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悪の組織の下拵え

 毎度正義の味方に倒される運命の悪の組織なのだが。


 作り手によってとか、世相によってその行動が左右されることもあって。

 だから時に、ドン引きする程にハードな連中もいれば、逆に爆笑してしまうようなお馬鹿な連中もいたりとか。


 時にはヒーローより人気が出てしまうような魅力的な悪役も産み出されたりもする。


 変な言い回しになるけど、人間の複雑な感情に訴えかけて、“上手に”悪と認識されるのは大変なことだ。


 だらこそ、悪役について熱心に語り合うファン層もいるのかなと。


 愛される悪役。


 どうにも矛盾した妙な言葉だが、俺は、それが嫌いじゃない。


 かくして。


 また今日もこの学校で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。





 土曜の夕方。


 顧問の御子柴先生の監督のもと、俺と羽原木先生がコーチをつとめ、ヒーロー部と悪の組織部の皆に、軽くウォーミングアップ程度のトレーニングを施したのだが。


 その思いの外のダメっぷりに、久しぶりに羽原木先生の中のハート○ン軍曹が目覚めたりして。

 全員がずたぼろになりながら、どうにかこうにか訓練を終えたのだが。


 帰宅しようとした部員の中の一人、悪の組織部の部長を、御子柴先生が呼び止めた。


 部員勧誘ショーの際に、幹部を演じていた男子生徒、佐藤くんを。





「田中くんの親友なのか、君は」


「ええ、そうなんです。幼稚園の頃からの腐れ縁でして」


 へえ。


「昔からヒーローごっこ遊びが好きで、最初は代わる代わる善玉悪玉を演じてたんですが。その内、啓太の奴がヒーローの格好良さに魅せられたのに対して、僕は悪役を演じる楽しさに魅せられたんです」


 ほう?


「するとあれか、ちょっと変わった俳優志望ってとこかな?」


「そんな感じです。悪の組織部に集まったのは、観衆のヘイトを巧みに引き出して、いかに善玉を引き立てるかを研究しようとする、様々なショービジネスでの悪玉キャラを目指してる連中なんですよ」


「………」


 むう。


 なんか、格好いいじゃないか。


 御子柴先生がにやりと笑って、頷く。


「よし。その辺りをもう一度、しっかりと確認しておきたかったんだよ」


「と、言いますと?」


「部の名前に“悪”なんてついてるからな、頭の堅い先生から、ちょいとつつかれたりしてるのさ」


「ああ。まあ、万が一を懸念する人もいるんでしょうねえ」


「僕らが本当に悪事を働くために集まったと?あっはっはっは!」


 ま、流石にそれはないだろ。


「悪事を働かないが、悪の存在として成立しなければならない、か。佐藤くん、あらためて考えてみると、こいつはなかなか厄介だな」


「啓太がヒーロー部を立ち上げるってんで、じゃあ相手役がいるだろって、きっかけはそんなもんなんですけど。確かに、では、どうやって悪として活動するのかといえば、確かに難しいですねえ」


「ふむ。学外の活動はとりあえず論外。学内においても、生徒や教職員等、学校に関わる人物に危害を加えるなどもっての他、施設の破壊等も許されん。それはまあ、ヒーロー部の連中にしても同様だがな?しかしそうなると、これは…」


「………」


「………」


「………」


 あれ?


 地味に詰んでないか、これ。


「あ、そういえば。御子柴先生、地下クリーチャーの研究成果をフィードバックするとか言ってたあれはどうなってんです?」


「ん?ああ、あれか。より安全性を高めた、バイオクリーチャーを開発中だ。刷り込みや躾で行動を制御する技術を確立し、外見は凶悪でも、外皮やら爪や牙をぷにぷにの肉球なみに軟らかく組成してな?殴られようが、引っ掻かれようが、噛みつかれようが、物理的なダメージを最小限に抑えられるように。あとは、体液を自在に噴出したり、とかげの尻尾のように部分的な体組織の切除、再生も可能にして、ダメージエフェクトもばっちりだぞ?」


 すげえな!?


 マジですかそれ!?


 俺、実はマッドな方向で滅茶苦茶心配してたんですが。

 正直すんませんしたあ!


 しかし。


 なんて無駄すぎるハイテクノロジー。

 なんて無駄すぎる非凡な才能の発揮。


 ん?

 あ、これもマッドではあるのか。


「怪人の開発の目処はたってるが、それだけで成立するものでもないし」


 や。

 十分にすごいけどね?

 特撮番組やその手のアトラクションに関わってる皆様とかには垂涎の技術じゃね?


「そうなると、まあ、我々の活動としては、定期的に体育館等をお借りして、ショーを開催するとかですかねえ?」


「その辺りが無難なラインだね」


「ふうむ。やはり悪の組織部の方は心配なかったなあ」


 む?


 やはり、とはなんぞ?


「御子柴先生、まさか啓太…」


「ああ。お前より先に、田中にも面談したんだがな」


 ?


 俺がきょとんとしているので、苦笑いしながら教えてくれる。


「用務員さん」


「はあ」


「田中の奴は、ガチなんだ」


「………」


「………」


「………」


 お、おう。


「あいつだけでなく、ヒーロー部の部員共も、割りと、ガチなんだ」


「………」


「………」


「………」


 お、おおう。


「つまり、ヒーローに憧れてちょいとコスプレに興じてみたりとか、未来のアクションスターやスタントマンを目指してとか、そういうんでなくて?」


「ロボ研に、スーツやアイテム、合体ロボの開発依頼とかしてるんだよ、ガチで」


「他人を巻き込まないようにしないと、て僕が言っても、「ああ、もちろんだ。だが、悪の倒滅のためには、已む無き犠牲が出てしまうこともある。哀しいことだが、それが現実なんだ」とか、爽やかな笑顔で言っちゃったりするんです、あいつ」


「………」


 おい。


 おいこら。


「悪の組織の幹部が、その活動による被害が出ないように心を砕いているのに、ヒーローがそれを台無しにする発言を、しかも爽やか笑顔で?」


「………」


「………」


 これじゃ、どっちが正義で、どっちが悪なのかって話だよ。


 あきらかに佐藤くん率いる悪の組織部の方が格好いいぞ?

 なんというか、志的なサムシングにおいて。


 少なくとも俺内部において、ヒーロー部が、あらゆる意味において完全敗北確定。

 現状なら、迷わず悪の組織にエールを送るよ。


「明日からの訓練メニュー。ヒーロー部と悪の組織部でコース分けましょうかね。うん」


 肉体的な面だけでなく、精神的な部分も徹底的に鍛えなおさにゃならんからなあ。


 田中の野郎、やっぱり説教が必要だ!


 筆者が心を奪われた最初の悪役は、全身銀色の、黒い銃持って破壊破壊言ってたあの方ですかね。

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