第1部 1章 笑顔の横で
「もう、おわりにしよっか」
彼女は僕の腕の中で優しい声でそういった。
彼女に言わせてしまった言葉。
深く、そして重い言葉。
「・・そうか、わかった。」
そう言うのが精一杯だった。
「・・あ、雪・・・」
「・・・ほんとだ・・」
彼女の予言どおり、この日はホワイトクリスマスになった。
天使の羽の様に舞い落ちる雪の白さと、どこまでも続いている海が僕達を包んでいるような気がした。
彼女の冷たくなった体と、彼女に対するありがとうという気持ちを抱きながら、いつまでもこの時間が続くことを祈り、彼女の温もりを感じていた。その温もりは僕に彼女と過ごした日々はとても大切な時間だったと気付かせてくれていた。
この腕を放せばもう感じられない温もり。そう思うと僕は涙が止まらなかった・・・。
彼女と過ごしたやさしい時間が思い出となって涙と一緒に溢れ出てきた・・・。
〜数ヶ月前〜
「わっ」
彼女と約束していたデートの待ち合わせ場所で、タバコをふかしながら待っていた僕に
突然うしろから彼女が飛びついて僕を脅かした。
「ごめ〜ん。おまたせ〜〜」
「びっくりすんだろ〜?ったく、それよりも、おい遅刻だぞ?」
その顔はわるびれた様子もなく、いたずらっぽい笑顔をふりまいていた。
「ごめんねぇ、ほんと、ごめん。怒ってるの?でも、ほら、女の子ってお化粧とか時間かかっちゃうからさぁ」
「うん、そっかそうだな・・って、だからって遅刻してもいいってわけじゃないだろ?だいたい遅刻したらなんてゆーんだっけ?」
「はい、ごめんなさい・・もう、そんなにおこんないでよ〜。ね?すきだよ〜すきっ」
そういって彼女は僕の腕をとり、背伸びをし15cmある身長差を縮め頬にキスをしてきた。
「おい、もう、わかったから、やめろって公衆の面前で、はずかしいだろ〜。そんなんじゃ、ごまかされないぞ。」
そうは言いながらも、僕は少しうれしかった。
ここだけだとバカップルぼいけれど、僕はあんまり馴れ合いは好きではないし、ベタベタするのも苦手だ。付き合って1年ちょっとのどこにでもいる普通のカップルだ。
よく彼女の買い物につきあっては、買い物が長いと、愚痴をたれていたし、たまにゲームセンターにいくと、彼女のために2千円も使い、さほどかわいくもない、ぬいぐるみをとってあげたりもした。
テレビで話題の映画を観に街の映画館にいっては決まって、ポップコーンとコーラを1つずつ買い、仲良く2人で分けながら映画に夢中になった。
観終わると近くのカフェでお互いの感想を言い合い、たまにお互いの解釈の違いから口論になったりもしたが、最後はビデオがでたらまた見ようね、ということでまとまっていた。
そして、僕の家に彼女をいつもの様に連れてきては体を重ね愛を確かめ合ったりした。別れ際には背を向いている僕に決まって彼女は細い腕をまわし、体をよせてきた。
僕は背中に感じる彼女の鼓動にやすらぎを感じ、愛しくなり向き直って彼女の唇にやさしくキスをした。
キスをするたびにうまくなっていく彼女に、僕はなぜだか切なくなった。
電話は毎日してたし、メールも用も無いのに毎日10通はやり取りをしていた。
そのメールで僕は人と繋がっているという実感を得ていた