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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
1章 幼馴染と日常
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6.

 夜、時間でいうと午後十時を少し回ったところだ。峻は自分の部屋で机に向かい明日の提出課題をこなしていた。基本問題中心の課題なので、峻にとってはそこまで難しいものではなかった。すでに全体の八割方は終了している。

 高校二年生、来年になれば人生の選択を一つしなくてはならない。だが峻の中ではすでにほぼ決まっていた。峻の思い描く進路は甲城大への進学だった。毎年、甲城大附属からは推薦枠ということで多くの生徒が甲城大へ進学する。学内成績は上位であればほぼ書類審査のみで通るのだ。峻の現在の順位でいれば、その推薦枠へ入ることもそれほど難しくはないだろう。

「んー……」

 課題の最後の問題を解き終え、峻は固まった体を伸ばす。勉強前に、風呂に入って体をほぐしたが、やはり机にじっと座っていると駄目なようだった。

「あ、終わった?」

 その声に反応し、峻が椅子を回転させた。くるりと景色が回って峻の視界に入ってきたのは、峻のベッドにうつぶせで寝転ぶ奈亜の姿だった。Tシャツにショートパンツという格好は奈亜の就寝スタイルだ。風呂から上がってまだそれほど時間が経っていない為か、いつもは白く透き通っている素肌に少し赤みが差していた。

 十分ほど前に峻の部屋にやってきた奈亜は、峻が勉強しているのを見て声をかけずに今まで雑誌を読んでいた。どちらかが勉強している時は邪魔をしないという二人の間で決めたルールを守っているからだ。一応、『どちらかが』となってはいるが、大抵の場合峻が勉強していて奈亜が終わるのを待っているという図式になる。

「終わった」

 峻がそう言うと、奈亜は読んでいた雑誌を閉じた。峻も手早く机の上を片付けてしまう。

「ねぇ、今日のハンバーグどうだった!?」

 開口一番、奈亜が聞いてきた。ハンバーグというのは今日の晩御飯のメニューのことだ。奈亜は自分の料理への感想を求めているようだった。峻の感想への期待に目を輝かせている奈亜を見て峻は思わず苦笑した。

「どうだったって、食事中何度も言っただろうが」

「いいじゃん! もう一回聞かせてよ」

 ボフボフと峻の枕を叩きながら奈亜が言う。峻は仕方ないなというような顔をした後、感想を口にした。

「うまかったよ。よくできてた」

「そうでしょー! 今日のは自信作だったんだー!」

 峻の感想を聞いて奈亜が嬉しそうに笑う。

「お前、食事中と言ってること変わってないぞ」

 同じセリフを食事中にも聞いた峻はまた苦笑した。そして、内心でこっそりと呟く。

(……確かにうまかったけど、あの大きさはなんとかならなかったのか?)

 そう峻が思うのも無理ない。晩御飯の時に峻のお皿に乗ったハンバーグは恵美や奈亜のハンバーグの二倍強の大きさがあった。奈亜が「奈亜のスペシャルバーグ!」と言って皿を出してきた時は、「考えて作れ!」と思わず言ってしまいそうなのを峻は必死に飲み込んでいた。そんな苦労もありながら食べたハンバーグは本当においしかったのが救いだった。

「ねぇ」

「ん?」

 回想に意識を持って行かれていた峻は奈亜の呼びかけで意識を現在へと戻した。

「今日のバイトはどうだった? 何かあった?」

「いや、いつも通り普通だった」

 峻がそう返すと、奈亜はショートパンツから伸びるその長い脚をパタパタと動かしながら「そっかー」と言った。

 峻のバイトのある日は、奈亜はいつもこの質問をした。その質問への峻の答えの大半が今日と同じで『普通』だった。時々、忙しい日があったりする場合はその話をしてやる。すると奈亜はその話をすごく面白そうに聞いた。峻もそんな時は、できるだけ詳しく話してやるようにしていた。ただ一度、フォレストに附属の女子学生が来た話をした時は、奈亜の機嫌が非常に悪くなったので、その話題は避けるようにしていた。

「ねぇねぇ」

「ん?」

 奈亜の呼びかけに峻は再度応じた。

「峻はさー、甲城大の推薦目指してるんでしょ?」

 奈亜がチラリと峻の机を見ながら言った。

「あぁ、そうだぞ。よく分かったな」

「ふふ、分かるよー。当たり前じゃん」

 進路のことは奈亜とじっくり話したことはなかったが、峻の言葉の節々から峻の考えを読み取っていたようだ。

「で、それがどうしたんだ?」

「んー……私も推薦頑張って狙おうかなーっと思って」

「え?」

 その答えは峻にとって意外だった。奈亜の場合、甲城大への進学を目指すにしても、受験勉強をしてなんとか狙うくらいの気持ちだと思っていたからだ。

「……私じゃ無理かな?」

 奈亜が少し不安そうな目で聞いてきた。

「今から勉強してたら大丈夫だよ。お前、やればできるやつだし。どうしてもって言うなら教えてやるよ」

 峻がニヤリと笑いながら言うと、

「うぅー……でも勉強苦手だしなー」

 奈亜は唸りながらベッドで転がってあお向けになった。Tシャツが重力に負けて奈亜の体に張りつく。すると奈亜の一般基準より少し大きめな胸が強調されてしまう。

「――っ!」

 それを見た峻は頬を少し赤らめながら顔を背けた。

「と、とにかく、まずはあと少しで始まる中間テストだ。一緒にテスト勉強してやるからお前も頑張れ」

「はーい……」

 あお向けのまま手を上に伸ばして返事をする奈亜を峻は視界の端っこで見ていた。さすがに幼馴染と言えど、その手のことに対する反応は峻も同世代の男子と変わらない。普段はまったく意識はしていない分さらにたちが悪い。

「ねぇねぇねぇ!」

 しかし、そんな峻の微妙な気持ちなどお構いなしに、奈亜の質問はまだまだ続くようだった。


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