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13話

早朝だというのに忙しそうに人が行き来している。

そういえば、今日の昼に勇者が来ると言っていたなとぼんやりと思いだす。

小道を抜けて大通りに出ると、そこにはたくさんの出店が出ていた。


「腹が減ってきたな」


風に乗ってなんとも美味しそうな香りがしてくる。


「持ち金も多少はあるし買っていくか..........にしても、ちょっと冷えるな」


まだ早朝という事もあるが、一番の要因は中に来ていたシャツをフレアに取られてしまった事だろう。

祝勝会で大騒ぎし、タコのように絡みつくとそのまま眠ってしまったのだ。

眠っているくせに、まるで親の仇のごとく凄い力で握りしめており、何とかして取ろうとしたが諦めた。


「まぁ、どうせ洗濯させるつもりだったし、丁度良いだろう」


冷えた体には温かいものが食べたくなる。

出店に並ぶ商品を片っ端から買い占め、食ば歩きをしながら冒険者ギルドに向かう。

出来ることなら鞣した毛皮を受け取りに行きたいが、早朝なので恐らく閉まっているだろう。

ギルドで仕事をしながら時間を潰すことにする。

しかし、このまま出店を巡りながら時間を潰すのもありかなとは思うが金がなくなりそうだと気づき諦めることにした。


あらかた食べ終わる段階でギルドに到着した。

入り口は解放されているので遠慮なく入る事にする。


「失礼します。何か手軽にできる依頼とかありませんか?」


挨拶をしてギルドに入るがそこには受付の人がいなかった。

というより、ギルドの中には一人もいなかった。


中に誰かしらいる気配はするが、まだ準備中なのだろうか?


「すみません!!」


と奥に聞こえるように少し大きく声をあげる。

...........まだ開いてないなら、少しだけ出店で時間を潰すかと戻ろうとした時、奥からドタバタと慌ただしい音がする。

そして、大慌てで受付嬢らしき人物が出てきた。


「はっ、はい。おま、お待たせしましたです。はい!」


いつもの受付嬢ではなく、耳と尻尾がついた見た目タヌキみたいな人が出てきた。


「早朝ですけど大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ、です。はい!」


この人は大丈夫そうではないな。


「なんかすぐに終わりそうな簡単な依頼を受けたいんだけど」

「えっと、えー、はいそうですか。まずは、そうですね。なんだっけ? あ!! そうだカードを出してくださいです。はい!!」


とてもぎこちない感じがする。

新人さんだろうか?

そんなことを考えながら。冒険者カードを提出する。

それを受け取ると、何かの装置の上に置く。


「ええっとー。シヒロさんですね。Cクラスなんてすごいですね。え?でも魔力無しって..........あ」


そう言って何かを思い出したのかポケットに入れてあったノートらしきものを見る。

そこで何をメモしているのか知らないが、露骨に嫌そうな顔をする。


「ちょっと、待っててほしいです。先輩を呼んできます。はい!!」


センパーイと大声をあげながら奥へ消えていく。


それにしても今の装置はギルドカードに記載された情報を読み取る端末だろうか。

あの受付嬢のせいで個人情報がダダ漏れである。


それから5分ぐらいして、耳と尻尾をシュンと垂れた状態で戻ってきた。


「すみませんでした。はい...........」


何をされたのか気になるが、聞きだすのは野暮というものだろう。

その後タヌキの受付嬢はパンパンと頬を叩いて気合を入れなおす。


「では! 今の所、シヒロさんに紹介できる依頼はこれだけです。はい」


3枚の用紙を渡される。


それを受け取って見るが、顔を(しか)める。

字が読めないのをすっかり忘れていた。何を書いてるのかさっぱりわからない。

それをタヌキの受付嬢は不服だと感じたのか説明し始める。


「えっとですね。Cクラスと言っても貴族の推薦ですと、こちらとしてもあまり信用がないわけなんですよ。はい。ですからこういった雑用のような依頼で信用を勝ち取って、美味しい依頼を回してまらえる様になるといった感じらしいです。はい」


あまり要領を得ないが、要するに稼ぎの良い仕事が欲しかったら雑用からしていけという事だろうか

まぁ当然と言えば当然だが、今はそんなことが聞きたいわけではない。

依頼内容が知りたいんだ。

仕方ない遠回しに確認するか。


「そうなのか。とりあえず依頼の確認のために、そちらで依頼内容を読み上げてくれないか。あと、依頼の写しも欲しい」


こう言えば、自然に依頼内容が確認出来るだろう。

さらに写しは、あとで語学の勉強にも使えるし、用心にも繋がる。


「おぉ!! なかなかしっかりした人ですね。でも劣人種の方でしたら当然の事かもですね。わかりました。すぐに持ってきますので少々お待ちくださいです。はい!!」


小走りで奥へと引っ込んでいく。


しかし、確か劣人種って差別用語じゃなかったか?

まぁ、聞きなれない言葉だし、あまり気にならないからいいけど。


タヌキの受付嬢が、写しの3枚の紙を持って戻ってくる。


「お待たせしました」


それを受け取り、本書と写しを見比べる。

書かれている内容はわからないが、間違い探しの絵だと思って見れば問題ない。

特に何か足されたり、引かれたというようなことはなさそうだ。


「では読み上げますです。はい」


そして3つの依頼内容を読み上げる。

この時、注目するのは依頼内容だけではない。

読んでいる時の目の動きや、話している内容にも注視する。

そうする事で大まかな文法を探る事が出来る。


恐らくだが英語に近いかな。


書いている内容をただ読み上げてくれているおかげで、大体の単語の意味も把握していく。

すぐには理解できないが、何とかなりそうだ。


難しくはなさそうでよかった。


そしてすべての依頼内容を読み終える。

依頼内容は『ドブ掃除』『畑の手伝い』『物資の運搬護衛の補佐』であった。

どれも依頼金は少ないのに重労働という事で人気がないそうだ。


「まぁ、冒険者なら薬草を集めたり、魔獣を倒したりが基本なんですけど、あなたの場合はこれ位が妥当かと思いますね。あまり命の危険もありませんですし。はい。どれを選びます?」


妙に見下している感じがにじみ出ているんだが彼女なりに心配してくれているのだろうか。

まぁ魔力を持ってないと差別されるそうだから、これでも気を使ってくれているんだろう。

さてどうするか、どれも時間が掛かりそうだ。


「引き受けたら期限とかあるのか」

「あ、はい忘れてましたね。『ドブ掃除』と『畑の手伝い』は引き受けるなら、今日から3日以内に終わらせてください。『物資の運搬護衛の補佐』は5日後に出発しますので、その日の前日までに受けてください。依頼達成は向こうに到着すれば大丈夫ですので、はい」


どれも期限がギリギリだな。しかも時間が掛かりそうなものばかりだ。

だが、3日以内に終わらせばいいのなら、ある程度区切がついた時に受け取りに行くか。

別段急ぐ用事もないし、まぁ受けてもいいな。

問題は最後の『物資の運搬護衛の補佐』だ。

この街から離れて違う街に行くようだ。正直面倒くさくて受けたくはないが、コネでCクラスに入った身ならいつまでも仕事があるとは限らない。無くても問題ないが、あるに越した事は無いかもしれない。

見分を広げるという意味でもメリットもある。

二度と戻って来れないというわけでもないし、受けれるなら受けた方がいいか。


「それじゃその3つ引き受けるよ」

「ふぇ? あ、あぁそうですか。えっと、失敗するとそこに書かれている報酬金の半分の金額が違約金として支払う事になります。はい。酷い場合は降格ということもあるんですが。よろしいんですか」

「大丈夫」

「仮にですけど違約金を払わないと、全ての冒険者ギルドでブラックリスト扱いされて.....」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから」

「そうですか。わかりました。えっと.........そう!! 場所の説明」


そういい大きめな地図を広げる。

街全体が描かれている地図だ。

これ欲しいな。


「ここが冒険者ギルドで......」


と大まかな説明をした後、何かの装置を操作し終えると返却する。


「それでは、頑張ってください。はい!!」


と満面の笑顔を見せる。

色々と不安なところは多いが悪い人ではないのだろう。


説明された場所を思い出しながらギルドを出る。


「さて、ここから近い所から始めるか」



・・・

・・




「すいません。依頼された仕事を受けた者ですが」 


今は『ドブ掃除』の依頼をするため、アズガルド学園の職員宿舎にいる。


「本当!!? 助かったよ。そろそろ依頼期限が過ぎるからまた新しく募集するところだったんだ。今は本当に忙しいから尚更ね。早速取り掛かってほしい」


髪も服装もボサボサな瘦せた中年男性が説明する。


「道具はこれを使ってね。間違っても魔法で掃除しようとしないでね。このヘドロみたい物は色々な物が混ぜってて危ないんだ。何が切っ掛けでどう作用するのかわからないからね」


魔法を使わないなら安全だから。

そういってスコップ、リヤカー、ブラシを取り出す。


「取り出したゴミやヘドロは特殊な方法で処理するから..........そうだね。これ位かな」


そういい指を鳴らすと目の前の地面に大きな穴が開く。

そこで穴に落ちてここに来たことを思い出す。

トラウマになりそうだ。


「取り敢えず、この穴の中に捨ててね。この丸い印がドブ板の目印だから全部頼むよ」

「はい」


簡単に言うが結構ある。


「最後は綺麗にブラシで掃除して、終わったらまた声を掛けてね。それじゃ頼んだよ」


フラフラと千鳥足で去っていく。


「さて、初仕事だ。気合い入れて頑張るか」


グッと伸びをして仕事に取り掛かる。




2時間後



「それにしてもこのヘドロは一体何なんだろうな」


随分とカラフルな原色が混ざらずにマーブル状になっている。

匂いは強烈で、脳髄に響く悪臭と柑橘類の爽やかな香りが交互に匂ってくる。


頭が変になりそうだ。


それでも、えっちらおっちら作業を進めていくと、先生らしき人物がこちらに気付き【鑑定】を使う。

すると見下したような顔をして鼻で笑う。


まったく額に汗を流しながら働く人間を笑うとは、人としての器量が知れるぞ。


そう横目で見つつ最後のヘドロを穴の中に捨てる。


「よし!! これで終わりっと」


結構な量があったが効率よくやれば案外早く終わるものだ。

手早く後片付けを終わらせ呼びに行く。




「いやぁ~そんなに時間が経ってないのに呼ばれたので、依頼を断るのかと思ってましたが..........」


ドブ板を一枚外し中を確認する。


「本当に終わらせてるとは思いませんでした。しかもすごく丁寧ですね」


ドブ板を元に戻し立ち上がる。


「でも残念な事に、ここだけでなく他にも6か所あるんですよ」

「はい、終わりました」


おー。と感心したような声をあげる。


「では、少し確認してきますので、少し待っててください」


フラフラと千鳥足のまま確認しに行く。

しばらくするとフラフラと戻って来る。


「確認してきました。本当に仕事が早くて、とても丁寧なんですね。驚きました。文句なしです。ギルドカードを貸してください」


そういわれギルドカードを渡すと何かの操作をしてギルドカードを渡す。


「今日はありがとうございました。本当に助かりました。良ければ名前を聞かせてもらってもいいでしょうか?」

「シヒロです」

「シヒロさんですか。覚えました。また何かありましたら宜しくお願いしますね」


そういってまたお礼を言う。


「こちらこそ宜しくお願いします」

「はい、お疲れさまでした」




2時間位経ったとはいえまだ朝の部類に入る。


さすがにまだ開いてないだろうから畑仕事の依頼もするか。


依頼の場所に向かいながら、開いている出店を覗きつつ食べ歩く。

農業区と呼ばれる場所に辿り着くとたくさんの畑がある。

その中に依頼者の家を見つけ軽くノックをして声を掛ける。


「すみません。依頼を受けたものですが」


すると、ッバン!!と勢いよくドアが開く。


「煩いんじゃボケェ!! クソガキがいったい何しに来たんじゃ!!」


小さくシワシワな老人がいた。


「あー、ギルドから依頼の件で来ました」

「声がちっさいんじゃボケェ!!腹から声だんさか!!」


元気な爺さんだな。


「ギルドの依頼で!!」

「煩いわボケェ!!」


どうしろってんだ。


そのあと何度か同じことを繰り返しながらもようやく説明をする事が出来た。

どうやらこの爺さん持病が悪化して思うように仕事が出来なくなってしまったらしい。

それでもギリギリまで一人でやってきたが、種まきの時期を越えてしまいそうなので断腸の思いでギルドに依頼したそうだ。


期限が短かったのはそのせいか。


ちなみに畑を耕すだけでよく、種蒔きはしなくていいそうだ。


「ふん。ギルドの連中もこんなクソガキをよこすとは何を考えておるんだ」


ブツブツ独り言を言ってるつもりなんだろうが、声がデカくて丸聞こえである。

こんな態度を取られたらイラッとしてしまうが、そうはならなかった。

何故ならこの老人が怒っている理由が少し理解してしまったからだろう。


手の汚れ、大事に使われているだろう道具。

目の前の畑に並々ならぬ愛情を注いでおり、そしてそれに誇りを持っている。

土壌を見れば一目瞭然だ。この人は職人なのだ。


そんな爺さんが丹精込めた畑を赤の他人、ましてやどこぞの知らぬ若造が来たなら不安になってしまうのは理解できる。

言葉が汚いのはどうにかしてほしいところだが。


「ッチ。取り敢えず手を見せてみろ。早く、グズグズするな!!」


そう促され、手を見せる。

ジーッと凝視する。


すると近くに保管されてあった鍬を手渡す。


「おい、ガキ。この鍬をもって試しに土を耕して見ろ」


そう促され、畑に出て軽く土を耕す。

ザクザクと5メートル程進んだぐらいで爺さんの方を見ると、嫌そうにしていた態度から真剣な目つきに変わっていた。


うお、ビックリした。


「...........馴染んでいる。全くの素人ってわけではないようだな」


声まで小さくなっている。

何が起きた? 別人に入れ替わったのか。


「今から治療を受けに行くからその間畑を耕しとけよ小僧。あと魔法は使うなよ。使えば肥料にしてやるからな」


と何やら外出用の服装に着替えると出ていこうとする。


「ちょっと待ってくれ、どこまでやればいいんだよ」

「全部に決まっておるじゃろ!! この柵の内側全部じゃ!! 戻ってくるまでサボるんじゃないぞ」


そういうと出ていってしまった。

途中までは本人がやったのか半分以上は終わっている。

それでも柵の内側全部となると結構な広さである。


「昼前に終わるかな」



・・・

・・



思っていたより広く、頑張ってペースを上げたのが裏目に出てしまい昼を越えてしまった。

力を籠めすぎて鍬を握り潰してしまいそうだった。


危なかった。


しかし労働というのはいいものだ。程よい疲労感と達成感が心地よい。

土の香りに、澄み渡る空。

遠くで音楽と歓声が聞こえてこなかったら尚よかったんだがな。


「そういえば昼頃に勇者が来るって言ってたな。まぁ、いいか」


地面にどっかりと座り込み、『収納袋』に入れておいた出店の食べ物と水を飲み休憩する。

のどかな時間がまったりと過ぎていく。

すると遠くから何かを叫ぶ老人の声がする。


「サボるなと言っただろう。ボケが!!」


爺さんだった。


「最近の奴は少し目を離すとすぐに.........」


目に映る光景に最後まで言葉が出てこなかった。


「すぐに仕事を終わらせる働き者だろう? どこかに畑を隠してないなら終わってるよ」


見事に耕された畑がそこにはあった。

耕された畑に歩み寄り土を確認する。


「手を抜いたわけではないようだな。魔法も使っておらん」


使いたくても使えないんだがな。

てか使うとどう変わるんだろう。気になるな。


「何をした。どうしてこんな短時間で終わらせる事が出来た」

「持てる力を総動員して、でしょうかね」


嘘はついてない。

どうすれば効率よく終わらせるか考えて、それに従って若さという力で頑張ったって感じだからな。

次はもっと早く終わらせられる自信もあるぞ。


「ふん。わしに対して皮肉まで言うか..........おい、名前は何だ」


と尋ねる。


「シヒロ。家名は」

「いらん!!」


スッとこちらに手を出してくる。


なんだ金を出せとかか? それともタッチすればいいのか?

と考えていると。


「早くギルドカードを出さんか!! ボケェ!!」

「あ~、はいはい。......どうぞ」


そういって渡すと、先程の教員と同じように何やら操作をする。


「お前だったら、何か仕事を頼む時があるかもしれん」


そう言いギルドカードとポーチを手渡す。

ん? ポーチ?


「追加報酬だ。...........家で採れた物が入っとる。袋ごと持っていけ」


小さな見た目に反して重かった。


「仕事は終わりじゃ!! さっさと帰れ!!」


バタン!! と勢いよくドアを閉める。

口調は相変わらずだが、何かしら気に入られたようだ。


「さて、今できる仕事は終わったし、革を受け取りに行くか」



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