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ある日の雑談・ニ

 後悔先に立たず、なんぞと申しまして。


 ちょっと長い、特殊な旅に出てた時期があり。


 情にほだされて、腐れ縁になった相棒を、連れて帰っちまった。


 向こうでは凄まじい能力を発揮して何度も助けられたんだが、こっちの世界だと使いどころが難しくてねえ、いろいろと。


 かくして。


 また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。


 甚だ不本意ながら。





「よお」


「………」


「よおってば、まだ起きてんだろ?」


「………」


「無視すんなよー」


「………」


「そろそろ、あの嬢ちゃん達に、俺を紹介してくれてもいんじゃね?」


「………」


 現在、夜中の二時である。


 雑音の発生源は、先程からずっとこんな感じで、俺とぽよ丸の安眠を妨害してくれているのだ。


「いーじゃねーかよー。押し黙ってんのも疲れんだぜー?」


 俺の枕の横で眠ろうとしているぽよ丸も、苛つきからか、小刻みにぷるぶるしている。


「よおよお、無視すんなってえ」


「………」


 普段ならば、適当に相手をしてやるところだが、この問題には、じっくり話し合って結論を出した筈なのだ。

 それにも関わらず、元々堪え性の無いこいつは、問題をほじくりかえして、毎日のように俺達の睡眠を邪魔してきやがるのだ。


「………」


 ぽよ丸が、俺の頬の辺りをてしてしする。

 なんとなく、「殺っちゃっていいよね?」てな感じのニュアンスを察した俺が、


「許可する」


 と発言するや、「ラジャ!」てな感じに、うにょんと身体の一部を伸ばし敬礼っぽい仕草をすると、小物入れから大量のパチンコ玉を取り出した。


「俺も会話に混ぜてほしいだけなんだってえ。いいじゃねえか別に」


 ぽよ丸はパチンコ玉をじゃらじゃらと体内に取り込む。


 次の瞬間。


 まるで機関銃のごとく、パチンコ玉を奴に向かって吐き出し始めた。


「いで!?いででででででで!?な、なにしやがんだこの糞スライムう!?」


 金属と金属がかち合う耳障りな音が部屋に響き渡るが、今の俺にとっては、奴の悲鳴のごときそれが、むしろ心地よい。


 ぽよ丸は、跳ね返ったパチンコ玉を、触手のように細く伸ばした自身の一部でひょひょひょいと器用に回収しながら、延々と連射し続けている。


「いでいでいでーての!やめろ!とめろ!ぢぐしょ!いでででで!」


 溜め息をついて起き上がった俺が、ぽよ丸をぽむっと軽く叩くと、それに気付いたぽよ丸が打ち出しを止めた。


「みょーちきりんな技を覚えやがってえ、糞スライムが!おーいてえ」


「二人で研究して生み出したんだよ。な?」


 ぴょこぴょこと身体を縦方向に伸ばしたり縮めたりしているぽよ丸。

 なんとなく、「ざまあ!」とでも言っているかのようだ。


「毎夜々々うるさいんだよ、レオ。その話はケリをつけたはずだろうが」


「だって、あの派手なかっこの嬢ちゃんも、お前が向こうに行ってたことを知ったんだろお?なら、状況は変わってるじゃねえか。だからよお」


「それはそうだが、お前のことを話すタイミングは、俺にまかせてもらう。そういう話になった筈だろーが」


「だからこうしてせっついてんだよ。今のところ、ちゃんと約束守って嬢ちゃん達がいる時は黙っててやってんじゃねーか、感謝しやがれ」


「だからって、俺達の睡眠を邪魔するなよ」


「うけけ、眠れないとなりゃ、俺の話を聞く気になるだろーが」


「ああ?」


 ぶちりと。


 俺の中で、何かが切れる音がした。


「ぽよ丸、パチンコ玉をくれ。そいつに俺の魔力をたっぷりと籠めてやるとしよう。その玉を使って、ぽよ丸連撃弾を放つんだ、ノンストップで」


 再び「ラジャ!」のポーズを取るぽよ丸。

 期待感からか、なんだか妙にてかてかしている。


「まてまてまてまてえ!そん、そんなことされたら、俺の身体がぼろぼろになっちまうだろーが!」


「それがどうかしたのか?」


 俺の底冷えするかのような声音と視線を受けて、奴はようやく、俺が本気で怒っていることに気が付いたらしい。


「わ、わわわ悪かったよ!わわわかった!もうしないから、黙るから!」


「聞こえないなあ」


 パチンコ玉に魔力を籠めるのを続ける俺。


「申し訳ありませんでした我が主よ!猛省致します故、どうか!どうかお許し下さい!」


「………ふむ」


 小さく溜め息をひとつ。


 どうする?と、もう片方の被害者であるぽよ丸に問いかける。


 迷うように、ゆったりと左右に身体を揺らしていたぽよ丸は、少ししてから、「しかたないなあ」てな感じで、身体の両端から短めの触手を出してぴこぴこ上下させた。


「ぽよ丸も赦してくれるとさ、ただし」


 ぎぬろ。


「次はねえぞ?」


 少しばかり強めに殺気を籠めてそう言うと、奴はかたかたと震えながら了解の意を示した。





「んー?」


「お?どうかしたのか?ぽち」


「いや、これさ、なんかすっごい凹んでない?ほら、こことか、ここも」


「気のせいだろ?」


「えー?そう?」


「んなことより、飯の支度できたぞ?喰わないなら、俺とぽよ丸とお姫様でわけちまうが」


「あら、それは良い提案ですわね」


「ば、ばかな!そんなことはありえぬ!みとめぬう!」


「ならとっとと席につけ」


「はーい」


「………ちっ」


「ぬお?いま、セナちゃんしたうちしたよね?したよね?」


「………気のせいですわ」


「馬鹿なことしてんじゃないよ。ほら喰おうぜ?豚カツはやっぱ揚げたてを喰わなきゃな」


「ふおおおお!なんだこの豚カツ!めちゃでっかい!」


「わらじカツってんだよ。定食風にしてみた。残さず喰えよ?」


「言われるまでもないわ!いっただっきまーす!」


「いつもながら、とても美味しそうですわね。いただきますわ」


 自己修復が間に合わなかったか、懲りない奴だよ全く。


 昨日深夜。


 あれほど言ったのに、性懲りもなく夜中にまた騒ぎはじめたので、奴はぽよ丸魔力鋼球連撃弾の餌食になったのだ。


 流石に殺すつもりはなかったので、ぎりぎりのところで止めたけどね。

 ただ、ダメージが大きすぎて、修復機能のキャパを越えちまったみたいだなあ。


 ま、それも自業自得だしな。


 信用していないので、実は日中は魔法を掛けて絶対に口を開けないようにしている。


 あの馬鹿がある程度自重を学ぶまでは、ぽちやお姫様に紹介するのは当分先の話になるだろう。


「あー!?九条様!?今、私のカツを取りましたわね!?」


「ひらないなあ、むぐむぐ」


「嘘おっしゃらないでくださいませ!私、ちゃんと数えながら食べてましたもの!」


「うわ!せこ!セナちゃんいいとこのおじょーさまなのに」


「それは貴女もでしょう!はしたないですわ!」


「………なにやってんだ」


 いやはや。


 これに、あれが加わっちまったらと思うとなあ。

 どうなるか考えただけでも、今から頭が痛くなってくるぜ。


 で、ぽよ丸よ。


 お前もなんで俺の皿からカツを盗んでやがんだよ?


 ったく、どいつもこいつも。


 俺の平穏は、いったい何処にあるんだろうなあ。

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