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16話

アズガルド学園の図書館にて、ただいま勉強中。

この図書館に入るのにお金がいるとは思わなかったが、払った以上の成果はあった。


運よく開催されていた『勇者伝記』という本の朗読会。

勇者たちが残したであろう書記等の副書。

それには日本語で書かれており、翻訳された本もあった。


これのお陰でほぼ読み書きは完璧だ。

.....いや、まぁ、書くのはまだ少し練習がいるが


パタリと読んでいた本を閉じる。


「なかなか面白かったな」


今では、こうして短編小説を一冊読むことができる。

さてここからが本番だ。情報収集を本格的に開始しよう。

そう思い、目星をつけていた本を取ろうとすると


コホン、とここの司書らしき人物が咳払いする。

何事かと見てみると、早く出ていけと無言の圧力を発している。


チラリと外を見ると外は暗くなっている。

どうやら長居しすぎたようだ。閉館の時間が少し回っていた。

まぁ、収穫もあったことだし無理をする必要もないだろう。明日また来たらいい。

伸ばしていた手を下ろし図書館を後にした。

外に出てグッと伸びをする。


さて、野宿の準備をしないとな。



・・・・

・・・

・・



図書館に来る前に宿屋を探したが勇者が来たせいで、どの宿屋も満室だった。

はた迷惑な事である。


なのでアズガルド学園の屋上で野宿をすることにする。

勿論許可なんて取ってないので不法侵入だ。

バレなければ大丈夫。


「屋根がない所で寝るのはいつ以来か........逆だな屋根があるところで寝るほうが少ないか」


空を見上げると満天の星空だった。

違う世界とはいえ、ここの世界の星空も悪くない。

ただ、ここの月光は周りがハッキリと見えるぐらい明るい。


「もう少し暗い方が好みなんだが......」


文句を言ったところで暗くなるわけもない。

眠れるぐらいの明るさなので別にいいだろう。

カチリと腰に差している小太刀が手が当たる。


「......」


父さんから貰ったものは大抵ろくでもないものだが、いつまでも見て見ぬふりは出来ない。

一呼吸置き、覚悟を決めて白い柄を握り、ゆっくりと引き抜く。


「柄は白くて綺麗なのにな」


案の定、まともな代物ではなかった。


刀身は真っ黒。

月明かりに照らしても、黒曜石のような光沢があるわけではなく。

闇を塗りつぶした、と言う様な詩的な表現で表す良いものでもない。

まるで写真に黒いマジックで線を引いたような違和感。

ただただ不気味で気味が悪い。


「息子に持たせるようなものではないだろう」


自然界では決して存在しない様な酷く人工的な物だった。

石器時代にプラスチックを見せられるような気分だ。


オーバーテクノロジーすぎるだろう父さん。


「それなのに怖いぐらい手に馴染むんだよな」


まるで体の一部の様な扱いやすさである。

グッと全力で握ってみるが当然のごとく歪んだり変形したりしない。

恐らくこの世界で唯一全力を出しても壊れない物であろう。


鞘に戻し、再び空を見上げる。


この世界には家族はいないんだよな、と家族の煩わしく思えた喧騒が懐かしく恋しく感じる。

軽く頭を振り、馬鹿馬鹿しいと小さく愚痴る。


「ただ、父さんのご飯が食べれないのが心残りだな」


ぐぅ、と腹の虫が騒ぐ。


「飯でも食うか」


収納袋から何か出そうとしたが、爺さんから貰ったポーチを思い出す。


「追加報酬で貰ったやつがあったな。家で採れた物って言ってたから食べ物だろう。少し頂くか」


何が入ってるのか少しワクワクしながら開くと


「なんだこりゃ」


ポーチ一杯に赤い何かが見える。

正確に言えば、デカくて赤い何かの一部分が見える。

より分かりやすく言うと、大きなカバンに小さな傷をつけ、そこからカバンの中身を見ているような感じである。


何かは分からないが、試しにその赤いものを取ってみる。


「おりゃ」


デカいカブのようなものが取れた。

明らかにポーチよりデカい。

一度戻してみると、スッとポーチの中に入っていく。


「.....おぉ!」


何度かそれを繰り返していると、ふと気づく。

ポーチの底に幾何学模様の刺繍とその中心に小さな石がついている。

飾りかと思ったけど.........これ魔石か。


何の気なしに魔石を取るとポーチから大量の野菜が噴き出した。


「.......嘘だろ。ヤバい!」


急いで落ちてくる野菜たちを受け止め、次々に『収納袋』に収めていく。

何とか地面に落ちる前にすべて回収できた。


「危なかった。それにしても割と入ってたんだな」


このポーチの容量は業務用の冷蔵庫ぐらいはありそうだ。

先程の魔石をポーチに戻す。

収納袋から野菜を取り出して、ポーチに再び入れてみる。

スッと入る。


魔石がないと機能しないのか。他にも入るのか?


試しに自分のカバンを近づけるとスッと入っていく。


便利だな。収納袋と違って何でも入るんだな。

重量はそのままだが、荷物が少なくなるのは助かる。

後で爺さんに礼を言わないとな。



「まぁ、今は腹ごしらえだな。難しい事は腹いっぱいになったら考えよう」


収納袋から野菜と肉を取り出し、晩御飯を作っていく。

勿論火は使わない。火事になったら大変だ。



◇◆◇ 白墨夫婦



「.....ッ。どこに行ったんだ」


小さく呟く。

彼を知る者なら大変に驚いただろう。

こんなセリフを言う人物ではないし、感情を表だって出すような人物ではないからだ。


「どうしたの? そんなにイライラして」


1人の女性が近づいてくる。

声の方を振り向くが、すぐに視線を戻す。


「......頼むからお風呂に上がったら服を着てくれ」

「ふふ。ムラムラさせちゃったかな? お風呂入りなよ」

「後で入るよ。それよりも目のやり場に困るから服を着てくれないか」

「イヤ」


服を一切纏っておらず、首にかけてあるタオルだけの状態だった。

むふー、と後ろから男性に抱き着く。


「それで、本当にどうしたの?」

「息子を見失った」

「リビングで天井見上げてたよ」

「史宏だよ」

「独り立ちするって出て行ったじゃん」

「違う。史宏に埋め込んだ全ての監視装置が反応しないんだ」

「まだそんなもの付けてたの? いい加減に子離れしなよ。息子は巣立ったんだからさ」

「それでも心配なんだ。こんなことなら私用の衛星も付けとくべきだった」

「大丈夫だって、私たちの息子だよ。イライラしないの」


そういって首をマッサージする。

少しだけ落ち着けたのか、机に置いてあった冷めたコーヒーを一息で飲み干す。


「ふぅ。さて私の可愛いお嫁さん。どうして私の監視装置が作動しなくなったと思う?」


何気なく聞いてみる。

想定しうる可能性はどれも低いうえに膨大にある。

出来れば参考になったり自分では思いつかない様な視点が欲しかった。


「そうだね。私が思いつくのは3つだよ。私の格好いい旦那さん」

「聞きましょう」

「宇宙人に連れ去られた」

「とても低いね。一応その線でも探ってみたけどほぼゼロだよ」

「それじゃあ、2つ目。異世界にワープした」

「.....SFが好きなんだね。でも想定してなかったな。今度その線でも考えてみるよ」

「次に3つ目。これは相当自信があるね」

「聞かせてくれる?」

「あなたの監視から逃れるために、史宏自身が全部取っ払った」


ふふー。と微笑む。


その答えを聞いて眉間にシワを寄せる。

目頭を軽く揉む。


「......自分の愚かさに憤りを感じるよ。家族の事になると、どうしてこんなにも視野が狭くなり凝り固まった発想しか出来ないのだろう。それはない、出来ない。と勝手に判断していた。だがよく考えてみるとそれしかないと思える。私たちの息子だ。出来てもおかしくない。その可能性が一番高い」

「私は凄いだろ?」

「天才だね」

「天才に天才と認められたよ。空から史宏が降って来るんじゃないか」

「受け止めてやりたいけど、僕じゃあ一緒に潰れちゃうな」

「そのために私がいる」

「頼りにしてるよ」

「まっかせなさい!!」


チュッと軽くキスをする。


「...........いつからだろうな。子供の成長が素直に喜べなくなってしまった。嬉しさよりも寂しさが先に来てしまう」

「そういうものだよ。こんな私でも結構寂しいと感じてるんだから」


カチ、カチ、と時計の秒針の音だけが部屋に響く。


「......元気に生きていてくれるだけでいい。そう思うのは我儘かな?」

「我儘だね。あいつはいつも何かしらの怪我をするだろうから」

「大体は、君とお義父さんが原因だけどね。あと、あれは怪我というレベルじゃないよ。致命傷だからね」

「大袈裟だなぁ。たかだか腕や足が千切れたり、内臓が潰れただけだって。実際今まで生きてこられたわけだし」

「僕がいたからだよ。まぁ、脳が無事なら何とかなるし、ダメでもどうにかするけど、正直怪我をして帰って来た時はいつも胸が潰れる思いだよ」

「たった一ヶ月で潰れて無くなった下半身が傷跡無しで完治した時はびっくりしたよ」

「やり方は様々だよ。説明しようか?」

「天才の考えなんて、凡人の私には理解できないからいいや」

「君が凡人だなんて、ってうわ!!」


後ろで抱き着いていた女性がくるりと回り込み、男性の膝の上に正面を向くように座り込む。


「息子が出て行って寂しいんだ。だからもう一人、息子が欲しいね」


ぺろりと舌舐めずりする。

まるで大型の肉食獣に乗られている気分になる。


「ぼ、僕としたら、娘がいいかな」

「なら両方だね」

「お、お手柔らかに」

「ムリ」


夜は、まだまだ更けていく。



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