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105話

◇◆◇ 客室


王様のサプライズ面談により疲弊しながらも客室へと戻ってきた。

中へ入ると、わらび餅が収納袋をぐりぐりと踏んでいる。

精神面の疲労が増していくのが分かる。


「何してるの」

「おー。終わったかー。こっちはアップデートは終わってるなー」


そういって収納袋から足を離し、乱暴に掴んでこちらへ渡す。


「あんまり乱暴に扱わないでくれるか」

「大丈夫ー。必要な事だ―。それより効果はばっちりだったろー? 効果範囲とかもだいぶ伸びたー。やれることはしたー」


そういえば、収納袋がなくても普通に話せてたな。

ていうか、そもそもがどれぐらい離れてても効果があるのだろうか。

魔王様に盗られたときはさすがに効果は無かったが......まぁ大事に持ってればいいか。


「ぎぃ!」


ハクシが空中を泳ぐように近づき、頭の上に乗る。

あれ? またなんか大きくなってる気がする。


ペシペシと肩を叩いて仕事をしたから誉めろと催促される。

一先ず顎下の髭を撫でておく。

鼻息荒くして気持ちよさそうな声でぎぃぎぃと鳴いている。

とてもご機嫌なハクシに比べて、わらび餅がドン引きした顔でこっちを見ている。

なんだよ。


『シヒロ!!』


今度は収納袋から声がする。

また煩いのが。

何でお前は疲れてるときに限って話しかけて来るんだ。


「どうした」

『もう何を言われても誰かに渡したらダメだよ! 特にあれ! 聞く耳すら持ったらダメだよ!』


あれって何かと思ったがわらび餅のことかな。

そう思い振り返る。

間違いなさそうだ。

収納袋に向かって腹立つ顔してる。


「知り合い?」

『まさか! 知りたくもないよ! 手が出せないと分かって調子に乗ってる!』

「れろれららー」


器用に舌を動かして挑発している。

唾が飛んでるからやめなさい。


「あー、ちょっと順番に片付けたいから」


纏めて片付けられる自信がない。

一つずつ片付けていこう。


「......まずはルテルからな」

『んね! 優先順位は友人である僕の方が上だってさ!』

「面倒だから先に片付けたいだけだー。あほー」


仲いいな。

だけど、このままだと話が進まないので少し離れる。


『シヒロ! アイツは見ての通り性根が腐ってる。関わらない方が良い!』

「そうね。気を付けるよ。ところでせっかく話せたんだからこれからの事が聞きたいんだが」

『何を言っても無視していいよ。聞き流すのが吉だよ!』

「了解。それで、目的の場所の近くに来たと思うけど今度は何処へ行けばいいんだ」

『むしろ離れた方が良いまであるね!」

「おい」

『......ふぅ。ちょっと冷静さを欠いていたね。大丈夫』


コホンと小さく咳払いする。


『目的は順調に進んでいるよ。正直進み過ぎていると言っても過言じゃない』

「良い事だな」

『そうだね。ちょっと奇妙で変だけど』


何か引っかかる言い方をした。

順調とはいえ予想通りに進んでいない事に不安を感じているのだろうか。


『んっん。えっと、次は何処かだっけ? その辺は大丈夫! 目的の場所はここだよ。本当なら近くまで来たら僕が案内するつもりだったけど、その必要はなくなったみたいだね』

「案内ね。ここ来るのにそんなに大変なの?」

『まぁね! この国は時期によって入るための道順が変わったり、そもそもが入れなかったりするんだよ。前の勇者のせいでね。君ならゴリ押し一直線で行けるかもしれないけど』

「仮に行ったらどうなるんだ?」

『魔物が襲い掛かってくる。2つのダンジョンの大暴走を対処する感じ』


それは嫌だな。

指揮官と会えたのは運が良かったか。


『本当に凄い勢いで進んでいるんだよ。ちょっとこっちが申し訳なく感じるほどだ。こっちの進捗は芳しくないよ。申し訳ない』

「いや、それは良いんだけど」


遠くから「やーい、無能ー」と聞こえてくる。


『へっ、お前が言うなってかんじだよね』


いや、知らないけど


「どういう関係なんだ」

『やってたことが似てただけでほぼないに等しいよ。むしろ無関係だよ』


あぁ、深くは聞かない方が良い感じか。

わらび餅と似た事をしていたならルテルも宇宙人に類似した何かなのだろうか。

初めの出会いからして納得はできる。


「なるほどな。その辺は分かった。それじゃあ本題に入るが、お前の探し物は何処にあるんだ? これも時期によって変わるからここで待った方が良いのか?」


当初はここを拠点にすることを考えていた。

時期によって出現するダンジョンが近場にあるなら、先程の言い方にも納得である。


『それについても心配はいらないよ! なんせここから見える場所にある』

「待て。見えるって、この国にあるのか?」

『その通り!』


モヤっとした嫌な感じが鎌首を上げる。


ルテルの探し物はこの国にあるということ。

探し物はダンジョン化してしまうほどの特殊な力をもっているということ。

先ほど獣人から聞いた『偶然に生まれた空白地帯』という話。


「まさかとは思うけど」

『察しが良いね! その通り! さっきの獣人も言ってたけどこの国が存在出来ているのは僕の探し物のおかげだ』


最悪。


『今回は両方の魔物が近づけないエアポケットになっているんだね。うんうん』

「......仮にそれを見つけてお前に返した場合はどうなる?」

『原因が除かれるんだから元の状態に戻るよね』

「つまりは」

『最終的には両方の魔物がここを襲いに来るだろうね』


そうだよな。その事がバレれたら極刑だよな。

軽く眉間を揉む。


『こっそりやれば大丈夫。どうせ意味すらわからないって!』


せめて前の時と同じように秘匿状態で回収できれば......


「......ちなみに、具体的な場所は?」

『窓を見て貰えばわかるんだけど』


促され窓を見る。


『ここから見える一番高い建物にあるよ』


なるほど、ここから見える高いところといえば間違いなくあそこだろう。

西洋と和が混じったような城。

明らかに偉い権力者がいますといった感じだ。


「あそこにあるって事は、国宝......ってことかな」

『たぶんね!』


バレずにという方法は非常に難しいモノになった。

そして最終手段としての窃盗も顔がバレているから非常に厳しい。

特殊な立場とはいえ劣人種。まず真っ先に疑われるだろう。

どうしよう。

そんな事を考えていると半透明な腕が肩に乗る。


「はーい、ここまでー」

『あ! 待っ』


ルテルが何か言おうとしたタイミングで切れた。


「誰の協力があって話せてると思ってんだー。まぬけー」


ツンツンと収納袋を指先でつつく。


「さてさてー、充分話して今後のことも決まったー。そろそろ私と話そうぜー」


このわらび餅、凄いフレンドリーになっている。

距離が物理的に近い。


「何話すの?」

「今後のことよ―。色々言うのもあれだけどー、私の使徒になろうやー。いい暮らしを保証するぜー」

「大丈夫。今も悪くない生活だし」


何だよ使徒とか。怪しすぎる。


「そうかー。いきなり過ぎるものなー。んじゃーアイツと同じで友達からはじめようやー。それとも、それも駄目かー?」

「まぁ、変な事しないなら」

「おうー! 了解―。決定ー。万々歳ー。楽しく行こうなー」

「はいはい」


翻訳機能が上がってるのか、それともルテルと同類とわかったせいか鬱陶しさが際立つ。


「微力しかないけど協力は惜しまないなー」

「そりゃ助かる」


あまり期待はしてないが。


「魚介食べ放題はまかせろー」


それには大いに期待している。


「それで何するんだ―?」

「ひとまず、疑われていない内に情報収集がしたい。誰か適当な奴に声かけて散策のための案内をしてくくれないか聞いてみるか」

「おうよー」


席を立ち、客室から出ようと扉を開けると人が立っていた。


「何処か行くのか」


指揮官だった。


「えっと、聞きたい事があったので誰かいないか探そうと思ってました」

「聞きたい事? なんだ」

「ええと、少しこの国を見てみたいなと思いまして、案内を」


その言葉が続く前に、わらび餅が割って入るように前に出る。


「こいつに案内させるのかー。まかせとけー」


半透明な両腕が不定形になったかと思うと目にも止まらぬ速さで指揮官の頭を覆った。

何をしたのか分からないが、指揮官はその一瞬で意識が刈り取られ、全身を弛緩させて白目をむいている。

頭を包んでいた半透明な腕が耳へと接続される。


「おいおいおい!」


誰に見られてるかもわからない。

慌てて二人を抱きかかえて部屋の中へと戻る。


「おー、いきなり動かすと危ないぞー。後遺症が残るー」

「んなっ」


慌てて離す。


「他所の子に手を出すのは憚れるが―......まぁ憚れるだけだなー」


うにょうにょと触手のようなものが動くたびに指揮官が変な声を出している。

生きてるよな。

大きく体が跳ねる。

生きているようではあるが不安しかない。


「大丈夫だよな。これ」

「ご安心をー。見た目に反して思いのほか快適だぞー。お得な事に前後の記憶も消せるー」


安心できる要素が見当たらない。

記憶をいじれるのは後遺症が残るレベルじゃないのか。


「とてもそうとは見えないんだが。大体この状態でどう案内するつもりなんだよ」

「もちろんこうするー。右手上げてー」


ズバッと勢いよく指揮官の右手が上がる。

言葉には従っているが、とても自然な挙動ではない。

体も細かく震えだしている。


「んー、ちょっと厳しかったかもなー。でも大丈夫ー。質疑応答はできるぞー」

「その......元には戻るんだよな」

「疑い深いなー。まかせとけー。まずはー、そうだなーお名前はー?」


その言葉にビクリと反応すると呟くように答える。


「ホノロゥ」


わらび餅が、どうだ! と言わんばかりの顔をしている。

そうね。凄いね。


「ほれほれー、聞きたい事どんどんきけー。偉い奴なんだろー」


こうなってしまえば引き返せない。

聞きたい事を聞いてみるか。


「あのー、リュコスって知ってます?」


確信に近いものはあるのだが、確定ではない。

なので確かめておきたかった質問をする。


指揮官の体が大きく跳ねる。

ビックリした。


「私の、幼名だ」


あぁ、確定した。

間違いなくホノロゥさんの娘さんだ。

もし本人がこの場にいて、この酷い絵面を見たらなんというだろうか。


「いい感じだなー。次はー、そうだなー。好きなやつとかいるかー?」

「どういう質問だよ」

「お約束と練習をかねてだなー」


指揮官改めリュコスちゃんが大きく体を揺らす。

白目をむいていた眼球がこちらをジッと見て元に戻る。


え? なに。こわい。


パクパクと口を動かし、言葉を発する。


「分からない。気になる人なら」

「おー。いいねー」

「もういいだろう。元に戻してやってくれ。記憶とかはいじらなくていいからな」


想像のホノロゥさんが悲しい顔をしている。

ちょっと罪悪感がある。


「そうかー? まぁ一応本題を聞いてからなー。シヒロの探し物はどこにあるー?」

「......わからない」

「んー?」


わらび餅がこちらを見る。特徴を言えと言ってるのだろう。

まぁ、どんなものかこちらも分からない。

ルテルだけが知っている。

聞き出す前に切れてしまった。


分からない。とジェスチャーで答える。


「マジかー。あいつクソの役にも立たないなー」


もう一度ルテルから連絡が来るのを待つか。

自力でなんとかしないといけない。


「そういえばだー。そもそもこいつは何でここに来たんだ―?」


そう言われればそうだ。

たまたま前を通り過ぎたというよりも扉の前でじっと立っていた感じだった。

その質問にリュコスちゃんが答える。


「身近の世話と案内。それを建前に監視と報告のため」


まぁ、妥当な所だろうな。

気になるのは、なぜそれを指揮官たる立場の人がしているかだが。


聞いてみるか。


「魔王戦での後遺症で前線に立つ事が難しくなった。そして王命だから」


あらま。


「王命を遂行しようと部屋に入ろうとしたところ不穏な事を話していた。そのことは報告するつもりだ」


おやま。


「初めからやり直すか―?」

「そうします」


記憶をいじってもらい、扉あたりからやり直すことにした。


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