林間学校・五日目・前編
前回までの、「用務員さんのいる四畳半」は。
「マスクを被ったフレッドとそのお友達 の、ガチムチポージング無限ループだ」
「ふん!」
「なんじゃこりゃああああ!?」
「はあ!」
「うわあああとめられねえええ!?」
「なぜだああああ!?」
「がう~♪」
「くまああああ!?」
「ぽよ丸エステ?」
なんだか次第に混沌としつつ。
五日目でございますよ。
★
「ねえねえ、よーむいんさん」
「んー?」
「いたいけなしょーじょに、このあつかいはないと思うんだー」
「いたいけな少女はな?人を殺せる料理は作らないんだぞ?ぽち」
「むう」
「あの?用務員様?」
「んー?」
「可憐な乙女に、この仕打ち。私、有り得ないと思いますわ」
「可憐な乙女はな?料理をする時に、爆発とかしないんだぞ?姫」
「はう」
「あとな?いたいけだの、可憐だの。そういった言葉は、客観的な視点から、該当する対象に対して用いられるもんだ。普通、主観的には使わねえぞ?」
「ぺっ」
「ちっ」
だから。
いたいけな少女は、そこらに唾を吐いたりしないし、可憐な乙女は、露骨な舌打ちなんぞしないと思うよ?
本日の昼飯は、生徒も先生も、自分達でカレーを作ることになっている。
さて。
ここで問題になるのが、今現在、屋外調理場の側にある大木の枝に、縄でぐるぐる巻きにされて吊るされ、ぷらんぷらんと揺れている、ぽちと姫である。
同じ班の女子生徒に、涙目で、切実に助けを求められた教師陣が、初日の惨状を鑑みて已む無く下した英断。
つまり。
患部をばっさりと切除。
うん。
大正解。
で。
班の欠員の補充として、俺と大山寺さんが、ぽちと姫の班の調理に加わっているのだ。
一部の先生、というか、愛加辺先生から猛烈な抗議があったが、却下された。
ま、あの人は、自分で調理したくないのと、可能ならば、より旨いものが食べたいってだけだからなあ。
あくまで、料理は生徒達が主軸で仕上げることを念頭に置き、俺や大山寺さんは、下拵えや、雑用を中心とした補助に徹し、後は、ちょこちょこと助言を加える。
調理に専念しだした俺達の反応が薄くなったために、ぽちと姫は、助けを求める相手を切り換えることにしたらしい。
が。
甘いな。
「ゴンザレスー、ゴンザレスー、たすけてー」
ぷい。
「な!?ゴンザレス!?」
無駄だ、ぽち。
ゴンザレスは、一度は死の淵に立ったこともあるんだぞ?
死の匂いには敏感なんだよ。
実際、俺の説明を一発で理解したらしく、ぽちを甘やかさないようにお願いしたら、頼もしく、「がう!」と応じてくれたのだ。
「ぽよ丸様、お助け下さいませ」
無駄だ、姫。
ぽよ丸は言わずもがな。
それに、手嶋さん達の班で、メインで調理を担っているぽよ丸は、なかなかに忙しそうだし。
ほら、ぴこぴこして、「ごめん、さすがにむりかなー」と応えている。
「いい加減に黙らないと、お前らだけ、昼飯を喰いそびれることになるが、いいのか?」
「………」
「………」
ったく、現金な奴らめ。
やれやれ、だ。
★
「しかし、ペイントボールってのは、林間学校のイベントとしてはどうなんですかねえ?」
午後の予定は、なんと、近くの山林をフィールドにして、学校提供の豊富な器材を用いてのペイントボールである。
「山の中を走り回るのに、能動的な理由を与えるためだろう。刺激に溢れた現代社会にいる子供達に対しては、なかなかいいアイディアではあるな」
「危険だとか、野蛮だとか、謗りを受けそうですが?」
「は!大体、最近は子供に過保護すぎんだよ。しかも、その理由は、子供のためってえより、他の理由の比重が大きい気がするのが、な」
「現代社会は複雑怪奇ですからねえ。とりあえず、子供もいない俺達には、何も言う資格無し、ですよ」
「そりゃ、違いねえ」
「なになに二人して。辛気くさいのやめて下さいよ」
「ああそれは失礼…って、なんすかその格好」
頭にバンダナ?頭部右側に結び目、残りは垂らす。
黒のタンクトップに黒のアーミーパンツ、黒のブーツ。
二作目以降のスタイルですな。
「止めたんですが、スライ最高!とか訳のわからないことを言い出しまして」
「愛加辺、真似すんなら初代でいけよ」
「あたしも好きですけど、流石にあれはセンス的なものが」
大山寺さんまで。
といいますか。
ハイキングの時もそうだけど、愛加辺先生、貴女はね、その肉の凶器の取り扱いにもっと注意を払ってくれよ。
ノーブラでピチピチのタンクトップとか。
ほら。
あーあーあー。
ほらほら、つっぱっちゃって苦しそうにしてるのが、ここにも、そこにも、あそこにも。
頑張って耐性を身に付けろ、青少年。
「ところで、愛加辺先生も、羽原木先生も、なんでそんなにどっちゃりと装備品抱えてるんですか?まさか一人で使うんじゃないですよね?」
あ。
なんかやな空気。
「いやー、例年はね?クラス対抗で、フラグ奪取のウッズボールを楽しんでるんだけど、さ」
「今年は、規格外の能力を有する方が、御二人も参加していますので、特別ルールが採用されまして」
大山寺さんと二人、顔を見合わせて、沈黙。
嫌な予感が加速中。
眉間の辺りを指で揉みほぐしながら、大山寺さんが、実に億劫そうに口を開く。
「聞きたかないが、その、特別ルールってなあ、何なんだ?」
「マンハントです」
「………」
「………」
うん。
俄然、内容が血生臭くなったね!
「………」
「………」
ふう。
「九割がたわかっちゃいますが、一応聞きます。獲物は?」
満面の微笑みで、両手のひとさし指を、ずぴしっと突きつける愛加辺先生。
指の先には。
「大山寺さんと、用務員殿です」
わさわざどうも、羽原木先生。
申し訳なさそうにしてますが、とってもワクワクしてますね?貴女。
「………」
「………」
俺と大山寺さんを、教師陣も含めて生徒全員で追い回して下さると。
ハハハハハ。
こいつらめ。
どうしてくれようか。
愛加辺先生のシーンを書いてるときに、ふと見たくなって、そのままがっつり観ちゃいましたよ○ンボーⅡ。




