表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/63

嗚呼、麗しのジャンクフード

 俺達の国は、他国の食い物を自国流にアレンジしてしまうのが大得意だ。


 それはそれでもちろん旨いが、本場ものが不味いのかといえば、そんなことはないわけで。


 いや、健康に悪いのもわかるし、サイズ的なものもわかるよ?わかるけどさ。


 えーと。


 何の話だっけ?


 ま、いいか。


 かくして。


 また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。





「え?食べたことないの?」


「はい、お恥ずかしながら」


「別に恥ずかしがるこたないけども。まあ、姫の生活スタイルなら、そもそもその手の店に立ち寄る機会が無いだろうしな」


 高級車で執事さんが送り迎えしてくれて、自宅で専属コックさんによる御食事がメインで、そうでなかったとしても、それなりのグレードのお店なりなんなりで食べるんだろうからねえ。


「九条様は、召し上がったことがあるのですね?」


「うちはきほん的にほーにんだからねー。ふつうにそこらの店で買い食いとかするし」


「羨ましいですわ」


 羨ましいときたか。


 一般人にしてみれば、姫の普段の食事の方が羨ましいだろうけどなあ。


「で?なんでそんな話になったんだよ」


「んとね、クラスの男子が、あさ、買って来てたんだよ。それ見て、セナちゃんが、あれは何なのですか?って聞くからさ」


「なるほど」


 そこまでは、まあ、いいとして。


「その話の流れで、なんでまたここに来るんだよ、お前は」


「へ?だって、どーせ食べるなら、おいしい方がいいじゃん」


 こいつ。


「つまりあれか?俺に作れと」


「そゆこと。てなわけで、ハンバーガーをポテトとドリンクのセット付きでよろ!」


「無理」


「ふへ?」


「だから、無、理」


「ばかな!?」


「勘違いすんじゃねえよ。今まではおまかせメニューだから、どうとでもなってたんだぞ?そっちのオーダーに合わせて都合よく飯の支度なんかできるわきゃないだろーが」


「えー?」


「なんで心底不思議だと言わんばかりの顔されなきゃならんのだ」


「ぶーぶー。セナちゃんちからお金もらってるくせにー」


「九条様?用務員様との契約で、メニューはおまかせという決まりなんですのよ?これ以上無理難題をふっかけて用務員様の御機嫌を損ね、契約解除になるのは、私が困ります。自重して下さいませね」


「ううー、わかったよう」


 やれやれ、だな。


 ちなみに、本日の昼飯は、何が出るかお楽しみ、定番から変わり種まで様々な具が待ち受ける山盛りのおむすびと、具だくさんの豚汁である。





 翌日の昼時。


「ほらよ」


「んお?っなんじゃこりゃあああ!?」


「!?」


「せっかくなので、本場ものっぽくしてみた」


「やりすぎじゃあ!ふはは!こいつは倒しがいがありそうだぜ!」


「すごく…大きいですわ」


 どでんと。


 昨日のぽちの注文通り、焼きたてパンズに、パテ二枚、スライスチーズも二枚、しゃきしゃきレタス、スライストマト、スライスオニオン、ピクルス、ソースはケチャップベースのオリジナルの特製特大ハンバーガーに、山盛りフライドポテトと、ピッチャーになみなみと入ったダイエットコークのセットでございますよ、と。


「あの、用務員様?どのような作法でいただけばよろしいのでしょうか?その、大きすぎて」


 俺はにやりと笑って、姫の隣のぽちを指差す。


「ふももが!ふぐむぐ!んごっんごっんご!うんまーい!さいっこー!」


 ぽよ丸も、もっしゃもっしゃと、かっ喰らっている。


「えええー?」


 口の周りをケチャップまみれ、油まみれにしながら、貪るように喰うぽちに、姫は若干引き気味であり、及び腰だ。


「姫、考えるな、感じろ。ラーメンの時を思い出せ」


 偉大な格闘家にして映画俳優の名言を、かなり間違った用法で口にしながら、俺も豪快にかぶりつく。


「ふもぐ!んも?どったのセナちゃん?組み合わせはオーソドックスだけど、すっげえおいしいよ?」


「………ええい!ままよ!ですわ!」


 覚悟を決めたらしい姫も、えいやっとばかりに、ついにハンバーガーにかぶりついた。


「むぐぐ、もむぐ、むぐむぐ…」


 目を白黒させながら、夢中になってハンバーガーを頬張る姫。

 合間にフライドポテトにも手を伸ばし、コークもぐいぐい飲む。


「へっへー。こーいうのもありなんだぜー?」


 ぽちが、すでに半分ほどになっているハンバーガーのパンズを一旦開き、そこにフライドポテトをもっさりと挟み込んで、再びかぶりつく。


「もがむ!うぐうぐむぐ、んごっんごっんごっ!ぶっはー!」


 ぽちの奴、ご満悦だな。


 お?はは。


 姫が、ぽちの真似をしようかどうか迷っているみたいだ。


「好きにしたらいい。ここは社交場じゃないんだからさ。ああ、ドレスは汚さないように気を付けろよ?」


「………」


 てれてれとしながら、ぽちの真似してる姫が、そこそこに愛らしいぞ。





「ぷっひゅー!さすがに喰いすぎだぜー!だが、余はまんぞくじゃー!」


 ぽんぽこりんのお腹をさすりさすり、ぽちは大の字で寝ころがっている。


 へそが見えてんぞー。


「…ふう。流石に、ちょっと苦しいですわね」


 今日のドレスがコルセットタイプじゃなくて、ゆったりめのデザインで良かったな、姫?


 口には出さないがな!


「よーむいんさん」


「ん?」


「なんで本場ものタイプにしたの?めちゃくちゃおいしかったから、べつにいんだけどさ」


「ああ、それな。なんつーか、本場ものの、明け透けで飾らない突き抜け方が好きなんだよ」


「あははははー、なんだそれ、へんなの」


「私は、なんとなくわかるような気がします」


 塩っ辛い焼き鮭とか、梅干しに沢庵漬け、昆布の佃煮なんかを、ちょろっと一口。

 んで、どんぶりに盛った白米をがふがふとかっこむ。


 こっちで言えば、そんな感覚に近いものを感じたりもするのだ。


 なんとなく。


「日本のハンバーガーも好きなんだけどな?」


 ちょっぴり騒がしかった午後の入口が、まったりと過ぎていく。


 ところで。


 姫を見習って、口の周りや手を拭け、ぽち。

 ひでえ顔だぞはっはっは。


 ぽよ丸、お前もだ。


 目の錯覚じゃない?


 ブクマがあるう?


 ありがとうございます!ありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
メリケン飯は朝食にメープルシロップの湖に浮かんでバターの氷山を従えたパンケーキを被弾してからちょっとアレだぁ〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ