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第3部 1章 僕の答え

「ね?雪になったでしょ?」


どのくらいの時間がたったのだろうか、僕はいつまでも彼女の温もりを腕の中で感じていたかったが、その願いも虚しく、彼女は僕の腕の中をすり抜けてそう言った。


目を潤ませていたが、その表情はやさしい顔をしていた。


「うん。」


僕はそう返事をすることしかできなかった。


「来年もいっしょにクリスマスをすごしたかったなぁ」


僕はその言葉に心を殴られたように、鼓動が早くなったのを感じた。


「ごめんね、約束やぶっちゃって。」


彼女はいたずらっぽい笑顔でいった。


しかし、その表情がどこか切なそうで、悲しみに満ちているのがわかった。


約束守れないのは僕のせいなのに。


僕は、涙しかでなかった。


「さよならは言わないよ。悲しくなるから。」


彼女の目にはまた涙が溜まっていた。


「いままでありがとうね。たくさんのいい思い出をありがとう。」


最後まで何も言えない自分が情けなかった。


「じゃ。またね。」


彼女はそういって、笑顔をみせていた。


しかしその笑顔はいつもと違って、一筋の涙がほほをつたっていた。


そして、彼女は僕の前から去っていった。


人がまばらの砂浜を横切りながら、一度も振り返ることもなく・・。


僕は彼女の後姿をただ眺めていた。


これが夢でありますようにと淡い期待をいだきながら。


そして、彼女の姿が僕の視界から完全に消えた。


僕は一人残されたこの人工の砂浜で降り続いている雪の冷たさを感じていた。



彼女が去って、彼女を失って、初めて彼女の大切さに気がついた。


いつのまにか僕の中でこんなにも彼女の存在が大きくなっていたなんて・・。


彼女を失いたくない。


本気でそう思った。


気がついたら僕は走り出していた。


砂に足をとられながらも、彼女の足跡を必死で追った。


もう、いまさら遅いかもしれないけれど、僕の本当の気持ちを彼女に伝えたい。


その想いだけで僕の身体は動いていた。


僕は砂浜を抜け、ビーチのすぐ隣にある駐車場を駆け抜け、歩道に出た。


そこで彼女の姿を見つけた。



「ちょ、ちょっとまてよ!」


「おい!まてって!」


僕は息をきらしながら、車道を挟んで向こう側に居る彼女を呼び止めた。


二人の間には赤信号が邪魔をしている。


彼女は僕の声に気づいたのか、驚いた顔でこっちを振り向いた。


僕は横断歩道の端で息を整えながら、想いを全てぶつけようと、話し出した。


「ごめん!」


僕は道路の向こう側にいる彼女にしっかり聞こえるよう大きな声で言った。


「いまさらかもしれないけど、、僕は、、僕は、きみが好きだ!僕にとって君は大切な人だって気付いたんだ。君といるといままで経験したことない気持ちになれた。はじめて人を真剣に好きになれたんだ。はじめて、心から言えるよ、愛してるって。君を愛してる!!」


僕は思うまま口にした。


考えるよりも先に言葉がでてきた。


それはかっこよくはないと思うけど、僕の本当の気持ちだった。


彼女は泣いていた。


僕はただ泣いているだけの彼女を抱きしめたいと、はやる気持ちを抑えられず、彼女の元にかけだそうとした。


「こないでぇぇ!」


そう彼女は叫んだ。


泣きながら。


「こっちにこないでぇ!」


そう叫ぶ彼女の言葉を無視し、僕は彼女を抱きしめるべく駆け出した。



そのときだった。



僕の体はまぶしい光で包まれた、と、同時にクラクションが鳴り響いた。


驚いて僕は足が止まった。



車が僕に向かって突っ込んできていた。


あたりには車のブレーキ音が響いた。



つぎの瞬間、僕はドンと押され地面に倒れた。



しかし、車に惹かれたにしては痛くない。


僕は、あたりをゆっくりと見回した。



車のブレーキ跡、アスファルトとタイヤが焼ける臭い、斜めに停まっている車、その車のライトが照らす白い雪、



そして、倒れている彼女・・。



そうだ、ぶつかると思った刹那、彼女は僕を突き飛ばしたのだ。



そして僕は助かり、彼女は、僕の身代わりに!!



そんな!


なんてことだ!


なんてことになってしまったんだ!


僕はすぐに倒れている彼女に駆け寄った。


「おい!おい!!大丈夫か?おい!なんで・・なんでだよ・・おい!返事しろって!誰か!!誰か救急車!!救急車呼んでください!!」


僕は彼女を抱え起こし体をゆすった。


さっきまで涙の通り道だった頬は、今は赤く染まっている。


何で僕のために・・。


何で僕なんかを助けたんだ・・。


なんで・・。


僕は泣いていた。


僕の涙が、彼女の頬を伝ってアスファルトにおちていく。


「なんでだよ、、僕を、、なんで助けたんだよ、、、。なんで、、、。」


彼女は、ゆっくりと目をあけた。



「おい、きこえるか?すぐに救急車がくるからな?大丈夫、たいしたことないから、な?」


彼女はうつろな目線の先に僕を捕らえると、にっこりと微笑んだ。



「よ、よかったぁ。あなたは無事なのね?」


彼女の声は弱弱しかった。



「あ、ああ、僕はなんともない。君のおかげだ。」


その彼女の声を聞いて、僕は涙声でそういった。



「なんで、なんで僕を助けたんだよ。なんで・・ぼくなんかを。。」


「・・な・・なにいってんのよ・・・あたりまえじゃない・・・そんなの・・・だって・・

あなたを・・愛してるんだもの・・・」



そういって彼女は弱弱しい小さな手を震わせながら、僕の頬を流れる涙をやさしく、いや、力なくぬぐった。



そして僕に笑顔を見せたかと思った次の瞬間、彼女はゆっくりと瞳を閉じた。


それと同時に小さな手も僕から離れていった。



「え・・うそだろ?やめろよ、へんな冗談は・・・。おいってば、、目、あけろよ、、おい!

わらえねぇって、、目あけろよ、、おい!・・・そんな・・だれか!!だれかぁ!!!」




真っ白な雪が降り注ぐ聖なる夜に、僕の声がかなしく響いていた・・。


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