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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
5章 夏の終わりに
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11.

 峻が致命的な失敗を犯してしまってから数時間後、太陽がかなり西の空へと傾き、空の色が夕焼けから徐々に夜の色へと変わり始めた頃。

 峻はそれを自室の窓から確認すると、着替え直した自身の服装をもう一度確認した。ネイビーのポロシャツに、ネイビーの七分丈クロップドパンツは夏の定番ともいえる装いではある。

 服の確認が終わると、峻は顔を上げた。姿見の中で同じようにこちらを見ている鏡の中の自分と目が合った。

「はぁ……」

 峻がため息をつくと、鏡の中の自分もすごく情けない表情でため息をついている。あまりの情けなさにもう一度ため息をつきたくなるが、そこはぐっと堪えた。

 峻がこんな風に情けない表情をしているのは、当然ながら数時間前の自身の失敗が原因だ。それから今まで二人の雰囲気は非常に気まずいものになっていた。むしろ気まずくならない方がおかしい。

 睦が間に入ってなんとか場を取り持ってくれていたため、今まで耐えられたが、二人きりならまず無理だっただろう。その点では、峻は睦に感謝していた。

(……ま、六割くらいはあいつのせいなんだけどな)

 しかし、責任の所在だけははっきりさせておく。その辺りは峻らしい。

「さ、そろそろおりるか」

 峻はそう呟くと、自室を出て階段をくだる。リビングのドアをくぐると、その中ではソファに座ってテレビを見ながら、董子と睦が談笑をしていていた。

「おまたせ」

 峻が声をかけると、二人が同時に振り返った。

「峻兄、おそーい。しかもそんなに服装変わってないじゃん! それだったら最初から着ておけばいいのに」

 睦が頬を膨らませて言う。一方、言われた側の峻は、

(変わってない……)

 せっかく選んだ服を部屋着用のラフなものと一緒にされたことで少しへこんでいた。

「まぁ、いいや。それじゃあ、そろそろ出発しようよ」

 そんな峻の心境も知らずに、睦はソファから元気よく立ち上がると笑顔を見せる。睦の服装は、ハート柄がプリントされた黒の半袖シャツにカーキのショートパンツだ。

「さ、董子さんも行きましょ!」

「う、うん」

 睦が声をかけると、少しぎこちない動きで董子がソファから立ち上がる。董子の服装は、白のワンピースを着ている。

(やっぱり可愛いな)

 峻は董子の立ち姿にしばし見惚れる。清潔感のあるその姿は董子によく似合っていた。

「峻兄、早く!」

「お、おう」

 睦が峻を急かす。峻はその声で我に返ると、董子を恐る恐る見て言った。

「それじゃ、行くか」

「はーい!」

「うん」

 それに睦が元気に、董子が静かに答えた。


 外の気温は昼間に比べてかなり下がっている。激しく動かない限りは汗もそれほどかかない。

 峻たち三人は、商店街へ足を向ける。今日の『納涼祭』は神社の縁日も兼ねていて、祭りの範囲は商店街のメインストリートからその先にある(つき)ノ(の)(もり)神社の境内にまで伸びていた。

 商店街に近づくにつれて、だんだんと浴衣姿の人が増えていく。特に親子連れやカップルが多い。みんな祭りが行われる商店街の方向で向かっている。その表情は一様に笑顔だ。祭りの雰囲気がそうさせているのだろう。

「人が多くなってきたねぇ」

 隣を歩く睦が峻を見上げて言う。

「そうだな。でも、商店街からはもっと多くなるぞ。睦、はぐれるなよ」

「うん、大丈夫」

「ホントか?」

「ホントだよぉ」

「ははは、分かった分かった」

 峻が笑いながら睦の頭に手を置くと、その手を動かして頭を撫ぜる。睦は少しくすぐったそうに目を細めていた。

「峻君、今日はどんな感じで回る予定なの?」

 睦と戯れていた峻へ、董子が聞く。それに反応した峻は、睦の頭から手を離すとそのまま手を顎にあてる。

「そうだな……とりあえず商店街の露店と毎年恒例のガラクタ細工を見ようかな」

 祭りの楽しげな雰囲気は、峻にとっても良い効果をもたらした。それは、董子との気まずい空気も消し去ってくれたのだ。これには峻も内心かなりホッとしていた。

「ガラクタ細工?」

 睦が首を傾げる。

「あれ、睦は初めてだったっけ? あぁ、前に来た時は見てなかったか。あのな、ここの商店街のおじさんたちが毎年いろいろな廃材を持ち寄って見世物を作るんだよ。で、どれが優れてたかを祭りの参加者が投票して、優勝者を決めるってわけ。缶詰の空き缶とか古くなったお皿とかを使って作ってるんだけど、これが結構見応えあるんだぜ」

「へぇ! おもしろそう!」

 峻の話を聞いて、睦はすでに目を輝かせていた。もう楽しみでしかたがないといった感じだ。

「全部の見世物を回るとほとんどの露店も通ることができるようになってるし、ちょうどいいんじゃないかな。どう思う? 董子」

「うん、いいと思うよ」

 董子もニッコリと笑ってそれを肯定する。

「ねぇ、花火は?」

「花火は、たしか八時半打ち上げ開始だったはずだから、その時間までには神社の境内に移動しよう。一応、あそこが一番花火の綺麗に見れるポイントってことになっているし。……ま、その分人はめちゃくちゃ多いけどな」

「それは問題なし! 押し通る!」

「人様の迷惑になるから止めとけ。それにお前だと跳ね返されて終わりだ」

「むぅ……」

 不満そうに口をとがらせる睦へ、董子が優しく語りかける。

「少し早めに向かえばいい場所が取れると思う。だから大丈夫だよ」

「はーい!」

 睦がまた元気よく返事をした。

(董子が相手だとすごく聞き分けがいいな、こいつ)

 そんな睦を横目で見ながら、峻は苦笑した。

「おっ」

 峻たちの目の前に、ついに商店街のメインストリートが見えてきた。多く人の姿と、露店が立ち並んでいる。

(奈亜ももう来ているのかな)

 峻はそれを見て、フッと考える。奈亜の予定はまったく把握していないため、いつどこにいるかは分からない。だが峻には、どこかで会いそうな予感がしていた。

 会ったその場でどんなことが起こるのか、そしてどんな決断に迫られるのかまでは予測できなかったが、それでも自分の中にある答えを示すことになるかもしれない。そんな風に峻は考えていた。

「峻兄! 行くよ!」

 思案に耽っていた峻の意識は、また睦の声で戻される。

 前を見ると、いつの間にか董子と睦が数メートル先にいて、振り返っている。

「……あぁ、分かった」

 峻はそう答えると、二人に追いつくために一歩踏み出した。


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