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あれが無い

 女性の場合はどうなのかわからないが。


 男ってのは、割といい歳になってても、一人でいたしたりするものである。


 何の話かだって?


 とぼけるなよセニョールハハハー。


 そういえば、昔は、土手や橋の下とか、公園の植え込みの中とか。

 いろんな場所で、よれよれになったトレジャーが見つかったよなあ。


 それが、いたいけな青少年の目覚めのきっかけになったりしたものさ。


 最近は、どうなのかね?


 かくして。


 また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。


 甚だ不本意ながら。





 がさがさ。


 ごそごそ。


 がちゃり。


 がた。


 ずざざ。


 ぎし。


 ぱかり。


「………おい」


「………」


「………」


 ずりずり。


 ひょこり。


 がば。


 がりがり。


「………おい」


「………」


「………」


 ぱらり。


 かさかさ。


 ぎりぎり。


 ぎっちょん。


 ばたん。


 ごろごろ。


「………」


 呼び掛けても応えないならば、実力行使あるのみ。


 ぽちの襟首を後ろから掴んで、猫のように持ち上げ、姫の膝裏を優しくかっくんしてやる。


「にょわ?」


「えひえ!?」


「お前らは人様の家を、住んでる本人の目の前で漁りやがって。なんだってんだよ。返答次第によっちゃ、今後の日米関係に大きな溝が出来るだけの外交問題になんぞこら」


「なんでじゃますんのさー。とてもじゅーよーなもんだいなんだぞー」


「ほう?」


「そうですわ。用務員様の健全たる証を示さんと、私達、こうして奮戦しておりますのに」


「そーだよー」


「待て待て待て。全く話が見えてこねえぞ。何?俺の健全たる証?」


「よーむいんさん、まだ独身だよね?」


「あ?ああ」


「まだまだお若くていらっしゃいますわ」


「うん」


「恋人さんはいる?」


「なんでそんな…まあいいか。今はいないよ」


「ならばー」


「当然このお部屋の中にあるべき物が!ひとかけらたりとも見当たらないのは何故でございましょうや!?」


 なんか俺、責められてるの?これ。


「お前らが何をしたいのか、俺にはさっぱりだ。わかりやすく、有り体に語れ」


「エロス!」


「エロティシズムですわ!」


「………はあ?」


「エロ本、エロDVDかっこビデオかBDでも可かっことじ、なんだったら薄い本でもかまわねー」


「殿方の欲望の発散の一助となるあれやこれやが、無い!無い!無いのですわー!」


「………」


「………」


「………」


 んーと。


 落ち着け、俺。


 意味がわからねえ。


「つまりあれか?俺の部屋からHなサムシングを見つけだすために、家捜しをしていたと」


 ふんすふんすと、鼻息も荒く頷く二人。


 ちなみにぽちは、まだ俺がぶら下げている。

 てか、軽いな、ぽち。


「そんなものを、“使用している”可能性のある本人の前で見つけ出して、どうするんだよ?」


「えー?全力でからかう!面白いから!」


「殿方の性癖のサンプルとして研究させて頂きますわ!楽しいですし!」


「………いろいろ突き抜けて、ある意味清々しいな、二人とも」


「やはは、それほどでもー」


「恐縮ですわ」


「いや、褒めてんじゃねえから」


 どうしてくれようか、こいつら。





「邪魔するぜ」


「あれ?大山寺さん。どうしたんですか、今頃」


「何言ってんだ。今日、例の店行くってこの間伝えといたろーが」


「あ!そうでしたね、支度しますんで、ちょっと待っててもらっていいですか?」


「おう。まだ早いしな、どっかで飯してからにしよーや」


「いいですね」


「たいさんじさん、れいの店ってなにさー?」


「うん?はは、お前らお子様にはまだ早え店のことさ」


「ふおお?エロス?エロスな店?」


「………九条、親父さんが泣くぞお前。違うよ、静かに酒飲む店だよ」


「えー?つまんないの」


 そこで止めときゃいいのに、大山寺さんは余計な情報を付け加えてしまった。


「まあ、ママさんはすげえ美人だがな。後、修行中のホステスの娘がいてよ、これがまた可愛いんだが、用務員の奴がお気に入りでな。連れてこいってうるせえんだよ」


「むむ?」


「ふむ?」


 ほれみろ、ぽちと姫の目がぎらりと光っちゃったじゃないか。


「おい、そういや、この前、てめえ店終わってからどうだったんだよこの野郎」


「わ、大山寺さん、なんでそこまで言っちゃうんですか!」


「あ?なんでだよ」


 ちろりと。


 ぽちと姫に視線を向ける。


「………」


「………」


「………」


「………ぺっ」


「………ちっ」


 うわあ。


 ぽちの奴、唾吐きやがった。

 姫も、露骨すぎる舌打ちですよ。


「なるほどねー、リアルがじゅーじつしてて、いやはやけっこーなこって。けっ」


「俺にはエロ媒体など必要ないんだよと。そういうことですか。ちっ、爆ぜてしまえばよろしいんですわ」


 いきなり凄まじくやさぐれた二人は、何故かぽよ丸を拐って、用務員室を出ていってしまった。

 ぽよ丸が、「たすけてー」てな感じでじたばたしていたが、介入するタイミングを逸してしまった。

 すまん、ぽよ丸。


「おい用務員、なんなんだこれは?」


「あー、酒の肴がわりに後で話しますよ。ま、行きましょうか」


「お、おう」





「ぽよ丸拐われたままかよ、ぽちの奴め」


 大人なひと時を過ごし、戻って来た。


「よおよおよお、いつになったら俺のことを話してくれんだよお?」


「はいはい、よい子はおねんねの時間だぞ」


「あ!てめ!またスリープかよ?ちっき…ZZZ」


 がたがた言わなくなるまではお預けだっての。


「………さて」


 ぽち、姫。


 ま、お前らに気付けというのも酷な話だが。


 確かにこの四畳半には、Hなサムシングは無い。

 というか、俺の私物そのものが、ここには半分も無いんだよ。


「ゲート・オープン。ルーム003」


 俺の足元に、蒼く輝く魔方陣が展開される。

 そのまま、その魔方陣の中に俺の身体がずぶすぶと沈みこんでいき、四畳半から、俺の姿が消えた。





「異世界帰り、舐めたらいかんぜよ」


 誰に向けてなのかは、俺にもわからない台詞を呟きつつ。

 空間魔法により創造された私的空間に移動完了。


 003はオーディオルーム。

 当然、青少年の育成に有害とされるHなサムシングは大概ここに収めてあるのである。


 まあ、携帯端末があれば、今の御時世、贅沢言わなきゃどうとでもなるけどね?

 ちなみに、検索ワードや閲覧履歴は、用が済んだら即消し。

 サイトをブクマするなど愚の骨頂。

 その手の情報は、端末でもなく、脳みそでもなく、魂に刻んでおくのだよ。


 リアルが充実?


 それはそれ、これはこれ、別物なのですよ。


「さて、桃ちゃんの新作を拝むとするか」


 桃ちゃんは、今晩大山寺さんと行ったお店の見習いホステスさんにして、その手の現役女優さんである。

 帰り際に、「新作出たからあげるよ!」と、やたら元気よく渡されてしまった。


 ので。


 只今より、鑑賞会と相成るわけである。


 本日、俺の就寝は、ちょっとだけ遅くなると思う。


 な、なんとか更新でけた。


 ふぬあ!早速次を書かねば!

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