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林間学校・四日目・後編

 前回までの、「用務員さんのいる四畳半」は。


「ばっちりだって。三日の間探し回って、 ぜってーばれねーポイント見つけたんだか らよ」


 秘かに進行する、巨大な陰謀。


「マジか!じゃあ?」


 崩壊の序曲が、奏でられる時。


「おう。今晩決行だ」


 あの男が、立ち上がる!


 ………。


 ………。


 ごめん。


 ちょっと盛りつけし過ぎた。


 ま。


 若さが暴走しかけてる少年達を、どうするかってとこで。


 はてさて。





「便利さ、手軽さが、時に行き過ぎた事態を招く、か。確かになあ」


 凄まじい勢いで端末のキーを叩いている大山寺さんが、ぼそりと呟く。


 キャンピングカーは、現在、臨時の作戦司令部と化していた。


 ザ、ピ。


『こちらアルプス小隊。各対象に、未だ動きなし、どうぞ』


「了解。15分後に交替のコーンメイラ小隊を送る、どうぞ」


『了解』


 ピ。


 羽原木先生は、件の男子生徒達の宿泊しているコテージを監視している羽原木隊の娘達と、無線で定期的にやり取りをしている。


 で。


 俺はというと、彼らのコテージの床下に仕掛けたレオから、中の様子を聞かせてもらっている。


 レオと俺は、契約で主従関係にあり、魔力でパスを繋ぐと、意思の疎通が可能となるのだ。


 後付け?


 御都合主義?


 ハハハハハ。


 その通りだ!


『どうだ?レオ』


『携帯端末っつったか?いまのところ、それで、皆でゲームしてるだけだな』


『そうか。引き続き頼む』


『おうよ』


 ふむ。


 彼らはまだ動いていないようだ。


「よし!間に合った。連中の携帯端末にイタズラプログラムを送り込めたぜ」


 お。


「流石大山寺さん。仕事早いですね」


 先程から大山寺さんが取り掛かっていた作業が終了。


「イタズラプログラムって、どんなんなの?」


 ここまでは役目無しの愛加辺先生が、この間の料理コンテストの時に余った猪の肉で作った燻製をもぎもぎしながら、大山寺さんの端末を覗きこむ。


「携帯端末の撮影や録画の機能を使おうとすると、特殊な映像が延々と流れて止まらなくなるだけだ。解除するには時間がかかるようになってる」


「ほへー。で、特殊な映像って?」


「マスクを被ったフレッドとそのお友達の、ガチムチポージング無限ループだ」


「………」


「………」


「………」


「連絡したら、別にフレッドだけでよかったのによ?たまたま一緒だった数人のお友達も含めて、無駄にノリノリで協力してくれたぜ」


「………」


「………」


「………」


 うわあ。


「ど、どんなのかな?」


「少し興味はありますね。ほんとに少しだけ」


「デスクトップに置いてあるこれだよ。見終わったら教えてくれ。俺は二度と見たくねえ」


 大山寺さんがどいた端末前に、愛加辺先生と羽原木先生が陣取り、動画を再生してしまったらしい。

 なんか、「ふん!」とか「はあ!」とか聞こえてくるが、俺は見るつもりは無い。


「うわきっつ!なんで全員マスク以外つけてないの?」


「用務員殿、何故か江場さんもいますよ?」


「………」


 んなもん知らん。


 俺は断じて見ないからな。





『おい相棒、お前らなんかしたのか?連中、「なんじゃこりゃああああ!?」とか「うわあああとめられねえええ!?」とか、叫びながらのたうちまわってんぞ?』


 ふむ。


『ちょっとな。後でまとめて話すからさ、またなにか進展があったら知らせてくれ』


『おう』


「大山寺さん、レオから連絡来ました。無事に機能してるみたいですよ?」


「そうか。奴らも見たか、アレを。少し気の毒ではあるな」


「いやいや。馬鹿なことを企んだ報いですって!」


「自業自得ですね」


 遠い目をする大山寺さんに、愛加辺先生は苦笑いで、羽原木先生は至極淡々と応じている。


『相棒、連中動くぞ?「こうなったら、俺達の魂に映像を焼き付けるのみ!」だとさ』


『は、意外とめげないねえ。わかった、ありがとな。回収してやれるまで少し時間がかかる。すまないな』


『いいってことよ』


 さて。


「彼らが動きます」


 詰めの作業に入りますかね。





 ザ、ピ。


「貴様らもここまでで構わん。折角の理事長のお志だ。田島先生が、本館正面入口前で、車で待機して下さっている。御苦労だった、楽しんでこい」


『了解。感謝致します、サー!』


 ピ。


 彼らの追跡を手伝ってくれていた羽原木隊の娘達を、ここらで離脱させる。


 風呂の時間になり、ぞろぞろと各コテージから生徒達が移動を始める中で、彼らはこっそりと、その人の流れから抜け出し、別行動中だ。


「しっかし、こんな狭っくるしい細道、よく見つけたな、あいつら」


 女子の使用予定の露天風呂へのルートに使われたのは、使われなくなって久しいと思われる、なんの舗装もされていない、辛うじて道かもしれない?程度のもの。

 大昔の山越え用の道かなんかだろうか。


 彼らは、えっちらおっちらとその道を進んでいく。

 進む方角は、間違いなく女子用に割り当てられた露天風呂に向かっている。


「よく言われる台詞ではあるが、この情熱を、もっと別の形で発揮出来たらよかったのになあ」


「はは。まあ、自分の十代の頃を思い出してみるに、大して差は無いと思いますがね?頭ん中で考えてることは」


「まあ、そうかな」


「大山寺さんも用務員さんも、十代の頃はエロエロだったんだ」


「そりゃ、な」


「ですね」


 はは、と、乾いた笑いを漏らした愛加辺先生が、小さく溜め息をつく。


「あーあー。出来ればあたしも行きたかったなー、あそこ」


「今更詮無きことですよ、愛加辺先生」


「わかってるよー。ちょっと愚痴っただけ」


 あー。


 申し訳ない。


 この件に巻き込んでしまったのは俺だしな。

 代わりに何か。


「御二人とも。代わりになるか微妙なんですけど、もし宜しければ、ぽよ丸エステ、受けてみます?」


「なんすかそれ?」


「ぽよ丸エステ?」


「ぽよ丸が、全身にくまなく、パックのように張り付いてですね。上皮の老廃物を吸収してくれて、且つ、血行をよくする全身マッサージを施してくれるんですよ」


「………」


「………」


「ああ、あれか。流石に全身はないが、俺もたまに顔をやってもらうな。毛孔の老廃物とか、きれいさっぱり無くなるんだよ、割りと気持ちいいぞ?」


「伯母…じゃねえ、理事長が御得意様でしてね。シワやシミも取れて、御肌がつるっつるになるんだそうです」


「御肌が…」


「つるっつるに…」


 むむむ、と唸った二人は、「ちょっと考えさせて欲しい」とのこと。


 そうこうしている内に、彼らは目的地に到達したようだ。


 気付かれないよう、かなりの距離を置いて追跡している俺達に、哀しみの絶叫が聞こえてきたからね。





「なぜだああああ!?」


「くまああああ!?」


 膝をつき、滂沱の涙を流しながら慟哭し、拳を地に打ちつけている、数名の男子生徒。


 そう。


 女子用露天風呂に今入っているのは、ただ“一頭”。


 手拭いを頭に乗せ、「がう~♪」と、鼻唄らしき真似までしている、愛らしい子熊。


 我らがゴンザレスのみである。


「骨折り損のくたびれ儲け。ちったあ身に染みたか?」


 大山寺さんの声に、全員が愕然と振り向く。


「あんた達以外の生徒と他の先生はね?うちの学校法人の大元が建設した、近くに完成予定で、今、調度各施設を試験運用している温泉テーマパークに、テスターとして行ってるよ」


 この宿泊施設に来る途中で見かけたそれに、伯母さんが絡んでいることがわかっていたので、連絡取って、無理矢理にこの予定を捩じ込んだのだ。

 色々大変だったらしいが、どうにかなった。

 伯母さんには、また借りが出来ちまったけどな。


 後付け?


 御都合主義?


 ハハハハハ。


 その通りだ!


「残念だったなあ。君ら、馬鹿な真似さえしなければ、今頃、可愛い水着姿ではしゃぐ女子達と一緒に、“きゃっきゃうふふ”出来たかもしれなかったのになあ。さっきちょっと連絡取ってみたけど、めちゃくちゃ楽しくて、みんな大はしゃぎしてるってさ?」


 他の先生方や、羽原木隊にも協力してもらって、連絡網を調整し、彼らにはその情報が全く伝わらないようにしてあった。

 知らぬは彼らばかりなり、である。


「あ、あああ、そんな」


「うああ、あ、あ」


 力なく、崩れ落ちる憐れな少年達。


「これに懲りたら、邪な企みは、以後、控えることだ。この愚か者共が!」


 羽原木先生の大喝に、男子生徒達は無言で項垂れた。





 ちなみに。


 悩んだ末に、ぽよ丸エステを体験した愛加辺先生と羽原木先生は、その効果と快感に虜となり。


 伯母さんに続いての御得意様となりましたとさ。


 え?


 その描写?


 それはほら、規制が。


 ね?

 

 ま、間に合った。


 無理矢理更新してるからか、元々薄い内容がさらにヒドイことに!

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