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別の時間軸へのプロローグ

 ふらふらと目指すものも無く日々を送っていた俺に、業を煮やした世話焼きな伯母さんが無理矢理に仕事を宛がった。

 伯母さんは、そこそこ有名なグループ企業経営者の後継者候補の一人であり、グループの経営する、とある学校法人の理事を任されていたのだ。


 で。


 俺は強引に、その学校の用務員にされてしまった。


 しかしなあ。


 一体この学校は何を目指してんだろうか。


 変な理事長。

 変な校長。

 変な教師。

 変な生徒。

 変な部活。

 変な施設。

 変な職員(俺も含めて)。


 何もかもがへんてこなこの学校。


 住み込み、ということで。

 何故かやたらと充実した厨房付きの、四畳半の部屋を与えられた。


 さて。


 働き始めてしばらくすると、そんな俺の部屋に、何故だかやたらとお客さんがやって来るようになった。


 理由?

 そんなの俺にはわからない。


 かくして。


 また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。


 甚だ不本意ながら。





「ここは用務員室なんですが」


「知っておるよ、そんなことは」


「いや、ですから、なんで貴方がここにいるんですか、校長先生」


「君が淹れてくれるお茶がおいしいから、とか言ったら、儂、どうなっちゃうのかな」


「殴りますね。用務員として」


「殴られちゃうんだ。儂、校長先生なのに。あと、用務員は関係無いよね?」


「五十過ぎのおっさんに気持ちの悪い台詞吐かれたら、やるせない憤りが拳に宿って発散されちゃうんですよ。実に自然な流れじゃないですか。用務員として」


「随分と歪な自然もあったもんだね。あと、やっぱり用務員は関係無いよね?」


「………」


「………」


 二人で茶を一服。


「………」


「………」


「ここは用務員室なんですが」


「知っておるよ、そんなことは」


「いや、ですから、なんで貴方がここにいるんですか、校長先生」


「君が淹れてくれるお茶がおいしいから」



 只今、描写を控えざるを得ない、残酷な虐待が展開されております。


 復旧まで、今しばらくお待ち下さいませ。



 ぐちゅっ。


 ごり。



 いまだ、続いております。


 もうしばらく、お待ち下さいませ。



「いやあ、ここまでこてんぱんにされるとは思っていなかったよ」


「中途半端はよくないですからね。用務員として」


「活字だからわからないだけで、今の儂、けっこうグロテスクだよ?あと、くどいから、もう突っ込まないからね?」


「昔、偉い人が言いました。『顔はやばいよ、ボディやんな、ボディを』と。だから、校長先生はまだ話ができるのです」


「今ほんとに偉い人だからね?色々洒落になってないよ?」


「………」


「………」


 二人で、茶をいま一服。


「………」


「………」


「教育者として、自信が持てなくてねえ」


「ほほう。たかが新任の用務員ごときに、そんな相談をするのも如何なものかと思いますが、とりあえず、聞くだけは聞きましょうか」


「新しく留学生が入ることになってね?」


 ぴらりと。


 校長先生が一枚の履歴書を見せてくれる。


「………」


「………」


 あ、あれ?


 なんか、うーん、気の、せい、なのかな。


「この、顔写真のところに貼ってあるのは、何です?」


「え?そりゃもちろん顔写真だよ。まあ、顔というか、全身像になっちゃっておるけどね」


「………」


「あれ?知らないってことはないよね。ほら、古典のRPGとかでも出てきおるし、有名でしょ」


「………」


「日本だとなんだか雑魚扱いされてるけどさ、実際はやっかいな相手らしいねえ」


「留学生、なんですか」


「うん。どういう経緯で受け入れが決まったのかとか、詳しくは聞かされてないけど。先方さんのたっての望みらしいよ?」


「………」


 俺は、どこかで。


「流石にねえ、自信が持てないんだよ。どう意志の疎通を図ったらいいのか…。教育者として、どう導いてあげられるのか…」


「………」


「スライムの彼を」


 なんだろう、この既視感。

 俺は、このスライムを、知っている?


「………」


「………」


 はは。


 なに考えてんだ俺。

 んなこと、あるわけないのに。


「校長先生、きっと大丈夫ですよ」


「そ、そうかね?」


「ええ。悩むところが“そこ”なら、きっと大丈夫だと思いますよ?俺なんかには、きっと………無理、です、から」


 や、どうなのかな。


 以外と、いけるかもしれない。


「うん、そうかあ、うん、じゃ、頑張ってみるかな」


「その意気ですよ。あ、お茶、もう一杯、いかがですか?」


「ありがとう、頂こうかね」





 さて。


 この留学生のスライム、ぽよ丸と、俺は無二の親友となるのだが。


 そこからの話は、また、どこか。

 別の場所で、きっと、語られることだろう。


 縁あれば。


 活動報告にも書きましたが、これにて一旦、閉幕とさせて頂きます。


 拙作を読んで下さいましたこと、誠にありがとうございます。


 用務員達が帰ってきたあかつきには、また会いに来てくださると嬉しいですね。


 では、また。

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