能力、目覚めたり。
「みなさん。 改めてご入学おめでとうございます。 司会は引き続き、この山田が務めさせていただきます。」
わー。 ぱちぱち。
それにしても、この部屋おっきいなぁ。
普通の教室の10倍くらいありそうだし。
そんなところで30人が1箇所にこじんまりと体育座りしてる状況……………笑える。
「まだ緊張されている方も多いようなので、初めに少しだけ私の昔の話をしようと思います。 あれは、今から40年以上も前のことです。 あの日も今と同じように桜の花が咲きほこっていましたーーーー」
。。。
………镸い。 そして眠い。
山田先生、軽く30分は話しつづけてるよー。
しかも、自分の奥さんとの、出会った高校時代から今までの思い出を長々と語っちゃってくれてるんですよ。
そんなの誰が聞きたいよ?
絶対自分が話したかっただけだろぉぉぉぉ!!!
花恋は時々あくびをしながらもまじめに聞いてる。
えらいよね。
後で美羽ちゃんがなでなでしちゃうんだからぁ!
姫はというと、隣で爆睡していらっしゃいます。
いくら退屈でも教師が寝たらだめだと思うんだけどね!
って、体育座りでおでこと膝をこっつんしてたら寝顔見えないじゃん!!
よし。 動かそう。
かわいらしいお顔を拝見タァイム!! だよ。
よいしょっと。
「…うぅん………」
動かした時に零れた吐息が色っぽい。
ってゆうより、なんかちょっとだけ赤くなってる顔がプラスされてかなりエロい。
こんな表情も出来るんだぁ!
なんの夢見てんの……?
……もうちょっとだけ動かして見ようかな。
ほ、ほら!
中途半端に顔を動かされたらなんかいやじゃん!!
動かすなら盛大に行けよってなるじゃん!
べ、別に出来心とかじゃないんだからねっ!
「ん………ぅんっ…だめぇ…………そこぉ……ぁっ」
……………。
ジュル。
はっ!?
つい口から血とよだれの混合物が!
ちゃんと拭いとかないとね。
私もレディだから流しっぱなしはだめだし。
まさか、『えっお前ってレディだったの? マジウケるー!』 っとか思っちゃう人いない……よ…ね…?
ほんとどんな夢見てんの!?
ねぇどんな夢!?
R18タグが付いちゃうような夢だったら泣いちゃうよ!?
嫁に出すならお父さん、 かっこわたし! が認める『女のこ』しか許さない!
男の子だったらその時点で抹殺しちゃうかもだから気をつけてね!
「ーーーこのようにして、今の私達夫婦があるのです。
長々と私の昔話に付き合ってくださり、ありがとうございました。」
あ、やっと終わったんだ。
何分話してたんだよー。
「それでは、今から担任の白谷姫波先生に挨拶をしていただきたいと思います。 白谷先生、おねがいします。」
しーん。
「白谷先生がいない! 警備員さん! 白谷先生を探してきてください!!」
山田先生には私の隣にいる姫が見えないらしい。
気づいちゃったんだけど姫ってここで一緒に座っててよかったの?
普通は山田先生の隣に立っておくんじゃないの?
それよりそろそろ起こした方がいいのかな。
むー。
ちょっともったいないけど。
「姫起きてっ
今から姫の挨拶だよ!」
ゆっさゆっさ。
力いっぱい揺する。
だが起きる気配なし。
どれだけ図太い神経しているのか。
こうなったら……
「起きないとちゅーしちゃうぞ☆」
耳元で囁いたりしてみる。
いやー。 一回やってみたかったんだよね。
ーーカッ
おおっ起きた!
しかもお目々ぱっちり!
これから誰かを起こすときはこれを使おう。
っと思ったら次の瞬間顔を真っ赤にして、親の仇を見るような目で睨んできた。
「え。 なんで私睨まれてんの?」
「また何かしたんですか、美羽さん?」
「あっ花恋。 久しぶり!
またってなにさ、またってっ。
私はまだ、2人に抱きつくことしかしたことないよっ」
ちゃんと否定しておく。
「だ、抱きつくのも十分破廉恥です!
その…………私は別に、嫌じゃないですけど…」
「あっごめん。 よく聞こえなかった。
なんて?」
今度はなんかわかんないけど、花恋も顔が赤くなってきた。
「だ、だからですね。
私は、抱きつかれてもい………っ!
やっぱりいいです!!」
ん? どうしたんだろ?
そうだ! さっきはできなかったし、今なでなでしよう。
なでなで。
「きゃっ! な、なんなんですか急に。 もう!
それより、今から姫さんが挨拶するんじゃないんですか?」
無理やり話そらされちゃった…。
ちょっと怒らせちゃったかな?
反省………は、もちろんしない。
「姫。 がんばってね!」
「はぁ……。 分かったわよ………。」
まだ山田先生は姫のことを見つけられないみたいだから、姫から行ってあげないとね。
「あっ。白谷先生っ! ずっと探していたんですよ?
挨拶、お願いしますね。」
「遅くなってごめんなさいっ!
わかりましたぁ☆」
ーーくるっ
「みなさぁん! こーんにちわぁっ
はじめましてぇ。
今日から君達の担任兼アイドルになる白谷姫波でっす!」
やっぱそのキャラで行くんだ……
ってことは素の状態の姫のことは、わたしと花恋と、3人の秘密だねっ
ーーきゃぁぁぁぁっ かわいいぃぃっ
周りの生徒達が黄色い声を上げる。
ここ、女子校だから黄色い声だけど男子がいたらーうおぉぉぉっーてなるのかな?
男子が黄色い声で叫んでたらちょっと引くし。
「みんなといっぱいいーっぱい仲良くなりたいからぁ、
声かけてくれる時は気軽に姫ちゃんって呼んでねっ!
みんなが好きになってくれる分だけ、姫ちゃん、みんなのことどんどん好きになっちゃう♡
頼りないところもあると思うけどぉ、
かわいさでカバーしちゃうからこれからよろしくね!」
「「「ひーめーちゃんっ ひーめーちゃんっ ひーめーちゃんっーー」」」
なんかひめちゃんコール始まっちゃった!
まぁ、本人がすごい幸せそうでよかったよ。
もうすぐファンクラブとかできちゃうんじゃないかな?
すでにあったりして。
私もするぞーー!
「ひーめっ! ひーめっ!」
ーーひめちゃんコールは例の山田先生が止めに入るまで続いたとさ。
。。。
「…こほん。 誰かさんのせいで前置きが長くなってしまいましたが……」
そう言って山田先生が姫を睨む。
長くなった原因の半分は自分にあるって自覚しようね?
「能力開発についてなどの説明に移りましょう。
まず、今日の式、なぜこのクラスー1年1組の30人だけ他と別で行ったということですが、それはお話する内容が違ったからです。 あちらでは主に授業カリキュラムについてでしたが、ここでは普通とは違う授業を受けていただくことになっています。 では、ここでは何をするかというと、まず合格者から、高い潜在能力の持ち主と判断した上位30人の能力を目覚めさせます。ときどき異世界から魔物が襲来するので、3学年の1組、合わせて90人で撃退してもらうことになっています。 簡単に言えば、自衛隊のようなものです。 卒業時、高校の授業内容は全て、一瞬で脳内に直接叩きこむので受験勉強しなくても大学に行くこともできます。 ただ最も優秀な生徒は、大学に行かなくても裏ルートで好きな職業に就かせてあげます。 俗に言う、『ひいき』というものです。 がんばってくだざい。」
ん? これはどういう意味だ?
一気にしゃべりすぎて余計わかんないよー。
異世界?
能力?
魔物?
撃退?
「花恋花恋! 私達ってすっごい強い人になっちゃうってこと!?」
わかんないときの花恋頼み。
「そ、そんなこと、私に聞かれてもですよ!
少しは落ち着いてください!!」
花恋も混乱してた。
くぅっ!
これは私にスルーしろと?
スルースキルを磨くための試練ってこと!?
「やはりみなさん混乱しているようですね。
最初は驚くのも無理ありませんが、さっさと開発しちゃいましょうか。」
ーーパチン。
おぉっ
目の前にヘルメットみたいなのが現れた。
「1人一台、発券機を用意しましたのでそれを被ってみてください。
自分の潜在能力をおしえてくれます。」
なんかいまいち抵抗あるなー。
もし、私の思考回路まで読み取られたら嫌だしなー。
だって普段、胸が開いてる服を着てる人がいたら、その谷間を凝視してるんだよ!?
そんなことパレたらどん引きされんじゃん!
谷間を見ちゃうのは私の中では自然の摂理だから、どん引きされたところでだけどね。
「まったくもう。
そんなもたもたしてないでさっさと被りなさいよ。」
結局、姫に被らされた。
言い訳する余裕も与えられず。
ピー
ゴォォォォォ
すごい音だなぁ。
エアコンの音を至近距離で聞いてるみたい。
「あなたの能力は『フルーク』だよ♪
………早く自在に飛べるようになって、私に会いに、来て欲しい、かな?」
うぇーーーーいっ
うぇいうぇいうぇいっ
よくわかんないけどやっべー
やばいわこれ。
機械ってわかってるのにゾクゾクなんだけど!!
この機械の創作者は私の趣向をよくわかってるよね!
『飛べるようになって』ってことは、空を飛べるようになるってことかな?
隣を見ると花恋も聴き終わったらしい。
「花恋! 姫! 私はフルークって能力だって!」
「私はピアンタという能力らしいです。」
「なるほどね。 私が今から軽く解説してあげるわ。 感謝しなさい?」
姫がふふんっと鼻を鳴らす。
「まずフルーク。 ドイツ語で飛行。
その名前の通り、空中を自由に飛べることができるわ。
翼は出して飛ぶことも、最終的に出さないで飛ぶこともできるけど、出さないほうが邪魔にならないんじゃない?」
「出します!」
羽生えてるほうがかっこいいもんね!
「そう? 別にいいけど。」
「うぃっす。
あざっした!!」
教えてくれた姫に敬礼!!
「次はピアンタ。
イタリア語で植物。
ピアンタも名前の通りで、植物を何もないところから生やしたり、植物を武器に戦ったり、植物を操る力ね。」
「なるほど。
ありがとうございます。」
「二人共、使い方とか細かいことはこれから教えてあげる。
ってとこかしら。」
ほうほう。
いろいろ謎いことは後のお楽しみってか。
「なんだか、姫さんが初めて先生に見えました。」
「あんたねぇ…。」
姫。 花恋に悪気はないんだから許してあげて?
「えー。 それでは。 みなさん、大方の確認が済んだようなので、今から寮に移動して貰いたいと思います。」
「えっ寮!?」
たしか、この学校は寮制ではなかったはずだ。
それに何も用意してないよ?
「一組だけは毎年、三年間、寮に入ってもらうことなっています。 ただ、その連絡を保護者にするのを『意図的に』忘れていたので、こちらから連絡しておきます。 入り口付近に部屋割りは張りだしてありますので、各自確認してください。」
…意図的に?
なんか知んないけどなんでもありだなぁ、ここは。
普通と違いすぎる制度の数々に、いい加減呆れながらも寮に向かった。