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チープなのがいいんじゃないか!

 経済的にゆとりが生まれ。


 様々な技術や、流通の発達によって、生活は豊かになった。


 そこまでに到る、道程の中で。


 苦心して数多産み出された、先人達の叡智の結晶。


 俺はそれを忘れないし。


 俺はそれを愛し続ける。


 チープ。


 それは、時として、誉め言葉として使われるのだ。


 かくして。


 また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。





「邪魔するぜ」


 放課後の用務員室。


 最近、出現頻度が高くなっている大山寺さん、登場。

 何やら段ボールの箱を抱えていなさる。


 ちなみに、いつもの面子、ぽちと姫とぽよ丸は、現在、フルーツたっぷりのミルクレープに夢中である。


「今日はどうしたんですか?」


「たくさんもらっちまってよ。お裾分けで、どうだ?」


 何気なくそれを覗いたぽちが、歓喜の声を上げた。


「ふおおおお!ギョニソじゃん!あたし大好き!」


「マジっすか!いいんですか?こんなに?」


「………?」


 段ボールに詰められた、様々な魚肉ソーセージ、魚肉ソーセージ、魚肉ソーセージ。

 魚肉ソーセージの乱れ咲きである。


 いや、素直に嬉しい。

 俺も大好きだからね、これ。


「俺も好物なんだがよ。喰い方のレパートリーが乏しくてな。用務員、お前なら、いろんな喰い方してそうだし、アイディア料込みでこの量さ」


「ふむう。ギョニソレシピか」


「ええ?どうとでもなるでしょう、レシピなんて」


「………」


「俺がずぼらなのは知ってんだろうが。簡単で、酒の肴にもなるようなの、幾つか教えやがれ。あと、折角だから、ちょっと手間かけたもんもついでに喰わせろ」


「はいはい、わかりましたよ」


「うは!ギョニソ祭りだね!」


「………あの、皆様?」


 ん?


「どうかしたか?姫」


「それはどんな食べ物なのですか?九条様の仰る“ぎょにそ”というのが、何かの略語っぽいのは、なんとなくわかるのですが」


「………」


「………」


「………」


 なん、だと…?


 大山寺さんの額に青筋が浮かび。


 ぽちが、片手で顔を覆い、天を仰ぐ。


 俺も、波立つ心を落ち着かせるため、深く、大きく、深呼吸する。


「え?え?あの」



 十代後半、三十路ちょい手前、四十路ちょい手前、の三名が、魚肉ソーセージにつきまして、無駄に熱く、無駄に長く、語っております。


 大変に冗長になりますため、表現を割愛させて頂きますことを、悪しからず、御了承下さいませ。



「わかったか?姫」


「お前、いいとこのお嬢だからってよ、許されねえこともあんだぜ?」


「ないわー。セナちゃん。それはないわー」


「あううう」


 おや。


 壁際で、姫がガタガタと震えていらっしゃるようで。


 何故だろうねハハハハハ。





「まあ、気を取り直して、と。大山寺さんは、普段どうやって食べてるんですか?」


「んあ?そりゃ、普通に喰うだけとか、ケチャップやマヨつけて喰ったりとか」


「んまいよねー。あたしは、太めのやつにー、マヨをもっさりつけてかぶりつくのが好きなんだー」


「お?俺もなんだよ、それ。用務員、話してたら喰いたくなってきた。マヨよこせ」


「あ!あたしも食べるー!」


「はいはいっと」


 大山寺さんは、俺からマヨを受けとると、コンビニなんかでよく見かける、百円くらいで売っている太めの魚肉ソーセージに塗りたくって、豪快にかぶりついた。


「旨え」


 おい誰だ。


 今、おっさんの方の描写なんざいらねえ、とか思った奴。


 ある意味予想通りだが、マヨまみれの極太魚肉ソーセージをかじるぽちは、ちょっとアレな感じになっててな。

 表現は自粛させていただく。


「マヨひとつとっても、他の調味料と混ぜ合わせれば無限の可能性があるじゃないですか」


「む?」


「大山寺さんの好みだと…こんなのはどうです?」


 大皿に、魚肉ソーセージを切り分けておき、小皿にマヨを盛って、七味を振る。


「おお?こりゃいいな!」


 楊枝にひと切れ刺して、七味マヨをつけて口に放り込んだ大山寺さんの顔が綻ぶ。


「いろいろ試してみればいいんじゃないですかね?てか、こんな簡単なこともやってないとか、どんだけずぼらなんですか」


「うるせえ。他にはないのかよ」


「はいはーい!んじゃ、あたしのおすすめー!よーむいんさん、ロールパンかコッペパンない?」


「あるよ」


 俺からロールパンを受け取ったぽちは、真ん中に切れ目を入れて、カットした魚肉ソーセージを挟み込み、トースターで軽く焼いてから、ケチャップとマスタードを塗ったものを、大山寺さんに差し出した。


「ギョニソドッグー!」


「おおお?これも旨いし、割りと簡単だな。やるじゃねえか、九条」


「にへへー。とろけるチーズとか乗っけると、もっとおいしーよ!」


 いや、大山寺さん。

 割りと、じゃなくて、すごく、簡単ですから。

 これくらい出来るでしょーに。


 



 ちくわの穴をギョニソでふさいでみたり。


 アメリカンドッグにしたり。


 カレー炒めにしたり。


 ケチャップ炒めにしたり。


 それをオムレツにしたり。


 フライにしたり。


 天ぷらにしたり。


 ぽち命名、ギョニソ祭りは続く。


「いやいや、こいつは役者だなあ。どれもこれも旨えや」


「天ぷらはまったー!こんどシェフかおかーさんにねだろっと」


「………」


「どうかしたのか?姫」


 ちょこちょこと魚肉ソーセージ料理をつまんでいた姫が、またクエスチョンマークの魔法を使い、困惑の表情で頭を傾けている。


「………その、これを言うと、大変なことになるような気がなきにしもあらずんば虎児を得ず、なのですが」


 むむ?


「………そこまで騒ぐ程に美味しいですか?このソーセージもどき。正直わた…ひい!?」


「………」


「………」


「………」


 貴様。



 十代後半、三十路ちょい手前、四十路ちょい手前、の三名が、魚肉ソーセージにつきまして、無駄に熱く、無駄に長く、無駄に高圧的に、説教をかましております。


 大変に冗長であり、また、味覚の嗜好につきまして、半ば強制的な言動が、あまりにも目立ちますため、表現を割愛させて頂きますことを、悪しからず、御了承下さいませ。



「るーるるー。ねえ、ぽよ丸様?レオ様?私、素直に感想を述べましただけですのに、何故、このような憂き目にあっているのでございましょうや。るーるるるー」


「………姫よお、あいつらは今、ぽちが言ってた、“変なスイッチが入った”状態なんだよ、多分。放っといてやんな。明日にはきっと、みんな元に戻ってるからよ」


「ううううう」


 ぽよ丸、お前は優しいなあハハハハハ。


 てしてししてやることなんかないのに。


 姫は、俺達の逆鱗に触れたのだよ。

 しかるにそれは当然の帰結。


 魚肉ソーセージ、万歳。


 魚肉ソーセージの天ぷらは、筆者のソウルフードのひとつであります。


 ウスターソースをたっぷりつけてかっ喰らいます。


 んまいです。


 別に共感は求めない!

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