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セクハラ教師に対処せよ!・後編

 テレビやネットなんぞで、その手の方々の政治的な活動なんかを目にしても、俺なんかは特に関心も持たない。


 どうしたって、自分がそうでないなら、理解なんて出来ないし、取れるスタンスと言えば、容認することぐらいかなあ。


 当人達の真剣さなどに、心情を重ね合わせるなんてことを試みようとも思わない。


 しかしなあ。


 今ここで起きてるそれは、どう考えても喜劇の類いだと思うのだが。


 はてさて。


 ま。


 かくして。


 また今日もこの学校で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。


 甚だ不本意ながら。 





「………」


「………」


「………」


「どうしたよ、三人とも。さっきから静かだな?」


「いやー、おなかいっぱいで。たはは」


「右に同じですわ、なかなか楽しめましたけど」


「流石に食傷気味ではありますね」


 ま、そうなるわな。


 使い古された表現だが、どんな御馳走だって毎日続けて喰ってりゃ飽きるだろ。


 俺にとっちゃ、最初から御馳走でもなんでもなく、胃の検査なんかに使うバリウムを延々と飲まされ続けているようなもんだ。

 満腹とかそういう次元の話ですらない。


 さて、えー。


 教育上の問題等々に配慮致しまして、克明な描写は割愛し、ここまでをダイジェストで説明すると、だ。


 まず一階。

 なんというか、なかなか美人の、ある意味での改造人間とのガチバトルね。


 二階。

 現役のプロレスラーでもあるというガチムチ男と、くんずほぐれつの寝技の応酬を繰り広げた後、いわゆる六十九の体勢で急に動かなくなったと思ったら、“口撃”の応酬に切り替えての持久戦に。


 むさ苦しいことこの上ない。


 三階。

 “美青年殺し”と名乗った、どこぞの常春の国の天才少年王にいつもからかわれている、ロンゲの諜報員みたいな奴と、大量に動員された美青年を制限時間内に何 人“堕として”、“逝かせる”かの勝負。


 ここらは、ぽちと姫の壺にはまったらし く、ぎゃーわーうるさいうるさい。


 四階。

 ここはちょっと変わってた。

 最愛の恋人(もちろん♂)に振られちまって、心身ともに落ち込んで役に立たなくなってる男を、復活させることが出来るかどうか、というものだった。


 姫が、「使える台詞のオンパレードですわ!」と大喜びだったが、正直俺は、てんこ盛りの砂糖を入れたどろどろのインスタントコーヒーを飲まされているような気分だった。


 だが、見事に復活した件の男と、今日の想い出にと、それはもう濃厚に一戦交えたのは余計だと思うんだが。





「さて、最期の関門だな」


 モニタには最上階の五階の様子が映し出されている。


 階段をゆっくりと上がってきた江場先生。

 どういう仕組みなのか知らないが、またしてもゴゴゴと描き文字エフェクト付きである。


 仁王立ちで待ち構えるフレッド。

 何故か上半身裸で、しかも汗まみれである。

 その上こちらも、ドドドの描き文字エフェクト付き。


 んー。


 なんだかなあ。





「待たせたかな、フレッド」


「実に見事だった、カズタカよ」


 二人が対峙する。


 フレッドは江場先生の瞳を見つめ、一瞬だけ視線を下に落とした後、また戻す。

 江場先生はいろいろと臨戦体勢だった。

 それはフレッドも同様だ。


「あれ程の試練を乗り越えながらも、些かも衰えぬ鋼のようなその肉体!その闘志!…だからこそ、残念極まりない」


「なんのことだ?」


「誠に遺憾ではあるが、我々はマイノリティなのだ、カズタカ」


「………」


「マジョリティとされる人々にとって、我々の真実の愛は理解の及ばぬもの。我々はな、彼等にとってモンスターなのだよ」


「………」


「なればこそ、我々はその振るまいに気を配らねばならんのだ。声高に己の矜持を叫ぶことは構いはしない。だが、それを興味や関心を示さぬ人々に押し付けてはならぬ。まして、同志のいない寂しさや、欲望をまぎらわす為に、己が職を利用して卑怯な振るまいに及ぶなど!言語道断なり!」


「ぐはあっ!?」


 フレッドの口舌の刃が江場先生を両断。

 彼はがくりと膝をつく。


「マシンにより肉体に負荷をかけ続け、前立腺の強制刺激で貴様が放った弾数と同じだけ、俺も弾を放っている。条件は五分に近い状態に整えた!さあ!かかってくるがいい、カズタカ!我が秘奥を尽くし、全身全霊をもって相手をしてやろう!」


「く、ぐ、うおおおあああ!」





「ふおお!フレッドさんかっけええ!」


「漢ですわね!」


 うそん。


 なにその感性。


「お忙しいのは承知しているのですが、その、よろしければ今晩…」


 それ、何の電話ですか?羽原木先生。


 ま、いいけど。


 さて、あちらはあちらで、佳境のようだな。



 青少年の育成に大変に有害な展開であり、表現を自粛中です。


 復旧まで、いましばらくお待ちくださいませ。



「喰らうがいい、我が奥義夢槍乱舞を!」


「俺のレーザービームで貴様を貫いてみせる!」



 いまだ、続いております。


 もうしばらく、お待ちくださいませ。



「ぬうううあ!」


「ほおおおあ!」



 まだまだ、続いております。


 いましばらく、お待ちくださいませ。



 空が茜色に染まっている。


 早朝から始まったこの馬鹿騒ぎも、フィナーレが近いのかもしれない。


 試練の塔最上階には、汗となにやら白いものにまみれ、全裸で四つん這い、肩で息をする男が二人。


 よかったよ、活字作品で。

 映像作品なら全身にモザイクかけなきゃならんレベルだぞ。


 



「ふ、はは、ここまでとは、な」


「こ、れほど、の、漢が、いたとは」


「く、ふ、ははははははは!」


「っ、は、あーっはっはっ!」


 胡座をかき、高らかに哄笑する二人。


「ふぐ、う、くう」


 笑っていた江場先生が、次第に顔を俯かせ、肩を震わせながら泣き始めた。


「………」


 フレッドは黙し、静かにそれを見つめている。


「お、俺は、俺は、なんということを…!なんということをしてしまったんだ!」


「………」


「年端もいかぬ少年達を深く傷付けただけじゃない…!俺の浅慮な行いは!素晴らしき同志達をも傷付けてしまう!自分の欲望の為だけに!俺は!俺は!取り返しのつかないことを…!う、う!」


 慟哭する江場先生。


「………カズタカ」


 穏やかな、包み込むような声音で、フレッドが語りかける。


「確かにそれらは、お前の背負わなければならない罪だ。だがな、それだけではないんだよ」


「………?」


「お前の犯した過ちは、そのままであれば、何よりお前自身を傷付けてしまう、壊してしまう。なんと哀しいことではないか、これ程の漢を、な」


「フレッド…」


「だが、お前は己の罪に気が付いた。気が付けた。取り返しはつかぬかもしれぬ。だが、それでも、今のお前ならば、それを糧に、真なる愛に生きることが出来よう」


「フレッド…ああ!」


「振り返ってみるがいい」


「!?」


 江場先生が振り返って見た先には、今日、彼の相手を買って出た全ての男達が、いつの間にか勢揃いしていた。


 何故か全員全裸で。


 何故か全員臨戦体勢で。


 揃いも揃って実に無駄に爽やかな微笑みを浮かべていやがるのが、なんとも鬱陶しい。


「お前の犯した罪を、我々も共に背負おう。お前はもう、一人ではない!」


「!?」


 フレッドが男臭い笑みで、深く頷く。

 周囲の男達も同様に、笑って頷いている。


「ああ、あ、ふぐう!」


 狼狽えたようにふらふらと立ち上がった江場先生は、滂沱と流れる涙を隠すように両手で顔を被うと、声を上げて男泣きに泣いた。





「ぐすっ、ええはなしやないかー」


「うう、麗しき漢の熱き魂がここに集っていますわ」


 もらい泣きしてんの?


 だからなんなのその感性。


「………これならば、以後、江場先生が生徒に手を出すことは無さそうですね。任務完了。用務員殿、お先に失礼致します」


 機敏な動作で俺に敬礼し、踵を反して部屋を出ようとする羽原木先生。


「………ジェーンの処ですか?」


 ぼそっと。


 俺の発した一言に、びびくんと、羽原木先生の身体が跳ねた。


 が。


 羽原木先生は無言で去っていった。

 しかも全力疾走で。


 図星ですか。


「うふふふふふふふ。もりもりと創作意欲が湧いてきますわ!描けますわ!大作が、いやさ超大作が!」


「おお!めざせ壁!さっそくとりかかろう、セナちゃん!」


「ええ!」


 ばたばた騒がしく、ぽちと姫も去っていく。


 ぽよ丸までついていっちまったぞ。


「………」


 うわ。


 連中、そのまま乱痴気騒ぎに突入しやがった。





「あ、伯母さん?例の件、片付いたよ。校長先生にもよろしく言っといて。うん、うん、でさ、試練の塔だけどさ、ひでえことになってて。掃除のおいちゃんとおばちゃんに頼むわけにゃいかねえんだよ。うん。プロに頼んでよ。言い値にしないと引き受けてくれないと思うから。ああ、うん、そうそう。んじゃ、そういうことで、よろしく」

 

 携帯の通話を切る。


「疲れた」


 もう帰って寝よう。





 翌日。


 迷惑をかけた生徒達に詫び、伯母さんや校長先生にも詫びを入れ、江場先生は学校を去ったらしい。


 この先、江場先生がどうするのか、それは俺にとってはどうでもいい話だ。


 で。


『ははは、この私が苦戦するほどに、昨夜のモエは激しくてな。しかし、一体なにがあったんだシャドウ、訳を知ってたら…』


 ぽちり。


 ジェーンからののろけ混じりの通話を強制カットだ。


 んなもん知ったことか、本人に聞けや。


 用務員室の入口に、他行中の札を掛け、厳重に鍵を掛け、おまけで遮音の魔法を、部屋とアイツに掛けておく。


「さて、もう一眠り、と」


 用務員室の灯りを落とし、布団にもぐり込む。


 久しぶりに一人で、素晴らしき惰眠を貪るべく、俺は瞼を閉じた。


 何故か唐突に、脳内で、○illage○eopleの“Y.M.C.A.”が流れ始める。


 いやいやいや。


 もういいから。


 この作中でもトップクラスで、果てしなくどうでもいい話なのに、なんでここまで長くなったのやら。


 うーん。


 あ、評価にブクマ、ありがとうございます!


 励みになります!


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