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1話

ルテルの開けた穴を通り抜けると、確かに町があった.........が、一瞬で見えなくなった。

なぜなら今は、空中を高速で移動している。

さながら人間大砲のように。


「あの野郎!!」


せっかく持っていた荷物をあの世界において来てしまった。

いや、今は怒っている場合ではない。

現状確認が大事だ。


持ち物。

ルテルから貰った収納袋のみ。


今置かれている状況。

かなりの高さを高速で移動中。

このまま地面にぶつかればまず間違いなくミンチが出来る。


平地だった景色が、森となった。

かなりの距離を高速で飛んだいるが伺える。

願わくば、このまま海か湖まで飛んでくれれば生き残れる可能性はあるだろうかと淡い希望を抱くが、その可能性はなさそうだ。

進行方向の先には、他の木が雑草に見えるぐらいの巨木が立ち塞がっている。

こっちの世界でも見たことがない。山よりでかい巨木である。

地面にぶつかる前に死にそうだ。


「ギュアァァァァァァーーー!!」


そして嫌な事というのは、畳み掛けるように発生するようだ。

奇妙な鳴き声が聞こえる方に視線を向けると、深緑色の翼が生えたトカゲが5~6匹こっちに向かって飛んできている。


おぉ、恐竜みたいだ。


凶悪な顔をして、こちらに向かってくる。

恐らく、自分の縄張りに侵入された事に怒っているのか、それとも久々の餌だと思っているのであろうか。

どちらにしても、こちらにとって良い事ではないことは確かだ。


「あ~........本当にどうしようか」


前には巨木、後にはでかいトカゲ、こちらは空中で身動きが取れないときた。

長いようで、短い人生だった。

人生について思いふけっていると、不意に周りが暗くなる。

上を見上げると、後方のトカゲより一回りでかいトカゲが頭上にいた。

肩を鷲掴みにされる。


そのことに笑みがこぼれる。


何と運がいい。

クッションを手に入れる事が出来た。


「日頃の行いって大事だな」


そういい、肩に食い込んでいた爪を掴み雑巾を絞るように全力で力を加える。


「ギィユアアァァァァーーーーー!!」


ベリッと爪が剥がれ掴む力が弱くなる。

その隙をついて、トカゲの拘束から脱出する事が出来た。

剥ぎ取った爪をピッケルのように使い、トカゲの体を突き刺しながら背中のほうへ進んでいく。


思っていたよりも脆かったな。

力の支点をずらすだけのつもりだったが、毟り取れるとは思わなかった。


トカゲは飛びながら、ひたすらに身をよじったり、尻尾を振り回し振り落とそうともがいていた。


「暴れるなよ!! 落ちるだろうが!!」


背中に到着する。


「これでだめなら仕方ない。諦める!!」


両翼の付け根を抱きしめるように締め付けた。

巨木はもう目前。

来るであろう衝撃に備えていると


ブオオオォォォー!!!っとトカゲが口から突風をを吐き出した。

急ブレーキがかかりスピードは落ちるがそれでも勢いは殺しきれない。


パン!!

パン!!

パン!!


ドォン!!!


風船が割れるような音が3回ほどして巨木に衝突した。

衝撃が体の芯に響く。

だが慣れたものだ。

急いでトカゲの背を蹴飛ばし、近くの枝にしがみ付く。

少し遅れて、トカゲは下まで落ちていく。


「ッッ......ぐはぁ」


幹のように太い枝によじ登りゴロンと横になった。

どうやら、生きているようだ。五体満足で、骨さえ折れてない。


あの突風と風船が割れるような音。

それがクッションの代わりになった.......でいいのだろうか。

口から風を吐き出したてたな。息か? いや、息を吐き出したというレベルじゃない。これがルテルの言っていた魔法ってやつなのだろうか?


やるべき事、考えるべきことは多い。

先程の生物。拠点とするべき場所。魔法。今後の事など様々だ。


でも、今はそれよりも.......それよりもだ.......。


「.......ふぅ」


ゆっくりと起き上がり、立ち上がった。


「はぁ、久々に......立てた気がする。風の音もしない....景色が止まってる」


いつも通りの普通が戻ってきた。

落ちたり飛んだりしていない。

ただそれだけなのに涙が出そうだった。

心底ホッとする。




『テステス、聞こえますか? こちらルテルです』




嫌な幻聴だ。せっかくの感動が消し飛んだ。


「幻聴.....か。久しぶりに聞いたな」


どうやらショックから立ち直っていないようだ。


『残念だが幻聴じゃないんだよ。戻っておいでぇ!!』

「殺人未遂犯がなんのようだ。どこから話しかけているんだ」

『君に渡した収納袋からさ、いやはや、あれは不幸な事故さ。申し訳ない。死なれて困るのは僕も同じだからね』


........納得はいかないが、これ以上怒っても不毛だ。

死んでいないだけ良しとしよう。


「まあいい。それで? わざわざお詫びのために話しかけたのか?」

『そうだよ......と言えればよかったんだけどそうじゃない。君に報告しないといけないことがある。時間がないから手っ取り早く言うよ』


なぜ? とも思ったが本来あいつはこの世界に直接干渉できない。

自分を介して何とか干渉出来るのだ。

無茶しているのかもしれないな。


「どうぞ」

『まず、君の住んでいた地球を見つけた』

「かなり早いな」

『まぁ、さっきも言ったけど有名だからねぇ』

「なら後は帰る方法か」

『とは上手くいかないんだよね』

「なんでだ?」

『地球を見つけるのは簡単さ。問題なのは君が落ちてきた世界が見つけられないことさ。詳しく言うとパラレルワールド、あるいはIFの世界、と言えばいいのかな? そこから君の世界を見つけないといけない』

「つまり、かなり時間がかかると」

『能力をフル回転して探してるけど下手したら一生そこに永住かも....』

「覚悟はしているさ」

『そう? そう言ってくれると嬉しいね』


こいつ、ちゃんと探してたんだな、絶対サボってるもんだと思ってた。


『あぁそれと、そっちの世界にね。君と同じく日本人が【召喚】されてるよ!! 【転生者】もいるかな』

「なに?」


急に聞きなれない情報が飛んできた。


『まぁ、気にしないで。しばらく接触しないだろうから説明は次でするよ』


時間がないのかどんどん早口で捲くし立ててくる


「おいちょっとま......」

『最後にこれ忘れ物だよ!!ホイッ!!』


収納袋から、向こうに置いて来てしまった荷物が飛び出してきた。


バフッ!!


覗き込むように話していたので顔面に直撃した


『じゃあ、まったねぇ!!』


それを最後に収納袋から声が消えた。


「あの野郎。ワザとだろ」


静かに怒る。

次に会った時は覚悟してろよ。

一発殴る事は確定した。


ん? いや待て、そういやあいつの性別が分からないな。

女性を相手に腹が立ったという理由で殴るのは気が引ける。

声はどっちともとれるし体はローブで見えなかったし...んー、よし、男なら殴る、女なら締める、これでいこう。

ルテルに対する報復が決まったところで次を考える。


「さて、どうやって降りようかな」


ざっと見た感じ、ここの高さは800m位か、上を見るが天辺が見えない。

どれ位の年月を過ぎればこれほど大きくなるのやら、枝ですら普通の幹より太いぐらいだ。

全体の大きさは一体どれほどなのか。

まぁ、降りるのは問題なさそうだ。

捩じれながら伸びているせいか、幹が螺旋状になっている。


「時間をかければ降りられるって感じだな」


でかいトカゲから毟り取った爪を使えば楽に降りれるだろう。

他に降りるのに役立つものなかったかな、とルテルに投げられた自分の荷物をゴソゴソと探る。

荷物を確認したが役立ちそうなものはなかったが、大小5つの袋を発見した。


「あっ。そういや餞別に何をもらって確認してなかったな」


この餞別に良いものが入ってるといいが。

1つずつ開けていくことにする。


「さてと何が入っているかな」


まず1つ目の袋を開けると、「これに似合ういい男になれ」というメモと酒が入っていた。

まず間違いなく母さんだ。

らしいといえばらしい贈り物である。


「もう少し先になるかな?」


色を見るだけでもかなり上物だ。........いや飲んだことはないんだがな。


2つ目の袋は1番大きく、「たくさん食べなよ!!」とバカでかい字で書かれた紙とパンパンに詰め込まれた様々な干物が入っていた。

妹だった。食い物はいらないと言ったんだがなぁ......まぁいいか

袋から一つ取り出し口にした。

うまい。猪だ。


3つ目の袋は1番小さく「何が育つかはお楽しみに」と控えめな字で書かれたメモと様々な種が入っていた。

この字は弟だな。まぁ落ち着いたら育てるのもありかもしれないな。

この世界で育つかわからないが。


4つ目の袋は1番重かった「この守り刀は、己が誇りではなく命を守ることに使いなさい」と綺麗な字で書かれたメモと小太刀が入っていた。

父さんだな、相変わらず皮肉なのか冗談なのか本気で言ってるのか判断がつかないな。

本来の使い方にならないようにしないとな。


なら最後のこの袋は、ジジイのだなと思い袋を開くと「白墨流 業術免許皆伝」と書かれた巻物が入っていた。


「.......うちにそんな流派があったの初めて知ったぞ」


だが、もらった中で一番嬉しいものだった。

ジジイに認めてもらった気がする。


「降りるのに役に立つそうなものはなかったが、まぁ良しとするか」


家族から愛されていることを再確認できた。

ちょっと感動して泣きそうになる。

顔をパンパンと叩き気合を入れなおす。


「さて、行きますか」

荷物を担いで木から降りることにした。


・・・・・

・・・・

・・・

・・


さすがに、800mあると降りるのにも時間がかかるうえに、かなりの労力だ。

途中でトカゲの爪がへし折れて、落ちそうになったりもしたが、何とか地上に降りることができた。


「あぁ、土の感触だ。やっぱりいいなぁ」


久々に感じる土の感触を踏みしめながら楽しんでいると、


「グルゥゥゥ」


と唸る声が聞こえた。


声のほうをゆっくり振り返る。

そこには、巨大なクマのようなものがそこにいた。


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