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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
5章 夏の終わりに
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14.

「あれでラストだ」

 峻が言う。その視線の先には、最後の展示物となるガラクタ細工があった。

「急いで見よ? 境内に言って花火を見るなら少し時間的に遅いよ。……どっかの男子二人が輪投げに熱中したせいで」

 奈亜がみんなを急かしながらジト目で問題の男子二人である峻と脩一を見る。

「ぐっ」

「……すいません」

 思わず視線を逸らす峻。そして、脩一は面目なさそうに頭を下げた。

 輪投げでそれぞれ狙っていた賞品――峻は七等、脩一は特賞――を取るために三回分の輪っかを投げたのだが、結局取れなかったのだ。特に峻の方は、七等にも関わらず難しい位置に置いてあった。意図的かどうかは分からないが、七等と書かれた芯の横にジュース缶のセットが置いてあり、いい軌道で飛んでもそれにぶつかって逸れてしまった。

 取れそうで取れないため、峻も熱くなり、つい時間を費やしてしまったというわけだ。さらに狙いから外れた輪っかが偶然取ってしまったジュースの缶などを消費するために、少し休憩をはさんだのも残り時間が少なくなった一因ともいえる。

 輪投げに敗北を決した男子二人を置いて、奈亜たち三人は先にガラクタ細工の展示スペースへと向かう。

「……俺らも行くか」

「そうだな」

 二人して顔を見合わせ、同時にため息をつくと、峻と脩一は三人に続いて、展示スペースへと足を向けた。

 峻たちが近づいて展示スペースを見る。そこに展示されていたのは城だった。スペース的に天守閣のみしか作られていないが、これも見事なものだった。

「お城だー」

「お城だね」

 しかし、残念ながら睦や奈亜には不評だったようで、なんとも微妙な感想を漏らしている。そんな二人の様子を見て、董子が苦笑いを浮かべていた。

「お、姫路城じゃん!」

 そんな中、俄然興味を持っているのは、脩一だった。日本史などが得意なだけある一発でその城の名称を言い当てた。

「よく分かるな」

「まぁな。よく見りゃいろいろと特徴あるし」

「そうなんだ」

 そこまで城に詳しくない峻には、その細かな特徴というものが分からなかったが、全体的に白色を基調としているのだけは分かった。白鷺(しらさぎ)城という別名でも呼ばれる姫路城ならではというべきか。

「ねぇ、次行こうよ。早く投票すませて場所取りに行かなきゃ!」

 奈亜が急かす。

「そうするか」

 峻が時間を見て答える。時刻はすでに午後八時前だ。奈亜の言う通り、少し移動を急いだ方がいいだろう。

「投票場所はたしかこっちだったよね?」

 奈亜が先を指さして聞く。その視線は峻の方を向いていた。峻は、脩一に視線を送る。脩一はハッとして慌てて答えた。

「あ、あぁ、たしかそっちでいいはず」

「よし、行こう」

 脩一が答えるのを待って、峻が頷く。

「……すまん」

 峻にだけ聞こえるように脩一が呟いた。峻は脩一の方をポンッと叩くと、先に向かう奈亜たちに続く。その表情は、少し複雑な、その一方でどこか微笑ましいものを見るような顔だった。

(俺の立ち位置……幼馴染のあり方、か)

 峻は思う。自分のこれからの歩み方を。数日の間、闇の中を彷徨った心の中に、ある種の答えが形となって固まりつつあった。あとはそれをどう言葉にするかだ。それが一番難しいのだが。

 その答えをうまく表す言葉を考えながら、峻は歩く。目的の投票所は、最後の展示スペースから、境内に向かって少し歩いたところにある。

 投票所といっても簡易なもので、白いテントにテーブルが置いてあり、そこに筆記用具と投票用の紙、そして投票箱があるのだ。

 投票所についた峻たちは、それぞれ筆記具を手に取ると、自分が一番よかったと思えるガラクタ細工の番号を書き、投票箱に入れる。

 しかし、花火の時間が近いこともあってか、意外と投票所が混んでいて、番号を書いている時も後から後から人が来る。それに急かされながら投票をすませた峻たちは、投票所を後にして、今度は神社の境内を目指す。花火の絶好のポイントとして多くの人に知られる境内は、すでに多くの人だかりができていた。

 その人だかりに混じり、急く心を抑えながら峻たちは境内への石段をのぼる。

「ねぇ、董子はなにに投票した?」

 その道中、奈亜が董子に聞いた。

「私は、途中にあった虫取りしてる子供のやつ。お人形さんがすごく可愛かったから。奈亜は?」

「もちろん一番!」

「あ、私も一番にしたよー!」

 奈亜と董子の会話に睦が割り込む。董子以外の二人は、一番のゴジラを模したガラクタ細工に投票したようだった。その会話を聞きながら、峻が脩一に聞いた。

「お前、なににした?」

「最後の城。お前は?」

「……一番」

「結局お前も好きなのかよ、怪獣」

「違う。あくまで作品として一番優れてたんだ」

「はいはい」

 肩をすくめる脩一へ、峻が反論を試みる。しかし、呆れたような脩一の顔を見るにあまり効果がないのは瞭然だった。

 そんな他愛もない会話をしていると、やがて朱い鳥居が見えてきて、石段の終わりが近づく。それはすなわち境内に到着したということだ。

「着いたー!」

 石段をのぼりきった睦が嬉しそうに声を上げた。

「よし、まだなんとか花火が見れるスペースがありそうだな」

「さっさと場所取りしよう」

 峻と脩一はざっと境内を見渡すと、花火がうまく見えそうな場所を探す。そして、目星をつけると、共に身軽なフットワークを生かして、人垣の間を素早く抜け、場所の確保を行った。

 取れた場所は、最高のポイントとは言えないが、木々に邪魔されることなく花火を楽しむことはできそうだった。

 場所の確保を脩一に任せて、峻は奈亜たちを呼びに行く。

「おーい、場所取れたぞ……ってなにやってんだ?」

 峻が奈亜たちを待たせていた場所に戻ると、奈亜と董子が泣き出しそうな表情の睦をなだめていた。峻の声を聞いて、三人が顔を上げる。峻の姿を見た睦が、目に涙をいっぱいに溜めたまま峻にしがみついてきた。

「お、おい、睦? どうした?」

 峻が困惑顔で睦に聞く。睦は顔を峻の体に押し当てたまま、なにも答えない。

「なにがあったんだよ?」

 峻は顔を上げて、奈亜と董子に聞く。

「それが……」

「睦ちゃん、峻君が輪投げで取ってくれたぬいぐるみをどこかに置いてきてしまったみたいなの」

 奈亜の言葉を引き継ぎつつ、董子が答える。

「ぬいぐるみってあのネコのやつか」

「うん」

 すると、睦が絞り出すようにして言う。

「峻にぃ……ごめんなさい。せっかく峻兄が取ってくれたのに……落とさないように気をつけてたのに……」

 睦の言葉の後半には、涙声が混じっていた。峻は、ぬいぐるみを渡した時の、睦の笑顔を思い出す。睦がすごく喜んでくれていたのは分かる。

「睦、そのぬいぐるみはどこで落としたか分かるか?」

 峻が睦に向かって聞く。すると、睦は顔を上げて答えた。

「……たぶん、あの投票所。あそこで番号書いた時に置いて……次の人が来るから急がないとって思ってたら……」

「分かった。俺が取ってきてやるよ」

「え……?」

 峻は睦の頭に手を置いて微笑む。

「戻って取ってきてやる。ちょっと待ってろ」

 もう一度睦にそう言ってから、今度は奈亜と董子に視線を向ける。

「ちょっと戻ってくる。この先、あの気を目印にしていけば脩一がいるから合流してくれ」

「でも、今から戻ったら……」

 董子が呟くように言った。その語尾は、睦を気にしてか消えている。

 だが、峻には董子の言いたいことは分かった。今から戻れば、花火に間に合わない。いくら場所があるといっても、これからも人が増える。脩一が取っている場所に戻るのは困難だろう。

「ま、それはしかたないさ」

 主語をぼかしながら峻が答える。それを聞いた董子は、残念そうな表情を浮かべながら頷いた。その隣で奈亜も顔を伏せている。

 峻は、睦を体から引き離すと、涙で濡れた目を見て言う。

「睦、花火の間には戻ってくるから奈亜や董子と一緒にいろよ。分かったな?」

「……うん。峻兄、ありがと」

 睦が微笑む。そして、恥ずかしそうに頬を赤らめて顔を伏せた。

「任せとけ。じゃ、ちょっと行ってくる」

 峻はそう言うと、今上がってきたばかりの石段に向かって足を踏み出した。時刻は八時十五分前、花火が始まるまで、あと十五分だ。


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