初日の終わりに。
よいこのみんなにくいずだお。
私は今どこにいるでしょおか?
チッチッチッチッチッチ
ヒントは、嗅いだことがないシーツの匂い。
見知らぬ机や冷蔵庫などの家具。
消してある電気に締め切られたカーテン、つまりとても暗い。
あ、ラブなホテルじゃないよ!
チッチッチッチッチッチ
はいタイムアープ!
正解は、『自分でもわかんない(笑)』でしたー。
何問正解できたかなー?
5問以上正解できたこには美羽さんの投げキッスをプレゼントー。
……なんの無理ゲーだよこれ。
あとそこ、いらねって言うな。
。。。
目を覚ましてみると見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。
ちなみにこの部屋に入ってきた記憶はない。
……………。
はっ。
も、ももしかして誘拐!?
多分世界的にかわいい美羽さんはずっと誰かにゲスい目で見られてたっていうの!?
それでムラムラを抑えられなくてついに…。
「キャーーむぐっ」
叫びそうになった口に自分で拳をぶち込んだ。
美羽? 冷静に考えろー?
幸い誘拐犯はこの部屋に居ないみたいだけど、ドアの外にいるかもしれない。
目覚めをアピールするのは危険だ。
カーテンを開けたり、電気を点けるのもやめておいたほうがいい。
変態の部屋に多くの指紋を残す義理はない。
となると武器を探して変に部屋を物色するのも望めない。
暗闇で目を凝らして見えるのは、最低限の家具だけだ。
武器を探そうと思えば、引き出しという引き出しを片っ端から調べていくしかないのだよ。
「体1つで正面突破か…」
まずはここから一番遠い場所にあるドアに体当たりだね。
貞操を守るためになんとか逃げ出さないと!
よ、よぉーし。
。。。
ーードキドキ
あれから、いまだに外の世界に飛び出せないでいる。
だって、ドアを開けたら目の前に犯人がいましたーっとかなるのが怖いもん。
でもいつまでこうしていられる?
いつまでも、犯人が部屋に入ってこないってことはないんだ。
いい加減覚悟を決めろ!
「っ行っくよー!!」
目標めがけて突進!
ーーータッタッタッタッ
ドンッ
「っつーー。って痛いわ!」
立ちふさがる長方形の木の塊に衝突。
鍵掛かってたし。 くそっ
こほん。 では気を取り直して。
ガチャ
そっと扉を開ける。
おー、眩しい。
正面の窓から夕日が差しこんで、辺は薄っすらオレンジ色に染まっている。
寝起きの目もあってはっきりみえないけど、人影はなさそうだ。
とりあえず、第一ミッションは達成。
ガチャリ。
どきっ。
誰かが隣の部屋から優雅に出てきた。
や、やばい。
隠れるか逃げるかしないといけないのに、体が強張って動いてくれない。
殺される?
どうしよう。
やばい。
死にたくない。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い。
「目が覚めたんですね。」
…ん?
この声聞いたことある。
ってゆうか寝てる状態になる前、話してたような。
あ。
誘拐犯じゃないとわかって気持ちが落ち着いてきた。
「…視界がまだぼやけてるんだけど、この声は花恋だね。
っ花恋!?」
自分で言って驚いた。
だって私はストーカー的変態に誘拐されて…。
花恋も誘拐…?
「花恋! やばいよ!!
早く逃げ出さないと誘拐犯が戻ってきちゃうよ!」
せっかく落ち着いてきた鼓動がまた騒ぎ出す。
すると花恋は柔らかな笑みを浮かべた。
いつのまにか視界がはっきりしてきている。
ってゆうか、なんでそんな余裕なの!?
「美羽さん。 後ろを見てください。」
言われたとおりに後ろを振り返ると、私が出てきた扉の隣に『波瀬』の2文字。
さらにその横には『南條』の2文字。
お忘れかもしれないが波瀬は私の名字で、南條とは花恋の名字だ。
…んーと。
「思い出した!
入学式の後寮に来たんだったね。
それで、さっきの部屋は私の部屋と。」
なーんだ。
全然誘拐じゃないじゃん。
「……焦ったー」
あー、変態の部屋とか言っちゃってたよ。
自分の家具たちに指紋付けないよう気をつけてたのか私は。
まぁドアに体当たりの時点で指紋つきまくりだろうね。
ってゆうか、自分が攫われたって思ってたなんて恥ずかしすぎる!
「ふふっ。
美羽さん顔が真っ赤ですよ。
このことは誰にも言いませんから。」
察しがいいのはすごい助かるけど、これはこれで恥ずかしい。
「う、うん。 ありがとう。
寮に来たことまでは思い出せるんだけど、なんで私は寝てたの?
自分で部屋に入ってないはずなのに。」
「多分、今日はいろいろあって疲れていたんですね。
部屋の前で話している時に気を失ってしまったんです。
ベッドには姫さんと運んだんですよ。」
「そうだったんだ。 確かにはしゃぎ過ぎた感はあるよ。
迷惑かけちゃってごめんね。」
「いえいえ。 それに美羽さんは小柄なので2人いると余裕で運べました。」
花恋は自分の細い腕をポンポン叩いた。
小柄なことを誇りに思ったのは生まれて初めてだよ!
ちっちゃくてよかったぁぁぁ!!!!
「姿が見えないけど姫は?」
「姫さんはあの後、仕事が残っているからと校舎に向かわれましたよ。
あ、部屋の鍵返しておきますね。」
渡された鍵を受け取る。
学校もあるし、姫には明日お礼を言おう。
「いろいろあったのは花恋も同じなのに、メンタル強いねー。」
「いえ。 実は私も自分の部屋に戻ってから少し寝たんです。能力のこととかまだ頭が追いつきませんし。」
視線を逸らして頬を掻いている。
もしかして照れてるのかな?
かわいいねぇ。
花恋に言われて思い出したけど、そういえば私達には能力とかあるんだよね。
私のは『空中を自由に飛ぶ力』だっけ。
「なんか思い出したら楽しみになってきたっ。
自由に飛べるようになったら花恋を空の世界に連れて行ってあげるね!」
アニメだと効果音でキラーンって歯が光りそうなくらい、爽やかにキメ顔をした。
「楽しみにしてますね。」
にっこり微笑まれた。
ーー『キャー 美羽様かっこいいぃ! 早く私を嫁にしてぇ!』
『ははっ。 花恋、そんなに急かすなよ。
ほうら、この星は全部君への婚約指輪だよ。
私の想い、受け取ってくれるかい?』
『もちろん…。』
二人は見つめ合う。
少しの沈黙の後、顔を近づけていきーー
予定ではこうなるはずだった。
二人ともキャラが違いすぎるけど。
ここまで爽やかになったら逆に気持ち悪いか。
「今日、ずっと思ってたんだけどさー。
なんで花恋って敬語なの?
同い年だし、全然タメ口でいいよ?」
初対面の人には敬語を使う人もいるけど、遠慮しているならタメで話して欲しい。
「これはですね…。 あの、えっと…。」
歯切れが悪くなっている。
眉が下がり、目もとに涙も溜まってきて表情もみるみるうちに暗くなってきた。
確かに花恋は、綺麗で気品があってお嬢様っぽいけど、そんな理由ではなさそうだ。
人に簡単に言えない、何か重い理由があるのかもしれない。
放っておくと、泣きだしちゃうかも。
「やっぱいいや!」
「え?」
一瞬びっくりした顔をして、すぐにまた悲しそうな顔をした。
「……あ、ごめんなさい。」
「ぜんっぜん気にしないで!
そのかわり、これから先もし花恋が話したいかもしれないーって時が来たら教えてよっ。」
信用されて無い訳じゃないだろうけど、今日会ったばかりの人になんでも話せるわけがない。
当たり前だ。
私にだって秘密の1つや2つはあるし。
ただ、これから一緒に過ごしていくうちに、花恋から教えてくれる機会が来る可能性もある。
それなら、その時を待てばいいだけだ。
「さて。 今から食堂行こうよ!
私ずっと寝てたからお腹すいちゃった。」
「も、もうですか? まだ5時ですけど……。
仕方ないですね。 ふふっ。」
あ、笑ってくれた。
子どもと美少女は笑顔が一番ってね!
今は私に出来ることをすればいい。
ついでに食事中にあーんをやってもらえばいい。
膨大な期待を胸に食堂へと向かっていった。
。。。
現実はそう甘くはないらしい。
「やだやだぁ!
花恋が食べさせてくれなきゃ私、ご飯食べないー!」
「駄々をこねてもだめです!
それなら、私は食べさせないので美羽さんはずっとそのままで居てください。」
食堂に着いてから私はカレー、花恋はドリアを注文した。
それからあーんをしてもらおうと粘り続けている、のだが、そろそろ空腹が限界に近づいてきた。
仕方ない…。
「今日のところは諦めーーあ。」
メニューを見つめて立っている姫を見つけてしまった。
まさに地上に舞い降りた天使。
「姫やっほー!」
「ギャー!
あ、あんたいきなり後ろから驚かすとかやめなさいよ!」
声かけただけなのにその反応は普通に傷つく。
だが、敢えてスルー。
「さっき(?)はありがとう。 花恋と一緒に運んでくれたんだよね。
あと迷惑かけてごめんなさい。」
「たいしたことじゃないわ。
ま、これからは体調管理気をつけなさいね。
こんな調子じゃ学校生活を送っていくのに、体が何体あってもたりないわよ?
私が担任なんだし、見張っといてあげるけど。」
こういうことを言ってくれるあたり、やっぱり担任なんだなぁ。
生徒思いの担任とか好きだわー。
なんか感慨深い。
見張るって言い方ちょっと怖いけど、美少女に見張られるなら本望だ。
「それより、何食べるか悩んでるなら私が選んであげようか?」
紳士的に尋ねる。
「あら、そう? ならーー」
「ただし、あーんしてくれるなら。」
花恋がだめでも、まだ私には姫がいるんだ!
「一瞬乗っちゃいそうだったけど、やっぱりいいわ。
…今日はうどんにしようかしら。」
「え、うどん? 姫ってイタリアン好きの和食は嫌いタイプっぽいのに。」
「どういうイメージよ…。
私は何でも食べる、いわゆる雑食よ?」
雑食とな…。
これはやばい!
ぎゅっとまぶたを閉じ、イマジネーションを働かせる。
「私は雑食という言葉にエロスを感じた!
男女ともに大丈夫で、さらにSMプレイもどっちでもいけるって意味だよね??」
ばっと目を開く。
そこに姫の姿はなかった。
代わりに、花恋の隣に姿があった。
「あっ、姫と花恋いつのまに一緒に食べてんのさ!
私もたべるしー!」
。。。
「ばーいばーい!」
「おやすみなさい。」
「じゃあね。」
食堂出たとこで姫とはわかれるんだけど、お別れの言葉もみんな個性でるなぁ。
なんか私、馬鹿っぽくないか?
いやいやそんなことはないはず。
「姫さん。帰り道、変な人に付いて行っちゃだめですよー。」
思い出したように花恋が呼びかける。
「んなわけないでしょうが!」
ちょっと怒って勢いよく振り返った。
やっぱ反応が子供っぽい。
そんなに速く体振り回したらぶつかっちゃうよー?
怒られるのは嫌なので、心の中でつぶやく。
そのまま見ているとだんだん背中が遠ざかっていった。
「私達も寮に戻ろっか。」
明日からの生活に不安はあるけど、全部乗り切ってやる。
目指すは、最優秀生徒だ!
部屋に着くまで花恋との話は絶えなかった。
気づいたら長くなってしまいましたが、これで一応初日が終了しました(笑)




