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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
4章 幼馴染と熱い季節
48/69

16.

「君が好きだ。俺と付き合ってくれないか?」 

 目の前にいる脩一が、初めなにを言ったのか、奈亜には分からなかった。

 しかし一拍後、その言葉の意味が頭の中に浸透すると、奈亜は大きく動揺した。さっきまでただ単に悩み事があるだけだと思っていた相手にいきなり告白されてしまったのだから仕方がない。

 その性格上、数多の相手に告白されたことのある奈亜は、なんとなく相手が告白してくるな、という空気を読み取ることができるのだが、今回だけは本当になにも感じなかったのだ。

「ダメかな?」

 脩一が、なにも言わない奈亜に向かって、少し不安げに眉をひそめて問いかける。

「あ、えっと……」

 奈亜は思わず口ごもる。返事が口から出てこない。

 いつもなら条件反射ともいえる速さでなにかしらの返事が出てくる。しかし、今日に限っては奈亜の反応は鈍かった。

(今日は……)

 そう、今日は奈亜の誕生日だからだ。この日だけは、奈亜は峻以外の男性と過ごしたことはない。いつも峻が奈亜のためだけに祝ってくれる、奈亜だけの記念日。そこに今まで峻以外の男性が入る余地はなかった。

 それが今年はまったく違った。いつもと同じようなるはずだったのに。

 まだ峻に会うことすらできておらず、さらに別の男性から、まったく予想もしていなかった告白を受けている。

 次々と起こる不測の事態に、奈亜の頭は混乱していく。

(ダメだよ……今日は、今日だけは……)

 笑顔で「誕生日おめでとう」と告げてくれた峻が、奈亜の頭の中に甦る。次いで、照れて頬をかきながら「たまたま空いてたんだよ」と言って食事に誘ってくれた峻の姿。さらには真剣にゲームをする峻の横顔などが次々浮かんでくる。

(峻……なんで一緒に居てくれないの?)

 奈亜はキュッと目を瞑った。心の中で峻を求める。本人が自覚しているより、深く深く。そうすれば、いつものように「しょうがないな」とため息をつきながら、峻が来てくれるように感じたからだ。そして、奈亜の傍まで来て、手を握ってくれる。両親を失ったあの日のように。強く、そして温かい手で……。

「愛沢さん、大丈夫……?」

 しかし、掛けられた声によって奈亜は現実に引き戻される。

 いつの間にか奈亜は、自分で自分の手を握りしめていたようだ。少し周囲を見回す。だが、峻の姿はない。ここにはいるのは、脩一だけだ。

 奈亜は、脩一に視線を向ける。突然黙ってしまったからだろう。とても心配そうな顔だ。

 自分の告白の答えより、奈亜の様子が変なことを心配してくれているのが伝わってくる。脩一の優しさを奈亜は感じた。

「調子が悪いなら家まで送るよ?」

 脩一の言葉に、奈亜は首を振った。そして、脩一に再度視線を合わせる。

「あの……浅田君」

「ん?」

「さっきの返事なんだけど……」

 脩一の顔に緊張が走る。さらに照れくささもあるのだろう。視線がおぼつかなくなる。あとは野球部の習性なのだろうか、監督の指示を聞くように背筋をしゃんと伸ばしている。

 そんな脩一の姿を見ながら、奈亜は答えた。いまだに混乱する頭で、それでも最低限度の返事をした。

「少しだけ……少しだけ待ってくれないかな?」

「えっ?」

 今度は脩一が驚く番だった。あまりのことだったのか、しゃんと伸びた長身がぐらりと揺れた。

 奈亜の出した答えは、「返事の保留」だ。これは奈亜にとっても初めての経験だった。今日は予想外のことだらけで、頭がさらに混乱しそうだ。

 奈亜は今まで、一度たりともこんな風に返したことはない。自分に対して想いを語ってくれた相手に、その場で返事をしないのは失礼なことだと奈亜は思っていたからだ。

 しかし今日は、その決まりごとを自分から破ってしまった。どうしても今すぐに決断できなかったのだ。

(せめて、峻に会ってから……)

 なぜそう思うのか、奈亜にも分からなかった。峻とこの告白はまったく別物のはずなのに。しかし、奈亜の心は言っていた。「峻に会いたい」と。だから今、脩一に返事をすることはできなかった。

「……ごめん、なさい」

 断ったわけではないが、奈亜は頭を下げた。この場で返事ができない理由が、奈亜にも説明できないからだ。

 この胸中に広がる峻への想いと不安で、奈亜は押し潰されそうになっていた。


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