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119話


本日は2人マッサージをして店じまいだ。

1人あたりの客単価を高めにしていたので本日の売り上げは上々である。

さらにチップとしてお酒が作れる壺まで頂いた。

最高である。

そして、次の予約も頂いたので次回も2人分の収入を得られることが約束されている。

幸先が良くて心がほくほくする。

ただ、気になる事が一つ。

アゥリスをマッサージをしているときに社会奉仕についての話が出た。

社会奉仕は円満に国宝を得るのに必要な事なので避けて通れないものである。

アゥリスに「比較的に軽めの内容だと嬉しいな」と遠回しな根回しをしていたのだが


「子守だ。........ン゛」


責任重大である。

ましてや子守の相手は、こちらが保護を願い出た獣人の子である。

知らない相手よりかは知っている相手である方が良いだろう、と提案してくれたようだが正直あまり嬉しくはない。

気が進まない理由はいくつかある。

まず、向こうの印象が確実に良くないということ。最初の出会いが悪すぎた。

誰が悪いという事は無いのだが、怯えさせてしまった事に違いはない。

トラウマになっている可能性がある事を考慮すれば、会わない方が良いまである。

次に懐事情もよろしくない。

社会奉仕なので仕方ないかもだが、保証は最低限だ。

より良い環境にしたいのなら4人分を負担しなくてはならない。

決して軽くはない。

先行投資をした後なので重いまである。


そして、なによりも、なによりも.......だ。

一番気が進まない理由は自分自身にある。

思い出したくはないが、とにかく良いことが無かったのだ。

自分にとっても、相手にとっても。


「......」

「どうしたー? 悩み事かー」

「いや、社会奉仕の.......でな」

「子守かー。気にすんな―。環境だけ整えとけば勝手に育つってー。難しく考えるだけ損だぞー」

「と言ってもな」

「大丈夫だってー。完璧を求めるとキリないぞー。それに向こうも求めてないだろうしな―」


まるで経験者の様にふんぞり返ってサムズアップしている。


なんだそりゃ、とちょっと笑えて肩の力が抜けた。

だが確かにわらび餅の言う通り一理ある。

少し慎重というか神経質に考え過ぎていたかもしれない。

これは、子育てではなく子守だ。

長期ベビーシッターの類であると考えればいいか。

それにいざとなれば誰かしらが守ってくれる社会制度もある。

何とかなるだろう。


はぁ。


ポジティブに考えても気乗りはしない事には変わりなかった。

だがここで断れば次に話が来るのがいつになるのか分からないともアゥリスは言ってたな。


「まぁ心構えは良いとして、次はお金だな」


マッサージ屋で足場を固めてからと思っていたが、並行しながらも早めに次へのステップを踏まねばならないようだ。


「おー、どうしたー? 私の出番かー?」


半透明な腕をグルグルと回転させている。


気持ちは有り難いが、わらび餅のお金を稼ぐ方法がちょっと、いや大分ヤバい。

見られれば誤解は必至だし、何かしらの副作用的な危険性がありそうだ。


「いやぁ、ちょっとな」

「わたしじゃダメかー?」


わらび餅が、不満げにジーッとこちらを見つめる。


「お前は最終兵器だ。温存しておきたい」

「なるほどなー。そういう事なら仕方ないかー。んじゃーどうするー?」

「予定を早めて、ギルドから儲けの良さげな依頼を受けようかな。その準備として近々下見とかしようかと思ってるよ」


下見ついでにアーシェから聞いた貴重な食材を確保して準備資金としたい。


「おー、下見かー。湖沼ならいっしょに行けるぞー」


色々役に立ちそうだし同行して欲しくはあるが、残念な事に依頼が多いのは大森林だ。

大森林へ入れないわらび餅との同行は難しい。


「大森林のほうが依頼が多いからそっちに向かうよ」

「りょうかいー。なら、こっちはこっちで用事を済ませとくわー」

「了解」


何の用事をしているのか分からないが、訳が分からない存在であるわらび餅なら大丈夫だろう。


「今から行くのか―?」

「まさか、流石に明日以降かな」

「お店どうするー?」

「まだ本格的なオープンはしてないから大丈夫。今回のはプレオープンみたいなものだから」

「おっけー」


そういう意味では、まだ自由に行動できるタイミングで聞けたのは良かったのかもしれない。


・・・

・・


そして幾日。

大森林へ拠点を作りに行く人たちの荷物運びとして出発。

今回はギルド経由ではなく個人としての指名である。

様々なポーターとしての経験と実績が、指名という形で現れたのは嬉しい限りだ。

同行中に拠点の進捗具合を聞いてみると予想よりも順調のようだ。

勇者が切り開き攻略した大森林が何度かの大暴走で魔物が激減。そして何よりも厄介であったゴブリンが鬼神の襲撃に巻き込まれたことにより激減。

懸念していた問題点が大きく片付いたことにより、さらに早く拠点が出来上がりそうだとの事だ。


それを裏付けるかのように、今日は一度も遭遇することなく目的場所へと到着する事が出来たと喜んでいる。

良い事だが、こちらとしては見慣れた光景である。

ピクニックだ。

良い事ではあるけどね。


さて、順調すぎて戻る部隊と同行するまで大分余裕がある。

軽い下見だけにしようと思ったが、お金になりそうな食糧調達をしてもいいだろう。

狙い目はアーシェに教えて貰った希少な野草やスパイスの原料。

良い具合にこの辺りは試食会の時に探索していた場所に近い。

ちょっと見に行ってみるか。


雑草を切り払うために購入した安価な鉈を振って、意気揚々と向かう。

すると懐かしい木の実を見つけた。


お! 懐かしいな。フレアと一緒に食べたのを思い出す。

あの時のフレアは魔法で火を出して威嚇をしていた。

まるで小動物みたいだったな。


ちょっとほっこりしながら、そのまま視線を上げて空を見上げる。

天を突くような巨大な樹木。

ここからでは天辺が見えない程である。


随分と遠くへ行ったと思っていたが、なんだかんだで戻ってきている。

このままこの辺をうろついていたらフレアに会ったりして。と冗談めいたことを思い浮かべる。


なんてな。


懐かしさに笑みがこぼれる。

久々に作ってみるのもいいか、と木の実に手を伸ばした時に木の枝を掴むように腕がひょっこり出て来た。

木の上に誰かいるのかと考える間もなく、その思考は掻き消される。


な。


木の陰から次々と腕が出てきて木を掴んでいく。

正気を疑いそうになる光景に、咄嗟に鉈を構える。

掴んでいる木が悲鳴を上げるかのように軋み始めると奥からさらに密集した巨大な腕の塊が現れた。

それは遠目で見れば巨大なムカデのように見えるが、全て腕だけで構成されている。

こちらの存在に気が付いたのか腕と指を複雑に動かし、驚くべきことに言葉を発した。


「いた........いた..........見つけた」


逃げる。

当然だ。あんな意味の分からない生物がいたというだけでも充分なのに、言葉を放って明確にこちらを意識してる。

さらに放った声が鳴き声などではなく、意味ある言葉であるならこちらを狙っている事になる。

逃げない理由などない。

巨大な塊がこちらを追ってくる。

走りながら振り返ると、数多の腕を動かしムカデのような動きでこちらへ迫ってくる。

腕で地面を叩きながら物凄いスピードで近づき、取り囲むようにして行く手を遮る。


気色悪い。


大量の腕がこちらを掴まんと一斉に伸びる。

鉈を使って薙ぎ払い、完全に囲まれる前にから脱出を試みる。

腕を切りつけたおかげか、痛みに悶えて動きが鈍い。足代わりの腕を執拗に地面に叩き付けている。

その動きだけで鳥肌が立つ。


まだ完全には囲まれていない。逃げるなら今の内だ。


迫りくる腕を何とか躱し続け、囲いの隙間から飛び出す。

次は囲まれないように木を使って立体的に逃げようと近場の木へ登ろうとした瞬間、強烈な衝撃が体全体を叩いた。

咄嗟に身を引いて威力を殺したが囲いに戻されてしまった。


ゲホっ、ゴホ。


大きく2度咳をする。

衝撃で全身が痺れているが内臓のダメージは少ないようだ。

骨も筋も無事の範疇。

ただ、体を見れば細かい破片のようなものが突き刺さっており血が滴っている。

まるでショットガンに撃たれたかのようだ。


「おいおい、消し飛ぶどころか死んですらねェのか。半信半疑だったがとんでもねェな」


機械音声のような声へと視線を向けると、そこには巨大な潜水服のようなものをきた何かがそこに居た。

フロントガラスは真っ黒で塗りつぶされており中身が見えないようになっている。

だが、それ以上に気になるのはその手元に持っている武器であろう。

それは見たことが無いはずなのにどこか懐かしささえ感じるような重火器のような見た目をしている。

金属製の巨大な杖と言えばいいのか。

筒口のない大砲と言えばいいのか。

気持ちの良いモノではない事は確かだ。


小さく一呼吸する。


それにしても、腕ムカデにはしてやられた。

あの隙間はワザとで、上手い事誘い出されたようだ。

頭が無いのに頭が良い。


腰に下げていた水筒の蓋を取り、軽く叩く。


「余計な事してんじゃねェよ」


2度ほどの大きな衝撃を身に受け、吹き飛ばされる。

そして、ムカデ腕に飲み込まれてしまう。


「よォし。上出来だろう」


潜水服が武器を下ろし、戻る準備をしようとした時にそれは起こった。


「なんだァ?」


腕ムカデが捕獲した箇所を抑え込み、悶え苦しむ様に暴れ出す。


「いだ.......いだぃ」


押さえ込んでいる箇所が徐々に膨らみ大きくなっていく。

よく見れば膨らんでいる箇所は気味が悪く蠢いている。

痛みが増しているのかのたうち回る。


中で何かが暴れているのは明白だ。

それが何なのかなど見なくても分かる。

そいつ姿を見た瞬間にさらに強力なモノを打ち込むため冷静に武器を構える。


限界まで膨み、腕の隙間から何かがこぼれ出た。

それは気味の悪い生き物でヒトデのような見た目をしている。


予想外のモノが出てきたが迷わず打ち込む。

先ほどの爆発とは違い、打った箇所が爆縮していく。

だが、想定よりも威力が出ていない。

すぐさま爆縮は止まった。


「こいつァ。魔力ごと食ってんのか」


食べた魔力をエネルギーにさらに増殖する。

喰われまいと腕の化け物も応戦して握りつぶす。

しかし、潰れた端から分裂し数がさらに増えていく。

増えたものがさらに食べて増えていく。

気が付けば腕の化け物の半分を食べ、このまま指数関数的に増えようとした時に異変が起きる。


ヒトデの化け物から腕が生え始めた。

ゆっくりと動きが鈍くなり、完全な腕となると腕ムカデの一部となった。

だが、そんな事さえ気にせずヒトデの化け物は食うのを止めず、増殖を続ける。

浸食と再生が拮抗した状態となる。


その光景を見ていた潜水服は一つの疑問が浮かんだ。


何故こちらに来ない?


何度かこちらに飛ばされたヒトデはこちらを無視して向こうへと行っている。

向こうの方が美味しそうなのか。それとも。


また飛ばされてきたヒトデを試しに踏みつぶしてみる。

潰れたヒトデは小さなヒトデとなりまた一直線へと向こうへ行った。


「なるほどなァ」


持っていた武器を変換させて一つの小さな箱を作った。

それを捕食に群がるヒトデに向かって放り投げると一瞬にして巨大化し捕食している腕ごと収納した。

その箱の中で暴れる音がしている。


「金属は食えないかァ?」


巨大化していた箱が徐々に小さくなっていく。


「それは魔力でデカくしてんだ。魔力を食えば小さくなるわなぁ」


ドンドンと小さくなり手で持つほどの小ささとなる。


「これで対処は出来たが」


キョロキョロと辺りを索敵する。

今の騒動で食われたとは思えない。

食われたのなら奴の荷物の残っているはずだが、それが一切が無い。

この騒動に乗じて逃げた可能性が高い。


「魔力が無いだけでここまで厄介とはなァ」


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