チープなのがいいんじゃないか!
経済的にゆとりが生まれ。
様々な技術や、流通の発達によって、生活は豊かになった。
そこまでに到る、道程の中で。
苦心して数多産み出された、先人達の叡智の結晶。
俺はそれを忘れないし。
俺はそれを愛し続ける。
チープ。
それは、時として、誉め言葉として使われるのだ。
かくして。
また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。
★
「邪魔するぜ」
放課後の用務員室。
最近、出現頻度が高くなっている大山寺さん、登場。
何やら段ボールの箱を抱えていなさる。
ちなみに、いつもの面子、ぽちと姫とぽよ丸は、現在、フルーツたっぷりのミルクレープに夢中である。
「今日はどうしたんですか?」
「たくさんもらっちまってよ。お裾分けで、どうだ?」
何気なくそれを覗いたぽちが、歓喜の声を上げた。
「ふおおおお!ギョニソじゃん!あたし大好き!」
「マジっすか!いいんですか?こんなに?」
「………?」
段ボールに詰められた、様々な魚肉ソーセージ、魚肉ソーセージ、魚肉ソーセージ。
魚肉ソーセージの乱れ咲きである。
いや、素直に嬉しい。
俺も大好きだからね、これ。
「俺も好物なんだがよ。喰い方のレパートリーが乏しくてな。用務員、お前なら、いろんな喰い方してそうだし、アイディア料込みでこの量さ」
「ふむう。ギョニソレシピか」
「ええ?どうとでもなるでしょう、レシピなんて」
「………」
「俺がずぼらなのは知ってんだろうが。簡単で、酒の肴にもなるようなの、幾つか教えやがれ。あと、折角だから、ちょっと手間かけたもんもついでに喰わせろ」
「はいはい、わかりましたよ」
「うは!ギョニソ祭りだね!」
「………あの、皆様?」
ん?
「どうかしたか?姫」
「それはどんな食べ物なのですか?九条様の仰る“ぎょにそ”というのが、何かの略語っぽいのは、なんとなくわかるのですが」
「………」
「………」
「………」
なん、だと…?
大山寺さんの額に青筋が浮かび。
ぽちが、片手で顔を覆い、天を仰ぐ。
俺も、波立つ心を落ち着かせるため、深く、大きく、深呼吸する。
「え?え?あの」
☆
十代後半、三十路ちょい手前、四十路ちょい手前、の三名が、魚肉ソーセージにつきまして、無駄に熱く、無駄に長く、語っております。
大変に冗長になりますため、表現を割愛させて頂きますことを、悪しからず、御了承下さいませ。
☆
「わかったか?姫」
「お前、いいとこのお嬢だからってよ、許されねえこともあんだぜ?」
「ないわー。セナちゃん。それはないわー」
「あううう」
おや。
壁際で、姫がガタガタと震えていらっしゃるようで。
何故だろうねハハハハハ。
★
「まあ、気を取り直して、と。大山寺さんは、普段どうやって食べてるんですか?」
「んあ?そりゃ、普通に喰うだけとか、ケチャップやマヨつけて喰ったりとか」
「んまいよねー。あたしは、太めのやつにー、マヨをもっさりつけてかぶりつくのが好きなんだー」
「お?俺もなんだよ、それ。用務員、話してたら喰いたくなってきた。マヨよこせ」
「あ!あたしも食べるー!」
「はいはいっと」
大山寺さんは、俺からマヨを受けとると、コンビニなんかでよく見かける、百円くらいで売っている太めの魚肉ソーセージに塗りたくって、豪快にかぶりついた。
「旨え」
おい誰だ。
今、おっさんの方の描写なんざいらねえ、とか思った奴。
ある意味予想通りだが、マヨまみれの極太魚肉ソーセージをかじるぽちは、ちょっとアレな感じになっててな。
表現は自粛させていただく。
「マヨひとつとっても、他の調味料と混ぜ合わせれば無限の可能性があるじゃないですか」
「む?」
「大山寺さんの好みだと…こんなのはどうです?」
大皿に、魚肉ソーセージを切り分けておき、小皿にマヨを盛って、七味を振る。
「おお?こりゃいいな!」
楊枝にひと切れ刺して、七味マヨをつけて口に放り込んだ大山寺さんの顔が綻ぶ。
「いろいろ試してみればいいんじゃないですかね?てか、こんな簡単なこともやってないとか、どんだけずぼらなんですか」
「うるせえ。他にはないのかよ」
「はいはーい!んじゃ、あたしのおすすめー!よーむいんさん、ロールパンかコッペパンない?」
「あるよ」
俺からロールパンを受け取ったぽちは、真ん中に切れ目を入れて、カットした魚肉ソーセージを挟み込み、トースターで軽く焼いてから、ケチャップとマスタードを塗ったものを、大山寺さんに差し出した。
「ギョニソドッグー!」
「おおお?これも旨いし、割りと簡単だな。やるじゃねえか、九条」
「にへへー。とろけるチーズとか乗っけると、もっとおいしーよ!」
いや、大山寺さん。
割りと、じゃなくて、すごく、簡単ですから。
これくらい出来るでしょーに。
★
ちくわの穴をギョニソでふさいでみたり。
アメリカンドッグにしたり。
カレー炒めにしたり。
ケチャップ炒めにしたり。
それをオムレツにしたり。
フライにしたり。
天ぷらにしたり。
ぽち命名、ギョニソ祭りは続く。
「いやいや、こいつは役者だなあ。どれもこれも旨えや」
「天ぷらはまったー!こんどシェフかおかーさんにねだろっと」
「………」
「どうかしたのか?姫」
ちょこちょこと魚肉ソーセージ料理をつまんでいた姫が、またクエスチョンマークの魔法を使い、困惑の表情で頭を傾けている。
「………その、これを言うと、大変なことになるような気がなきにしもあらずんば虎児を得ず、なのですが」
むむ?
「………そこまで騒ぐ程に美味しいですか?このソーセージもどき。正直わた…ひい!?」
「………」
「………」
「………」
貴様。
☆
十代後半、三十路ちょい手前、四十路ちょい手前、の三名が、魚肉ソーセージにつきまして、無駄に熱く、無駄に長く、無駄に高圧的に、説教をかましております。
大変に冗長であり、また、味覚の嗜好につきまして、半ば強制的な言動が、あまりにも目立ちますため、表現を割愛させて頂きますことを、悪しからず、御了承下さいませ。
☆
「るーるるー。ねえ、ぽよ丸様?レオ様?私、素直に感想を述べましただけですのに、何故、このような憂き目にあっているのでございましょうや。るーるるるー」
「………姫よお、あいつらは今、ぽちが言ってた、“変なスイッチが入った”状態なんだよ、多分。放っといてやんな。明日にはきっと、みんな元に戻ってるからよ」
「ううううう」
ぽよ丸、お前は優しいなあハハハハハ。
てしてししてやることなんかないのに。
姫は、俺達の逆鱗に触れたのだよ。
しかるにそれは当然の帰結。
魚肉ソーセージ、万歳。
魚肉ソーセージの天ぷらは、筆者のソウルフードのひとつであります。
ウスターソースをたっぷりつけてかっ喰らいます。
んまいです。
別に共感は求めない!




