嗚呼、麗しのジャンクフード
俺達の国は、他国の食い物を自国流にアレンジしてしまうのが大得意だ。
それはそれでもちろん旨いが、本場ものが不味いのかといえば、そんなことはないわけで。
いや、健康に悪いのもわかるし、サイズ的なものもわかるよ?わかるけどさ。
えーと。
何の話だっけ?
ま、いいか。
かくして。
また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。
★
「え?食べたことないの?」
「はい、お恥ずかしながら」
「別に恥ずかしがるこたないけども。まあ、姫の生活スタイルなら、そもそもその手の店に立ち寄る機会が無いだろうしな」
高級車で執事さんが送り迎えしてくれて、自宅で専属コックさんによる御食事がメインで、そうでなかったとしても、それなりのグレードのお店なりなんなりで食べるんだろうからねえ。
「九条様は、召し上がったことがあるのですね?」
「うちはきほん的にほーにんだからねー。ふつうにそこらの店で買い食いとかするし」
「羨ましいですわ」
羨ましいときたか。
一般人にしてみれば、姫の普段の食事の方が羨ましいだろうけどなあ。
「で?なんでそんな話になったんだよ」
「んとね、クラスの男子が、あさ、買って来てたんだよ。それ見て、セナちゃんが、あれは何なのですか?って聞くからさ」
「なるほど」
そこまでは、まあ、いいとして。
「その話の流れで、なんでまたここに来るんだよ、お前は」
「へ?だって、どーせ食べるなら、おいしい方がいいじゃん」
こいつ。
「つまりあれか?俺に作れと」
「そゆこと。てなわけで、ハンバーガーをポテトとドリンクのセット付きでよろ!」
「無理」
「ふへ?」
「だから、無、理」
「ばかな!?」
「勘違いすんじゃねえよ。今まではおまかせメニューだから、どうとでもなってたんだぞ?そっちのオーダーに合わせて都合よく飯の支度なんかできるわきゃないだろーが」
「えー?」
「なんで心底不思議だと言わんばかりの顔されなきゃならんのだ」
「ぶーぶー。セナちゃんちからお金もらってるくせにー」
「九条様?用務員様との契約で、メニューはおまかせという決まりなんですのよ?これ以上無理難題をふっかけて用務員様の御機嫌を損ね、契約解除になるのは、私が困ります。自重して下さいませね」
「ううー、わかったよう」
やれやれ、だな。
ちなみに、本日の昼飯は、何が出るかお楽しみ、定番から変わり種まで様々な具が待ち受ける山盛りのおむすびと、具だくさんの豚汁である。
★
翌日の昼時。
「ほらよ」
「んお?っなんじゃこりゃあああ!?」
「!?」
「せっかくなので、本場ものっぽくしてみた」
「やりすぎじゃあ!ふはは!こいつは倒しがいがありそうだぜ!」
「すごく…大きいですわ」
どでんと。
昨日のぽちの注文通り、焼きたてパンズに、パテ二枚、スライスチーズも二枚、しゃきしゃきレタス、スライストマト、スライスオニオン、ピクルス、ソースはケチャップベースのオリジナルの特製特大ハンバーガーに、山盛りフライドポテトと、ピッチャーになみなみと入ったダイエットコークのセットでございますよ、と。
「あの、用務員様?どのような作法でいただけばよろしいのでしょうか?その、大きすぎて」
俺はにやりと笑って、姫の隣のぽちを指差す。
「ふももが!ふぐむぐ!んごっんごっんご!うんまーい!さいっこー!」
ぽよ丸も、もっしゃもっしゃと、かっ喰らっている。
「えええー?」
口の周りをケチャップまみれ、油まみれにしながら、貪るように喰うぽちに、姫は若干引き気味であり、及び腰だ。
「姫、考えるな、感じろ。ラーメンの時を思い出せ」
偉大な格闘家にして映画俳優の名言を、かなり間違った用法で口にしながら、俺も豪快にかぶりつく。
「ふもぐ!んも?どったのセナちゃん?組み合わせはオーソドックスだけど、すっげえおいしいよ?」
「………ええい!ままよ!ですわ!」
覚悟を決めたらしい姫も、えいやっとばかりに、ついにハンバーガーにかぶりついた。
「むぐぐ、もむぐ、むぐむぐ…」
目を白黒させながら、夢中になってハンバーガーを頬張る姫。
合間にフライドポテトにも手を伸ばし、コークもぐいぐい飲む。
「へっへー。こーいうのもありなんだぜー?」
ぽちが、すでに半分ほどになっているハンバーガーのパンズを一旦開き、そこにフライドポテトをもっさりと挟み込んで、再びかぶりつく。
「もがむ!うぐうぐむぐ、んごっんごっんごっ!ぶっはー!」
ぽちの奴、ご満悦だな。
お?はは。
姫が、ぽちの真似をしようかどうか迷っているみたいだ。
「好きにしたらいい。ここは社交場じゃないんだからさ。ああ、ドレスは汚さないように気を付けろよ?」
「………」
てれてれとしながら、ぽちの真似してる姫が、そこそこに愛らしいぞ。
★
「ぷっひゅー!さすがに喰いすぎだぜー!だが、余はまんぞくじゃー!」
ぽんぽこりんのお腹をさすりさすり、ぽちは大の字で寝ころがっている。
へそが見えてんぞー。
「…ふう。流石に、ちょっと苦しいですわね」
今日のドレスがコルセットタイプじゃなくて、ゆったりめのデザインで良かったな、姫?
口には出さないがな!
「よーむいんさん」
「ん?」
「なんで本場ものタイプにしたの?めちゃくちゃおいしかったから、べつにいんだけどさ」
「ああ、それな。なんつーか、本場ものの、明け透けで飾らない突き抜け方が好きなんだよ」
「あははははー、なんだそれ、へんなの」
「私は、なんとなくわかるような気がします」
塩っ辛い焼き鮭とか、梅干しに沢庵漬け、昆布の佃煮なんかを、ちょろっと一口。
んで、どんぶりに盛った白米をがふがふとかっこむ。
こっちで言えば、そんな感覚に近いものを感じたりもするのだ。
なんとなく。
「日本のハンバーガーも好きなんだけどな?」
ちょっぴり騒がしかった午後の入口が、まったりと過ぎていく。
ところで。
姫を見習って、口の周りや手を拭け、ぽち。
ひでえ顔だぞはっはっは。
ぽよ丸、お前もだ。
目の錯覚じゃない?
ブクマがあるう?
ありがとうございます!ありがとうございます!




