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03 出会い

 人が倒れている姿を見るのは20数年生きてきて初めてだった。しかもそれが見るからに中世ファンタジーな服装に身を包み、右手には無骨な直剣を握っている人ならばなおさらだ。というか普通の人はないだろう。


 「だ、大丈夫ですか!?」


 俺は急いで倒れている人の元へと駆け寄った。あとから考えれば、これは非常に危険だったと言わざるを得ない。もし仮にこの相手が悪意ある人間だったとして、ここで起き上がりざまにバッサリやられていたら俺の人生は終了していた。


 ただまぁ、平和な現代に生きていた俺に、そんな危機意識を持てという方が無理な話だ。


 倒れている人を見て真っ先に思ったのは魔物の襲来だ。その人が剣を握っていたことも大きい。しかし、周囲に動く影はなく、音もしない。もう一度倒れている人をよく見ると目立った外傷は無かった。血を流しているわけでもなく、服が破れたりボロボロになっているわけでもない。


 ……その代わりに見つけたのはその人の頭上に赤く輝くアイコンであった。

 街で見た他のプレイヤーの頭上にはこんなアイコンの表示はなかった。じっと見てみるとそれが空腹アイコンであるということがわかる。料理人の心得というスキルの効果で見えるようになるらしい。そんな情報が脳裏に閃くのだからゲームの世界は便利だ。 


 俺の呼びかけに反応したか、倒れた人はかすれた声で返答した。

 

 「た、食べ物を……」

 「……え?」

 「お腹が……空いたのです……」


 一気に体の力が抜ける。なんだ、本気で心配したのがバカみたいじゃないか。

 まさかデスゲームに直面した直後に、空腹で行き倒れる他人なんてものに遭遇するとは。


 「あー、なんだ、これ、さっき作ったんで味の保証はできないんですけど……」


 俺の手では謎の料理【ヒノタケのクリームハーブ巻き】がいまだに存在を主張している。


 もしよかったら、と俺が続ける前にその人はがばっと起き上がり俺の手から奪い取るようにして謎料理を食べ始めた。


 一心不乱にもぐもぐと咀嚼し、それを飲み込む。その様子を見て、俺はその人が女性であることに初めて気づく。ショートカットに切りそろえられた髪とファンタジーな服のせいで性別を判断しづらかったのだ。年齢は俺よりも少し年下だろうか。

 土や木の葉が体中についているしお世辞にも綺麗とは言い難い。


 そして、食べ終わった途端にまた地面へと倒れこむ女性。

 

 「だ、大丈夫か?」


 地べたに這う彼女の背中に声をかける。しかし、原因は明確だ。いまだに空腹アイコンがピコピコと点滅しているのだから。


 「お腹が空いて、動けないのです」


 息も絶え絶えに、彼女は言った。


 「いま、すごい勢いで立ち上がってたじゃないか……」

 「美味しそうな匂いを嗅いだので条件反射的に……」


 なんというか、すごい人だ。


 「すみません、なにか食べられるものを持ってはいませんか……」

 「あー、うん。まぁ、持ってるっちゃ持ってるわな」

 

 ここで見捨てるくらいなら最初から助けたりはしない。

 俺はしばらく彼女に付き合うことにした。まぁ、料理人の練習だと思えばこれもそう悪いことでもないだろう。


 とりあえず、彼女をひき起こし座らせる。さすがにいつまでも地面に転がったままなのはどうかと思ったのだ。


 そして、俺は料理を作っていく。さきほどの謎料理は評判が良かったので、それと、他にはヒルルのジュースとか、いろいろと作ってみる。料理スキルはレベルが低いのでかなりの回数失敗もしてしまうが、在庫だけはたくさんある。


 俺と行き倒れの彼女は向かい合って座ったまま、ただひたすらに料理の供給と消費に明け暮れた。かなりシュールな絵だろう。


 作っては食べ、作っては食べ……彼女のお腹が満足する頃には俺の料理スキルのレベルは4まで上がっていた。まぁ失敗も含めれば凄い数の料理を作ったわけで。


 そしてスキルのレベルアップに伴い、ボーナスポイントが同じ数だけ与えられた。今の俺は料理人であるということもあり、ダイスロールを見る限りDEXを中心に鍛えた方が良さそうだ。スキルレベルも上がってしまったし、いまさら剣士とかになる気もしない。キャラ作成時には使わないで貯めておいたボーナスポイントも奮発して、DEXが13から26となった。

 と、そんな俺の目の前に、急にシステムメッセージが飛び込んでくる。


 《システムメッセージ:あなたは行き倒れの戦士を助けました。ミッションクエスト“運命の悪戯”をクリアしました》


 ミッションクエストってなんだ?

 ……とりあえず同時に表示された概要を見てみるか。


 《ミッションクエスト“運命の悪戯”:剣士ルーシャは優秀ではあるが、移動の途中で食料をなくしてしまう。《始まりの街》へ向かう彼女だったが、惜しくもその途中の森で行き倒れてしまった。時間は無い、すぐに彼女の飢えを満たす料理を作る、または持ってくるのだ! 報酬:ルーシャの感謝》


 食料落とすって、なんだかなぁ。ていうか、これ、ゲームのイベントの一つだったのか。……ということはこのルーシャという女性はNPCなわけか。前評判通りに随分と高性能なAIだ。ほぼプレイヤーと区別がつかない。

 とはいえ、彼女がNPCだとしても人助けをして悪い気はしない。


 「危ないところを助けてくださり、ありがとうございました」

 「ああ、うん」

 「あと、先ほどはお見苦しい姿を見せてしまい……」

 「ああー、うん」


 たしかに最初に俺から謎料理を奪った行動からこっち、見苦しい姿しか見てない気がする。俺の中での彼女の評価はすでに“残念”の一途を辿っているのだ。

 ルーシャは少し顔を赤らめていろいろと言い訳をしてきた。

 彼女の空腹アイコンはいつの間にか消失し、完全に調子を取り戻したようだった。


ヒロイン登場ですね!

本編にはこんな残念系のヒロインは登場しないのでなんか新鮮です。


――登場してませんよね?

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