5章 星に願いを
「まだかなぁ、流れ星」
私はそういいながら彼の手をぎゅっと握り締めた。
たぶん彼はいやいやつきあってくれてるんだろう。
それもそうだよね。
流れ星なんかいつ流れるかわからないのに、待ってるなんてつらいし、なにより待つことが嫌いな彼にとっては苦痛なだけかもしれない。
だけど、もう少しだから。
あとちょっとで流れ星が流れるから、がんばって。
今年は暖冬のせいもあるのか、昼間は夏の様な陽気だったけど、夜になるとやはり冬だということを感じさせた。
海風の影響もあるだろうがけど、冷たい風が冬だということを教えていた。
彼は今日出かける前に天気予報をみてきたのだろう.薄着で寒そうだ。
確かに天気予報では今日はいちにち過ごしやすい暖かい日となるでしょうといっていた。
彼はそれを信じてしまったみたいだ。
なんかちょっとかわいく思えた。
寒そうに体を小さくしている彼に私はバックから魔法瓶をとりだしコップにあたたかいココアを注いだ。
それを彼にわたすと黙ってココアを飲んだ。
暖かいものを用意してたなんて、不思議に思うかな?
まぁ、このくらいじゃバレないだろうけど。
私は昼間かったマフラーを袋から取り出し、彼にそれをかけてあげた。
「ありがとう」
それは小さな声だったけど、やさしさに満ち溢れてた声だった。
その恥ずかしそうな彼をみて私はキスをした。
そろそろ流れ星がながれる時間だ。
彼は私の突然のキスに驚いてか、私をみている。
このままだと見逃しちゃうだろう。
でも教えてあげない。
いたずら心にそうおもっちゃった。
ほら、もうすぐ、もうすぐ。
「あ!流れ星!」
漆黒の空を一筋の光が切り裂いた。
それはとても眩い光を放ち、右から左へとかけていった。
とても大きな、そして綺麗な流れ星だった。
私は星に願いをかけた。
《彼とずっとずっと一緒にいられますように》
ふっと、横の彼をみてみると、私の声に反応してか空をみあげキョロキョロしている。
「みたみた?」
私は彼が見逃したとわかっていた。
だけどあえて聞いた。
見逃した理由が私の顔を見ていてだと知っていたから、ついついいたずらっぽく聞いてしまった。
「私はしっかりみたもねぇ。願い事もバッチリ!」
「何をお願いしたんだ?」
彼はちょっと悔しそうな声で私にきいてきた。
隠してるつもりだろうけど。
「へへ〜、ひ・み・つ!」
そういうと彼は不機嫌そうな態度で、「ふ〜ん、じゃあ、きかね〜よ。」といってきた。
ふてくされてる。
たぶん私に甘えてきてほしいんだろう。
だからわざとそーゆー強がりをみせてるんだ。
もぅ下手な演技。
ばればれだって。
しょうがないなぁ。
そんな彼の態度がなんだかかわいくって私は彼の腕を強く抱きしめた。
ずっとこのままでいたい。
このまま時間が止まればいいのに。
これからもこの人と同じ時間を過ごしていきたい。
10年後も50年後も・・。
素直にそう思った。
そのときだった。
目の前がまぶしい光に包まれたかとおもうと、私の身体は宙を浮いているようにフワフワし、急にその光にあたりの景色とともに吸い込まれたと思うと、真っ白い部屋に一人私は立っていた。
そしてぼんやりとあたりが見え始めた。
いつもとおなじように。
ビデオテープを再生してるようにその映像は流れてくる。
赤と緑のイルミネーションで飾られてる街。
いつも私たちがまちあわせに使っている街頭だった。
そこに私が立っている。
今日買った新しいコートを着ている。
たぶん彼を待っているのだろう。
だけどその表情はどこかさびしげにみえた。
街頭テレビでは天気予報がやっていて今日はホワイトクリスマスになるといっている。
クリスマスに雪かぁ。
私は久しぶりにたのしみな、期待感をもつ未来をみることができた。
ちょっと私の表情がいつもと違うのが気になるけど・・。
そう、私には未来がみえるのだ。
「なぁ、どうした?おいってば。」
彼の声で私は現実へと引き戻された。
「おい、どうした?ぼーとしちゃって」
「ん・・なんでもない。海をみてただけだよ。」
「ふーん。ならいいけどさ。」
「あ!あさってさぁ、雪、降らないかなぁ。イブの日に。イブの日に雪ってロマンチックだよね〜、なんか絶対、雪降るような気がする〜」
「降らないって。天気予報では晴れだっていってたぞ。それに東京ではホワイトクリスマスなんてまずありえないよ。あんなのドラマの中だけさ。たしかここ100年間で1回しかなかったはずだよ。降ったら奇跡だって。」
「そうだとしても、降るよ、絶対ね。」
クリスマスに雪は降るのに。
あたったらびっくりするかなぁ、彼は。
私のみた未来はいままで100%そのとおりになってきた。
よいことも、悪いことも。。
未来は変えることができないのだ。
「ねぇ、今年のクリスマスだけでなく、この先も、来年も再来年もず〜っと、ず〜っとクリスマスは一緒にここに来ようね!約束ね!」
「え〜、やだよ、めんどくせーなぁ。だいたい先のことなんかわかんねーだろ?そんな先の約束したって意味無いよ。」
彼はココアを一気に飲み干して空になったコップを私に渡した。
それを受け取ろうとした瞬間だった、また、あの感覚に襲われた。
また映像が私の頭のなかに流れ込んできた。
それは今までみてきた中で一番最悪な未来だった。
とても残酷な未来。
なぜ?
なんでなの?
わたしは心の中で何回もそう叫んだ。
なんでこんな未来が・・。
どうしてなの?
神様・・残酷すぎるよ・・。
「え、ちょ、なんでないてるの?」
彼の戸惑ってる声がかすかに私の耳に入ってきた。
「おい、どうした?どうしたんだよ?」
私は彼の問いかけに答えることができなかった。
「・・・ごめん、」
「なに、どうたんだよ?」
「ごめん、なんでもない、なんでもないの。ごめん、ごめんね、」
そういいながら、私は彼を強く強く抱きしめた。
彼を放したくない。
その思いで頭がいっぱいだった。
涙が次から次へと流れ出し、彼の服を濡らしていた。