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108話

少しほのぼの回です。


◇◆◇シトゥン国領地 慨嘆の大森林方面


ホクホクと大量の食材を確保して大森林から出て来る。

欲を言えば、もう少し長く探索して色々と確保したかったが日が傾いてきたのでやむなく断念。

試食用の料理時間を考えればこの位が妥当だろう。

それに次回以降の楽しみが残っていると思えば問題なし。


「おー! おかえりー。早かったなー」

「ただいま。お目当ての食材を確保してきたぞ!」

「よっしゃー!」


わらび餅が全力の万歳をしている。

本当ならここではなく設備が整ったシトゥン国に戻って試食会をしたかったのだが。


「一緒に行きたかったなー」

「入れなかったんだから仕方ないだろ。その代わりここでするんだろ」

「まーなー」


一番ノリノリだったわらび餅が、いざ大森林に行こうとした時に見えない壁に阻まれた。

傍から見ればパントマイムをしているようで面白くはあったが、不貞腐れてしまったわらび餅を慰めるためにこの場で開催するとで納得してもらった。


「おー、結構本格的に作ってくれたんだな」


キャンプのような小さな炊き場を想像していたのだが、手洗い場に(かまど)、井戸かと思ったら土中に埋まっている大きなタンドールまである。

予想よりも立派なものが出来ている。


「本格的だな。大変だったんじゃないか?」

「んー。別に大変じゃなかったぞー。むしろちょっと暇だったー」

「え、そうなの?」


確認するように留守番をしてくれた獣人に目配せをする。

全員が静かにうなずいた。

そうか。魔法か。

そろそろ魔法に慣れてきたと思ったが、まだまだこちらの常識に引っ張られているようだ。

魔法は本当に何でもありだな。


「あの、シヒロ様。我々も頂いていいと言う話だったのですが」

「あぁ、それは勿論。遠慮せずに。情報に運搬とか色々手伝ってもらったんですから。感想とかいただけると有難いですね」

「それは、こちらも嬉しい限りなのですが」


言葉に詰まっている。

なんだろうか。気が引けるのだろうか。


「我々含めて9名ですが、その......少し食材が多いとお思うのですが」

「あぁ、大丈夫です。私が良く食べるので」

「そう......なんですか。分かりました」


何やら言い淀んでいるが、何を言いたいのかは分かる。

こう見えて結構食べるのだ。


「食材調達楽しかったか―?」

「それは楽しかったけど、また今度の機会な。機嫌直して一緒に食べるぞ」

「忌々しいー。まぁーご飯は一緒に食べるからいいやなー」

「味は期待するなよ」

「嫌ー、期待するー」


そう言われてしまったのなら少し頑張らなければならないな。

獣人の人に運んでもらった調理器具セットして火を付け湯を沸かす。

沸かせている間に食材の下準備を整える。

可食部とそうで無いところを切り分けていく。


全員がマジマジと手元を見てくる。

悪い気はしないのだが照れるので距離を取って欲しい。

あと、わらび餅は切っただけのモノをつまみ食いをするな。


わらび餅からの妨害をいなしつつ、ひとまずシンプルに煮る炒める揚げる蒸すなど全ての食材を一通り試して見る。

んー、なるほど。

おおよその食材の特徴がつかめてきた。


「んあー」


ひな鳥みたいに口を開けて待っている。


「まだ早い」


それでも口を開けて待っているので切端を口に放り込んでおく。

せっかくなので護衛の獣人にも味見をしてもらおう。意見のサンプルは多い方が良い。

結果は賛否両論。

思いがけず美味しいのもあれば、いまいちなモノもあった。

何よりも匂いが気になるようだ。


「苦手ですかね。少し香りがうるさいと言えばいいのでしょうか」


個人的にはあまり気にはならなかったが鼻が利く分だけ気になるのかもしれない。

貴重な意見を参考にしつつ、食材の特性も分かってきたので本格的に試食会のための料理に取り掛かる。


今回は器具が整っている事とモチベーションが上がったので3種類作る予定だ。

メインとなる食材は、大森林で確保したダチョウのような生き物と、無限に分裂して増える貴重な食材ガミガミ、そして、わらび餅が取り出したる魚である。

まぁ、どれも火を通せば大丈夫だろう。


「何かお手伝いしましょうか」

「現状は大丈夫です。何かあればお手伝いお願いします」

「承知しました」


素直に聞いてくれるのは嬉しい限りである。


さて、時間がかかる物を作る予定なので手早く調理に掛かろう。

血抜きをした鳥を逆さまにつるし羽が付いたまま熱湯をかける。

軽く霜降り状態になったら一気に羽をむしる。

そして頭と足を切り落とし内臓を抜いて丸鳥にしていく。


「手際いいなー」

「おうよ。ありがとう」


内と外側に軽く塩を揉みこみ下味をつけ、持ってきた穀物と大森林で採れた野菜を詰めて紐で縛り封をする。

そして皮に香草を突き刺して油を塗る。


「良い出来上がりになりそうだ」

「おー」


メラメラと燃えるタンドールの中に丸鳥を吊るして蓋をする。

蓋の隙間を粘土で塞いで密閉する。

密閉されるので火はゆっくりと消えるが、その代わり余熱でジックリと火が通る。

時間はかかるがビックリするぐらい柔らかく仕上がっているはずだ。


その間に別の料理に取り掛かる。


腰につけていた水筒の蓋を外して軽くノックする。

すると水筒の中から緩慢な動きで、とある生物が這い出て来る。

見た目は大きなヒトデのような生物であるが、非常に凶暴で金属以外は何でも食べるガミガミだ。


「うえぇーヤバいもの持っているなー。毎度思うけんだけどやー、どういう経緯でそういうのを拾ってくんだー」

「色々あるんだよ」


アーシェから食べれると聞いたので持ってきたが、案外というかかなり使い勝手がいい。

何でも食べて増えるので食糧問題に大きく貢献してくれてる有難い生き物だ。

(たてまつ)ってもいいんじゃないかと思うほどだ。

だが最初はやたらめったに噛みついてきた。

しかし噛みついても無駄だと悟ったのか、今では無駄に噛みついてこず合図をすれば自ら出てきて言う事を聞いてくれるまでにはなっている。


「ほらお食べ」


先ほど毟った羽と切り落とした頭と足、内臓をガミガミに与える。

モリモリ食べる姿は見ていて気持ちいい。

ある程度食べ進めると小さく震えだし分裂する。

分裂して生まれたばかりのガミガミは危険だ。

最初の時のガミガミに戻ったかのように噛みついてくる。

特性上あわてて切ったり潰したりすると肉片から小さなガミガミとなって再生される。

逃げられると大変な事になるのでその辺は気をつけねばならない。


分裂して飛び掛かるガミガミを素早く捕獲して鉄板を口へと突っ込む。

そして無理矢理噛ませた状態で一気に引き抜く。

こうして歯を抜くと分裂することも暴れる事もなくなるので安全に調理することが出来る。

これを何度か同じ要領で食肉として加工していく。

必要分が揃った段階で大人しいオリジナルを水筒へと戻す。

分裂後もこれぐらい大人しいのなら有難いのだが。

ふと視線が集まっているのに気が付く。

なんか刺々(とげとげ)しい。


「なに?」

「べつにー。なぁ?」

「え、あ、はい」


わらび餅と獣人達の遠回しの訴えが伝わってくるようだ。

確かに見た目は気味が悪いが、結構クセがなくて美味しいんだよ。

ひとまず粗みじんにしていく。

こうすれば他の肉と見た目は変わらなくなる。

まぁ、食べて貰えればその美味しさを分かってもらえるだろう。


「これで何作るんだ―?」

「んー、餃子? かな」

「なんだそれー」

「まぁ、見てたらわかる」


大森林で手に入れた食材を取り出す。

事前に獣人の人に教えて貰った貴重な食材でもある。

見た目は自然薯によく似ている。

美味しい食べ方は獣人の方が教えていただけるので従う。


「基本的に何をしても美味しいのですが代表的な方を教えます。まずは厚めに皮をむいてください。そしてそれを厚めに切って火が通るまで茹でます」


教えて貰った通りに手順を進める。

皮をむき中まで火が通るまで茹で、それを裏ごしする。

裏ごししたものを油を回し入れながら練っていく。

すると少しずつだが粘り気が出て来る。

ここからはさらに力強く一気に捏ねていくと徐々に固まり、やがては柔らかい生地のようなものが出来上がる。

ここから焼けば高級なパンになるようだ。


「力がいる重労働なのですが流石ですね。早いです」

「これが餃子か?」

「これは皮。これでさっきの肉を包むんだよ」


生地がくっつかないように油で馴染ませながら薄く延ばし、餃子の皮の厚さまで伸ばしていく。

本来なら丸い生地にしていくのだが、面倒なので大きく伸ばし正方形の形へ切っていく方向にする。


「なんか知らないけど凄そうだな―」

「手際が良いですね。見てて楽しいです」


そう?

そう言ってもらえると嬉しいものだ。


しかし、んー。皮の感じが餃子には向いていない気がする。

よし予定変更。

ラビオリを参考に作っていくことにする。


一度切った皮を乾燥させないように固く絞った濡れ布巾で包んでおく。


そしてミンチにしたガミガミの肉に塩と細かく刻んだ多種多少な香草、匂い消しに酒を少々入れる。

粘りが出るほど混ぜ合わせたら、具材の完成だ。

これを先程の皮を挟み込むようにして、端をフォークで押し潰していくように作っていく。

割と数があるのでみんなに手伝ってもらおう。


やり方を教えてサンプルいくつか作り実践させてみる。

初めは不格好ではあったが数をこなしていくうちに綺麗に成型が出来ている。

微妙に個性が出ているのが面白い。


うんうん。と頷きながら別の調理台へと向かう。


あれは向こうは任せて、こちらは最後の品を作っていこう。

取り出したるはわらび餅が出した謎の魚。

見た目は楕円形の形をしているが全体的に皺くちゃだ。そして結構大きい。

何に近い生き物かと言われればアンコウであろうか。

なので、先程鳥で捌くのに使ったものを利用して吊るして切り分けていくことにする。


皮は意外に薄く、身は白い。

匂いも変わった感じがしないのでよさそうだ。

骨の形状に苦戦されつつも身がボロボロになっていないので上手く行けたほうだろう。

一応、フグのように毒を持っていないか収納袋で試す。


問題なし。


捌いたはいいがどうするか。

鳥は焼いて、ガミガミも焼いてだ。アンコウに似ているから雰囲気を変える意味も込めて鍋で行こう。


鍋に魚の骨と野菜の切れ端、香草の余ったものを鍋にぶち込み出汁を作っていく。

肉や内臓は食べやすいように切り分けお湯をくぐらせ霜降りにする。

取り出した肝は軽く潰して乾煎りで炒め、ある程度水分が取れたらツァッカという調味料で合わせる。

味としてはトウモロコシの香りのする味噌だ。

甘い香りと優しい味がする。


合わせたものをゆっくりジックリと弱火で火を通す。

焦げないように慎重に。

そしてタイミングを見て骨でとった出汁をこの味噌の中に入れるて鍋のベースが出来上がる。

良い香りだ。

香りだけでご飯が食べられそうだ。

ご飯ないけど。


「おー、うまそーな香り―」

「美味しそうですね。試食は何から食べたいですか」

「私はなー鳥行っての鍋で......いやー悩むなー」


同じ作業をしているおかげか仲良くなっている。


.....こっちも仕上げていくか。


下処理した魚と食べやすく切った野菜を鍋に入れて火をかける。

あとは待つのみ。


「できたぞー」

「終わりました」

「あいよ。こっちも一通り終わり。次はそっちを仕上げていこうか」


代わりに鍋を見て貰いながら焼いていく。

こちらも良い具合に焼けて来た。

焼けた端からドンドン皿に盛っていく。

盛り付けは考えない。


フワリと焼きの香りにも負けない香りが鍋の方から漂ってくる。


「鍋もよさそうです」

「分かりました。持ってきてください」


簡易のテーブルに2品の料理が並ぶ。


「鳥はどうするー?」

「もう少し時間かけたいから先にこっち食べようか」

「うぃー」


まずは餃子もどきから。

見た目からしてイタリア風中華料理といった感じだ。

まずは一口。

程よい焼き目とぱりぱりとした食感。

少し癖の強い香草が良い仕事をしている。


餃子やラビオリというよりは具入りのパン。

エンパナーダに近い気がする。

美味い。


「香りは結構好きですね」

「面白い感じはありますが、もう少し肉の食感があってもいいかもしれないです」


どうやら香りのほかに食感も美味しさを感じるポイントのようだ。

ミンチ系はあまり受けが良くないようだ。

まぁ、それでも物珍しさから食べてくれている。


しかし、騒がしかったわらび餅が静かだ。

視線をやると難しい顔をしている。


「口に合わなかったか?」

「んー、見てくれー」


そういって舌を出す。

半透明な舌をべッと突き出す。


「? 半透明だな」

「んなー。だからそうなんだよー。ちょっとそっちの舌も見せてー」


良く分からんがべッと舌を出す。


「見えない―」


仕方ないのでしゃがんで見せる。

何なんだ?

マジマジと観察した後、チュッと舌を吸われた。


「ぺっ。何すんだ」

「んはー、ちょっと真似ただけー。照れるなよー」


そう言って舌を出す。

半透明だった舌が赤い舌になっている。


「さてさてー」


そういって料理を頬張る!


「うまうまー! 味がいまいちわからんかったから助かる―」


わしわし頬張りにこやかに笑っている。

理由が理由だし、今回だけは見逃してやろう。

こちらも負けじと食べ進め、皿が空いたタイミングで次の料理の試食に取り掛かる。


この料理には獣人方も気になっていたようで反応が良い。

蓋を開けると湯気と共に濃厚な香りが辺りを包む。


「良い香りです」

「へいー! 注いでくれー」


茶碗を掲げて催促するわらび餅。

それを受け取り鍋を取り分けようとした時、大森林のほうで何か破裂音に近い音が遠くから聞こえた。

獣人達にも聞こえたようで一斉に同じ方向を見る。

何か黒いものが沢山空に向かって飛んでいる。

破裂音に驚いた鳥か何かかと思ったそれは、空中で小さく分離してこちらに向かってきている。

鳥ではない。

大きさも形も不規則で、もっと無機物に近いような動きだ。

飛んだというよりも吹き飛ばされたような.......


近づいてくるそれに目を凝らしてようやく分かった。


「伏せろ!!」


鍋をテーブルの下に避難させ、わらび餅を抱きかかえる。

火山弾や巨大な雹が降ってきたような音が辺り一面に鳴り響く。

ただ、降ってきたものは自然災害のそれではない。


血と骨、肉と臓物の雨だった。


「最悪」


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