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10話


この童女に道案内させたのが間違いだった。

あなたの人形が何処にいるのかと聞くと、「あっちかなぁ、イヤイヤこっちだと思う」と、散々振り回された挙句「飽きた」の一言で無視を決め込む始末である。

仕方がないのでスキルを併用しながら探すとギルドの裏手にある修練場にいることが分かり、まだ死んでいないことに安堵しつつ早急に向かうと、なぜか和気藹々と楽しそうに語らっていた。



・・・・・

・・・・

・・・



「......えー、つまり急に力が上がったと思うのはスキルの【身体強化】って奴なんですよね。どういう理屈なんでしょうか?」


それはだな、と一番背が低い『コルトル』という人物が説明をする。


「まず、先に話したけど体には、魔力を生み出す【魔炉】、生み出した魔力を貯めておく【魔蔵】、貯めた魔力を魔法として変換するための【回路】があるんだけど、ここまでは覚えてる?」


「はい、確かそういう臓器みたいなものが体にあって、自分みたいな奴にはそれがないんですよね」


「そうそう、それで本来なら魔力を【回路】に通して魔法を出すんだけど、それをあえて出さずに【回路】の中に魔力を留めると身体能力が上がるんだ。ちなみに、魔力の素質によって熱を持ったり、固くなったりするんだよ。それと裏ワザとして、通常より圧力を加え【回路】に無理やり魔力を流すと、通常より力を増す方法もあるんだけどオススメはしないね。【回路】が破裂する恐れがあるからね。特徴としては【回路】が体表に浮き出てきて痣か模様に見えることかな」


イメージするなら血管みたいなものだよ、と説明する。


成程、フレアが温かくなったり、クマが冷たく体に変な模様が浮かんだのはそれが原因か。


「あと、最後にもう一つ気になるのが、体全体に皮一枚ぐらいの厚さで変なクッションみたいなのあると思うんですけど、あれはなんですか?」


クッション? とコルトルは頭を傾ける


「し、【障壁】の事じゃないか」


一番体がデカい『ドーマ』という人物がいうと、あぁ、と納得する。


「ま、魔力を体の外で、か、固めることを言う」


戦っている時は、鬼のような形相だったのに、今は目が泳ぎ、しどろもどろになっている。

人見知りするタイプなのかな


「そんな説明で分かるかドーマ!! 戦っている時の勢いはどうした!!」


このデカい声を出しているのが『タラタクト』5人の中で唯一魔法だけで戦った人物だ。


「【障壁】は見えない鎧!! 魔法や物理による攻撃を防いでくれる。これがあるのとないのとでは、生き残る確率が段違いだ!! コツは、常に体の表面を流動し続けることをイメージする事だ!! 一定以上のダメージを喰らってしまうと消し飛ぶから注意しろ!!」


緊急時など咄嗟にできるようになって一人前だぞ!!と補足説明を加えた。


「あ、あとは、激しく動いたりすると魔力の消費が早くなるのと、う、動きが鈍くなる事」

「その通りだ!!」


全力で首を縦に振り肯定する。


仲が良いんだなこの二人。


そして、

「................」


めっちゃこっちを見てくるのは『ホノロゥ』という獣人種の人だ。


「.........シヒロ」

「はい」


なぜかこの人には畏まってしまう。

なぜだろうか。


「唐突であれだが.........お前には、生涯を付き添う伴侶はいるのか」

「......いえ、いません」

「そうか」


そういうと、眉間にシワを寄せ真っすぐこちらを見る。


「.......シヒロ。お前に私の娘を任せたいと思っている」


何を......言ってるんだ......。


「......勿論、本人の了承が必要だが、私はどこぞの軟弱な奴より君に任せたいと考えている」

「え、ええと、とても光栄なんですけどお互いの事を何も知らないっていうのは、ちょっと........難しいかなと........それに自分に魔力が無いと色々問題があるのではないかと」


この人に妙なプレッシャーがあるのは父親ということだろう。

父親は娘が絡むとヤバいと言ってたが本当のようだ。


「......獣人族は強い事が何よりも重要だ。魔力の有無など些細な事だ」

「そうなんですか........」


ぐいぐい押してくるな。


「.......娘の名前はリュコス。妻に似て美しい娘に育っているはずだ。歳は、最後に会ったのが2歳の時だ。それから15年たったと聞いたので17歳だろう。私とは違い全身が白い白狼だ。場所は.......獣人の国でこれを見せればいい。そうすれば連れて行ってくれるだろう」


そういい持っていた剣の鍔を取り、手渡す。


「.......出来ればでいいのだが、この鍔を娘に渡してくれ。よろしく頼む」


そういい、深々と頭を下げる。


なんか有無を言わせない感じだな。


「ち、近くによる用事があった時でいいのなら......」


そういい鍔を受け取る。


「だぁっははは!! 気に入られたな!! シヒロ君。それはさておき、アイデン!! さっきから全く喋っておらんではないか!! 腹が痛いのか? 治すぞ!!」


そして最後に、この5人の中で最初に戦った、長刀を使う男が『アイデン』である。


「腹痛ではない。気に入らないだけだ」

「何を不貞腐れている!! この中で唯一、シヒロ君に勝てたではないか!!」


奥歯でギリッと噛みしめる音がする。


「勝ちを譲られて、何を誇れというのだ!! まだ負けた方がマシだ」

「元々は手合わせをする予定であって、本気の殺し合いをしに来たわけではないだろうが!!」

「そんなことは分かっている! が.......折り合いがつかないだけだ」


フイッとそっぽを向いてしまう。


「全く、仕方がないな!!」


だぁっははは!!と大声で笑う。


「そ、それより凄いな。ゆ、勇者じゃないのに。シヒロは、つ、強い」

「あぁ、それは思った。初めて会った時は【偽装】で力を隠している勇者かと思ったもんね」

「まったくだ!! 強さとは魔力の有無ではない事が証明されたな!!」

「........私の攻撃が一度も当たらないとは驚愕すべきことだが、娘を任せられるというならそれぐらいできて当然とも言えるな」

「シヒロ。もう一度だ。今度は、本気戦うぞ」


皆各々に褒めてくれるのは嬉しいのだが、どうにも引っかかる。

確かにこちらも手加減をしたとはいえ、どう考えても向こうのミスの方が多い。

技は洗練されているのに、間合いを見誤ったり、思ったように動けなかったり、まるで体に慣れていないかのように。


「一つ聞きたいことがあるんですが」

「おお!! 今更だぞ!! どんどん聞いてくれ!!」

「全員、長い間療養してたり、病み上がりだったりしますか?」


するとピタリと話し声が止まる。


「ほう、どうしてだ?」

「どうにも動きが変だったり、当たると確信しての空振りが多かったし、色々と不可解に思いまして」


そういうと、何やら嬉しそうにニヤリと笑う。


「へぇー、やっぱりわかっちゃう?」

「黙ってても仕方ないな」

「教えてもいいぞ。その前に剣を持て」

「い、意地悪しない。し、シヒロも教えてくれた」

「まったくだ!! 『魔無し』である、という勇気ある告白してくれのに、こちらは教えないとは道理が通らん!!」


ズイっとホノロゥさんが近づいて来て声を殺しながらこう言った。


「......我々は、とうの昔に死んでいるのだ」


それに被せる様にコルトルさんが話す。


「生まれた時代も、今見えている見た目も全然違うんだよ」


突然の爆弾発言である。


死んでる? 冗談か? いや嘘を言ってるようにもからかっている感じはしない。

騙すにしても、もっと信憑性のある嘘をつくだろう。

それに、本当だと仮定すると色々と納得できることもある。


「魔法ってのは、そんな事が出来るぐらい万能なんですか?」

「本来なら死んだ者を蘇らすことは出来ん。ただ、それに近い事は可能なようだ。話すと長くなるんだが......」


その時


「あなたたちは何をしているのですか?」


受付嬢が女の子を脇に抱えながら立っていた。


「はぁぁ、まったくシヒロさん。査定が終わるまでギルドの中で大人しくしてください」

「え、あ、はい」


抱えていた女の子を地面に落とし近づいてくる。


「怪我とかはしてなさそうですね。本当に、始まる前に着いてよかったです」


そういい、安堵した様子だ。


「そろそろ終わりますので、ギルド内で待っていてください」

「ああ、はい」


そういい受付嬢の後をついていこうとすると


「ちょっと、待ってくれぇ」


地面に突っ伏している少女が、間の抜けた声で呼びかける。


「よぉく、見せてくれぇ」


そういうと、ドレスのような服を気にせず匍匐前進しながら近づいてくる。

足元まで近づくとバッと顔をあげ、まじまじと見上げる。


「ほうほう、遠くで見るのと近くで見るのとじゃあ全然違うな」


一気に体を起こす。

見えない台でもあるかのように、足踏みをすると同じ目線まで登って来る。

いや、浮いてくる。


「へぇ~いいなぁ、これ。いいなぁ、欲しいなぁ。おいデカいのあんたから見てこいつはどう思う?」


するとドーマが直立し、答える。


「つ、強い」


その答えに納得したように満面の笑みでこちらを見る。


「良し! 決めた。私に付き従え、そうすれば人として、男としての全ての快楽をお前に提供するぞ。どうだ?」


そういう少女の顔は先程までの幼さなどなく、目の色が青色から緋色に変わる。

後ろにいる受付嬢が殺気を隠そうともせず、こちらを睨んでる。


どういう状況なんだよ。


「意味が分からん」


少女の頭を軽く指で押す。

あぅ、と見えない坂があるかのように、空中を転げ地面に大の字になる。


「........ッくく、ッはは、アッハハハハハハ!!」


しまった、ちょっと強く押しすぎたかな。


そんな心配をよそに、一頻り笑い終えると大の字のまま飛び上がり、ドーマの肩に着地する。


「ッふふ。ねぇ、名前、なんていうの? 私はねぇ、エヴェリー=フォロン=トロントっていうの。皆からは『人形使い(パペットマスター)』って言われてる。ねぇ、あなたは? 教えてぇ」


言い方はあれだが、子供にしたら礼儀正しい方だな。

ちゃんと自己紹介が出来ている。

年上としてここは答えないと失礼になる。


「名前はシヒロ。家名はシラズミだ」


それを聞くとまた満面の笑みになる。


「へぇー、偽名じゃなかったのか。ありがとう! また会おぅ」


そういうと、5人全員が立ち上がり、手を振りながらこの場から立ち去っていく。


「さて、色々あったけどギルドに戻るか」


振り返ると、受付嬢が目頭を押さえながら苦悶の表情をしていた。

ブツブツと、「帰りたい」や「逃げるか」等、呟いている。


仕事に行き詰っているんだな。


「大変そうだな」

「そう思うなら本当にジッとしておいてください。いいですね......」

「はい」


その後は特に変わったこともなく、査定が終わり魔石を換金する事が出来た。

手数料と恐らく迷惑をかけたであろう受付嬢に迷惑料としてチップを払ったが、懐はずっしりと重かった。


「っあ。決闘相手の情報聞くの忘れてた。まぁいいか、フレアが知ってるだろう」



◆◇◆



「お、お嬢。じ、上機嫌だな」


ドーマの肩の上で鼻歌を歌いながら足をプラプラとさせていた。


「まぁね。あんな上物初めて見たよぉ。何より『魔無し』って所が気に入ったぁ」

「た、確かにシヒロは強い」

「戦った感想を詳しく聞きたいなぁ。.......小っちゃいの言えー」

「そうだね、手を抜いて、手加減をして『見』に徹しながらも、今の僕らを圧倒してたから相当強いよ。現役だったころと比べても無理かもしれない。個人的に一番気になったのは、腰に差していた白い柄の短刀かな」

「あぁ、あれなぁ。確かにあれは何かヤバい感じがしたぁ。相当狂れた感じがしたもんねぇ」


おぉ、こわっ。とワザとらしく身震いする。


「ふん、こっちに組み入ると思えないがな」

「アイデンはまたそういう後ろ向きな事を言う。なに、男を虜にする方法などたくさんあるさ。何だったら私が直接相手をしても良い位だよぉ。好みのタイプじゃないけどねぇ」

「.....私としては巻き込みたくないものだ。将来、娘の旦那になる男だからな」


ハハハハハ。と笑う。


「なぁに、強要はしないよ。その辺は大丈夫」

「ところで勇者はどうするの? 当初の予定だと取り敢えず会ってみるんじゃなかった?」

「いいよ、彼を見た後だと絶対見劣りするし。そもそも、勇者自体が好きじゃないしねぇ」

「それなら次はどこに行くんだ!! 粗方、周ったと思うぞ!!」

「もう戻るよぉ、懐かしき我が故郷。魔族領にぃ。勇者の件は他の人形をくっつけてるからしばらく放置ぃ。『神弓』も五月蠅いしね」


うぇーい、とやる気のない返事で答える。

遠くを睨みつけるように、眉間に皺を寄せる。


もうすぐだぞ。いつまでも偉そうにふんぞり返れると思うなよぉ


5人と1人の童女が慨嘆の大森林に向かって進んでいく。


叩き潰してやる。調停者!!



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