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112話


瓦礫を掻き分けのっそりと起きる。

動けるまでジッとしているつもりが少し寝ていたようだ。

爆音と警報音が鳴っている中、それも瓦礫で半生き埋め状態でだ。自分はこんなに図太かったのかと呆れてしまう。

良く生きていたものだ。


「あらら」


周りを見渡して愕然とする。

街並みが少し変わっている。

半壊している建物がチラホラと見え、外壁もなぜか高くなっている。

空には薄い膜のようなものが張っていて、何というか防衛戦と言った感じだ。

外で戦争でもしているのだろうか。


「おっと」


爆発音とともに外壁の一部が崩れ落ちるが、崩れた外壁が素早く逆再生のように元に戻る。

まぁ、十中八九そうだろうな。


嫌だねぇ。


逃げたくなるが、四方から絶え間なく戦闘音が聞こえているので囲まれているのだろう。

現状、逃げるのは無理そうか。


立ち上がり体を軽くほぐすように動きを確かめる。


ゴムで関節を締め付けているかのような鈍い感覚。まぁ、痛みはなく動かせるのでマシとは言える。

しかし、変わらず左腕は動かない。


「それにしても誰も来ないな」


一応、賓客の扱いなんだけどな。

部屋を壊されたのだから様子を伺いに来てもいいのに。

でも埋もれてたから見つからなかったのかな。


「あ。そういえば、わらび餅はどこ行った?」


周りの瓦礫を軽く取っ払って辺りを確認するが見当たらない。

すぐに探せなかったから迷子になっているかもしれない。

探してやるか。

いるとは思えないが声を掛けながら周辺を探してみる事にする。


「おーい、わらびもちー」


返事は聞こえない。

それどころかこの辺りには人の気配すらない。

避難しているのかもしれない。

もしかしたらわらび餅も避難しているかもしれないが声は掛け続ける。


「おーい。わらびもちー」


何度か声を掛けていると、目の前に人が現れた。


「おい! おまえ! まだいたのか! 早く来い!」


知らない女性がこちらへ手招きしている。

その手招きに応じて近づく。


「なにしてるんだ! 避難警報が出ていただろう。早くいくぞ。避難所へ案内する」


促されるままついて行く。

避難所について聞いてみる。

この辺りの人達は向かう避難所に集まっているようだ。それならば、わらび餅がいる可能性も高い。


「先程まで気を失っていて.......何があったんですか?」


部屋を吹っ飛ばされた原因と寝てる間に何があったのか聞いてみる。


「鬼神の軍勢が襲い掛かってきた。今交戦中だ」

「......なるほど」


なるほど。

なるほど。なるほど。

うーん。まさかとは思うけど、試食会の時に襲い掛かってきた奴の足を穴だらけにした報復行動で来たとかはないよな。

さすがに無いか。考え過ぎか。


.........。


......えー、やっぱりありえそう。


しばしの沈黙が不安を煽ってしまったと思ったのか、色々と話しかけてくれる。


「不安に感じるだろうがこちらには多くの応援が来ている。すぐに良くなるさ。ここの国王が門戸を広げたおかげで持ち直すのは容易い」


迅速だな。

さすが王様。


「オオトリからも応援も順次来ているぞ。落ち着いて避難してくれればいい」

「ありがとうございます」


あー。

色々なダンジョンへ行ける獣人の国。

勇者に吹っ飛ばされたせいであんまりいい思い出はないところだが、食べるのには困らなかったところでもある。

まぁ、色々差し引き考えても、機会があれば行きたいところである。量が多くて美味しいところが沢山あるので全メニュー制覇したい。


「それにしてもシトゥン国には珍しく......その、普通の人が居るな」

「そうですか? 普通の人は結構見かけましたよ。それに貴女もそうだと思いますが」

「私はここには応援で来たんだ。先程言っていたオオトリからな」

「それはお疲れ様です。軍関係者ですか」

「.....緊張感が無いな。慌てられるよりもだいぶいいが。軍関係者ではない。冒険者ギルドだ。『蒼花』という名を聞いた事は無いか?」

「おぉ、あの有名な。それは心強いですね」


嘘である。

正直に言えばちょっとゲンナリしている。

この人自体は悪い人ではないのだろうが、向こうではこちらの事は悪い意味で伝わっている。

悲しい価値観のすれ違いであるのは分かっているが、こちらとしては良い気はしていない。


「任せておけ! すぐに終わらせる」

「ありがとうございます」


良い人そうなんだけどな。

こっちの事を知ったらどうなるのだろうか。やっぱり豹変するんだろうか。

可能な限り印象に残らずやり過ごしたい。


「ここを抜けてまっすぐ行けば避難所だ。ついたら中の人の指示に従うんだぞ」

「はい」


バチッと空が光った。


「なんだ?」


頭上に覆いかぶさるような薄い膜に稲光が走る。

それはある一点に向かい集中して走っている。

目に悪いが目を凝らす。

稲光の中心に小さな点のような黒いモノが見える。

それが少しづつ大きくなり、何かがこちらに向かってきている。

激しい光がピタリと止まると、それは隕石の様に地面へと激突した。


「ぶあぁ! ぅえあー!」


奇声と共に全身黒焦げの巨人が現れた。


「こ、こいつは」


防具であったものも、武器であったものも、全てがボロボロだ。

その容貌も元の姿が想像できない程に焦げている。しかし頭に生えた角だけが、それがなんであるのかを分からせた。


「オーガか」


こんな姿になっても仲間の報復へ来たのだろうか。

気合入ってるなぁ。

だがなぜここにいると分かったのだろうか。偶然か?


案内してくれている女性が、素早く胸にぶら下がっている笛のようなものをくわえて一息で吹く。

高音と低音が合わさり何とも不愉快な音が周りに響く。


「早く行け!」


どうやら足止めをしてくれるようだ。

相手はボロボロだし、先ほどの笛で応援が来ることを加味すれば、ここで反論して時間を浪費するのは憚れる。

お言葉に甘えて避難所へ向かわせてもらおう。


先程聞いた道順を駆け抜ける。


すぐに避難所らしきものは見つけることが出来たが......慌てて方向転換して物陰に隠れた。

入れない。

応援として向かおうとしている『蒼花』の人達が集まっている。

その中でも見覚えのある人が居た。

以前死にかけていた人達で、心臓マッサージをした人とこちらに注射器をぶっ刺した人だ。

見つかれば何よりも優先してこちらに斬りかかってきそうだ。


どうすべきか。


さっさと応援に行ってくれればその隙に避難所へ行けるのだが。

やきもきしていると、先程の女性が身に着けていた装備もろとも激しくバウンドしながら真横を横切った。


えー。


辺り一面に壊れた防具の欠片や、剣や槍とかが散らばっている。

そんな事は意に返さず後を追うようにオーガが姿を現す。

黒こげの体がかさぶたの様に剥がれ落ち、その下からは瑞々しい皮膚が現れている。

明確に回復している。

それも物凄い速さで。


集まっていた人たちが警戒して迎撃の準備に入っている。

隙をついて避難所に入るチャンスではあるのだが、これは避難所に行っていいのだろうか。

避難しても避難所そのものが無くなるかもしれない。


まいったな。


逃げるにしてはオーガが絶妙の場所にいる。

応援として手伝うにしても背中を斬りかかれそうだ。

様子を伺いながらもどうすべきか考えていると、オーガがボロボロの武器を放り投げる。

途中の建物を貫通し避難所に直撃した。


これはダメだと逃げる事にシフトしようとした時、避難所から子供の悲鳴が聞こえた。

見えない糸に絡まったように心が締め付けられる。

オーガがいる方向へ自然と睨みつける。

これはダメだと大きく呼吸を入れ、ゆっくりと目を閉じて再び大きく深く呼吸する。


ふぅ。


落ち着いた頭で考えて、自分と妥協できるポイント模索した結果。

バレないように影ながら助力する事にした。



◇◆◇



オーガが歩みを進める。

進めた歩の後ろには道標のように黒い焦げの破片が散らばる。

バランスを崩したかのような歩みだったが、徐々に歩みが軽快になっている。

先ほど吹き飛ばした女の方へと歩みを進める。


弱い相手をいたぶるためではない。

それも嫌いではないが戦鬼の眷属としての本能か、その方向に心躍るような素敵な事が待っている気がした。


道を抜けたその先にこちらに敵意を向けて一斉に魔法が襲い掛かる。

それを見たオーガは両腕を大きく広げ、一つの魔法も躱すことなく全て受けきる。


「はぁ、悪くない」


先ほどの奇声のような声ではなく、明確に言葉として発する。

そして頬を裂くかのように口角を上げ、その歯列を覗かせる。


「怯むな!! 迎え撃て! 魔法で足止めをするんだ!」


指揮を執る者が声を響かせ、魔法の波状攻撃がオーガ目掛けて放たれる。

それを全て受けきるオーガ。

炭化した皮膚ごとはじけ飛び、血が滴り、肉があらわになる。

それでも一切避けず、躱さず、全て受け止める。


魔法を打っていた後衛に緊張が走る。

しかし、魔法との連携で前に出ていた前衛は一切の躊躇を示さず斬りつけ、突き刺し、叩き潰す。


「ッ! かたッ!」


だが、どれもこれもが浅かった。

手応えが生物のそれではない。

全力の一撃故、防がれたときの隙は大きい。

動きの止まった前衛に決死の一撃が振り下ろされる。


「ぐっ」


オーガは堪えるような声をあげると決死の攻撃を無理矢理捻じ曲げた。

その隙をつき全員が無傷で離脱することに成功する。


「あぶなぁ」

「死ぬかと思った」


一先ず安全圏に戻ると同じく魔法の波状攻撃を仕掛ける。

今度はオーガは受け止めるような仕草はせず、全力で防御の態勢に入る。


「今だ!!」


魔法の切れ目に槍を持った4人が建物の上から飛び降り、オーガの頭上から突き刺した。


「ぬぅ」


呻き声と共に膝をつく。

先ほどとは違い明確に効果があった。

槍が()()突き刺さっている。


「このまま針山にしてしまえ!!」


弾丸のような矢と、魔法が息を付かせぬまま襲い掛かる。

そして前衛がその間を縫うように強襲する。

すさまじいほどの練度。

しかし、オーガも学習している。

タイミングを見計らい拳を振るうが、突如として体が泳ぎ明後日の方へと拳を振るう。

奇しくもカウンターの形となり深々と鉄槌を受けてしまう。


「痒いわ!!!」


周りの雑多を薙ぎ払うかのように腕を振り、大きく重心を落とし一気に駆ける。

魔法も矢も近接すらも脅威ではない。

その合間に紛れるかのように命に届く一撃が襲い掛かってくる。

あらゆる攻撃がそれを隠すための目眩しのようだ。


オーガの結論はその目眩しを潰していけば本命に当たるだろう。

だからこそ目の前に広がる後衛を狙った。


「壁を作れ!! 弾き飛ばせ!!」


アイツらを狙えば

駆ける足に深々と剣が突き刺さる。

バランスを崩して大きく転ぶが、狙った通りだ。

何処に居るかあぶり出す事が出来た。


素早く受け身を取り態勢を整える。

あぁ、弱者を蹂躙するのも悪くはない。

しかし、身を焦がしそこから震えるような喜びに勝るものはない。

強者と戦い打ち勝ったその瞬間こそが、何よりも酔える最高の美酒である。


「見つけたぞ!!」


その相手がいる方向へ大きく吠えた!

感じる。

冷ややかでありながら、体中が痺れるようにビリビリとひり付いている。

最高の一戦が出来そうだ。


「かかってこい!!」


声の大きさだけで建物が揺れている。

建物の一部が崩れ落ちる。


「そうだな。まぁ、見つかったうえに、そう言ってくれるなら、かかっていこうか」


白い影がオーガの頭上に立つ。


「何者だ? 列に並べ後で相手してやる」

「ここが最前列だ。そして最終後尾だ」


巨大な雷がオーガを襲う。


「何者か答えてなかったな。『蒼花』リーダーのラーサットだ。覚えられないだろうがね」


空気を裂く様な雷の破裂音が響く。


「流石のオーガもこんだけ金属刺さられて電位流されれば内臓が焼けるでしょ」


オーガの口や鼻、耳から湯気の様な煙が噴き出す。


「お疲れさん。みんな来るまでよく耐えきった。値千金の時間稼ぎだったよ」


そう言うと、オーガに一番深く刺さっている槍を握りしめる。

そして全力の魔法を叩き付ける。

オーガの体が大きく仰け反るとそのまま地面に突っ伏した。

もう起き上がる事は無いだろう。


「よっし! 私達の勝ちだ! 今日はまとめて全員で寝るぞ!!」


オーガが見つめていた先にいた人物が薄暗がりからそれを見ていた。

狙ってたつもりだったが、どれもがギリギリで急所をさけていた。

うちの囮が優秀で上手い事いけた。

もっと被害が出ると思っていたが軽微で済んでいる。


これな避難所も大丈夫だろう。


薄暗がりから紛れる様にその場を後にした。



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