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用務員のお仕事

 改めて言っておくが、俺は用務員である。


 うん。


 君の疑問もよくわかるよ。


 そうだよね。


 いままでがいままでだったしね。


 でも、俺は用務員なんだよ。


 多分、きっと。


 かくして。


 本来こうあるべき日常のひとこまが綴られたりするのである。


 たまには。





「よ、吉岡先生。今、なんと?」


「へ?いやだから、教室棟の蛍光灯が切れてるんで、交換して頂きたいと…」


 俺の両目から、熱い涙がだばだばと溢れ出る。


「え?え?な、なんで泣くんですかあ!?」





「あはははははは!なるほどなるほど!納得ですよ!」


「いやはやお恥ずかしい」


「そうですよねえ、この学校、色々とおかしいですもんね」


「まったくです」


 現国担当の吉岡先生は、この学校でとても貴重な、“まともな”先生の一人である。


「羽原木先生まであんなことになっちゃいましたしね。彼女は大丈夫だと思ってたんですが…残念です」


「………まったくです」


 うう。


 あれについては俺にも責任が。


「それなら、蛍光灯の他にも気になるところが幾つかありますので、ついでにお願いしてもよろしいですかね?」


 おお?マジですか!


「やりますやります!やらせてください!」


「なんか、必死ですね」


 吉岡先生の苦笑いも気にならないぜ!


 ビバ!普通!





「ありゃ、蛍光灯だけじゃねえな、グローランプも換えとこう」


 脚立の上で、鼻唄混じりにお仕事中であります。


「あれ?よーむいんさんじゃん、なにしてんの、それ」


「ぽちか。何って、見ての通り蛍光灯の交換だが」


「………なんで?」


 ぽちの頭が四十五度ほど傾く。


「なんでお前は不思議そうな顔をしてんだ。こういうのが、本来の俺の仕事だ」


「………え?」


 ぽちの頭が九十度近く傾く。

 大丈夫か?首。


 ぽちの頭周辺にクエスチョンマークがぽこぽこと浮かんでいる。

 とうとうこいつまで妙な魔法を修得しやがったか。


「………」


「………」


「………」


「………」


「………」


 ぽちは首の角度をそのままに、大量のクエスチョンマークを引き連れて、とてとて歩き去ってしまった。


「………」


 なんだってんだよ。





 えっと次は。


 理解準備室の入口扉の立て付けが悪い、と。


「あら?用務員様、どうなされたのですか?このようなところで」


「んあ?おお、姫か。ちょっとこれから扉の修理をな」


「………何故ですか?」


「え?そりゃ、仕事で」


「………は?何故用務員様がそのようなことを?」


 おい。


 姫まで何言ってんだ。


「なにゆえもくそも、用務員だから、俺」


 こてん、と。


 姫はいきなり九十度近くまで頭を傾けた。


 だから、首、負担、な?


「………」


「………」


「………」


「………」


 姫、お前もか。


 頭周辺にクエスチョンマークを出現させ、しかも、規則正しく並んだクエスチョンマーク達が、くるくるくるくる回っている。


 姫もそのまま、口元に手をあてがい、しずしずと歩み去っていく。


「………」


 だから。


 なんだってんだよ、お前ら。





 さ、次だ。


 特種教室棟の廊下のコンセントカバーが数ヶ所割れてしまっている、と。


 おいおい、危ねえなあ。


 新しいカバーを見繕い、用心のために、工具やらも持っていく。


「あっちゃー、配線が」


 他はカバーを換えるだけで済んだが、一ヶ所だけ、配線が断線してしまっている。


 ショートするのが怖いので、絶縁テープだけ巻かせてもらおう。

 後は電気屋さんにお願いしなきゃな。


「おや、用務員さん、何してるんですか?廊下で座り込んじゃって」


「………」


 今度は校長先生かよ。


「コンセントカバーが割れまくってたから、補修してたんですが、何か?」


「コンセントの補修?はっはっは!そんなこと、君がやらなくてもいいだろうに」


「………」


「………」


「………」


「………」


「………」


「儂、なんかへんなこと言ったかな?」


 あのなあ。


「校長先生、俺の職業、何でしたっけ?」


「はっはっは!何を言っておるのかね、君は。用務員に決まってるだろう。ボケるにはまだ早いんじゃないかな?ん?」


「ですよねえ。で、この学校、俺以外に用務員いましたっけ?」


「君一人だよ?今更何を」


「じゃあ、俺がこういう仕事をしなかったら、誰がやるんですか?」


「そりゃ君、そんなものは用務………あ、あれ?」


「………」


「………」


「………」


「………」


「………もういいです。邪魔なんで消えてもらえます?」


「ちょっと君ね、常々思っておったが 、儂に対してもっと敬意をだね」


「ああ?」


「………あ、儂、用事があるんだった。し、失礼するよ。は、ははは」


 ったく。





 植え込みの、飛び出しすぎている箇所を剪定していたら、巡回中らしい羽原木先生と配下の女子生徒達が、凄まじい勢いで走り寄ってきましたよ。


「何をなさっているのですか用務員殿!そのような雑事、私の隊の者にでもやらせましょう。おい貴様ら!何をぐずぐずしている!」


「「「「「サー!イエッ!サー!」」」」」


「………」


 羽原木先生………貴女まで。


 なんなんだよ、みんなして。





 昼時。


 手打ちのうどんを、釜上げで、湯をたっぷりと張ったたらいに泳がせ、お好みの食べ方でどうぞ、と。


「………」


 頭九十度で、クエスチョンマークがぴょこぴょこ跳ねているぽちが、釜玉うどんを唸りながらすすっている。


「………」


 同じく頭九十度で、クエスチョンマークがくるくる回っている姫は、茗荷と大葉を薬味にしてうどんをすすっている。


 器用だな、二人とも。


「………」


「………」


「………」


「なんだよ、二人とも。言いたいことがあるなら言えよ」


 ぐりんと。


 クエスチョンマークを散らして、二人が頭を元の位置に戻す。

 ちょっとだけホラー風味だ。


「だってさ、つまんないもん」


「あ?」


「用務員様が、普通に用務員の業務をこなしている。それを、一体誰が喜ぶのですか?色々な意味で」


「ぬぐ!?」


 頭上のぽよ丸が、まるで俺を責めるように高速でてしてし。


「用務員が用務員の仕事してちゃいけないのか」


「そだね」


「ええ。貴方様の場合は」


「………」


 ひでえ話もあったもんだ。


 俺にどうしろと。


 毎日投稿なんぞしてたもので、妙な強迫観念に囚われております。


 ぶっちゃけてしまえば、今話は、ネタをひり出すための時間稼ぎ回でございます。

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ぽち姫はいいけど、校長が何言ってんねん!あんた校長だぞw
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