表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/63

林間学校・一日目・前編

 前回までの、「用務員さんのいる四畳半」は。


「で?これは何なんだ?」


「この出張用務員室キャンピングカーにて、用務員様は、私達と共に、林間学校に参加して頂くのですわ」


「くまかー。ワンパンで沈めて、くま殺しの伝説作ってやんぜ」


 てな訳で。


 用務員の俺が、ぽちや姫、ぽよ丸の行く林間学校に、強引に付き合わされるはめになったのだ。


 なんでだろうね。





「………」


「………」


 キャンピングカーの運転席の空気が重い。


 原因は。


 絶賛やさぐれ中の男二人。


 運転してる俺と。


 助手席の大山寺さんである。


「貴方まで巻き込まれてるとは思いませんでしたよ」


「言うな。俺にもなんでなのかさっぱりわからねえんだ」


「でしょうねえ」


 前を走る観光バスの最後部の座席には、ぽち達が陣取っている。


 時折、こちらを見てはなにやら楽しげに笑いあっているのだが、何故にあの二人の笑顔はあんなに下衆いのか。

 そして、ちらちらこちらを見ては頬を染めている、友達らしき女子生徒の態度は何だというのか。


「あの二人が、他の生徒達に何を吹き込んでんのか、それを考えると、気が滅入ってきますよ」


「ああ。間違いなく、ろくでもないことだろうなあ、あのふざけた面を見るに」


『でゅふふふふ』


 ぽちの、腐のスイッチが入った時の独特の笑い声が、ここまで聞こえる気がする。





 高速のサービスエリアでの小休止。


 俺と大山寺さんは、トイレを済ませたあとは、座席でぼけっとしている。


「林間学校から帰ったら、例の店、行かねえか?」


「いいですねえ。そういえば、大山寺さんいつも、俺と桃ちゃんのことばかりからかいますけど、そっちこそ、ママとはどうなんですか?」


「んあ?あー、まあ、なんとか続いてるよ」


「へー」


 びたん。


「………なにやってんだ、ぽち」


 間抜けな音のした方向に視線を転じると、ぽちが運転席側のウインドウに、下衆い笑顔を浮かべて張り付いている。


 ウインドウを開けてやると、こもって聞こえていた「でゅふふふふ」の笑い声がよりクリアに。

 気持ち悪いなあ、おい。


 姫も、同じく下衆い笑顔で後ろに立っていた。


「なんだよいちゃいちゃしやがってえ」


「御二人でどのようなお話をなさっていたのですか?」


「………」


「………」


 ふむ。


「いや、なにね。お互いに、お相手の女性と上手くいっててよかったですね、と。そういう話だが?」


 反応は劇的だった。


 瞬時に顔を歪めた二人は、見事にシンクロした動きで、喉から痰をせり上げて吐き出した。


 がーっ、ぺっ、て感じで。


「ちっ、つまんねえの。いこうぜー、セナちゃん」


「なんだか裏切られたような気分ですわね。九条様」


「んだんだ」


 肩をいからせながら、がに股でのしのしと二人は去っていく。

 どうしてあそこまでやさぐれなきゃならんのか。


 大山寺さんが、ふ、と微笑う。


「ちっとばかり意趣返し、てか?」


「そんなとこです」


「はっはっは」


 多少、気分を持ち直した俺と大山寺さんは、その後も和やかに談笑なんぞしつつ、観光バスの後を追うのだった。





「へえ、うちの学校の持ち物なんですか、この宿舎は」


「ああ。林間学校のシーズン中は、うちの学校だけでなく、他校にも貸し出すんだとさ。オフシーズンには、普通に旅館になる」


「へえ。それはまた」


「一般客も利用する施設だからな、いろいろと贅沢な造りになってんだよ。温泉もあるしな」


「うはあ。無理矢理連れてこられたようなもんですけど、こりゃ、いい骨休めになるかなあ?」


「そいつあ、無理じゃねえか?ガキ共のお守りしなきゃならねえんだからよ」


「あー、そっすね」


 総合宿泊施設として、かなりの敷地を保有しているらしい目の前のそれは、母屋としての本館の他に、コテージのエリアや、キャンプ場もあり、利用者が宿泊スタイルを選ぶ仕組みのようだ。

 様々な温泉浴場も各所に点在している。


 さて。


 肝心の林間学校は、というと。


 どうも、初日はキャンプ場で各自弁当を食べ、テントを設営して、晩飯を自分達で作り、テントで宿泊、という予定のようだ。


 で。


「用務員殿、誠に申し訳ありませんが、あの事態を収拾するのに、御助力願えませんでしょうか」


 困惑顔の羽原木先生が、申し訳なさそうに俺に声をかけてきたのだが。


「どうかしたんですか?」


「その、用務員殿のお作りになったお弁当が原因のようでして」


「はあ?」


 無言で羽原木先生が指差す先。


 キャンプ場の一角が、一部の女子達により、戦場になっていた。





「喰わせろ~、喰わせろ~」


「ちくしょうめ!数がおおすぎるぜ!」


「くっ!囲まれてしまいましたわ!」


 なんだこれ。


 俺を見つけたぽよ丸が、「ここ!ここ!たーすーけーてー!」と言わんばかりに、ぴょいーんぴょいーんと跳ねまくっている。


 ぽちと姫は、レジャーシートの中央に置かれた、俺の作った行楽弁当のお重を護るようにして、周囲を警戒している。

 それを、複数の女子が箸を片手に、ゾンビのごとき動きで囲み、群がっているのだ。


「おい、羽原木。こりゃ、どういうこった?」


 面白そうだとついて来ていた大山寺さんが、呆れ顔で聞く。


「はあ。周囲の男子生徒の話では、 最初は、用務員殿のお弁当を、皆で和気藹々とつつきながら食べていたらしいのですが、途中から、九条や神宮寺が、何か焦ったように叫びだし、気がつけば御覧の有り様だったとか」


 ええー?


「なるほどなあ、大体わかった」


「どういうことです?」


「お前の作る料理は旨えからな。普段食べたことのない他の娘っ子どもの箸が進みすぎて、九条と神宮寺が慌てて自分の分を確保しようとしたんだろ」


「………はあ」


「多分その時に、九条辺りが、余計に煽るような真似をしちまったんじゃないか?それで、拗れちまったんだな」


「………はあ」


 これを、俺にどうしろというのだ。


「あはははは!なんか面白いことになってるねえ?」


 む?


「愛加辺先生」


 この人も来てたのか。


「よっしゃ!さらに面白いこと思いついた!」


 ハンドマイクを手にした愛加辺先生は、騒動の中心に向かっておもむろに叫びだす。


「そこの女子共ー!よほどにその弁当が気に入ったらしいな!ならば!自分達の為だけに作られたものを、食べたくないか?」


 びくり。


 ゾンビ女子の動きが止まる。


「今晩!料理コンテストを開催する!テーマはもともと作る予定だった焼きそばだ!」


 おいおいおい。


「優勝した班には、明日のハイキングの弁当を、お前らお目当ての料理人に用意してもらう!どうだあ!特製豪華弁当!食べたくないかあ!」


『うおおおお!』


 その瞬間、女子としてはちょっとどうかと思う雄叫びが、キャンプ場に木霊した。


 待て待て待て。


「“それ”を作る本人に何の承諾も得てないのですが、どうなんですかこれ」


 げんなりしながら、大山寺さんに問うてみたりする。


「諦めろ。まあ、お前にとっちゃ災難だろうけどよ。落とし処としては悪くねえぞ?多分」


「………はあ、まあ」


 とんでもないことになってきたなあ。


 これ、林間学校だよな?


 すべりこみセーフか?


 では、明日の分の執筆に入ります故、これにて失礼。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ