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4章 真実は彼女の流した涙の中に。

「まだかなぁ、流れ星」


彼女はそういいながら僕の手をさらに強く握った。


僕はこんな都会の真中にある海で流れ星なんか見つけられるわけが無いと思いながら、彼女に無言でつきあった。


今年の冬は暖冬なのか、昼間は夏の様な陽気だったが夜の海風が着実に冬が近づいていることを知らせていた。


僕は彼女の体温を感じながらちょっと薄着で来てしまったことを少し後悔した。


首が疲れるねと、笑いながら言った彼女はおもむろに、去年の夏、一緒に買いに行ったブランド物のバックから魔法瓶を取出し、あたたかいココアをコップに注いだ。


暖かい飲みものを用意してあるなんて、気が利くってゆーのか、なんてゆーのか・・なにをかんがえているのか。


僕は聞こうかと思ったが、ココアから立ち上る湯気をみているうちに、そんな疑問などどうでもよくなった。


いきなり暖かいものを体内にとりいれて体がビックリしていた僕に、彼女は昼間買ったばかりの黒のマフラーを袋からとりだし、やさしく僕の首に巻きつけた。


「ありがとう」


僕は聞こえないぐらい小さな声で言った。


すると彼女はいつもの微笑で、かさついた僕の唇にキスをした。


そのやさしいキスはココアの味がした。


その時間がたまらなく切なく、そしてはかなく感じた。



「あ!流れ星!」


彼女の横顔に見とれていた僕はその言葉に反応してすぐ空を見上げたが、もう流れ星はみえなかった。


「みたみた?」


彼女は僕が見逃したのを承知の上で、いたずらっぽく聞いてきた。


「私はしっかりみたもんねぇ。願い事もバッチリ!」


「なにをお願いしたんだ?」


「へへ〜、ひ・み・つ!人に言っちゃったらご利益なくなっちゃうもん。」


彼女は甘えた声で、目を輝かせて言った。


「ふ〜ん、じゃあ、きかね〜よ」


僕はわざとちょっと不機嫌そうな声で彼女の反応を見ることにした。


彼女は僕の期待通りにすぐさま、あやまってきて、僕の腕を強く抱きしめた。


そして少し淋しい目で海を見ていたかと思うと、その目は焦点があってないようだった。


「なぁ、どうした?おいってば。」


僕は気になって彼女に声をかけた。


「おい、どうした?ぼーとしちゃって」


「ん・・なんでもない。海をみてただけだよ。」


「ふーん。ならいいけどさ。」


「あ!あさってさぁ、雪、降らないかなぁ。イブの日に。イブの日に雪ってロマンチックだよね〜、なんか絶対、雪降るような気がする〜」


彼女は突然、思いついたかのように、またクリスマスの話をしだした。


「降らないって。天気予報では晴れだっていってたぞ。それに東京ではホワイトクリスマスなんてまずありえないよ。あんなのドラマの中だけさ。たしかここ100年間で1回しかなかったはずだよ。降ったら奇跡だって。」


「そうだとしても、降るよ、絶対ね。」


そういった彼女の笑顔が印象的だった。


「ねぇ、今年のクリスマスだけでなく、この先も、来年も再来年もず〜っと、ず〜っとクリスマスは一緒にここに来ようね!約束ね!」


「え〜、やだよ、めんどくせーなぁ。だいたい先のことなんかわかんねーだろ?そんな先の約束したって意味無いよ。」


わざと突き放すように言った僕はココアを一気に飲み干し、飲み干したコップを彼女に渡そうと、ふと彼女の顔をみると、彼女は大粒の涙を流していた。


その顔に精気はなく目は焦点が合っていなかった。


まるで幽霊でも見たかのように青ざめたその顔はいままで僕に見せたこともない顔だった。


僕は突然の出来事に戸惑ってしまった。


なぜ泣いているのか?


さっきの返事のせいか?


どうした?と声をかけても彼女は意識がないのかただただうわごとのように、なんでなんで?と繰り返し言い、泣いているだけだった。


そこまで泣くようなことだったか?僕はただただ謝ることしかできなかった。


そんな僕にいきなり彼女は抱きついてきた。


今までにないぐらい力強く。


その小さな手をいっぱいに広げながら、僕の胸の中で子供みたいに泣いていた。


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