あれが無い
女性の場合はどうなのかわからないが。
男ってのは、割といい歳になってても、一人でいたしたりするものである。
何の話かだって?
とぼけるなよセニョールハハハー。
そういえば、昔は、土手や橋の下とか、公園の植え込みの中とか。
いろんな場所で、よれよれになったトレジャーが見つかったよなあ。
それが、いたいけな青少年の目覚めのきっかけになったりしたものさ。
最近は、どうなのかね?
かくして。
また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。
甚だ不本意ながら。
★
がさがさ。
ごそごそ。
がちゃり。
がた。
ずざざ。
ぎし。
ぱかり。
「………おい」
「………」
「………」
ずりずり。
ひょこり。
がば。
がりがり。
「………おい」
「………」
「………」
ぱらり。
かさかさ。
ぎりぎり。
ぎっちょん。
ばたん。
ごろごろ。
「………」
呼び掛けても応えないならば、実力行使あるのみ。
ぽちの襟首を後ろから掴んで、猫のように持ち上げ、姫の膝裏を優しくかっくんしてやる。
「にょわ?」
「えひえ!?」
「お前らは人様の家を、住んでる本人の目の前で漁りやがって。なんだってんだよ。返答次第によっちゃ、今後の日米関係に大きな溝が出来るだけの外交問題になんぞこら」
「なんでじゃますんのさー。とてもじゅーよーなもんだいなんだぞー」
「ほう?」
「そうですわ。用務員様の健全たる証を示さんと、私達、こうして奮戦しておりますのに」
「そーだよー」
「待て待て待て。全く話が見えてこねえぞ。何?俺の健全たる証?」
「よーむいんさん、まだ独身だよね?」
「あ?ああ」
「まだまだお若くていらっしゃいますわ」
「うん」
「恋人さんはいる?」
「なんでそんな…まあいいか。今はいないよ」
「ならばー」
「当然このお部屋の中にあるべき物が!ひとかけらたりとも見当たらないのは何故でございましょうや!?」
なんか俺、責められてるの?これ。
「お前らが何をしたいのか、俺にはさっぱりだ。わかりやすく、有り体に語れ」
「エロス!」
「エロティシズムですわ!」
「………はあ?」
「エロ本、エロDVDかっこビデオかBDでも可かっことじ、なんだったら薄い本でもかまわねー」
「殿方の欲望の発散の一助となるあれやこれやが、無い!無い!無いのですわー!」
「………」
「………」
「………」
んーと。
落ち着け、俺。
意味がわからねえ。
「つまりあれか?俺の部屋からHなサムシングを見つけだすために、家捜しをしていたと」
ふんすふんすと、鼻息も荒く頷く二人。
ちなみにぽちは、まだ俺がぶら下げている。
てか、軽いな、ぽち。
「そんなものを、“使用している”可能性のある本人の前で見つけ出して、どうするんだよ?」
「えー?全力でからかう!面白いから!」
「殿方の性癖のサンプルとして研究させて頂きますわ!楽しいですし!」
「………いろいろ突き抜けて、ある意味清々しいな、二人とも」
「やはは、それほどでもー」
「恐縮ですわ」
「いや、褒めてんじゃねえから」
どうしてくれようか、こいつら。
★
「邪魔するぜ」
「あれ?大山寺さん。どうしたんですか、今頃」
「何言ってんだ。今日、例の店行くってこの間伝えといたろーが」
「あ!そうでしたね、支度しますんで、ちょっと待っててもらっていいですか?」
「おう。まだ早いしな、どっかで飯してからにしよーや」
「いいですね」
「たいさんじさん、れいの店ってなにさー?」
「うん?はは、お前らお子様にはまだ早え店のことさ」
「ふおお?エロス?エロスな店?」
「………九条、親父さんが泣くぞお前。違うよ、静かに酒飲む店だよ」
「えー?つまんないの」
そこで止めときゃいいのに、大山寺さんは余計な情報を付け加えてしまった。
「まあ、ママさんはすげえ美人だがな。後、修行中のホステスの娘がいてよ、これがまた可愛いんだが、用務員の奴がお気に入りでな。連れてこいってうるせえんだよ」
「むむ?」
「ふむ?」
ほれみろ、ぽちと姫の目がぎらりと光っちゃったじゃないか。
「おい、そういや、この前、てめえ店終わってからどうだったんだよこの野郎」
「わ、大山寺さん、なんでそこまで言っちゃうんですか!」
「あ?なんでだよ」
ちろりと。
ぽちと姫に視線を向ける。
「………」
「………」
「………」
「………ぺっ」
「………ちっ」
うわあ。
ぽちの奴、唾吐きやがった。
姫も、露骨すぎる舌打ちですよ。
「なるほどねー、リアルがじゅーじつしてて、いやはやけっこーなこって。けっ」
「俺にはエロ媒体など必要ないんだよと。そういうことですか。ちっ、爆ぜてしまえばよろしいんですわ」
いきなり凄まじくやさぐれた二人は、何故かぽよ丸を拐って、用務員室を出ていってしまった。
ぽよ丸が、「たすけてー」てな感じでじたばたしていたが、介入するタイミングを逸してしまった。
すまん、ぽよ丸。
「おい用務員、なんなんだこれは?」
「あー、酒の肴がわりに後で話しますよ。ま、行きましょうか」
「お、おう」
★
「ぽよ丸拐われたままかよ、ぽちの奴め」
大人なひと時を過ごし、戻って来た。
「よおよおよお、いつになったら俺のことを話してくれんだよお?」
「はいはい、よい子はおねんねの時間だぞ」
「あ!てめ!またスリープかよ?ちっき…ZZZ」
がたがた言わなくなるまではお預けだっての。
「………さて」
ぽち、姫。
ま、お前らに気付けというのも酷な話だが。
確かにこの四畳半には、Hなサムシングは無い。
というか、俺の私物そのものが、ここには半分も無いんだよ。
「ゲート・オープン。ルーム003」
俺の足元に、蒼く輝く魔方陣が展開される。
そのまま、その魔方陣の中に俺の身体がずぶすぶと沈みこんでいき、四畳半から、俺の姿が消えた。
★
「異世界帰り、舐めたらいかんぜよ」
誰に向けてなのかは、俺にもわからない台詞を呟きつつ。
空間魔法により創造された私的空間に移動完了。
003はオーディオルーム。
当然、青少年の育成に有害とされるHなサムシングは大概ここに収めてあるのである。
まあ、携帯端末があれば、今の御時世、贅沢言わなきゃどうとでもなるけどね?
ちなみに、検索ワードや閲覧履歴は、用が済んだら即消し。
サイトをブクマするなど愚の骨頂。
その手の情報は、端末でもなく、脳みそでもなく、魂に刻んでおくのだよ。
リアルが充実?
それはそれ、これはこれ、別物なのですよ。
「さて、桃ちゃんの新作を拝むとするか」
桃ちゃんは、今晩大山寺さんと行ったお店の見習いホステスさんにして、その手の現役女優さんである。
帰り際に、「新作出たからあげるよ!」と、やたら元気よく渡されてしまった。
ので。
只今より、鑑賞会と相成るわけである。
本日、俺の就寝は、ちょっとだけ遅くなると思う。
な、なんとか更新でけた。
ふぬあ!早速次を書かねば!




