初めの出会い。
ーーピピピピピッ
「‥…ぅん? ってもう8時!?
やばいっ!」
時計を見た瞬間飛び起きる。
とりあえず、定番のあれをやってみよう。
「時計よ‥‥…………止まれ!」
ぐぬぬ‥‥
ハンドパワーを出そうとして、時計を凝視する。
凝視する
凝視する‥‥‥
「やっぱできないよねー」
いいもん。
別に期待とか……してなかったからね!
出来なかったけど、やっぱまだ布団から出たくないぃ!
布団って一回入ったら出たくなくなるんだよね。
1種の罠だ。
ほら。 『春眠暁を覚えず』とも言うし。
っとか言って、さりげなく知性溢れる優等生風アピールをしておく。
おっと。 ついだれかと話し込んじゃった。
…現実逃避は終わりにしよう。
もそもそとベットから這い出る。
ところで、今日は高校の入学式だったりする。
9時に教室に集合することになっていて、家からも近くはないからかなりやばい。
入学早々から
ーうっかり寝坊しちゃいましたぁ☆
なんて許されるわけない。
とりあえず、服を着替えて洗面所に向かう。
そこでやることは4つ。
洗顔と歯磨き、髪型のセット。
ここまではだいたいのひとに共通するだろう。
しかし!
私はこの後にもまだしなければいけないことがあるのだ。
「よーしっ
今日もかわいいよ!美羽っ」
そう言ったあとに一時間かけて考えた決めポーズと日々研究中の決め顔をする。
公衆の面前ではまだ繰りだしたことはないが、
自分に対してより多くの自信をつける自己暗示みたいなもので、実は毎朝やってる。
だから、別にナルシさんとかじゃないんだからねっ
そこんとこ、きっちり分かっといてもらわないと困りますよ奥さん。
それは置いといて早く家出なきゃね。
なんやかんやて15分で用意できたんだよ。
30分以内で用意できるとか自分、神様だわー。
普段は素早く動くのが面倒くさくて1時間くらいかかっちゃうし。
さて、リビングを通り抜けーー
「美羽っ」
‥‥母だ。
遅刻の危機のときに呼び止めないでほしい。
寝坊した自分が悪いんだけどね!
「あんた、時間大丈夫なの?
いきなり遅刻なんて恥ずかしいわよ?」
親は9時半に入場になっている。
私だってその時間だったら余裕だもん!
お母さんが代理で先に行ってきてよっ
あー、でも制服姿のお母さんとか正直見たくないわー。
『ちょっと無理し過ぎちゃった☆』レベルじゃ済まなくなっちゃうよ。
まぁお父さんが着るよりましか。
お父さんの制服姿は、あえて想像するのをやめておく。
っじゃなくて!!
「善処するっ。
行ってきます!」
私は玄関を開けて、新しい生活への一歩を踏み出した。
。。。
ふぅ‥なんとかバスに間に合った‥‥
家出てからのバス停までのダッシュ疲れた。
本気で走ったら顔がすごいことになるって言われるから、いつもは軽く走ってるしなー。
久しぶりに強風が顔面直撃したわー。
‥‥‥‥‥顔、大丈夫だよね‥?
別に、ちょっとくらいいいし!
そんなの気にしてたら女が腐るし!!
窓の外を見ていると、景色がだんだん田舎から都会に変わっていく。
これから毎日この風景見ることになるんだなぁ‥‥
高校にかわいいこいっぱいいるかな。
かわいい友達ひゃっくにっんでっきるっかなっ
ドキドキっっ
やばい、考えてたら興奮してきてさっきの疲れとか無くなっちゃったよ!
恐るべし、かわいいこ!
私ー波瀬美羽ーは実は美少女大好きだ。
え、名前知ってる?
なんで!?
まぁいいや。
そうそう。 それが女子ばっかりの花園(女子校)を選んだ理由の一つでもある。
せっかくだし、ここで私のスペックを説明しよう。
まず、身長は145㎝。
これからちゃんと伸びるよ?willだよ?未来形だよ?
スリーサイズは、ひ・み・つ。
うふっ
髪の長さは肩よりちょい長めくらいかな。
前髪は、2つに分けてて少ない方に2本のピンを止めてる。
多い方を止める人が多いけど私にはこだわりがあるんだよ!
前髪ぺちゃってなっちゃうしね。
‥‥後半どうでもいいとか言う奴は、潰す!!
そんなことを考えながら、バスを降りて歩く。
もちろん美少女センサーを張りめぐらせながら。
別に誰かをがん見してるわけじゃないから怪しくはないよっ
警察とか呼ばれないし!
ーぽと。
前を歩いていたツインテールの女の子が定期入れを落としたみたいだ。
さっきからがん見してた人の一人ね。
今のも、がん見してた私だからこそ気づけたのさ!
あっはっはっはっ
華麗に渡してあげよう。
「すいませーん。」
女の子が振り返る。
って、えぇっっ
すごいかわいいんですけど!
あんた世界の天使レベルだよってくらいかわいい!!
私のセンサーに狂いはなかった!!
あまりのかわいさに、私はくねくねして悶える。
自分でもちょっときもいと思うけど気にしないしっ
背も私よりちょっと高いだけで、見た目からすると同い年くらいかな?
だんだん女の子の顔が怪訝そうなものになってきた。
そりゃ、わけもわからず知らない人にくねくねされたら怪しむよね。
さっきまでの悶えはどうしたって程、冷静になった私
。
なんかしゃべらないと!
ってゆうか、なんで呼び止めたんだっけ?
「なに?」
うわー
なんかすごい怖い声聞こえた気がするー。
最近は物騒だなぁ。
‥‥‥‥‥‥‥ん?
そのまま固まる。
「用がないなら気安く話しかけないでっ
‥‥そうゆうの、うっとうしい」
あれ?
もしかして、さっきから怖い声出してるのってその女の子?
まさかそんな声出すって思わなかったから最初は気づかなかった。
初対面から美少女には冷たくされるとかへこむわー
ちょっとだけね!
へこんだ拍子に思い出したけど定期入れ渡すんだった!
「ちょっ、ちょっと待って!」
引きつりながらもできるだけさわやかな笑顔を作ろうとする。
いくら怖そうでも、美少女は美少女だ。
毎朝、こういうときのために決め顔の練習してるんだから、こんなことで負けるわけにはいかないっ。
ついに日ごろの成果を発揮するときが来たんだ!
がんばれ、自分!
「これ、落としてたよ☆」
なんとか朝練の名誉を保ってちゃんと渡すことができた。
よくがんばったよねっ。
すると、女の子は急にそわそわしだした。
「えっ、あっそのっ‥‥
ごめんなさい、ありがとう」
恥ずかしそうにそう言う。
うん。やっぱり最高に美少女だった。
罰が悪そうに顔赤くして、潤んだ目で上目遣いとかそれなんてチートですか!?
トリプルパンチですか!?
どれくらいかわいいかって
私がうっかり口から血を流しちゃうくらい‥‥‥‥‥‥‥ん?
口から‥‥血?
「って、きゃぁっ
あんた、大丈夫‥‥‥じゃないわよね!
早く病院行かないとっ。
救急車は…」
「い、いや全然平気だよ!
血が出たのは最初だけで、もう出てないし!
こんなことて救急車呼んだら救急車がかわいそうだし!
そ、それよりそのツインテール、定期入れより好きだよ!
じゃあね!!」
そう言って逃げるように学校へ走った。
「え‥なにあの人。
意味わかんない‥‥」
後ろからそんな声が聞こえた気がする。
。。。
言う事まちがっとぅあああああああ!
しかも意味わかんないままいきなり愛の告白しちゃったし。
定期入れと好きさを比べるとか、私は定期入れ大好き人間かっ
それか、ツインテールに対する情熱は定期入れ程度なのかっ
いやいや。 それはないか。
ツインテールはかわいさの塊で、すごく奥が深いし。
ってゆうか、何よりもあれだよね。
興奮して吐血ってなんなんだろう。
興奮して鼻血もなかなかないけど、吐血のほうが絶対難易度高いよね。
難易度高いことができたってわかっても素直に喜べないって、ある意味すごいよ。
猛ダッシュで走って周りに変な目で見られながら、
さっきの自分にツッコミ続けた。
ーこれが私の高校生活の切り出しと初めの出会いだった