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117話


初仕事は無事に終了。

気疲れはあったが仕事内容は難しいものはなかった。

むしろ手慣れたものが多い程である。

ただ、やはりというべきか。劣人種と言う事もあって部屋の中に入るなという人が一定数いた。

ちょっと傷ついたが、気にしない人も一定数いたので仕事にはなりそうで助かった。

この辺りは先輩たちと話し合って上手いこと調整しよう。

ひとまず、明日のために早めに宿屋へと戻る。


「おー。おかえりー」


部屋に入ると、わらび餅が一足先にベッドでゴロゴロしていた。


「ただいま.....なんだこりゃ」


部屋の備え付けのテーブルの上には、お金や高価そうなアクセサリーが置かれていた。


「これ、どうしたんだ?」

「知らん人にもらったー」

「そうか」


知らない人に貰うなと思うが、仮にお小遣いだとしてもあまりにも金額が多すぎる。

置いてあるアクセサリーも子供に与える物とは思えないほど精緻である。

貰ったという言葉を信じるなら、これらは盗んだわけではないのだろう。


「お礼言ったか?」

「おうよー。むしろ向こうが言ってたぞー」

「.......そうか。どういう状況だったんだ?」


深く聞きたくないが、知らずに巻き込まれたくはなかったので聞くことにした。


「適当に歩いてたら色んな奴に声かけられてなー。声かけられるたびに付いて行ったんよー。そしたら変な部屋に連れてかれたー」

「誘拐じゃないか」

「そんな悪い感じじゃなかったかなー。それに向こうも楽しいとか、気持ちいいとか、そんなこと言ってたんよー。んでー、色々と良く分からんからこっちから楽しくて気持ちいい感じにしてやったー」

「何したの?」


半透明な手をうにょうにょと変形させる。


「これを耳と鼻に突っ込んだー。そしたらアレくれたー」

「大丈夫なんだよね?」

「ちゃんと元通りにしたから大丈夫ー」


元通りなら.......大丈夫か。大丈夫か?


「知らない人とかに付いてくなよ」

「うぃー。んでやー、価値はわかんないけど、それは多少の補填になりそうかー?」


そう言いテーブルのモノを指さす。


「あー.......変な気を使うなよ。結構順調に行ってるから」

「そうかー。ならいいやなー。それより腕は大丈夫か―?」

「まぁ、何とかなるし、今の所なってるよ」


動かない事には変わりはないが、動きそうな気配はある。

快方はしてるのかな。

変な匂いもしてないし、突然腐り落ちる事は無いだろう。


「りょーかいー。まぁ、そいつも居るしなぁー」


そう指をさした先にはハクシがいた。

またこいつは。

突然現れて、気が付けばそこに居る。

空中をユラユラと泳ぎ動かない腕に絡みつきスヤスヤと眠る。

食って寝ていいご身分である。

重くもないので無理矢理引きはがすことはせずにそのままにしておく。


「必要ないならどうしようかなー。邪魔だし捨てるかー?」

「貰った物だから何とも言えないけど、お金は自分のために使えばいい。飯とか、服とかな」

「めんどいから管理しといてくれー。何か入用なら勝手に使ってくれていいしなー」


断りたいけど、本当に使い方知らなそうなんだよな。

変な賭け事とかに使われてもアレだし、必要になったら渡す形で預かっておくか。

どこかの魔王様を思い出す。


「必要になったら言えよ」

「おうよー」


返事と共に、わらび餅がベッドの反動を利用して起き上がる。


「仕事は難しそうかー?」

「問題ないな。頑張れば部屋も借りれそうだ。その時は引っ越しだな」


仕事も宿も掛け持ちできるならそちらの方が安く上がる。

この宿屋を借りる時も客は取るなと念押しで言われているしな。


「うむー。私もやることさっさと終わらせるわー」

「何かしてるのか?」

「まぁなー。大森林へ入れなかったの反省してやー。ちょっと湖沼で回収中だー」


試食会の時、大森林へ入れなかったのを気にしているようだ。

でも何故湖沼にいってるんだ?

それを聞き出そうとしとするがわらび餅が遮るように言葉を発する。


「早速だけど、さっきのお金でちょっと良いの食べようやー」

「食べに行くのは良いけど」

「日頃の感謝ってやつー。奢らせてくれや―」


そう言われると断りずらい。

手を引かれて部屋を出る。


「あぁー。そのついでじゃないけど1つ意見を聞かせて欲しいんよー」

「なんだ?」

「例えばなー。試食会で鍋料理とかあったよなー」

「あったな」

「あの鍋料理がやー。高級な食材をふんだんに使って、さらに手間暇かけた至高の逸品だったするなー」

「はいはい」

「それが何かの拍子で台無しになったと仮定するなー」


悲しいな


「うん」

「そんな逸品を作った奴が一向に現れないのはなんでだと思うー?」

「知らなかったんじゃないか?」

「んー知ってはいるはずー」


それだと、なんだろう。

んー、言葉の意味や裏があるのか考えてみる。


「難しく考えずに素直で頼むー。他と感覚がズレてるの知ってるから意見が欲しいんよー」

「んー、それなら単純に優先順位が高い方に行ってるかだろうな」

「鍋を放っておいてかー?」

「例えで言ってた試食会とかなら、肉片が突如として降ってきたとかあっただろう。それに似たような何か突拍子もない事が近くに起きたとか。あとは、それに構っていられないような命にかかわるような事が起きたら鍋に構ってる暇はないだろ?」

「なるほどなー。そんな感じかー」

「なんかあったのか?」

「んー、何も無いやなー」


あまりにも何もない。起きていない。

だからこそ違和感を覚えていた。


「んじゃ、いいけど」

「ご飯食べようー。今日は濃いめで重いのが良いやなー」



・・・

・・



年下に見えるわらび餅に奢ってもらうのは複雑な気持ちだったが、それでもご飯は美味しかった。

一足先にわらび餅はスヤスヤと寝ている。

こちらは日課であるアーシェと会話をする。

ブヨブヨする仮面を取り出しアーシェとの交信を試みる。


「おーい、起きてるかー?」

『はい!!年中無休のアーシェです!! 今日もお声頂きありがとうございます!』


元気一杯である。


「あいよ。昨日は何話したっけ? ショートカットしようとして失敗したんだっけ?」 

『はい! これ以上シヒロ様を待たせないようにショートカットのためにワイバーンの背中に乗りました。しかし最初こそ良かったのですが、途中で明後日の方向へ行ってしまい失敗してしまいました。急がば回れとはこの事ですね! 何とか地上へ降りましたが見渡せば地平線。膝から崩れ落ちましたよ』


話しからすると、だいぶ遠くへと離れてしまったようだ。


「どのあたりか分かりそうか」

『心当たりはあります! この何もない感じは憤懣の焦土ですね! もうしばしお待ちください!』

「水とか食糧とか大丈夫そうか?」

『その辺は抜かりなく! 道中で拝借したのがありますし、そもそも飲み食いしなくても死にません!』


死ななくても辛いでしょうよ。


『ですが今丁度、街影を確認できました! このまま様子を見に行きたいと思います!』

「気を付けてな」

『はい! お気遣いありがとうございます!!』

「あ、そういえば昨日言いかけた面白い噂話って何だったんだ?」

『おっと! 私としたことがうっかりしてました。あくまでも噂なのですが現地人。つまりここの世界の住人が魔王を単騎で打ち取ったみたいです。転生でも転移でもないのになかなか骨太な奴がいるもんですね。そういえば話では焦土だと言ってたので聞き込みでもしてみましょう!』

「危なくないようにな。それにしても魔王討伐か。勇者とか凄い奴がなんとか倒せる奴なんだろ? 凄いな」

『まぁ、魔王もピンキリですからね。数と質が揃えば現地人でもいけると思います。ただ単騎ってところが凄いですね!』

「それならこっちでは祭り騒ぎになるな。景気のいい話になりそうだ」

『確かにですね! ただ伝わるのには少し時間はかかるとは思います。人里まで物理的に距離があるので.......ん? でもそうなると討伐した人間は何処から来たんでしょうね。唯一通過できるのは大森林からなので、だいぶ距離がありますし』

「そんな魔法とかスキルがあるんじゃないのか?」

『ある、と言えばありますか。そんな無茶が出来るのは勇者クラスの話になってしまいますが』


勇者か。湖沼に飛ばされたのも勇者が原因だったか。

こっちと同じく巻き添えで飛ばされた人だったりして。


『シヒロ様のほうはいかがですか。お変わりはありませんか?』

「こっちはマッサージ屋をすることにしたよ。ある程度資金が貯まるまではな」

『エッチなやつですか?』

「エッチやつではない」



◇◆◇



多少不利な取引ではあったが、鬼神を動かしたのは正解であった。

おかげで確信に至る事が出来た。

確かに私が観測できないナニかがいる。

気が付けたのは、そこにあるはずのない湖沼の一部を探知できたからだ。

問題となっていた要の破壊とその近くにある国での探知。

結びつけるなという方が無茶だ。

さらに反応が動いている事を鑑みるに、誰かが破壊した後に一部を採取して持ち歩いていると考えていいだろう。

何故そんなことをしているかは分からないが死体として回収した時にでも確認すればいい。

わたしが直々に向かいたいが多大な影響が出る恐れがある。

それに何が切っ掛けで私に気が付き、逃げられてしまえば再び見つけるのは至難であろう。

逃げられないように確実性を高めたい。

そのための準備が必要だ。

気が付かれないように遠くから静かに、ゆっくりと、囲うようにして確実に。


時間はかかっても逃がさない事が肝心だ。


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