3章 恋の始まり
彼女と初めて出会ったのは、1年半ぐらいまえだった。
うっとうしい梅雨が明け、7年もの歳月を土の中で過ごした鬱憤を晴らすかのように、蝉が五月蝿く鳴いていた夏の始まりの頃だった。
アルバイトは別になにがやりたいとかではなく、求人広告にたまたま目がとまったやつだった。普通の人と同じことがしてみたかっただけだった。
初めてやるバイトで右も左もわからなかった僕に、親切に教えてくれたのが彼女だった。1つ年下の彼女は細身で、背中まである長い亜麻色の髪がとても似合っていて、笑うとエクボができるのが印象的だった。
お互い恋人もいなかったし、なにかと肌が合っていたので、恋人関係になるのには夏休み期間中だけで十分だった。
僕は出会いを求めてアルバイトを始めたわけではないし、彼女のことも初めはまったく意識していなかった。
それが、ある出来事がきっかけで気になる存在になっていった。
僕はいままで「彼女」がいなかったわけではない。
いままで何人かの女性と付き合ってきた。だが、みんな上辺だけの付き合いだった。別にいなければいないで困ることはなかったし、適当に付き合っていたから、いなくなっても何も感じなかった。
でも、いままでの「彼女」とは違う何かを彼女はもっていた。
彼女となら・・・・そんな気がした。そんな気にさせられた。
だからそんな彼女に自分を見透かされているような言葉をいわれてショックだったのかもしれない。