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林間学校・五日目・前編

 前回までの、「用務員さんのいる四畳半」は。


「マスクを被ったフレッドとそのお友達 の、ガチムチポージング無限ループだ」


「ふん!」


「なんじゃこりゃああああ!?」


「はあ!」


「うわあああとめられねえええ!?」


「なぜだああああ!?」


「がう~♪」


「くまああああ!?」


「ぽよ丸エステ?」


 なんだか次第に混沌としつつ。


 五日目でございますよ。





「ねえねえ、よーむいんさん」


「んー?」


「いたいけなしょーじょに、このあつかいはないと思うんだー」


「いたいけな少女はな?人を殺せる料理は作らないんだぞ?ぽち」


「むう」


「あの?用務員様?」


「んー?」


「可憐な乙女に、この仕打ち。私、有り得ないと思いますわ」


「可憐な乙女はな?料理をする時に、爆発とかしないんだぞ?姫」


「はう」


「あとな?いたいけだの、可憐だの。そういった言葉は、客観的な視点から、該当する対象に対して用いられるもんだ。普通、主観的には使わねえぞ?」


「ぺっ」


「ちっ」


 だから。


 いたいけな少女は、そこらに唾を吐いたりしないし、可憐な乙女は、露骨な舌打ちなんぞしないと思うよ?


 本日の昼飯は、生徒も先生も、自分達でカレーを作ることになっている。


 さて。


 ここで問題になるのが、今現在、屋外調理場の側にある大木の枝に、縄でぐるぐる巻きにされて吊るされ、ぷらんぷらんと揺れている、ぽちと姫である。


 同じ班の女子生徒に、涙目で、切実に助けを求められた教師陣が、初日の惨状を鑑みて已む無く下した英断。


 つまり。


 患部をばっさりと切除。


 うん。


 大正解。


 で。


 班の欠員の補充として、俺と大山寺さんが、ぽちと姫の班の調理に加わっているのだ。


 一部の先生、というか、愛加辺先生から猛烈な抗議があったが、却下された。

 ま、あの人は、自分で調理したくないのと、可能ならば、より旨いものが食べたいってだけだからなあ。


 あくまで、料理は生徒達が主軸で仕上げることを念頭に置き、俺や大山寺さんは、下拵えや、雑用を中心とした補助に徹し、後は、ちょこちょこと助言を加える。


 調理に専念しだした俺達の反応が薄くなったために、ぽちと姫は、助けを求める相手を切り換えることにしたらしい。


 が。


 甘いな。


「ゴンザレスー、ゴンザレスー、たすけてー」


 ぷい。


「な!?ゴンザレス!?」


 無駄だ、ぽち。


 ゴンザレスは、一度は死の淵に立ったこともあるんだぞ?

 死の匂いには敏感なんだよ。


 実際、俺の説明を一発で理解したらしく、ぽちを甘やかさないようにお願いしたら、頼もしく、「がう!」と応じてくれたのだ。


「ぽよ丸様、お助け下さいませ」


 無駄だ、姫。


 ぽよ丸は言わずもがな。

 

 それに、手嶋さん達の班で、メインで調理を担っているぽよ丸は、なかなかに忙しそうだし。

 ほら、ぴこぴこして、「ごめん、さすがにむりかなー」と応えている。


「いい加減に黙らないと、お前らだけ、昼飯を喰いそびれることになるが、いいのか?」


「………」


「………」


 ったく、現金な奴らめ。


 やれやれ、だ。





「しかし、ペイントボールってのは、林間学校のイベントとしてはどうなんですかねえ?」


 午後の予定は、なんと、近くの山林をフィールドにして、学校提供の豊富な器材を用いてのペイントボールである。


「山の中を走り回るのに、能動的な理由を与えるためだろう。刺激に溢れた現代社会にいる子供達に対しては、なかなかいいアイディアではあるな」


「危険だとか、野蛮だとか、謗りを受けそうですが?」


「は!大体、最近は子供に過保護すぎんだよ。しかも、その理由は、子供のためってえより、他の理由の比重が大きい気がするのが、な」


「現代社会は複雑怪奇ですからねえ。とりあえず、子供もいない俺達には、何も言う資格無し、ですよ」


「そりゃ、違いねえ」


「なになに二人して。辛気くさいのやめて下さいよ」


「ああそれは失礼…って、なんすかその格好」


  頭にバンダナ?頭部右側に結び目、残りは垂らす。

 黒のタンクトップに黒のアーミーパンツ、黒のブーツ。


 二作目以降のスタイルですな。


「止めたんですが、スライ最高!とか訳のわからないことを言い出しまして」


「愛加辺、真似すんなら初代でいけよ」


「あたしも好きですけど、流石にあれはセンス的なものが」


 大山寺さんまで。


 といいますか。


 ハイキングの時もそうだけど、愛加辺先生、貴女はね、その肉の凶器の取り扱いにもっと注意を払ってくれよ。

 ノーブラでピチピチのタンクトップとか。


 ほら。


 あーあーあー。


 ほらほら、つっぱっちゃって苦しそうにしてるのが、ここにも、そこにも、あそこにも。


 頑張って耐性を身に付けろ、青少年。


「ところで、愛加辺先生も、羽原木先生も、なんでそんなにどっちゃりと装備品抱えてるんですか?まさか一人で使うんじゃないですよね?」


 あ。


 なんかやな空気。


「いやー、例年はね?クラス対抗で、フラグ奪取のウッズボールを楽しんでるんだけど、さ」


「今年は、規格外の能力を有する方が、御二人も参加していますので、特別ルールが採用されまして」


 大山寺さんと二人、顔を見合わせて、沈黙。


 嫌な予感が加速中。


 眉間の辺りを指で揉みほぐしながら、大山寺さんが、実に億劫そうに口を開く。


「聞きたかないが、その、特別ルールってなあ、何なんだ?」


「マンハントです」


「………」


「………」


 うん。


 俄然、内容が血生臭くなったね!


「………」


「………」


 ふう。


「九割がたわかっちゃいますが、一応聞きます。獲物は?」


 満面の微笑みで、両手のひとさし指を、ずぴしっと突きつける愛加辺先生。


 指の先には。


「大山寺さんと、用務員殿です」


 わさわざどうも、羽原木先生。


 申し訳なさそうにしてますが、とってもワクワクしてますね?貴女。


「………」


「………」


 俺と大山寺さんを、教師陣も含めて生徒全員で追い回して下さると。


 ハハハハハ。


 こいつらめ。


 どうしてくれようか。


 愛加辺先生のシーンを書いてるときに、ふと見たくなって、そのままがっつり観ちゃいましたよ○ンボーⅡ。

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