」

「引っかかることがあるのか?」

「話してどうこうなる事でもないのですが、少し違和感があるんですよね」

「狂暴化しているはずの魔物が......ってことか?」

「よくわかりましたね。そうです。前回と今回はどうも狂暴化したというよりも......むしろ、何かから必死に逃げているような......そんな気がするんですよね。まぁ前回は何も起きてないので取り越し苦労だと思うんですが」

「警戒しといていいんじゃないか? フレアも何か変だと言ってたしな」

「それは.....あなたもそう思いますか?」

「まぁな」


うぉぉぉおおおおおお!!! と肉壁班と砦の方から歓声が上がる。


「終わったみたいですね」

「みたいだな。んじゃ行くわ」

「帰るのですか? いつもこれが終わると祝勝会をやってますよ」

「その料理を作りに行かなくちゃいけないんだ。軽食から宴会に格上げしたみたいだし、ここから別の戦争がはじまりそうだよ」

「そういえば昨晩と今朝の軽食もあなたが作ったんですよね。美味しかったです。楽しみにしてますよ」

「期待しとけ」


そう言って次の戦場でなるであろう場所に急ぎ足で向かう。




◆◇◆ ユフノ



「こんな所にいたんですか!!? ギルドマスターがカンカンに怒ってますよ」


声のする方に顔を向けると職員の一人が血相を変えて話しかけていた。


「いいんですよ。最近のあの人は全部私に押し付けてサボり癖がついてたんです。いい薬になるでしょう」


最後の人を回復魔法で治療し終える。


「それにこれも立派な業務ですよ」

「私が怒られるんですよ。あなたを連れてこないとクビだともいわれてます」

「それは困りましたね。ならばゆっくり参りましょう。それよりも、今回の大暴走を前回同様のレベルで警戒してください。他の人にもあまり羽目を外さないように注意するように勧告してください。もしかしたらがありますから」

「心配し過ぎではないでしょうか?」

「信頼できそうな人物からの助言です。それと同時にこの人物を調べてください」


そう言ってとあるメモ書きを手渡す。


「これって他所から来た劣人種の人ですよね。何かしたんですか」

「用心のため.........ですかね。あとこの場でその言葉はよくありませんよ」

「なぜです? 事実でしょ」


すると肉壁班の一部の人たちが集まって来る。


「俺たちの命の恩人が......なんだって?」


ぞろぞろと集まりあっという間に取り囲まれてしまう。


「では、私はゆっくりとギルドに戻るので後からついて来てくださいね」

「待ってください! 助けてくださいよサブマスター!」


人垣の中から悲鳴にも似た悲鳴が響いた。


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