別の時間軸へのプロローグ
ふらふらと目指すものも無く日々を送っていた俺に、業を煮やした世話焼きな伯母さんが無理矢理に仕事を宛がった。
伯母さんは、そこそこ有名なグループ企業経営者の後継者候補の一人であり、グループの経営する、とある学校法人の理事を任されていたのだ。
で。
俺は強引に、その学校の用務員にされてしまった。
しかしなあ。
一体この学校は何を目指してんだろうか。
変な理事長。
変な校長。
変な教師。
変な生徒。
変な部活。
変な施設。
変な職員(俺も含めて)。
何もかもがへんてこなこの学校。
住み込み、ということで。
何故かやたらと充実した厨房付きの、四畳半の部屋を与えられた。
さて。
働き始めてしばらくすると、そんな俺の部屋に、何故だかやたらとお客さんがやって来るようになった。
理由?
そんなの俺にはわからない。
かくして。
また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。
甚だ不本意ながら。
★
「ここは用務員室なんですが」
「知っておるよ、そんなことは」
「いや、ですから、なんで貴方がここにいるんですか、校長先生」
「君が淹れてくれるお茶がおいしいから、とか言ったら、儂、どうなっちゃうのかな」
「殴りますね。用務員として」
「殴られちゃうんだ。儂、校長先生なのに。あと、用務員は関係無いよね?」
「五十過ぎのおっさんに気持ちの悪い台詞吐かれたら、やるせない憤りが拳に宿って発散されちゃうんですよ。実に自然な流れじゃないですか。用務員として」
「随分と歪な自然もあったもんだね。あと、やっぱり用務員は関係無いよね?」
「………」
「………」
二人で茶を一服。
「………」
「………」
「ここは用務員室なんですが」
「知っておるよ、そんなことは」
「いや、ですから、なんで貴方がここにいるんですか、校長先生」
「君が淹れてくれるお茶がおいしいから」
☆
只今、描写を控えざるを得ない、残酷な虐待が展開されております。
復旧まで、今しばらくお待ち下さいませ。
☆
ぐちゅっ。
ごり。
☆
いまだ、続いております。
もうしばらく、お待ち下さいませ。
☆
「いやあ、ここまでこてんぱんにされるとは思っていなかったよ」
「中途半端はよくないですからね。用務員として」
「活字だからわからないだけで、今の儂、けっこうグロテスクだよ?あと、くどいから、もう突っ込まないからね?」
「昔、偉い人が言いました。『顔はやばいよ、ボディやんな、ボディを』と。だから、校長先生はまだ話ができるのです」
「今ほんとに偉い人だからね?色々洒落になってないよ?」
「………」
「………」
二人で、茶をいま一服。
「………」
「………」
「教育者として、自信が持てなくてねえ」
「ほほう。たかが新任の用務員ごときに、そんな相談をするのも如何なものかと思いますが、とりあえず、聞くだけは聞きましょうか」
「新しく留学生が入ることになってね?」
ぴらりと。
校長先生が一枚の履歴書を見せてくれる。
「………」
「………」
あ、あれ?
なんか、うーん、気の、せい、なのかな。
「この、顔写真のところに貼ってあるのは、何です?」
「え?そりゃもちろん顔写真だよ。まあ、顔というか、全身像になっちゃっておるけどね」
「………」
「あれ?知らないってことはないよね。ほら、古典のRPGとかでも出てきおるし、有名でしょ」
「………」
「日本だとなんだか雑魚扱いされてるけどさ、実際はやっかいな相手らしいねえ」
「留学生、なんですか」
「うん。どういう経緯で受け入れが決まったのかとか、詳しくは聞かされてないけど。先方さんのたっての望みらしいよ?」
「………」
俺は、どこかで。
「流石にねえ、自信が持てないんだよ。どう意志の疎通を図ったらいいのか…。教育者として、どう導いてあげられるのか…」
「………」
「スライムの彼を」
なんだろう、この既視感。
俺は、このスライムを、知っている?
「………」
「………」
はは。
なに考えてんだ俺。
んなこと、あるわけないのに。
「校長先生、きっと大丈夫ですよ」
「そ、そうかね?」
「ええ。悩むところが“そこ”なら、きっと大丈夫だと思いますよ?俺なんかには、きっと………無理、です、から」
や、どうなのかな。
以外と、いけるかもしれない。
「うん、そうかあ、うん、じゃ、頑張ってみるかな」
「その意気ですよ。あ、お茶、もう一杯、いかがですか?」
「ありがとう、頂こうかね」
★
さて。
この留学生のスライム、ぽよ丸と、俺は無二の親友となるのだが。
そこからの話は、また、どこか。
別の場所で、きっと、語られることだろう。
縁あれば。
活動報告にも書きましたが、これにて一旦、閉幕とさせて頂きます。
拙作を読んで下さいましたこと、誠にありがとうございます。
用務員達が帰ってきたあかつきには、また会いに来てくださると嬉しいですね。
では、また。




