表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/63

学校の七不思議ツアー〈施設編〉

 学校の謎とか不思議系の話ってのは、まあ、定番だったりするんだが。


 こと、この学校に至っては、その桁が段違いだ。


 かくして。


 あの四畳半を抜け出したとしても、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。





「ほーい、これが、こーしゃのじばくボタンだよー」


「ほんとにありますのね…」


 脱力して両肩を落とすお姫様の頭に、ぽよ丸が飛び乗った。

 あれで慰めてるらしい。


「あたしは、このひとつしか知らないけど、あと百七個あるらしいよ?ほかのところも見てみたいなら、よーむいんさんが知ってる」


「結構ですわ…。なんで百八個も…」


 あーあ、四つん這いになっちゃったよ。

 ぽよ丸にてしてしされてる。


「ちなみに、一度押されると、十五分以内に解除コードを入力しないと本当に爆発する」


「え?そなの?じゃ、なんであたしのときはあんなおーさわぎになっちゃったのさ?止められるんでしょ?」


「解除コードを知ってんのは、理事長と校長先生だけでな、専用の端末も必要なんだよ。あん時は運悪く二人とも海外出張中で、皆それを知ってたんだ。だから必死になってお前にしがみついて止めようとしたってわけでな」


「ほへー」


「これの存在意義が全く見えてこないのですが」


「今じゃ、詳しい話が周知されて全く意味を成してないが、元々は、土壇場で破滅的な暴挙に出るか出ないか、その一線を越えるか越えないか、そこの試金石のためだったんだとさ。あとは、単に漢の浪漫なんだと」


「理解不能ですわね…」


「いーじゃん、笑いのネタだよ、こんなの。さ、次いってみよー!」





「ここは?」


 薄暗い、地下へとつながる階段の入口。

 入口の脇には、筋骨隆々の屈強さんが二名、立哨してくれている。


「んとね、りじちょーの許可がないと入れないんだけど、たまにおそってくる怪物と戦いつつ、いろんなしかけをといて、先にすすむアトラクションなんだって」


「か、怪物?」


 お姫様が、ちらりと俺を見る。


「あー、ジョージ・A・○メロ的な、あれだよ」


「どこかで聞いたことのあるシチュエーションですわね…」


「最近は、萌せんせたちが、たまにくんれんで使ってるんだってー。いいなー、楽しそう」


 マジかよ。


 無茶しやがる。

 犠牲者が出てないといいんだが。


「これは何のために…」


「緊張感を持った生存術の訓練のためだったらしいが、手違いで制御不能の箇所が出来ちゃったみたいでな。今は基本的に閉鎖されてる。あと、これも漢の浪漫だと」


「またそれですか」


「さて、ここは入れないし、次いこー!」


 屈強さんにこっそりと差し入れを渡し、先に行ってる二人を追った。





「………」


 見上げるばかりの黒鉄の巨体。

 鉄筋とトタンで覆われたドックの中で、そいつは一際存在感を放っていた。


「………なんですの?これ」


「未かんせーのロボットシリーズ第一号、まじんくんアルファだよー」


 部活の連中や、OBの有志なんかが、あーでもないこーでもないと、年中常に弄くり回している。


「用務員様?」


「んー?」


「こんなものを造って、この学校は何がしたいのですか?」


「………非常に難しい質問だなあ、それ」


 俺も知りたいよ。


「まあ、始めた理由は…」


「漢の浪漫、ですか?」


「…その通り」


「………」


「あとねー、トリコロールカラーの第二号と、第三号なのになぜかしょごーきって名前の紫色の…」


「九条様!次!次に参りましょう!」


「えー?いいの?見なくて」


「構いませんわ!ほらほら参りましょう!」


 賢明な判断だ、お姫様。





「こちらが、試練の塔でございますよー」


 敷地の外れにぽつんと建っている五重の塔。


「古風な建物ですわね。それで?ここでは何を?」


「一階ごとに、上に昇る階段を護る格闘家がいてな。そいつと一対一で闘って、勝てば上に進める。で、最上階の格闘家を倒すことが出来ればクリアだ」


「なんでわざわざそんな」


「脳筋さん向けの救済措置だよ。クリア出来れば、要求がひとつ叶えられる。生徒だったら、単位の取得とか、職員だったら昇級や昇給かな。処分の取り消しなんかでも可。ちなみに、要求のレベルに応じて難易度が変化するぞ」


「………まさかこれも?」


「そ。漢の浪漫ってやつだ」


「何でも漢の浪漫とか言ったら許されると思ってんじゃねーですわよ?」


 あらら。


 お姫様がちょっぴりやさぐれてんなあ。


「あー、そういえば。ここにも、萌せんせたちが来てるんだって」


 そうなのか。


 ま、こっちの方がまだましではあるな。


「こないだ、形から入ってみようとか言って、みねざき君が、へんな黄色いスーツとヌンチャク持ってたのは、たしかここのせいだったはず」


「………」


 突っ込まない。


 俺は突っ込まないからな?





「とくしゅなどーぶつのしいく小屋だよー。なんと放電する黄色い金持ちねず…」


「次!次へ参りましょう!」


「ほえー?セナちゃんろくに見てないじゃん。それに、この奥にはかくし小屋があって、なんとそこでは世界一の金持ちね…」


「あーあーあー何も聞こえませんわー!」


「なんだよー、きょーのセナちゃん変だよ?」


「覚えておくと良いですわ、九条様。絶対に逆らってはいけない相手というのが、どの分野でも存在するのです!」


「えー?」


 下手すりゃ俺達の存在そのものが抹殺されかねないからな。


 ここに関しては、二度と触れることはないだろう。


 ところで、ぽよ丸。


 お前、黄色いお方に、妙に敵愾心を燃やしてたみたいだが、身の程を弁えろよ?





「ここが、剣の間だね!」


 言うや否や、ぽちはとててーっと駆けていって、石畳の床の一部に深々と突き刺さっている剣の柄に手をかけてしまった。


「ふんぬー!ふぬー!…っと。やっぱあたしはだめみたいだなー」


「お前、いきなり何やってんだ!駄目だったからよかったものの…」


「えへへー」


 俺とぽちのやり取りを見ていたお姫様が、怪訝な顔をする。


「どういうことですの?」


「この剣はね、えらばれた者のみがぬくことができる聖なる剣なのです!」


「ふ、アーサー王の伝説みたいな話ですわね」


 おや。

 お姫様が鼻で笑ってらっしゃる。


「そもそも、抜けたらどうだというのですか?骨董品としての価値は、そこそこありそうですけども」


 繁々と剣を眺めるお姫様は、関心が薄そうだ。

 まあ、今までで一番地味だからな、ここは。


「あー!セナちゃん馬鹿にしてるね?この剣を!」


「いえ、そのような」


「すごいんだよ!この剣ぬくことができたら、異世界にいけちゃうんだよ!」


「はあ?」


 一瞬きょとんとしたお姫様は、次の瞬間、けたけたと笑いだしてしまった。


「おほ、おほほほほほ!い、異世界!異世界ですって!おほほ!」


「むうー」


 むっつりしたぽちは、飛び上がって俺の頭の上のぽよ丸をかっさらうと、笑い続けるお姫様の前にずいと突き付けた。


「おほほ、ほ、ほ?」


「………」


 ずずいと。


「………」


「………」


 ずずずいと。


「………」


「………」


 そしてお姫様は崩れ落ちた。


「不覚!あまりにも馴染んでしまったが故に、その存在の異常性を忘れていましたわ…!」


 ふんすと鼻息も荒くどや顔のぽちと、お姫様の頭上でまたてしてししているぽよ丸。


 ま、普通の世界にゃ存在してないからねえ、スライムは。


「今までに、のべ十八人がこの剣の間で行方不明になり、内三人だけが帰還している」


「その戻ってきた人のしょーげんが、異世界に行ってしばらくせーかつしてたってので、ぜーいんいっしょなの。しかも三人ともおなじ世界に行ってたらしいよ?この学校のひと以外は、だれもしんじてないけどねー」


「三人も生き証人がいるのですか」


「うん。セナちゃんの目の前にも、その内のひとりがいるよー?」


「!?」


 あ、馬鹿。

 ぽちの奴、ばらしやがった。


「用務員、様?」


「まあ、そういうことだな」


「よーむいん室のかべにかざってある洋剣があるでしょ?あれが、よーむいんさんが抜いた剣なんだよ?さ、セナちゃん、次でさいご、いくよー」


「えええええー!?」


 ぽちに強引に引きずられつつ、お姫様は奇妙な叫び声を上げ続けていた。





「ここは用務員室ではありませんか。後一ヵ所あるのでは?」


「そだよ。それがここ」


 ちんぷんかんぷんといった顔つきのお姫様を尻目に、四畳半のど真ん中の畳を外して見せる。


「!?こ、これは?」


 何重にも御札が貼り付けられた、金属製の扉が、そこにはあった。


「開かずの扉っていうんだって。せつめーはよーむいんさんにバトンタッチで!」


「はいはい。こいつは、この学校が出来る前からここにあるみたいでな、絶対に開けてはならない扉なんだとさ。聞いた話だと、黄泉比良坂に通じているらしい」


「日本神話ですか!」


 霊感があるわけじゃないが、なんかこれがヤバイってことだけはわかるんだよね。


「と、まあ、こんな感じで、この学校にはいろいろとおもしろい場所があるのだ!」


「本来は、入学時にオリエンテーションで回って、危険性や、そこで何かやらかした時の罰則なんかも説明しておくんだがなあ。お姫様は転校生で、なんか手違いもあったのかな?今まで説明を受けずにいたみたいだな」


「なんだか、今日はとても疲れましたわ」


「普通に学生生活送ってたら、まず関わらないところばかりだが、知らずに巻き込まれでもしたら面倒なことになるからな。予備知識を得たとだけ認識しておいて、気にしないことだ」


「…はあ、わかりましたわ。しかしながら、私、御父様の指示に従ってここに転校したのですが、御父様、御母様はこのことを御存知なのでしょうか?」


「さあー?きいてみればいいんじゃない?」


「そうですわね、そうしますわ」


 後日。


 お姫様が父親に確認をしたところ、父親だけが色々知っていて、ただ単に「面白いから」という理由でお姫様を転校させたんだとか。

 母親と二人がかりでタコ殴りにしてやったとのことである。


 南無。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ