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9話


実力を測るための試合は、こちらの勝利で終わった。

フレアは落ち込むかと思ったが、思いのほか機嫌はよく「早速、決闘を申し込んでくるわ!!」と意気揚々と駆けだして行ってしまった。

またもや置いてけぼりを食らった。

まぁこっちも大量に余っている魔石を冒険者ギルドに換金しに行く用事があるのでいいだろう。

人目のある場所で広げるのもどうかと思い、少し離れた場所で魔石の選別をする

色付きの物は薄い色の物を選び、大きさはフレアが出していた魔石より小さい物を中心に分けていく。

換金した時に出所を聞かれても信じて貰えず、盗んだものと思われるのも癪だ。


「先立つものがないと何もできないからな」


そう呟きながらざっと分ける。

大雑把だがある程度の選別が終わる。

そのままギルドへ向かおうとするが、どうにも気になる事が一つ。


さっきから見てる奴がいるな、初めから視線は感じてはいたが、人数が増えてやがる。

冒険者ギルドの関係者か、あの六席の関係者か......。


何をするつもりでもなく、ただ見ているだけ。

殺意もなく、悪意もなく危害を加えるつもりもない様子。


無視するか。


何が嬉しくて男に付きまとっているのか、どうせするならフレアの方が良いだろうに。



・・・

・・



「魔石の換金に来たんですけど、いいですか」


元気よく挨拶をして、冒険者ギルドの受付に魔石の換金が可能か確認する。

しかし、どうも歓迎されていないようだ。

受付嬢も然る事ながら、こちらを見る周りの視線が痛々しい。

呆れ・苦笑・呆然とわずかに恐怖か。


何か悪い事をしたわけではないので無視することにする。


「......こちらへどうぞ」


そう言って案内を促したのは登録の時に世話になった受付嬢だ。

顔馴染みなら、気兼ねなく話せる。


「魔石の換金は可能ですか?」

「.......可能ですが、先程の事があったばかりなのによく来れましたね」

「アレに関しては被害者ですよ。実際こちらは何もしていませんから」

「何も.......ですか。まぁいいです。早く出してください」


トレーの様なものを取り出した。

初めて会った時とは違い、話し方がフランクになってきている。

打ち解けて来ているようだ。

早速、選別した小さい魔石をトレーに拡げる。


「..........どれも、そこそこの大きさがあるのに大量ですね。僅かですが色がついていると思われるものもいくつかあります。どこでこれほどの量を手に入れたのですか?」

「慨嘆の大森林」

「......ああ、フレア様ですか。査定しますので少々お待ちください」


何か勘違いしているようだが訂正するのも面倒なのでそのままにしておこう。


受付嬢はトレーを持って奥に引っ込んでいく。

近くの椅子で座って待とうとすると、入口の方からピリピリとした空気を纏う人物達が近づいてくる。

嫌な空気だ、絡まれそうだな、早く戻ってきてくれないかな。

そんな願いは叶わなかった。


「少し、遊ぼうか」


声が掛かる。仲間であろう5人の男達が囲う様に立ちふさがる。

一番デカいので2m位、小さいので150cm、頭の上に犬の耳を付け尻尾があるやつまでいる。

パッと見た感じなら面白い集団で終わりだが、目が笑っていない。


あのハゲのように、気に入らないから〆てやろうといった感じなら楽だったんだが......


纏っている雰囲気が死線の一つや二つをくぐっている事を物語っている。

関わりたくない。


「悪いが換金してるところなんだ。暇な時にしてくれ」

「あの量の魔石ならかなり時間が掛かるな。しばらく暇になるだろう?」


ポンと肩に手を置く。

どうあっても、見逃す気はないらしい。そう目が語っている。


んー......どうしたものか。


あのハゲより強い感じはするんだが、どれぐらい手加減をすればいいのかわからない。

手加減を間違えると殺してしまう恐れがある。


......イヤ逆か、慣れるならこういう時にやっておくべきかもしれない。

こちらに来て日は浅いし、魔法が使える人に対してこちらの技はどの程度使えるのか、どの程度なら壊れないのか知るにはいい機会かもしれない。

それに向こうも遊び感覚のようだし、こちらが怪我をする事もないだろう。


「分かった。少しだけ付き合うよ。手心を加えてくれると助かるよ」

「それじゃあ。付いてきてくれ」


そういって、男達の後をついていく。

ギルドの裏にある大き目の広場みたいなところに到着した。

5人のうち1人が背負っている長刀を抜いて構える。


真剣で挑むと。

手加減して欲しいと言ったんだが上手く伝わらなかったようだ。


こちらも武器屋でもらった短刀を抜く。

それを合図と判断したのか距離を一息で詰め寄り斬りかかってくる。

それを出来るだけ余裕をもって躱す。

何かあってもすぐに対処できるようにするためだ。


避けることは想定内だったのかすぐさま切り返す。

これも余裕をもって躱すが、次に地面が盛り上がり円錐状の棘が生えてくる。

体を捻って躱す。


この棘はクマの劣化バージョンと言ったところか。

大きさも早さもクマと比べれば見劣る。


捻った勢いをそのままに相手の頬を掠るように切り裂く。

深さ1ミリを目安に切り込んだが、思っていたよりも深く切ってしまったようで予想以上に血が溢れ出ている。


これで、戦意が鈍ってくれればいいんだが.....


だが、こういった傷は慣れているのか、血を拭わずに斬りこんでくる。


危っ。


一歩後ろに下がる。

先程までいた場所に斬り上げによる剣筋が通る。

風切り音からその技のキレが伺える。


怖っ。急に動きが鋭くなったな。

一つギアを上げてきたのか、それとも......魔法か、もしくはスキルってやつか。


今のを躱されると思はなかったのか、表情を曇らせる。

斬り上げでガラ空きになった腹を軽く押すように蹴りを入れる。

すると相手は3メートルほど後ろに吹っ飛んだ。


自分から飛んで威力を流したな。


だが思っていたよりダメージがあったのか、片手で腹を押さえ表情が強張っている。

終わりかなと思っていると、腹を押さえている手がわずかに光る。

すると顔の強張りが取れ、何事もなく立ち上がる。


回復している? そんな魔法もあるんだな。

では、今度はこちらから。


距離を詰めるため駆けよるが、突然目の前に土の壁がせりあがる。

気にせず、勢いをそのままにタックルで壁を壊すが、狙いすましたように急所めがけて突いてくる。


足止めではなく目隠し。

だが、そういうのは何度も経験して慣れている。


相手の突きを短刀で受け流し、伸びきった右腕を絡めとり関節を極め、地面に押さえつける。

このまま短刀で首筋を少し切れば戦意も無くなるだろうと思っていたが、皮膚が金属のように固くなり刃が立たない。

仕方がないので少しづつ体重を乗せようとするが、重心を動かした一瞬の隙をつかれ力業で脱出された。


この急激に膂力が上がる感じは、クマもフレアも使っていたあの技だろう。

使った時の特徴はバラバラだが、どれも共通して膂力が上がっている。


ふぅ。と一呼吸置いて立ち上がり短刀を収める。


「まだだ!! まだ終わっていないぞ」


そういい、歯を食いしばり目を血走らせる。

右の肩、肘、手首の外れた関節を先程の魔法で治療しながら叫んだ。


「いやいや、終わりだよ」

「この程度の傷で勝ったつもりか!!?」


そういうと、逆再生するようにゆっくりと関節があるべき場所に戻っていく。

うへぇ、気持ち悪い。


「逆だって、こちらの負け。降参」


そういい両手をあげる。


「なんのつもりだ」


憎々しげに歯をむき出しで聞いてくる。


「たまたま躱せて、運良く攻撃が当たって重傷まで負わせたのに、それもすぐに治療されたんじゃあ、堪ったもんじゃない。それにここからは、本当に殺し合いになりそうだし、死にたくないから降参する」


それに遊びだろ、と手をヒラヒラと振り、ゆっくり下す。

ああいうタイプは勝つまでやるタイプだ。面倒くさい。


「それじゃあ、これで......は駄目な感じだな」


今度は2ⅿを越えたでかい奴がデカい盾と鉄槌を持って笑顔でこちらに近づいてくる。

他の奴も何やら嬉しそうに笑っている。


......ああ、そうか、これはそういう事か。成程、理解した。今やっと理解した。

これは俗に言う、先輩たちの「可愛がり」っていう奴だな。

妹たちも言っていた激しく楽しい歓迎会ってやつか。

なんだ、変に殺気立ってるから勘違いしたが、そういう事か。

それなら、そのご厚意に甘えようじゃないか。

途中退席は失礼だからな。


「よーし、来い!」



・・・・・

・・・・

・・・



冒険者ギルドのとある部屋で、先程持ち込まれた大量の魔石を受付嬢が鑑定していた。


「なんで私がこんな事......別料金貰ってやる!!」


魔石の換金は、一粒一粒丁寧に鑑定して色や大きさ、重さを量らなくてはならない。

元々が時間が掛かるうえに、持ち込まれた量が一人で査定出来る量を軽く超えており、現状手伝える人が運悪く誰もいなかった。


「本業じゃないのに、何でこういう時に限って.....人手が足りないとか.....」


そうブツブツ文句を言いながらもきっちりと仕事をこなしていく。

するとどこからか「くっくっ」と小さな笑い声が聞こえ、声の方を見てみると、どこから入ったのか童女が嫌らしい笑みを浮かべていた。


「いやぁ、仕事に精が出ますなぁ『神弓』。いつからギルド職員に? 言ってくれればもっと早く来たのに」


壁近くに置いてある椅子に座り、ニヤニヤと笑っている。


「......『人形使い(パペットマスター)』ですか、あなたみたいなのが良くこの街に入って来れましたね。何しに来たんですか。事件を起こす予定があるなら言ってください。憲兵に突き出すので」


そういい魔石鑑定の仕事に戻る。


「厳しいこと言うねぇ。まぁ、日頃の行いのせいだから何とも言えないけど」


キャッキャッと腹を抱え喜んでいる。

まあ、憲兵ごときで捕まる奴ではない。

そこでふとあることに気付く


「まさかと思うんですが、このギルドに人がいないのって」

「その通り!! 貴女に会いたいから人払いしたぁ」


私が忙しいのはこの童女の仕業か。

心の中で舌打ちをする。


「それで、何しに来たんですか? 勤勉に働く私を笑いに来たのですか?」

「それもあるけど別だよ。ここには仕事をしに来たんだよぉ」


依頼されたんだ、と椅子の上に立ちくるくると回りだした。

相変わらず落ち着きのない童女だと思う。


「あなたが仕事とは珍しいですね。どんな仕事.....ああ、言わなくて結構です」

「そういわれると言いたくなるね。何、簡単な仕事だよ。勇者の監視と、いざとなった時の、抹殺、暗殺、謀殺だよ」


しまった、こういう奴だと忘れていた。

失念していた。


「それ機密ですよね」

「まあね!! バレたら私もあんたもヤバいかもね!! どうでもいいけど」


ふふ~ん。と椅子の上でタップダンスを踊りだした。

椅子がギシギシと悲鳴を上げている。


どんな奴か知らないが、こいつを雇うとは頭が狂ってるか、バカのどちらかだろう。

まともでないことは確かだ。

仕事を投げ出して逃げ出したくなってくる。


「これは独り言なのですが、私の仕事は勇者の暴走を食い止めるブレーキ役であると同時に、危険に対する排除も仕事に入っていますのでお忘れなく」


そういうとピタリと止まる。

椅子に座り直し、椅子を傾けると竹馬のようにカタカタと歩き出す。


「いいんじゃない? 私はあんたのブレーキが壊れた時の保険みたいなものだしぃ」


あははは、とスピードを上げ走り回っている。


「敵対関係ではないと思っていいんでしょうか」

「いいよぉ」

「あなたが敵に回らなくてホッとしますよ」

「あたしもぉ」


もしこの童女が敵に回るだけで難易度がかなり跳ね上がっただろう。そういう意味では助かったと言えるが、この街に来ただけでも、この童女は相当ヤバいのだ。


「.......そういえば、あなた自慢の人形が見えませんが? 私の『目』でさえ見えない物でも作ったのですか」


この『人形使い』は、本来なら手元に何体かの人形を配置しているのだがそれが見当たらない。


「ん? あぁ~、違うよ。ふっふっふ、なかなか面白い物を見つけてね。それにチョチョイと手を加えてたら思った通りの人形が手に入ったのだよ。馴らしに丁度いい相手も見つかってね、今は自動操縦。操ってないから人形じゃないよ」


傾けた椅子の上に立ち上がり、バランスを取りながらドヤ顔をしている。


「あなたが面白い物を見つけたとか、最悪ですね」

「ドラゴンや巨人の死体を使って怪獣大戦争をしたころと比べると可愛いものだよ」


ハッハッハ!! と声高らかに笑っている。


「それで、馴らしとして標的にされた、可哀そうな相手は何ですか? 問題だけは起こさないでくださいよ」


まぁ、恐らく慨嘆の大森林の魔物かと想像する。


「あぁ、何この街で見つけた『勇者』様だ。調整役にぴったりだし、怪我ぐらいするかもだが死にはしないだろう。大丈夫、大丈夫!!」


またこの童女は、先程言ったことをもう忘れたのか。

非常にデリケートなことを平気で抉っていく


いやちょっと待て


「何言ってるのですか。勇者一同は、『慨嘆の大森林』攻略のため今この街にいませんよ」

「えぇー、本当?」


椅子から飛び降り、元あった場所へ蹴っ飛ばす。


「おっかしいな、勇者の特徴である黒髪、黒眼。それに私の目をごまかすほどの【偽装】を使ってるんだよ」

「.......なぜ【偽装】だと思ったんですか」

「それは、あの見た目で魔力が無いからだよ。明らかに『私何か隠してますよ』と看板ぶら下げて歩いてるようなもんだって。私の【看破】を使ってもわからないなら相当のレベルだろうし、勇者しかありえないって!! それに物凄い量の魔石持ってたから、劣人種ってわけでもないでしょ」


やだなーもう、と手をプラプラさせている。


嫌な予感がする......っていうか多分あの人だ。


「その人の名前わかりますか?」

「おお! シヒロ=シラズミって書いてあった。歴代勇者の名前のニュアンスに似ているだろう。偽名かもしれないが」


次から次へと面倒ごとが。

疫病神か。


「な!! やっぱり勇者だろ?」

「いえ、勇者の顔や特徴、名前まで全て頭に入っていますが、当てはまりません。その人の事を知っていますが、本当に魔力を持ってませんよ。私が直接見たので間違いありません」


あちゃー、と何ともふざけた感じでデコを叩いている。


「まぁ、何事にも失敗や勘違いってあるよね。幸い一人の犠牲で済むなら安い物だろう。間違いない」

「一緒に止めに行きますよ」

「無理だって。もう死んでるって」

「いいから!!」

「ちぇー」


脇に抱えつつギルドを飛び出す。


死んでないといいのだが。


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