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14話


遠回りになるが、裏道小道を選びながら依頼した革屋に向かう。

本当なら大通りを通った方が近いのだが、人が密集しており近づく事さえ躊躇ってしまう。


こんな道まで人が溢れてるな。


少し辟易としながらも、ようやく到着した。


「お邪魔します。頼んでいた革を受け取りに来ました」

「..........いらっしゃい」


眉間にギュッと皺を寄せ、まるで睨んでいるかのように見える。

その大きな風貌も相成り普通の人なら委縮してしまいそうだ。


相変わらず見た目の怖い爺さんだ。


「加工できてますか?」

「ああ。少し待ってろ」


地を這うような低い声で答えると奥へと取りに行く。


相変わらずこの店主の見た目の圧迫感はすごいな。

愛想笑いどころか表情筋が一切動いていない、そしてお客さんがいるような気配もない。

失礼だが経営は大丈夫なのだろうか。


すると頼んでいた毛皮を抱え歩み寄ると、近くのカウンターに丁寧に置く。


「これが頼まれていたものだ。縮みもなく仕上がりとしては上々だ」


そう言われ、手触りを確認する。

注文してから1週間しかたってないのにそれを思わせないぐらい柔らかく手触りがいい。

自分でも鞣すことは出来るが、ここまでできるとは思えない。

やはりプロに頼んで正解だったな。


と心の中でニンマリと笑うと不意に店主と目が合う。


「本来なら詮索はしない主義なんだが、それについて聞きたいことがある」

「なんでしょう」

「それは一体なんだ? どこで手に入れてきたんだ」


そういわれると困るんだが、自身としてもこれがいったい何の生物なんてわからない。


「結構強い魔物かな? 場所は慨嘆の大森林でとってきました」

「...........そうか」


何やら言いたげな感じだな。

もしかして、盗品か何かだと思われているのだろうか。


すると満を持して言うように、重い口を開く。


「知らないものだと思って話すが、狩った魔物の皮や牙、爪、骨、鱗等には稀にだがその魔物のスキルが宿っていることがある」

「へぇ」

「それらを武器や防具に加工するんだが強い魔物ほどスキルが宿る可能性は高い。普通なら1つ、運が良くて2つ程度だ」

「なるほど」

「だがこの毛皮は6つのスキルが宿っている」

「かなり運がいいってことでしょうか」

「............かなり、な」


暫し沈黙が続く。


「ちなみにどうしてスキルが6つもあると分かったんですか?」

「企業秘密だ」


にやりと笑う。

笑えるのかと思うと同時に、笑わない方がいいなと失礼な事を思う。


正直怖い。


「スキルの内容は、【耐寒】【耐熱】【耐衝撃】【自動修復】【氷魔補正】【重量軽減】だ。どうするかは本人次第だが、この毛皮についてはあまり公表しない方がいい。余計な争いを招いてしまう」


そういうと、大きな布で持ち運びがしやすいように毛皮を包む。


心配してくれているようだ。

見た目に反して優しい人だな。


「もしこれを防具にするなら信用できる職人に任せるべきだ。最悪、騙されて奪われる可能性すらある」


そう忠告するほど相当な品のようだ。

寝間着にしようと思っていたが、そんなに良い物ならフード付きのコートにでもしようかな。

出来ればこの爺さんに頼みたい。フレアの紹介で知り合ったし。

人を騙して利益を得るような人に見えないし。

打診してみるかな。


「先に加工代金を支払いますよ。はい」


カバンから銀貨を手渡す。


「...........毎度ありがとうございます」


渡された銀貨を受け取る。


手デカいな。


「それと追加依頼で、これを自分に合わせてフード付きのコートみたいにしてほしいんですが頼めますか?」


すると眉間にシワを寄せる。


「そういうのは、信頼できる軽防具や衣服の専門店に頼めばいい」

「あなたに頼みたいんだがダメですか?」

「出来なくはないが、洒落たセンスなんか持ち合わせてない。無骨な仕上がりになるぞ」


ギュッと目を細める。


「大丈夫です。別に舞踏会に行くわけじゃないし、機能重視なので」

「わかった」


包んでいた布をとる。


「コートだけだとだいぶ余ってしまうぞ」

「予備としてもう一着作ってほしい。後は、フレアに適当な物を一着。それでも余ったものはいざという時の資金にするので受け取ります」

「わかった。明日には出来上がるから取りに来い。代金は総額で銀貨20枚だ」

「わかりました。先払いしときますね」


カバンから追加で支払い、ある程度の体のサイズを測ってもらう。


「毎度ありがとうございました」


そうして、店を後にする。



・・・

・・



依頼達成を冒険者ギルドに伝える。


「え!? もう終わらせたんですか。はい」


タヌキの受付嬢に今朝受けた仕事が終わったことを伝えた。

ギルドの中は今朝と変わらず人はいないが外は賑やかだ。


「しかもかなりの高評価じゃないですか。すごいですね。はい」


手を叩き感心したように言う。

あの時の操作は仕事の評価だったのか。


「かなり気難しい人たちだから、絶対に文句や難癖つけられて仕事を放棄するか低評価だと思ったのに、劣人種なのにやるじゃないですか。はい」

「なんかその言い方だとワザと難しい依頼をさせて失敗させようとしたように聞こえるな」

「え!?.............あははは、そ、そんなわけないじゃないですか。はい」


うわぁ、凄い露骨に誤魔化したな。

つまりは失敗させたかったことは間違いでないってことになる。

違約金を払わせて、小遣い稼ぎがしたかったのか、もしくは........


「劣人種が、Cクラスにいるのは問題か?」

「え、えっと..............」


目を泳がせる。

どうやら正しい様だ。降格させたかったという事か。


「魔力を持っていない雑魚がCクラスにいると他の奴に示しがつかない......ってところか?」

「え、えへへ」


笑い方まで変になり、後退る。

差別すべき人間が、差別する人間より上にいるのが気に入らないのだろう。

ギルド的には当たり障りのないように降格させたいという事か。


バカみたいだな。


はぁ、と心の中でため息をつく。


さっさと報奨金を受け取って宿に帰ろう。


「あんたらの考えなんてどうでもいいから、さっさと払ってくれ」

「は、はい」


そういい、報奨金を受け取る。


聞いてた金額より少ない。

半分ぐらい足りない。


「どういう事だ」

「ど、どういう事と、い、言われましてもですね。はい」


まったく目を合わせず、とぼける。

流石に、ちょっと腹が立ってきた。

少し睨む。


「おいタヌキ、タヌキ汁にされたくないならさっさと払え」

「そ、それは困りますね。私美味しくないですし。はい」


と何やらひどく怯えたように汗がポタポタと流れ落ち、今にも泣きだしそうだ。


.....流石にタヌキ汁は言い過ぎただろうか。


「ギルド職員をイジメるとは感心しませんね。劣人種の分際で」


と奥から、眼鏡を付け、背中に羽を生やした鳥の様な奴が出てきた。


「せ、先輩」


まるで地獄に仏でも会ったかのような反応をしてそそくさと後ろに隠れる。


「それでいったい何の御用でしょうか」


眼鏡をクイッと上げ、まるで威嚇するかのように高圧的な態度で迫る。


「最初に聞いた金額と実際に払われた金額が違うんだよ。評価も高いはずなのにだ。文句を言ってもおかしくないだろ?」

「ええ。確かにそのような事があるなら、正当性はそちらにあるようですが、実際には書かれている報酬に間違いはないようですよ」


そういい、依頼書を提示する。


あぁ、金額の部分が微妙に変わっているな。恐らくだが途中で書き換えたな。


「納得して頂けましたか? 今度からはキチンと最後まで読んでいただけた方がよろしいのではないですか? 劣人種とはいえ文字ぐらいは読めるでしょう?」


矢継ぎ早に語ってくる。


高飛車な女とはこういう人物を指すのだろうな、ヒステリー持ちが多いそうだから気を付けてと弟に教えてもらったな。


「あー、あんた。自分がだれだか知ってるかい?」

「シヒロ=シラズミ。スキルも一般的で高くない。魔力を持っていない劣人種。これだけ知ってれば十分だと思いますが?」

「推薦した人物は知ってるか?」

「フレア=レイ=ブライトネス様ですね。不当だと訴えますか? 無駄だと思いますよ」


そういって書類をチラつかせる。

これがある限り何を言ってもこちらに正当性があると言いたげだ。

ただ後ろにいるタヌキだけがやってしまったという顔をしている。


「無駄かどうかはこちらが判断するよ。これを見せてね」


と貰っていた依頼の写しを提示する。

ギョッと目を見開く。


「ここでギャアギャア騒いだり、クドクドと嫌味を言いたいわけじゃない。言いたい事はたった一言だ。さっさと払え」


ギリッと奥歯を噛みしめる音が聞こえる。

そして、後ろにいるタヌキを睨む。

ひっ、と小さな悲鳴を上げ小さくなる。


「お払いは出来ませんね。それが本物かどうか確認する必要がございます。ですので一度こちらでお預かりします」

「断るよ。確認ならこの場でしてくれ、持っていかれて破棄や書き直されても困るからな」

「そんな卑しい事しませんよ。劣人種でもあるまいし」

「その卑しい劣人種から報酬を毟り取ろうとしているのは誰だろうな。何だったらこちらもその背中に生えた手羽を毟り取って煮付けにしても良いんだぞ?」


ドン!!とカウンターの下から蹴飛ばすような音がし、憎悪を込めた目でこちらを睨む。


おっと、琴線に触れたか。

背中の翼をバカにされるのはアウトだったようだ。

今度こういう人種を見かけたら気を付ける様にしよう。


「聞きなれない返答だな。どっちかわからないから言葉で話してくれ。返答ぐらいはできるだろ? 劣人種じゃないんだから」


交錯する視線。

今にも殺しそうな眼でこちらを見ている。


本当に魔力を持っていないとこういう事が起きるんだな、と我ながら呑気な事を考えていると後ろのドアから声がかかる。


「おや? 冒険者ギルドでのテンプレ展開かな?」


この世界では初となる、自分以外の黒髪で黒眼の人物が立っていた。




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