2章 包み込むように
「たのしみだね。」
ショッピングモールで買い物を満喫した彼女は、帰りに海で流れ星を見てから帰ろうと、僕の手を引っ張りながらそう言った。
「なにがさ?」
「もう!わかんないの?もうすぐクリスマスイブじゃん!あさってだよ?初めて一緒に過ごすイブだよ?去年は私のせいで会えなかったし、今年こそはね。たのしみ〜」
「あぁ、そうだなぁ。」
「どうするどうする?なにしよっか?なにしよ〜〜」
「ん〜、なんでもいいんじゃん?」
「もう〜。また適当な返事してぇ。でも、たのしみだなぁ、はやくクリスマスにならないかなぁ」
「そうだな〜。たのしみだ。」
僕は買い物に疲れて、適当に返事をした。
どうして女の買い物はこうも長いのだろう。おかげでクタクタだ。
「ちょっと〜、ほんとにそう思ってるの?」
彼女はちょっと不機嫌そうな顔をして、僕の二の腕をつねった。僕はちょっと彼女が怒った顔が好きで、時折わざと彼女が怒るような事を言ったりした。
「いてて、いてぇって!マジで楽しみにしてるって。」
「プレゼントも用意してあるし。」
「・・・・ほんと?・・・うれしい・・。」
本当にうれしそうな顔をしていた。
女心はわからないものだ。さっきまで怒っていたのに、またすぐ、機嫌がよくなったり、よくわからない生き物だ。
「ねぇ!イブの日は、またここにこようよ!この海を見にね!ねぇ、いいでしょ?」
決してお世辞にも豊満な胸とはいえないその胸を、僕の腕に押し付けながら甘えた声で彼女はそう言った。
「別にいいけど、海が見たいなら他のきれいな所、連れてってやるよ」
「やだ!この海がいいの。この海が好きなの。うまくいえないけど、この海は・・・やっぱり、秘密!」
「なんだよ?気になるだろ〜?教えろよ」
「ダメー、内緒ですぅ」
彼女はいたずらっぽく照れた表情をして笑った。
「なんだよ〜、ちぇ、まぁいいや」
いつものように僕は流した返事をした。
僕の左手には彼女が一目惚れして買った黒のコートとマフラーが入った買い物袋。右の腕は彼女の握り締める手で塞がっていた。
僕は背中が痒いのをがまんして、腕を組んで人がまばらな人工の砂浜をゆっくり歩いた。