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12話

慨嘆の大森林での修業という名の特訓が終わり、街に戻ってきた。

今は眠っているフレアと一緒に決闘の時間になるまで個室で待機している。


「そろそろなので準備をしていてください」


ドア越しに報告に来る。

眠るフレアの体を軽く揺さぶる。


「おーい、フレア起きろ。そろそろ時間だぞ」


すると電源が入った人形のようにバチッと目を覚ますと、一息で距離を取る。


「っよ! おはよう。よく寝てたな。少しはリフレッシュができたか?」


そう呼びかけると、警戒態勢に入っていたフレアが腰が抜けたように座り込む。


「..........もう、無理よ.........許して.............ごめんなさい」


ひどく怯えている。

まぁ無理もない。慨嘆の大森林での事がよっぽどのトラウマになったようだ。


「大丈夫だぞ。もう終わったんだから」


怯えるフレアにゆっくりと近づく。


「あぁ.........もう、.......殺さないで...........死にたくない」

「落ち着け、フレア。いいか、耳を澄ませてよく聞くんだ。いいな」

「あ............あ..........」

「終わりだ。お・わ・り」

「お........わり?」

虚ろな目で聞き返す。


「そう、おわり。終了したんだ」

「おわり......おわ.........あ、.......あ゛あ゛ああああぁぁぁぁぁ」


泣き始めた。

少しお待ちください。



・・



「なんで時間ギリギリに起こすのよ」


泣き止んだら、また元に戻った。


「ほとんど寝てなかっただろう? だから少しでも寝かせてやろうって気遣いだ。それにしても引っ付いて泣くもんだから服がビシャビシャだぞ」

「泣いてないわ、汗よ。手頃なハンカチがなかったからあなたの服で拭いただけよ」


仮にそうだとしても、失礼すぎるだろう。

少し嫌な顔をする。


「........後で私が洗濯するから、それでいいでしょ」

「普通は詫びの言葉が先だぞ。まったく、それで修行をした感想はどうなんだ?」


フレアの体が小刻みに震えだす。


「............思い出させないでよ。挫けそうになるわ」

「気持ちは分かる」

「でも、少なくとも貴方に出会う前の私よりはマシになったと思うわ」

「謙虚なところに成長が感じられるな」

「冷やかさないでよ」


ムッとして視線を逸らす


「何度も確認して悪いが、あっちの戦い方は向こうで話したことが全部でいいんだよな」

「私が知ってることは全部話したわ。『閃剣』のディタン。中・近距離タイプで慎重な性格。剣筋が速すぎて振り切って初めて切られたことが分かるそうよ。『剣舞』のフィリア=カンザキ。オールレンジで戦える万能タイプ。こちらもあまり好戦的な感じではないけどディタンほど慎重じゃないわ。精霊魔法と剣を使った独特な戦闘方法で舞っているように見える。ギンドラッドの方はレイピアを使う事しか知らないわ。でも、強いってことは間違いないわよ。これが私が知っている事」


聞いた内容を簡略化してるが、齟齬はない。

しかし、情報不足は否めない。

しかもこの情報は、結構知れ渡っているそうだ。

それなら奥の手の一つや二つぐらいはあり、急に戦い方を変えてくる可能性もあるだろう。


よし作戦変更、成り行き任せでいくことにしよう。

中途半端な情報と先入観は己が身を危険にさらす。


ドアをノックする音がし、ドアから先程の人物が声を掛ける。


「時間になりましたので、ついて来てください」


さて、いよいよ決闘が始まる。



・・・

・・




数百人は入れそうな観客席に殆ど人はいなかった。

軽く見渡したが、教師かそれに属する人物がいるだけだ。


こいつの事だから、多くの人に勝ち誇り自慢したいと思うタイプだと思ったんだが、見世物になるのは嫌だと思うタイプだったのかな。


「あなたの事だから、満席になってると思ったけど意外と殊勝な心掛けじゃない」

「.........明日、この街に勇者が来る。本来ならたくさんの民衆の前で貴様等の這いつくばる姿を見せるつもりだったが運がいいな。特にそこの劣人種!! この俺を侮辱したことを骨の髄まで後悔させてやる!!」


特にそんな事は無かった。

それにしても、勇者が来るから人が集まらなかったのか。どうりで戻ってきたとき、人が忙しなく動いてたわけだ。

それにしても、こいつの格好は何だ?

たくさんの装飾品を身に付けて、動くたびにジャラジャラとうるさい。


「ほっほ、いい感じで仕上げてきたようじゃな、フレアちゃん。雰囲気でわかる」

「負けを認めるなら今のうちよ。今回の私は一味違うわよ」

「ほう、それなら腹をくくるか。楽しみじゃ」


すると、キョロキョロと見渡していたフィリアが訊ねる。


「そちらは、どうやら人数が少ないようですが?」

「気にするな。丁度いいハンデだ」

「私達には、友達がいないだけよ」


こいつ、隠したかった悲しい事実を暴露しやがった。

だが、ここにはいないだけであって、友人は1人いるぞ。


「友達じゃないっていうならその男は一体なんだよ。護衛にしたら弱そうな感じだな。彼氏か何かか?」


無粋な事を言ってくる。動揺を誘う気か?


「そんなんじゃないわ」

「そうだ。フレアの協力者としてーーー」

「私の旦那よ」


フレア以外の全員が驚愕する。


いきなり何を言ってるんだ。


「冗談よ」


味方まで動揺させてどうするんだ。


他の連中もみんな驚いて..........いや、あのガキだけ驚くというより怒っている?

いや、嫉妬しているのか? 滅茶苦茶こっちを睨んでいる。

もしかして........フレアに惚れてるのか。


ちらりとフレアの方を見る。


確かに黙っていれば、中々の別嬪さんだし、骨格から見ても将来さらに美人になるだろう。

惚れる理由としては納得できる。


『それでは既定の位置まで下がってください』


頭上から女性の声がする。

魔石を利用した、マイクの様なもので話しているようだ。



案内に従い、両者は離れていく。



◆◇◆



「あのお嬢ちゃん、いい感じに仕上げて来てたな。戦場から帰ってきた騎士の雰囲気が出てたぞ」


そういい、ディタンはボリボリと頬を掻く。


「こちらも本腰を入れないといけませんね」


とフィリアは答える。


「『炎姫』ちゃんも中々頑張ってるようじゃが、儂は最後まであやつの底が見いだせなかったのが恐ろしいのう」


その会話をイライラしながら聞いている者が一人いた。


「そんなにヘラヘラしていて、大丈夫なんだろうな。高い金を払っていることを忘れるなよ。仮に負けたなら、金は払わないからな」


やれやれといった感じで3人は聞き流す。


「わかってるよ。給金に見合った仕事はするさ」

「善処します」

「楽しみじゃ」


そうして開始位置まで到着する。



◆◇◆



「マズいわね」

「なにが?」

「今の私ならだれか一人ぐらい倒せるんじゃないかと思ったんだけど、一矢報いるのにも苦労しそうね」


はぁ。とため息をつく


「それが分かるなら上等だよ。どっかのパレードに出るんじゃないかと思う奴に比べればな」

「パレード? ..........っふふ。確かにそう見えるけど、あれ全部『魔道具』よ」

「魔道具? 宿屋とかについてるシャワーみたいなやつだよな」

「あれを戦闘に特化させたものね。でも私達を相手にするなら力不足は否めないわね」

「そうか。なら問題ないな。さっさと終わらせて飯でも食いに行くか」

「あなたの作ったご飯がいいわ。期待してるわよ」

「そう言ってもらえると嬉しいね」


開始位置に着く。




『両者が開始位置に着きましたので、決闘を開始します。..............始め!!!」



合図と同時にフレアが距離を取り、フィリアとディタンが遠回りに距離を詰める。

狙いはどうやらフレアのようだ。

そして開始位置から動かないアルベルトは、守衛に徹するようだ。

その後ろでアベルが隠れる様に石の様な魔法を使っているが、距離を取っているフレアに悉く潰されている。


そっちがフレアを狙うなら、フレアにたどり着く前にこっちが終わらせる。


一直線に向かおうとすると、2人は急に進路を変えこちらに攻撃を仕掛ける。


挟撃か、本当の狙いはこっちか。


動きに淀みがなく素早い。すぐにでも切り伏せられる距離まで迫る。

避けるため動こうとするが、片足が動かない。どうやら靴を接着されているようだ。

アルベルトと目が合うと、手を軽く振りながらウィンクする。


あの爺さんか。


動かせる足の踵を僅かに浮かせ、強く踏み込む。

すると敷き詰められている石板が、迫りくる二人から守るように直立する。



白墨流大掃除術 『畳返し』



急に進行を邪魔するように石板が起き上がるが、2人とも気にもせずに石板ごと切断しよう剣を振るう。

しかし、分厚い石板のせいか、僅かに剣速が鈍る。

それを見逃さず、2本の剣を摘まむようにして止める。

石板越しでは顔は見えないが、剣を止められたことに驚いたのか剣越しに動揺がありありと感じる。


「フレア!!」


「わかってる!!【フレイム・ヘリックス】!!」


直撃はまずいと考えたのか、2人とも剣を離して回避する。

2本の巨大な炎柱が螺旋を描きながら、すぐ横を通り過ぎる。


石板があるとはいえ、熱いな。


炎柱が消えると直立した石板と接着された石板を蹴り砕き、2人の剣を奪うことに成功した。

奪われた二人は悔しそうな顔でこちらを睨んでいる。


悪いが、敵戦力を削るのは基本だからなっと。


奪い取った剣を地面に突き刺し、蹴り折る。

鈍い重低音と、子気味良い高音が辺りに響く。


折られたことがショックなのか少しの間隙が生じる。

それをフレアは見逃さなかった。


「眼前の一切を灰と成せ【フレイム・ウェイブ】!!」


フレアの前方から巨大な火の波が押し寄せる。


味方ごと焼く気か。


先程の要領で石板を起こし、それを足場に火の津波を跳び越して、フレアの近くへと着地する。


「殺す気か!!」

「あんたなら大丈夫でしょ!!」


ハァ.....ハァ.......と肩で息をしている。

立て続けに大技を繰り出して疲弊しているようだ。


「倒せたかしら?」

「そう願いたいものだな」


火の波が収まる。そこに3人が立っていた。

一人は風を纏い。一人は土の防壁を築き。一人は水の膜を作り、あの攻撃を凌いだようだ。

アベルは、ギンドラッドが作った水の膜で無傷だったが、驚いたのか尻餅をついていた。


「マズいな」


あのジイさんはともかく、あの2人は勝負の範疇を越えてしまったようだ。

端的にいうなら、勝ち負けではなく、生きるか死ぬかの死合になってしまった。


その証拠とでもいうようにどこから出したのか、2人とも新たに剣を持っていた。


風を纏わせた半透明な剣を持つ。フィリア

放電しながら発光する剣を持つ。ディタン

どちらも瞳孔が開き殺気が漏れている。


流石に剣を折ったら怒るか。


「ほ、本気を出したって感じね。どうして襲ってこないのかしら」

「多分だが警戒してるんだろうな。怒りのまま襲ってこないあたり流石だよな」


さて、あの状態でやり合っても勝てるとは思うが、フレアがいるとなれば話は別だ。

フレアを集中して狙われるとどうしても後手に回ってしまう。

長期戦をしても良いが、フレアの体力が持つとは思えない。

一人一人潰していってもいいが、正直面倒だ。

ならば相手が警戒して様子を見ている今のタイミングで超短期決戦に挑むか。


「フレア、今のあいつらにどれ位の時間耐えられる?」

「30秒は持たせて見せるわ」


長くて30秒って所か。

攻めようにも嫌がらせのように牽制される。

憎たらしいが正直あの爺さんに隙はない。

手間取ると先にフレアが潰されてしまう。


さて、どうやってあの爺さんを搔い潜って行けるか.................いや、向こうから出て来てもらえばいいのか。


静かにほくそ笑む

そして大きく息を吸い込む。



「-------、------。」



聞くに堪えない暴言と挑発をアベルにたたきつける。

尻餅をついた状態で、最初はポカンと聞いていたアベルだが、徐々に顔を歪め激怒する。


「劣人種の分際で!!!! この俺を!!!!」


狙い通り挑発に乗り、ギンドラッドの制止を振り切ろうとする。


「あなた、エグイ事するわね」


隣で聞いていたフレアが少し引き気味で答える。


ふむ、ここでダメ押しでもしてみるか


後ろからフレアを抱きすくめ、耳打ちをする。


「それじゃあ、あの2人頼むぞ」

「...............っあ。」


変な声を出すが、了承したと受け取る。


「ブッ殺してやる!!!!!!」


身に付けている全ての装飾が光り輝くと、誰よりも素早い動きでこちらに向かってくる。

流石のギンドラッドも抑える事が出来なかったようだ。

動いたアベルに合わせる様に2人もこちらに向かい全力で攻撃を仕掛ける。


「........っは!さ、させないわよ!!」


体に炎を纏わせて、近づけさせないように魔法と近接攻撃で2人を牽制する。

修行で身に付けた奥の手だ。


アベルは、勢いのまま全力の一撃を振るう。


本来であるならこの一撃は、例えフレアだとしても躱すことも受けることもできない代物で、並の者なら抵抗なく真っ二つにされる代物だ。


だが、その剣先が向かう相手は並ではなかった。


目にもとまらぬ相手に対し、ゆっくりと手を前に出す。

すると、その手に吸い込まれるように顔面に衝突し、アベルの体が回転する。

その衝撃で、身に纏っていた装飾品の半分が砕け散った。


へぇ、この装飾品が肩代わりしてるのかな。

気絶できればよかったのに。


回転の勢いをそのままに地面にたたきつける。

身に付けていた中で一番大きな装飾が粉々になる。

そして有無を言わさず、顔面に拳を叩き込む。

身に付けていたすべての装飾品が壊れる。

受けたダメージを全て吸収しきれなかったのか、アベルは鼻血を出していた。

その顔は、先程までの憤怒を忘れ、完全に恐怖に飲まれ怯えていた。


「や.............やめ」


そして最後に殺気を込め、顔をつぶす勢いで拳を振り上げる。


「まいった!! 俺の負けだ!!」


鼻先ギリギリで拳を止める。


『そこまで!!アベル=エル=キングストンの降参により、フレア=レイ=ブライトネスの勝利とします』


その声に、迫りくる3つの剣先が首筋ギリギリで止まる。


ギンドラッドは追いつき、他二人は、フレアを躱してきたようだ。

後ろで、膝から崩れ落ち、天を仰ぎながら必死に呼吸をするフレアが視界に入る。


「聞こえただろう。あんたらの負けだ。早く剣を収めてくれないか? それともこのまま続きがしたいのか?」


その問いには答えず、3人とも剣を収める。


そして、放心状態のアベルを連れて決闘場から静かに出ていく。


息も絶え絶えなフレアに近づく。


「30秒も持たなかったな」

「こ...........これでも..........が、頑張ったんだから.......はぁ、はぁ、.......褒めてよ」

「30秒持たせてたら褒めてたよ。まぁこれぐらいは出来て当然だな」

「厳しいのね。でもいいわ。今とっても満足だから」


疲れながらも満面の笑顔を見せる。


「本気の彼等に、一矢報いることができたわ。私を倒せなかった。あなたとの修行が活かせたって感じかしら。ありがとう」

「どういたしまして。ほら行くぞ、いつまでもここに居たら迷惑になっちまうぞ」

「動けないのよ。悪いけど運んでくれないかしら」

「世話が焼けるな」


フレアを抱きかかえる。


「六席になれた気分はどうだ?」

「そうね、この高揚感に比べれば、おまけ感は否めないわね」


フフっと小さく笑う。


「首の皮一枚つながったわ。本当にありがとうね」

「もういいって。それより飯はどうする? このまま帰って寝るか?」

「当然食べるわ。とびっきりおいしい料理を期待するわよ」


こうしてフレアは六席となり、明日来るであろう勇者一同が来ても十席の地位から落ちる事は無くなった。


よかった。よかった。


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