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禁断の技

 今は、ネット覗けば情報が溢れてるから、そんなこともないのだろうけど。


 ひと昔前なら、例えば、

 キーアイテムを入手してなかったり。

 頑張って育てたキャラが、最終的にどうしょうもない弱キャラだったり。

 隠し要素が判明した時に、すでにフラグのポイントを通過してしまっていたり。

 バグに捕まって、にっちもさっちもいかなくなったり。


 そんな時。


 今なら、 

 ランダム要素の結果が気に入らないとか。

 戦闘でのルーチンのタイミングがコンマ何秒ずれたとか。

 アイテムやらポイント失うのを回避するためとか。


 そんな時。


 当たり前のようにそうする。

 そうしてしまう。


 ま、現実世界じゃ無理な話だ。


 現実世界なら、な。


 かくして。


 また今日もこの学校で、なんだかへんて こな日常のひとこまが綴られたりするのである。


 甚だ不本意ながら。





「………」


「………」


「………」


「………」


「………」


 その日の放課後。


 俺、ぽよ丸、ぽち、姫、ゴンザレスは、ちゃぶ台を取り囲んでいた。


「なんなんだろね?これ」


「みたまんまを申し上げれば、何かのボタン、なのでしょうけども」


「朝おきたら、唐突にそこにあったと。そうなんだよな?相棒」


「ああ」


 そう。


 朝、ぽよ丸に、いつもより強めのてしてしでおこされ、ぴこりと指し示す触手の先を見てみると。


 ちゃぶ台の上に、どでんと四角いボタンが現れていたのだ。


 うかつに触るのも怖すぎるので、そのままにしてあるのだが、昼飯を食べにきたぽちと姫には当然知られてしまい、放課後、こうしていつもの皆でそのボタンを眺めているのだ。


「………おしてみちゃう?」


「いえいえいえ、九条様、流石にそれはいかがなものかと」


「だなあ。得体が知れなさすぎるぞ。このボタン」


「ふうむ。どうしたもんかねえ」


 ぴこぴこ。


「がうー」


「ならこいつのことはとりあえずおいといてさー。よーむいんさん、おやつ食べよーぜ!」


「それは名案ですわね!」


「………」


 まったく、こいつらときたら。


「いいじゃねえか相棒、どのみち調べがつくまでは放っておくしかねえんだしよ?」


 まあ、それもそうか。


「ほいほい、ちょっと待ってろ」


 とりあえず、ちゃぶ台は脇によけとくか、邪魔だし。





「な、ななななんじゃこりゃああああああ!」


「アイスクリーム?ブロック?え?なんですの?これ?」


 お盆に乗せて、慎重に、慎重に、運んできたそれを、そーっと部屋の真ん中に置く。


「さあ、召し上がれ。クリームソーダだよ?一つしかないけど、十分だよね?」


「つくった本人がぎもん系じゃないかー!うはははははは!すげー!アイスこれ、どんだけの高さがあるんだー?」


「ソーダをいつ飲めますことやら…」


「もう閉店しちゃってるお店のメニューを真似してみた。出来心で」


 ビールジョッキにメロンソーダを注ぎ、その上に、ブロック状に固めた手作りバニラアイスを、倒れないようにきっちりごてごてと盛ってみました。

 

「いよっしゃああああああ!せんとーかいしじゃああああああ!」


「特製クリームソーダ様!相手にとって不足なしですわ!いざ!」


「流石に飽きるだろうから、いろいろアイスにかけるソースも用意した。さて、俺も喰うか」


「ぶはははは!こりゃ見ものだな!」


 ぴこぴこぴこ。


「がうがうー!」


 触手でスプーンを構えて、「がんばるぞー!」と、ぴこぴこするぽよ丸と、「みんながんばれー!」と、応援してくれるゴンザレス。


「ふうははー!おらおらおらー!」


「この質!この量!ふふふふふ、なにか変なテンションになってきましたわ!」


 ぴこぴこ。


「ソーダにたどり着くまで負けんじゃねえぞ!」


「ういー!」


「お任せ下さいませ!」


 ぴこ!


 ふ。


 このチームワークならば!敗北はないな!





 ずご。


 ずごごごごー。


「………」


「………」


「………」


 最後に俺とぽちと姫で残ったソーダをストローですすってフィニッシュ!


「ふいー。これにて、完、食!」


「………」


「………」


 お?


 なんだ?


「どうした?ぽち、姫」


「うええ!?ななななんでもないよ!?」


「ふひう!?ななななんでもありませんですことよ!?」


「?」


 なんなんだ。


「あんな恋人みたいなきょりでソーダをむにゅむにゅむにゅ…」


「りりしいお顔があんなに近くにあったらもにょもにょもにょ…」


 何をぶつぶつ言ってんだ。


 しかし、ま、当たり前の話だが、喰いすぎだな。


 ぼてりと。


 仰向けで大の字に寝転がる。


 ぽよ丸はゴンザレスの上に登ってふらふらしてるな。

 ゴンザレスもおやつの果物喰って満腹で眠くなったか?うとうとしてる。


「やー、さすがにちょっとくるしいねえ」


「ですわね。ひと休みしませんと」


「んだんだ」


 ぽちと姫もごろりと寝転がってしまった。


「はは、二人とも、牛になっちまうぞ?」


「えー?それならよーむいんさんもじゃんかー」


「皆で仲良く牛になればよいのですわ」


「なんじゃそら」


 くすくすと揃って笑う俺達。


 あー。


 眠くなってきたなあ。


 なんか大事なこと忘れてる気がしないでもないが、あれ?なんだっけ?


「用務員さん?おるかねー?」


 がらりと。


 荷物を抱えた校長先生が入ってくる。


「むむむ。重い。ちと、これを置かせてもらうよー」


 はいはい。


 勝手にして下さいよ。


「相棒!ボケッとしてんじゃねえよ!」


 んあ!?


 レオの切羽つまった声に、はっと我に返る。


 校長先生がちゃぶ台の上に荷物を置…!?


 やべえ!?


「校長先生!まっ…」


「へ?」


 カチッ。


「あ」


「ん?」


 ゴバア!


 押されてしまったボタンを中心に、凄まじい光の奔流が溢れ出す。


「にょわあ!?」


「なんですの!?」


 ぴこぴこぴこぴこぴこぴこ!


「がうう!?」


「こいつは!?時系の!?」


「くっ!?神級だと!?中和は無理か!」


 そして。


 全てが光に包まれた。





「………」


 あ?


 えーと。


 俺、何してんだっけ。


 桜吹雪の中、ぼんやりと立ち尽くしている俺の横を、学生服姿の少年少女達が、怪訝な顔でチラ見しながら通りすぎていく。


 ああ、そうだ。


 いつまでもふらふらしてんじゃない!って、お怒りの伯母さんから、仕事貰ったんだった。

 しかしなあ、こんなにバカでかい敷地を持つ学校の用務員なんて、俺に務まるのかねえ?


「あの?どうなさいました?先程からずっと動かずに、立ったままで。どこかお加減でも?」


「………」


 うお。


 後ろから声をかけられて振り返ると、めちゃ美人さんの二人組が。

 しかし、片方は………なんてでかさだ。

 う、見てんの気付かれてるな、によによ笑われちまってら。


「あ、ああ、すいません。今日からこちらで用務員としてお世話になる者です。あまりに規模が大きい学校だったんで、面喰らっちゃって」


 俺の言い訳に、爆乳さんの方がにぱっと笑う。


「あー、わかるわー。あたしも最初来た時にはビビったもんねー」


「ふふ、確かにそうですねえ。あ、用務員の方なら、事務局に御用ですよね?」


「いえ。最初は理事長室に来るように言われています」


「は?」


「俺、血縁でしてね、ここの理事長の。縁故採用ってやつなんですよ、お恥ずかしながら」


「へええ?“あの”理事長の、ねえ」


 “あの”て。

 伯母さん、あんたここでなにやってんですか。


「そ、そうなんですか。いずれにしても、ご案内しましょう。初めての方は、大概迷ってしまうんですよ?ここ」


「すみません、助かります」


 この学校の教師だという二人の女性と連れだって、俺は、校内に足を踏み入れた。


 いつか行こうと企んでいたのですが、閉店してしまいましたねえ。

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