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どこかにしまってあるらしい・後編

 生きていりゃ、過去が積み重なっていく。


 当たり前のことだ。


 で。


 本人か、または、その人を知る誰かが、 情報をもたらすことがなければ。


 その人の過去なんて、全てを知ることは難しいだろう。


 ま、たまには。


 今回のように。


 ひょんなことで、その一部を知る機会が訪れたりもするけどね。


 かくして。


 また今日もこの学校で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。





 おおー。


 お兄さん達が校庭内をバイクで走り回ってますな。


 警備チームも苦笑いですよ。

 手出し不可能だと思い込んで、暴れてるお兄さん達だが、手出しさせてないだけなのにね。


 さて。


 別にいつでもいけるが、桜島先生の動きに合わせたいからな。

 羽原木先生と二人で、他校の生徒さん救出の機を窺っているところである。





「んで?おたくどちらさんなわけ?」


 手下に周囲を囲ませた中に陣取った、リーダー格の一人が、にやにやといやらしく笑いながら桜島先生に話しかけている。


「あなた方のお目当ての生徒ちゃんの先生ですよ~」


「先生様に用はないの。わかる?俺達のめぐみとえりこをさっさと開放しろ。生徒のプライベートにまで先生様が出張るなよ。プライバシーの侵害ってやつだぜ」


 何がおかしいのか知らないが、奴らがけたけたと笑いだす。


「でも~、はいそ~ですか~と渡すわけにもいかないんですよね~。あの子達~、とぉっても、すぅっごく、嫌がってますので~」


 びきり。


 連中のこめかみに青筋が浮き上がった。


「んなわけねえだろ。俺とえりこは愛し合ってんだからよ?あとさ、あんた、状況わかってる?」


 バイクから降りた男が、ゆらりと、桜島先生に寄っていく。

 その動きに合わせるように、手下らしい男の何人かが、ぞろぞろと桜島先生を囲むように動く。


「なあ、あんたさ、さっさとゆうさんのイイ人つれてこいって。じゃねえと、ヤバいことになんぜ?」


「え~、でも~、本人達が~」


 のほほんとしている桜島先生に苛つかされたのか、取り巻きのうち一人が、桜島先生の肩に手をかけた。


「あーもう!うっぜえな!とろくせえしゃべりかたしやがって!いいから連れてこいってんだよババ」


 ご!


 おお。


 台詞を言い切る前に、その男が真横に吹き飛んだ。

 土煙を上げながら、地面で何度かバウンドして、そいつはピクリともしなくなる。

 ま、気絶してんだろう、きっと、多分。


「………」


「………」


「………」


「………」


 突然のことに呆然としている連中の視線が、吹き飛んだ男から、その原因に、ゆっくりと戻されていく。

 すなわち、桜島先生である。


「ふぅふふぅ。女性に対してのマナーがなってませんね~?それじゃ~もてませんよ~?減点ですねぇ」


 いつの間にか。


 桜島先生の手には、地面に杭を打ち込むときなどに用いる、ばかでかい木槌が握られていた。


 あの時も思ったが、一体どこに仕舞ってあったのか、さっぱりわからない。


「て、てっめえええ!?」


 いきり立った取り巻き共が、一斉に襲い掛かろうとする。


 が。


 ごが!


「とろ!?」


 ごん!


「んぼ!?」


 どご!


「おん!?」


 全員、とても美しいアーチを描きながら、四方に吹き飛んで、先の男の後を追うのみ。


 いやはや、こりゃ素晴らしいですな。

 小柄な体躯ながら、大振りの木槌に振り回されることなく、遠心力を有効に活用して腰の入った一撃を高速かつ連続で放ったのだ。

 実に見事に使いこなしている。


 羽原木先生曰く。


 代々、大工さんを営む家の娘さんであるという桜島先生は、幼い頃から大工道具や 工具と慣れ親しんでいて。

 いつも肌身離さす、何かしらの道具か工具を持ち歩かないと落ち着かないのだと か。


 十代の頃は、ちょっとやんちゃなお嬢様方の集いに参加していたこともあるらしく。

 唸りを上げる道具達が猛威を振るい、“夜叉姫大工”などと呼ばわれていたとか。


 うーん。


 人に歴史あり。


 怖いね。


 この間の、居酒屋用務員室開店日。

 脱ぎ散らかされた桜島先生の衣服の周りに、鋸だの、釘打ち銃だの、やたらと物騒な工具類が転がってたのが不思議だったんだよね。


「…ってめえええ!?」


 激昂した“ゆうさん”が、鉄パイプで打ちかかるのを、桜島先生は事も無げに受け止める。


 何故か、チェーンソーで。


「は!?」


「ふぅふふぅ。おいたをする子にわ~、ちょ~っぴり、お、仕、置、き、が必要ですよねぇ?」


 鉄パイプと鍔迫り合いをしている本体を微動だにさせず、スターターロープを勢いよく引き、エンジンを始動。

 は、ありゃ、膂力も見た目通りじゃないよなあ。


「な!?な!?」


 ど、ど、ど、ど、ど。


 “ゆうさん”が、だらだらと冷や汗を流している。

 彼には、あのエンジン音が、さぞかし不気味なメロディーに聞こえていることだろう。


 にっこり。


 桜島先生が、微笑む。

 可憐な笑顔だ。


 チェーンソー付きでなければ、ね?


「う、嘘だろ!?こん」


 ちゅいいいいいん。


 アクセルが握りこまれたチェーンソーの刃が回転し、鉄パイプが火花を散らし始める。


「うわ!?うわあ!?」


 慌てて飛び退き、めったやたらに鉄パイプを振り回す“ゆうさん”。

 桜島先生は、にこにことチェーンソーを操って、さらりとそれをいなしていく。


 ちゅいん。


 ちゅいん。


「ひいいい!?お、おいてめえら!なにやってんだ!かかれ!全員でかかれえ!」


 切り飛ばされて短くなってしまった鉄パイプを放り投げ、彼は大声で叫び、手下に指示。


「………」


「………」


「………」


「………」


 そりゃ、二の足を踏むわなあ。

 得物が違うし、ぶっちゃけ、今の桜島先生は、怖い。


「くそ!くそが!」


 ナイフを取り出したもう一人のリーダー格の男が、背後に向き直る。

 大方、他校の生徒さんを人質にでもしようとしたんだろうが。


「なあ!?ヒロ!?リョータ!?」


 気付くのが遅い。


 彼が見たのは、でろりと地面に横たわる仲間の二人と、その仲間のバイクに気怠そうに座っている大山寺さんである。


 桜島先生が暴れだした時点で、俺と羽原木先生が、馴れ馴れしく肩なんぞを組んでいた“ヒロ”と“リョータ”をぶちのめし、他校の生徒さんをさっさと救出してしまったのだ。

 今頃は、羽原木先生に案内されて、用務員室かな?


「バックアップなんて必要ねえだろ、これ。なんで俺、呼ばれたんだよ?」


「あ~!?大山寺さ~ん、恋、とっても怖かったです~」


 チェーンソーを放り投げ、大山寺さんにすり寄る桜島先生。


「どこがだよ!?」


 ははは。


「な、なんなんだよこの学校?」


「いかれてやがる」


 うん。


 確かに、そこは否定できない。


「に、逃げろ!逃げろお!」


 わあ、と。


 逃げようとする手下の皆さん。


 が。


 甘いよ?


「!?」


 いい笑顔で、ゴム弾が装填されたアサルトライフルを構えた、警備チームの皆さんである。


「この学校でこんな真似して、ただで出られると思ってんのか、お前ら。一斉射!てー!」


「「「「「「「「ぎいゃああああああ」」」」」」」」


 うわあ。


 なんでそんなに楽しそうなんですか、警備チームの皆さん。


 南無南無。





 身も心もズタボロにされたワルな集団は、ほうほうの体で逃げ出そうとしていた。


「このままじゃすまさねえ。この学校のやつら、ひとりずつ的にかけて、いたぶってやる」


「ひへへ。許さねえ、許さねえぞお」


 やっぱりなあ。


 この手の連中は、ねちねちぎとぎとしつこい場合があるんだよ。


「待ってもらえるかな?」


「あ?」


「んだよ?お前」


 さて、ちょいとフォローしときますかね。


 その後。


 ドーンスラッシャーズと名乗っていた、十代後半から二十代前半で構成されたやんちゃな若者のグループが、忽然と消え去り。

 その構成員達は、何を聞かれても、一切その問いに答えることはなく。


「勉学って、素晴らしい!」


「労働って、尊いよね!」


 などと、爽やかな笑顔でいい放ち、真面目に生きているそうな。


 何をしたのかって?


 ハハハハハ。


 秘密。

 んー。


 何かが欠けていく感じがしているような。


 書き続けるって、難しいですよねー。


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