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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
1章 幼馴染と日常
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8.

 駅に電車が滑り込み止まった。そしてそのドアが開放されると同時に峻は飛び出した。一番身近な上り口を選択し、エスカレーターではなく階段を一段飛ばしで駆け上がる。

 腕時計を見ると、電車の到着時間ピッタリの十時十分。憎たらしいほど正確な時間に峻は軽く舌打ちをした。やはり日本の電車は遅れることはあっても、都合よく早くなってくれることはないらしかった。

 奈亜との待ち合わせ場所に近い改札を通ると、そこは駅構内にあるショッピングエリアだった。

 甲城駅は、甲城市の中でも最も大きな駅で、駅構内にショッピングエリアやらレストランエリアなど多くの施設が存在していた。峻たちが行く映画館もこの駅構内にあるのだ。その映画館に行くまでにある距離の長いエスカレーターには童心をくすぐるものがあった。

 だが、その前に行くべきところは奈亜との待ち合わせ場所だ。ショッピングエリア一階の中央に立つモニュメント、それが待ち合わせ場所だった。

 今日は土曜日ということもあり、多くの人がいた。そしてそのモニュメントの前には峻たちと同じく待ち合わせをしている人たちの姿もあった。男子女子に関わらず手元の時計を見ながら待ち焦がれるような顔をしている。

 駅の大改修完了記念で建てられたこの正四角形が二つ重なり合って八角形になっているモニュメントは、今では多くの人たちの待ち合わせ場所になっているようだった。

 峻はその中から奈亜を探す――までもなかった。モニュメントの一角、そこで多くの人が通りすがりに振り返る。男子のグループはじっくりと、女子のグループはあくまで短めに。そんな風に多くの人の目を惹きつけるやつは、芸能人以外では峻は一人しか知らなかった。

「奈亜!」

 駆け寄って呼びかけると、携帯の画面に落としていた視線を上げ、奈亜が峻の方を向いた。スカートにTシャツ、その上にカーディガンを羽織ったカジュアルな服装だ。少し前に買い物に一緒に行った時に買ったものだった。

 奈亜はあまり服装にはお金はかけない。それは奈亜にとってどうしようもない事情というものが一因としてあるのだが、それよりなにより奈亜の性格として無駄遣いはしない主義なのだ。奈亜いわく、「どんなものでも着こなす人しだい!」ということのようだ。

「遅い!」

 峻の姿を見た奈亜が言ったのは当然のセリフだった。

「すまん……」

 素直に頭を下げて謝る峻。すでに約束の時間から十五分ほどオーバーしていて、峻にとっては言い訳のしようもない。

(とにかくこいつの機嫌が直るまで謝るしかないな……)

 峻はそう心に決めていた。峻にとって一番避けたいのは、奈亜が昨日の夜のような状態になることだ。せっかく二人で出かけているのだからどうせなら楽しみたかった。そのためには変なプライドを持つ必要はない。ただ謝るだけ、そう思っていた。

「まぁいいわ。ほら、早く行こ!」

 しかし峻のそんな決心はあっさりと行き場をなくした。

 奈亜は笑っていた。怒りが頂点に達した時に見せる凶悪な笑みではなく、ただ単純に楽しそうに。

「なに鳩が豆鉄砲くらったような顔してるのよ」

「え……いや」

 いつもと違いはっきりしない峻の態度に奈亜は首を傾げた。

「どうしたのよ、峻」

「……怒ってないのか?」

 峻が単刀直入にそう聞くと、奈亜は少し頬を膨らませながら腕を組む。

「怒ってる。当たり前じゃない。あれだけ遅刻するなって言ったのに。十分前に来てやるーなんて言ってたのは誰?」

 奈亜に口調を真似されながら昨日のセリフを言われると、峻は昨日の自分を殴りたくなった。その自信はどこからでてきていたのか謎だ。

「すまん……ホントに――」

 峻はもう一度謝る。そして謝罪の言葉を続けようとしたのだが、それを奈亜が遮って言う。

「でもね、待ってる間に考えたの。私が怒ってもなんの意味もないでしょ? ここで待ち合わせって言ったのは私だし、峻はその提案に乗ってくれたわけだし。だから――」

 奈亜はそこで一旦言葉を切った後、上目遣いで峻を見て言った。

「笑って済ませて、今日は一日楽しもうって決めたの! せっかく峻とのお出かけなんだから」

 満面の笑みを向けてくる奈亜を見て、峻はその頬を赤く染めた。不覚にも可愛いと思ってしまったからだ。

(それは反則だろ……)

 奈亜の不意打ちに心のうちで呟きながら、峻は顔に差した赤みを悟られないように片手で軽く顔を隠した。

「よし! じゃあ今度こそ行こ!」

 奈亜は峻の顔の変化に気付かなかったようで、元気にそう言うと歩き出す。

「あぁ、分かったよ」

 峻もそれに続いて歩く。しかしすぐに奈亜がくるりとターンして峻の方を見た。

「でも、罰ゲームは確定だからね! 私の言うことを一つ聞くこと!」

 人差し指を立てて言う奈亜の顔には意地悪く、楽しそうな笑顔が浮かんでいた。

「なんなりと。たく、抜け目ないやつめ」

「当たり前でしょー。私を誰だと思ってるのよ」

「まったくだ。最悪の相手と賭けをしたもんだよ」

 得意げな顔をして言う奈亜に、峻も悪態をつきながら微笑んだ。

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