6章 聖なる夜
「・・・もしもし、連絡ください。会って話がしたいから・・・待ってるから、ずっと・・」
電話が嫌いな彼女からのメッセージを聞き終え、僕はしばらくじっと携帯電話を見つめていた。
どうしてこんな風になってしまったのだろう。
別に理由なんてなかった。
彼女のことを嫌いになったわけでもない。
ただ、なんとなく、このままでいいのだろうかと、思ってしまったからだろう。
彼女との関係の話ではなく、僕自身の生き方に・・。
僕は何もかもが面倒になってしまっていた。
昔のように。
理想と現実。
夢と現実。
嫌になる。
逃げたくなる。
窓からのぞく灰色の空を眺めながら僕は深くため息をついた。
朝起きたときはいい天気だったが、夕方には今にも泣き出しそうな空をしていた。
その重い空が圧し掛かって来るようで僕はたまらずベッドに倒れこんだ。
きっと彼女の予想は当たるだろう。
天気予報もそういっていた。
今はまったく使っていない机の上に、無造作に置いてある写真立ての無邪気な彼女の笑顔を横目で見ながら、僕はゆっくりと瞼を閉じた。
『問題は自分か・・・』
彼女と会って、ちゃんと話をしなければ・・そう思い、僕は彼女の携帯電話を鳴らした。
街はどこもかしこも赤と緑のクリスマスカラーに彩られ、イルミネーションが輝いていた。
クリスマスソングがあちらこちらで流れ、不景気な世の中と言われているのが嘘の様に街は買い物客で活気づいていた。
目にとまる人たちはカップルばかりで、皆どこかに向かって歩いている姿が幸せそうに見えた。
そんな中、1人黒いマフターと黒いコートをまとった女性が携帯電話を見つめていた。
その姿がどこか切なく、悲しそうに見え、そして愛しく見えた。
「約束の時間より早くついちゃった」
彼女は人ごみの中に僕を見つけると、携帯電話をバックにしまい早足でやってきて、さっきまでの悲しそうな顔が嘘のように無邪気に笑って言った。
クリスマスだというのにその海は人が少なく、どこかさびしそうだった。
僕らはあの時、一緒に流れ星を探した場所と同じところに静かに腰をおろした。
どれほど時が経ったのだろうか、静けさがあたりを包みこんでいた。
そんななか彼女が口を開いた。
「・・んと・あ・、元気だった?」
長い沈黙を破り、彼女は僕の目を見ずに震えた声で言った。
「うん、まあまあかな・・」
相変わらず僕は適当な返事をした。
正確にいえば彼女に僕の言葉をどう伝えたらよいかそのことを考え頭がいっぱいで、上の空だった。
「そうだ!またココア持ってきたんだ、一緒に飲もうよ・・」
彼女はそういってバックから魔法瓶をとりだし、僕にココアを注いでくれた。
僕にコップを差し出したその手が震えていた。
そんな彼女を横目でみると、静かに泣いていた。
それに気づいた彼女は照れ隠しの様に笑って、
「なに泣いてるんだろね、私・・・」とかすれた声でいった。
その涙は、初めて彼女が僕にみせた涙を思いださせてくれた。
そう恋のきっかけは彼女がみせた涙だった