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侵入者

 身内であるならば、心強い味方となり。


 ひとたび敵対してしまえば、そいつの喉笛を食いちぎる牙獣となる。


 何の話かって?


 さあてね。


 かくして。


 また今日もこの学校で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。





「邪魔するぜ」


 食後のお茶のまったりタイム。


 ふらりと用務員室に現れたのは、養護教諭の大山寺さんだった。


「おや、珍しいですね大山寺さん」


「保健室はどうされたのですか?」


「ん?閉めてきたぞ。仮病で押し掛ける馬鹿共の相手にうんざりしてよ。まあ、いつものことだが、今日は特にひどい」


「あいかわらずモテモテだねー」


 ぽちの無慈悲なひとことに、大山寺さんがちゃぶ台に突っ伏する。


「ケツの青いガキに好かれたところで、嬉しくもなんともねえっての」


 大山寺さんは、そろそろ四十路に届くかといった年齢なのだが、二十代といっても通用してしまうであろう若々しさを保っている上、外見からなにから全てが、渋く落ち着いた雰囲気のスマートなナイスミドルである。


 女生徒の人気も凄まじく、軽い怪我をしたり、体調が少しでも悪くなると、彼女達は嬉々として保健室に向かうのだ。

 彼は、そんな彼女達を、淡々と、冷たく、そっけなく扱うらしいのだが、それがまた“いい”らしく、仮病で保健室を訪れ、わざと冷たくされることを楽しんでいる猛者までいる始末。


 大山寺さんにとっては、迷惑この上ない話であり、たまに心底嫌気がさすと、こうして用務員室に避難しに来るのである。


「大山寺さん、昼飯、まだだったらどうです?今日はツナカレーですが」


「おおー、喰う喰う。頼むわ」


「ちょっと待ってて下さいね」


 特製のツナカレーに、福神漬けとらっきょうを添えて出す。


「相変わらずうめえな。なんでお前は女じゃないんだよ。女だったら拝み倒してでも嫁にすんのに」


「よしてくださいよ気持ち悪い。俺はその気はないですよ?」


「馬鹿野郎、俺だってそうだよ」


 くだらない冗談で笑いあう、俺と大山寺さん。


「でゅふふふふ、たいさんじ×よーむいん、ありだねえ、なあセナ氏」


「ありですわねえ、九条氏。じゅるり」


 うわ。


 お前ら、腐の要素まで持ってたのかよ。


 てか、お前もなんでそちら側にいるんだ、ぽよ丸よ。





「緊急連絡、緊急連絡。先程、当校最寄りの商店において、強盗事件が発生したとのこと。強盗犯は、いまだ逃走中であり、刃物を所持している模様。校舎外の生徒は、速やかにに校舎内に戻って下さい。また、教職員は、直ちに職員室へお戻り下さい。繰り返します。先程、…」


「おお?事件だね?」


「物騒ですわね」


「二人とも、すぐに教室に戻るんだ。指示があるまでは大人しくしてろよ?ぽち、パチンコ玉を預けとく。ぽよ丸、万が一の時は、構わないから遠慮なくぶっ放せ」


「わかった!」


「はい」


 ぽちの頭の上に飛び乗ったぽよ丸も、「ラジャ!」のポーズを取る。


「いきましょうか、大山寺さん」


「おう」





「すでに侵入された形跡があるのですか?」


 巡回中の警備チームが、人通りの少ない敷地の端、金網フェンスの一部が切り開かれていたのを発見したのだとか。


「そうなんだよね。いやはや、身の程知らずの連中だよねえ。と、いうわけで」


 校長先生が、ぬたりと笑う。


「狩りの時間ですよ」


 その言葉に、警備チームも含めた腕に覚えありの教職員は、応えてぬたりと笑い返し。

 それ以外のまともな教職員は、侵入者の行く末を想って、苦笑いを添えた溜め息を吐いた。





「おい、用務員。連中見つけたら俺に譲ってくれ、ストレス解消がしたい」


「いやいや、そうはいかないでしょ。特別ボーナス出ますし」


「しかし羽原木の奴、ヤバイな。目付きが完全に猛禽類のそれだったぜ。変われば変わるもんなんだねえ」


「はっはっは」





「ひいいい!?なんなんだよこの学校!?なんで警備員がガチ武装してんの!?なんなのあのごつい筋肉達磨ども!?」


「わけわかんねえよ!?このコブラナイフ見て全くビビらねえとか!?マジなんなんだよお!?」


 慌てふためく連中の逃走経路に先回り。

 ぎゃーぎゃー喚いている声が、ここまで聞こえてくる。


 発見の報が入ってから、大分たつ。

 こそ泥にしてはなかなか粘った方かね。


「連中三人組で、内一人は、羽原木先生が抑えたそうですよ?」


「やるねえ。さて、用務員。一人ずつで、恨みっこ無しな?」


「ええ、構いませんよ」


 視界に、連中が入る。


「待ち伏せされてっぞ!」


「馬鹿!よく見ろよ、武器も持ってねえし、ひょろいぞ!」


「ぶっ飛ばして人質にするか!」


「ひゃは!おらあ、死にたくなかったら大人しくしんばるっ!?」


 めきり。


 白衣を翻し、蹴撃一閃。


「なんか言ったか?」


 こそ泥の片割れは校舎の壁に熱烈なキスをかましていた。


「な、な、な」


「ぼけっとしてる暇なんざ無いだろうに」


「へあ?」


 残る一人の鳩尾に、掌底をめり込ませる。


「おおぼえええ!?」


「あ!しまった!顎にしときゃよかった。掃除面倒くせえ」


 げろげろ吐きながら崩れ落ちる馬鹿を見ながら、げんなりしてしまう。


「うはははは、間抜けが」


「あーあ」


 まあ、特別ボーナスも入ることだし、いいか。





「大山寺さん、最近よくここに来ますね」


「なんだか知らねえが、最近洒落にならねえ来客数なんだよ」


 げっそりした大山寺さんは、なんだか口から魂が抜け出そうな感じである。


「かっこよかったからねえ、ごーとーぶちのめしてたたいさんじさん」


「華麗に一撃、でしたものね」


「あー、丁度教室棟から見える位置だったもんな、あそこ」


「じゃあこいつは?」


「俺は目立たないように、陰になって見えない位置取りしてたんですよ」


「ぐくっ、この策士め」


「でゅふふふふ、まあ時間のもんだいかもしれませんがな。ねえセナ氏?」


「くすくす。この薄い本が出回れば…。ねえ九条氏?」


「おい馬鹿やめろ。マジで」


 ぽよ丸、こっそりしまったそのぺらぺらの本は何なんだ、おい!?


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