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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
1章 幼馴染と日常
8/69

7.

 峻は時々、時間というものについて考えることがあった。時間は場合によってとても早く感じることもあれば、遅々として進まない時もある。不思議なものだと思っていた。

 峻にとって今週は、時間が早く過ぎる週だった。この前まで月曜日だと思っていたのに、今日はもう土曜日になっていた。つまりそれは、今日が奈亜との約束の日だということを示していた。

(やっぱり時間はその日によって進む速度が違う。じゃないとこの事態に言い訳がつかん……)

 峻はそう自分に言い聞かす。

 手に持った携帯の示す時間は午前九時四十分。峻の姿はパジャマ代わりのジャージ姿。場所はベッドの上。

 因みに奈亜との約束の時間は午前十時。さらに言うと待ち合わせ場所の甲城駅前までは峻の家から電車を使って約十五分。完全に遅刻だった。

「……とりあえず着替えるか」

 人は急げばギリギリ間に合うという時だったら慌てるが、完全な遅刻の場合は逆に冷静になる。峻はまさに後者だった。

 なんでこんなことになったのか峻は着替えながら考えた。――ことの発端は昨日だ。




「ねぇー、峻」

「なんだよ」

 いつもと同じようにベッドの上に寝転がっていた奈亜が言う。

「明日は甲城駅の前で待ち合わせしない?」

「は? なんで?」

 峻にはこの奈亜の提案が理解できなかった。峻と奈亜の家は隣同士だ。しかも奈亜は朝御飯を食べに来る。だからいつも学校に行くように一緒に出ればいいと峻は思っていたのだ。

「えーと……たまにはそういうのもいいかなって」

 奈亜の理由はあやふやなものだった。

(またいつもの思いつきだな……)

 峻は内心でため息をつく。

「そんな意味のないことしても仕方ないだろ」

 奈亜はよく思いつきで行動する。一見すると意味不明でもよく考えてみると、奈亜なりに理由があっての行動なのだが、今回の場合はいくら考えてもその理由が峻には分からなかった。だから今の一言に対する奈亜の反応に峻は驚きを隠せなかった。

「意味がないことなんてないよ!」

 声を荒げ、キッと峻を睨んでくる奈亜。その表情は本気で怒っている時のものだった。

「いきなりどうしたんだよ?」

 峻が聞くと奈亜は顔を背けてしまう。そしてそのまま無言を貫く。理由すら言いたくないくらい起こったのか、怒った理由を言い出せないでいるだけなのか、峻にはどちらなのか分からなかった。

 しばらくの沈黙の後、

「……ごめん」

 奈亜が呟く。そして言葉を続ける。

「やっぱいいや……あはは」

 そんな奈亜を見て、峻は頭を掻いた。

(たく……ならそんな顔するなっての)

 奈亜の顔には明らかな失意の色が見てとれた。その表情を見て、峻は一瞬董子のことを思い出した。こういった強がりを言うところは二人とも意外に似ているのかもしれない。だが、こういったことを後々まで抱え込むのは奈亜の方なのだ。

「分かったよ。お前の言うとおりにする。甲城駅前でいいんだな?」

 峻には分からなかったが、奈亜がこれだけ怒るのだから、そこになにかしらの意味があるのだろう。峻は奈亜の言うことを聞くことにした。

 峻の言葉を聞いて、奈亜が顔を勢いよく上げた。

「いいの!?」

「いいよ。決定な」

 峻が肯定してやると、奈亜の表情は輝くような笑顔になった。

「ありがとー! さすが峻!」

 そう言って、奈亜は峻の枕を抱きしめた。

「どういたしまして」

 そんな奈亜の様子を見て、峻は苦笑する。

「あ! でも遅れないでよ! 時間は十時だからね」

 奈亜が思い出したように言う。その言葉に峻は反論した。

「遅れるかよ。まぁ、見てろ。待ち合わせの十分前には行ってやるよ」

「ふーん、それは楽しみね。じゃあもし遅れたら罰ゲームね」

「お好きどうぞ」

 峻がそう言うと、奈亜は何故かニヤリと笑った。




(……やってしまった)

 昨日の一連の流れを思い返した峻はこめかみを押さえた。あまりに奈亜の予想通りだったからだ。

 十時の約束には間違いなく間に合わない。もはや物理的に無理というやつだ。

「仕方ない……」

 私服に着替えを済ませた峻はそう呟くと、ある決意を固めた。

「とにかく謝ろう」

 その情けない決意を言葉にして表した後、峻は顔を洗うために階段を下りていった。


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